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第一章 孤児院編
真っ白子ウサギのフラジャイル
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「パイル、大丈夫? パイルが怒っているところなんて、始め見たかもしれないわ。」
「確かにそうかもしれないね。私は大丈夫だけど、明日叩いてしまったことをウィルに謝らないとね。……人を叩くって、こんなにも痛いことなんだね。」
「………うん。そうだ、パイル。夕食を食べ終わったら、院長先生が院長室に来てほしいと言っていわ。多分、今日一日のウィルの様子をお聞きになりたいだと思う。」
ミーアお姉ちゃんは私を気遣うようにそう告げた。
きっと、今日1日あまり進展がなかったことを院長先生に報告して、私が注意されてしまうのではないかと心配しているのだろう。
「大丈夫だよ、ミーアお姉ちゃん。今日1日進展がなかったことは、事情を説明すれば院長先生はわかってくれると思う。あ、もちろん、ウィルをひっぱたいたことは内緒にするよ!」
「う、うん。ばれてしまった時が怖いけど……。(小声)」
「じゃあ、行ってくるね!」
—— ——
「失礼します。」
院長室の扉をノックして入室のを許可された私は、静かに入室した。
院長先生は何やら書き物をしていいたようで、私が入室すると顔を上げた。
「遅い時間に呼びつけてしまってごめんなさいね、パイル。」
「いいえ、大丈夫ですよ。ウィルのことですよね?」
「ええ、そうよ。すでに物心がついている8歳という年齢でここにきてしまったから、特に心配なのよ。どのような様子だったかしら?」
「そうですね……。人とかかわることを拒絶……というよりも、恐れている印象です。人に拒絶されることを恐れているというべきかもしれません。あとは、自身の外見が他人に否定的にみられると思っているようです。……ただ、根はやさしそうだなとも思っています。」
私がそういうと、院長先生は満足そうに1つ頷いた。
過去にあった何かのせいで、ウィルの本来の性格がねじれてしまったのかもしれない。
「よく見ているわね、パイル。私もパイルと同じように考えているわ。……ウィルには悪いのだけど、先程までウィルの下町での様子を調べていたのよ。」
「それは、私が聞いてもよろしいのですか?」
「あなたが聞きたいと思うなら、話すことはできるわ。」
院長先生はそういうと、どちらでも構わないと言わんばかりに穏やかにほほ笑んだ。
ウィル自身の口からではなく、院長先生の口から聞いてもいいものかどうか正直分からない。きっと、気持ちのいい話ではないから。だけど、聞くことでウィル自身のことを知ることができのなら……。
「お願いします。」
「パイルならそういうと思っていたわ。では、話すわね。」
そうして、院長先生はウィルの過去を話しだした。
その内容は聞いているうちに涙がこぼれるほど悲しいものだった。院長先生の話をまとめると次のとおりになる。
ウィルは実の母親と2人で暮らしていた。その母親は、どうやら神殿の側仕えだったらしい。元側仕えだった母親は、下町に馴染めず職に就くことができなかった。
ただし、2人の生活費はウィルが5歳くらいまでは、どこからか送られてきていたらしい。しかし、その生活費がぷっつりと途絶えてしまった。もともとウィルのことを邪険にしていた母親は自分の暮らしを守るため、様々な男に寄生するようになった。そんな生活の中、1人の男との結婚を決め、家へと帰ってきた。しかし、ウィルがいることを隠していいた母親は男にウィルの存在を知られてしまい、結婚は白紙になった。その時、男がウィルを見て称した「悪魔」という言葉に影響されてか、母親はウィルのことを「悪魔」と呼び、さらに激しく憎悪した。
それからウィルは母親から、暴言、暴力、育児放棄を受けた。そして、8歳の年にウィルは完全に母親から捨てられてしまった。ウィルが今まで住んでいた家の大家は、厄介ごとは御免だと言わんばかりに、ボロボロのウィルを神殿に預けた。これが、ウィルの過去の話だ。
「ウィルの過去の話は以上よ。まだ子供のパイルには、つらい話をしてしまったわね。」
「いいえ。ウィルに比べれば、聞いただけの私なんて……。」
「………ねえ、パイル。もしあなたがウィルと同じ立場だったら……いいえ、何でもないわ。もう寝なければいけない時間ね。部屋の前まで送るわ。」
「大丈夫ですよ、院長先生。では、失礼しますね。」
私はそういって、扉へと向かって歩き出した。しかし、くるりと振り返って院長先生に微笑みかけた。
「私がウィルと同じ立場だったら、母親のことを恨むと思います。……だけど、子にも事情があるように、母親にも事情があると思います。何らかの事情があっても、愛情の渡し方と受け取り方は様々あると思います。自分のためを思って何らかの事情があるのなら、私は笑顔で受け止めますよ。……では、おやすみなさい。」
次の日の朝。
私は男子たちが雑魚寝する機能の部屋へと向かった。部屋から出てくる子供たちの中から、コニーを捕まえた。
「コニー、おはよう。ウィルは起きている?」
「あー、あいつな。昨日からずっと、布団をかぶったままだぜ。俺も声をかけてみたんだけど、まったく反応がなかったな。パイルが何かしたんじゃねーか?」
「し、してないよ! 失礼ね!」
「お、おう……。それも心配だけどよ、あいつ、昨日の夜多分泣いていたぜ。今は、そっとしておいた方が良いかもしれないな。昨日の夕食みたいに、ここに持ってきてやろうぜ。昨日の夕食はいつもより豪華だっただろう? 俺なんか、半分も我慢したんだぜ。どうだ、おいしかっただろう?」
コニーはそういうと、起きたばかりにもかかわらず無邪気な笑顔を私に向けた。
そう、そうだったんだね。食いしん坊のコニーが私たちのために半分も夕食を我慢してくれたんだ。
「うん、おいしかったよ。ありがとう、コニー。」
「そりゃーそうだろう。仕方ないから朝食も豪華にして渡してやるか。」
コニーはそういうと、機嫌よさそうに食堂へと歩き出した。
私はウィルに一言かけてから食堂に向かおうかと思ったけど、コニーの言うとおり今はそっとしておくことにした。あとで朝食を持ってきたときに声をかけることにしよう。
「確かにそうかもしれないね。私は大丈夫だけど、明日叩いてしまったことをウィルに謝らないとね。……人を叩くって、こんなにも痛いことなんだね。」
「………うん。そうだ、パイル。夕食を食べ終わったら、院長先生が院長室に来てほしいと言っていわ。多分、今日一日のウィルの様子をお聞きになりたいだと思う。」
ミーアお姉ちゃんは私を気遣うようにそう告げた。
きっと、今日1日あまり進展がなかったことを院長先生に報告して、私が注意されてしまうのではないかと心配しているのだろう。
「大丈夫だよ、ミーアお姉ちゃん。今日1日進展がなかったことは、事情を説明すれば院長先生はわかってくれると思う。あ、もちろん、ウィルをひっぱたいたことは内緒にするよ!」
「う、うん。ばれてしまった時が怖いけど……。(小声)」
「じゃあ、行ってくるね!」
—— ——
「失礼します。」
院長室の扉をノックして入室のを許可された私は、静かに入室した。
院長先生は何やら書き物をしていいたようで、私が入室すると顔を上げた。
「遅い時間に呼びつけてしまってごめんなさいね、パイル。」
「いいえ、大丈夫ですよ。ウィルのことですよね?」
「ええ、そうよ。すでに物心がついている8歳という年齢でここにきてしまったから、特に心配なのよ。どのような様子だったかしら?」
「そうですね……。人とかかわることを拒絶……というよりも、恐れている印象です。人に拒絶されることを恐れているというべきかもしれません。あとは、自身の外見が他人に否定的にみられると思っているようです。……ただ、根はやさしそうだなとも思っています。」
私がそういうと、院長先生は満足そうに1つ頷いた。
過去にあった何かのせいで、ウィルの本来の性格がねじれてしまったのかもしれない。
「よく見ているわね、パイル。私もパイルと同じように考えているわ。……ウィルには悪いのだけど、先程までウィルの下町での様子を調べていたのよ。」
「それは、私が聞いてもよろしいのですか?」
「あなたが聞きたいと思うなら、話すことはできるわ。」
院長先生はそういうと、どちらでも構わないと言わんばかりに穏やかにほほ笑んだ。
ウィル自身の口からではなく、院長先生の口から聞いてもいいものかどうか正直分からない。きっと、気持ちのいい話ではないから。だけど、聞くことでウィル自身のことを知ることができのなら……。
「お願いします。」
「パイルならそういうと思っていたわ。では、話すわね。」
そうして、院長先生はウィルの過去を話しだした。
その内容は聞いているうちに涙がこぼれるほど悲しいものだった。院長先生の話をまとめると次のとおりになる。
ウィルは実の母親と2人で暮らしていた。その母親は、どうやら神殿の側仕えだったらしい。元側仕えだった母親は、下町に馴染めず職に就くことができなかった。
ただし、2人の生活費はウィルが5歳くらいまでは、どこからか送られてきていたらしい。しかし、その生活費がぷっつりと途絶えてしまった。もともとウィルのことを邪険にしていた母親は自分の暮らしを守るため、様々な男に寄生するようになった。そんな生活の中、1人の男との結婚を決め、家へと帰ってきた。しかし、ウィルがいることを隠していいた母親は男にウィルの存在を知られてしまい、結婚は白紙になった。その時、男がウィルを見て称した「悪魔」という言葉に影響されてか、母親はウィルのことを「悪魔」と呼び、さらに激しく憎悪した。
それからウィルは母親から、暴言、暴力、育児放棄を受けた。そして、8歳の年にウィルは完全に母親から捨てられてしまった。ウィルが今まで住んでいた家の大家は、厄介ごとは御免だと言わんばかりに、ボロボロのウィルを神殿に預けた。これが、ウィルの過去の話だ。
「ウィルの過去の話は以上よ。まだ子供のパイルには、つらい話をしてしまったわね。」
「いいえ。ウィルに比べれば、聞いただけの私なんて……。」
「………ねえ、パイル。もしあなたがウィルと同じ立場だったら……いいえ、何でもないわ。もう寝なければいけない時間ね。部屋の前まで送るわ。」
「大丈夫ですよ、院長先生。では、失礼しますね。」
私はそういって、扉へと向かって歩き出した。しかし、くるりと振り返って院長先生に微笑みかけた。
「私がウィルと同じ立場だったら、母親のことを恨むと思います。……だけど、子にも事情があるように、母親にも事情があると思います。何らかの事情があっても、愛情の渡し方と受け取り方は様々あると思います。自分のためを思って何らかの事情があるのなら、私は笑顔で受け止めますよ。……では、おやすみなさい。」
次の日の朝。
私は男子たちが雑魚寝する機能の部屋へと向かった。部屋から出てくる子供たちの中から、コニーを捕まえた。
「コニー、おはよう。ウィルは起きている?」
「あー、あいつな。昨日からずっと、布団をかぶったままだぜ。俺も声をかけてみたんだけど、まったく反応がなかったな。パイルが何かしたんじゃねーか?」
「し、してないよ! 失礼ね!」
「お、おう……。それも心配だけどよ、あいつ、昨日の夜多分泣いていたぜ。今は、そっとしておいた方が良いかもしれないな。昨日の夕食みたいに、ここに持ってきてやろうぜ。昨日の夕食はいつもより豪華だっただろう? 俺なんか、半分も我慢したんだぜ。どうだ、おいしかっただろう?」
コニーはそういうと、起きたばかりにもかかわらず無邪気な笑顔を私に向けた。
そう、そうだったんだね。食いしん坊のコニーが私たちのために半分も夕食を我慢してくれたんだ。
「うん、おいしかったよ。ありがとう、コニー。」
「そりゃーそうだろう。仕方ないから朝食も豪華にして渡してやるか。」
コニーはそういうと、機嫌よさそうに食堂へと歩き出した。
私はウィルに一言かけてから食堂に向かおうかと思ったけど、コニーの言うとおり今はそっとしておくことにした。あとで朝食を持ってきたときに声をかけることにしよう。
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