20 / 53
第二章 側仕え編
カエルの子はやっぱりカエルかもしれない
しおりを挟む計算を手伝っていると、扉がノックされた。アルミ―が扉を開くと、楽器をのせた台車を押したマールが部屋へと入ってきた。
全部で3種類のようだ。この神殿にある楽器が3種類なだけで、もっとほかにもあるのかもしれない。
「では、好きな楽器を選びなさい。明日、どれくらい演奏できるのかテストを行う。夕食以降は、音を出さないように。楽器を選んだら、服を着替え、アルミ―から神殿業務や生活についての注意事項を聞きなさい。私は、用務があるため夕食まで席を外す。」
神官長はそういうと、2人の神官を連れてさっさと出て行ってしまった。
好きな楽器を選びなさいって……。どんな楽器かも知らないのに、解説もなしなの? 私の穏やかな心がだんだんと黒くなっていく気がする。
「……えーと、アルミ―さん。楽器の解説をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「パイルと呼ばれていましたね。私のこともマールのことも、呼び捨てで構いませんよ。それと、申し訳ないのですが、あいにく私には楽器のことはわかりません。おそらく、側仕えの中で知っている者はいないでしょう。楽器の演奏が必要となるのは、貴族の皆さまと楽師だけですからね。」
アルミ―は気真面目そうな顔を崩さずに、そう告げた。
おっ、意外にも話しやすいかもしれない。もっと、邪険にされるかもと思っていたけど、そんなことは無いのかもしれない。
「それにしても、流石は神官長ですね。神官長の人を見る目は流石と言わざるを得ません。あなたが最初に来たときは、10歳の少女に何ができるのか、無能ならば私自らが叩きだそうと思っていたのですが杞憂だった様です。楽器の方も神官長を落胆させないよう、頑張ってくださいね。」
うん、なるほど。主が主なら、その部下も部下というわけだ。アルミ―の基準は、神官長にとって必要か不必要かというわけだ。私が神官長の求める基準に達していたから、こういう普通の態度なのかもしれない。
それにしても、あの神官長にこのような信奉者がいることには少しびっくりした。あの神官2人も、アルミ―と同じ口なのだろうか。
「楽器を選び終わったら、声をかけてください。あなたの部屋に案内するのと同時に、各種案内と説明を行います。」
「……わかりました。」
私はとりあえず、外向きの笑顔をつくって返事をした。この人は敵に回すとダメな人だ。職場の逆らってはいけない先輩として、接していこう。
私は次に、マールの所に行って挨拶をすることにした。
「パイルと申します。よろしくお願いいたします。」
「……。」
目礼で返された。そして、すぐに書類仕事に戻ってしまった。寡黙なタイプなのかなと思うけど、貴族にこんな態度をとっていれば首ちょんぱをされてもおかしくはない思う。
「あー、説明していませんでしたね。マールは、声が出ないのですよ。その代わり、高い事務処理能力を持っていて、そのことを見出した神官長にお仕えしているんです。」
なるほど、そういうことか。声が出ないのならば、先程の一連の流れも納得だ。確かに、書類を捌くスピードがとても速い。神官長は確かに、人を見出す能力が高いのかもしれない。
「教えていただきありがとうございます。」
私はお礼を言って、楽器選びへと戻った。
楽器は3種類ある。1つ目は、フルートのような形をした管楽器。2つ目は、小型の鉄筋の様な楽器。3つ目は、マンドリンのような楽器だ。
どれも前世で見たことのある様な楽器だが、しっているものと微妙に形が違っている。だけど、こうしてみると面白いな。世界が異なっても、楽器はなんとなく似るんだなと。
さてと、どれを選ぼうかな……といっても、私は一目見たときから決めていたのだ。というよりは、選択肢が1つしかないのだ。
何を隠そう、私はギターも弾けるギターヴォーカルだったのだ。普段はヴォーカル専門だったが、2人体制でギターを弾くこともあった。おそらく、この楽器が1番可能性があるかな。
「アルミ―、決めました。この楽器にします。」
「……シュトラウスですね。それでは、あなたの部屋に向かいましょうか。」
この楽器の名前は、シュトラウスというのね。とても素敵な名前だ。
私は弾きたい気持ちをぐっとこらえて、アルミ―のあとをついて行った。
「ここがあなたの部屋です。男女別とはなっていますが、距離が近いのは我慢してください。といっても、神官長付側仕え用の部屋ですので、我々しか利用しないのですが。」
なるほど。とてもうれしいことに、案内された個室だった。ちょっと狭いビジネスホテルくらいだろう。孤児院の雑魚寝生活も楽しかったが、やはりプライベートな時間も欲しいものだ。
「では、軽く神殿での業務を説明します。大きく分けると、4つです。1つ、神官長の事務仕事の補佐。2つ、神官長室並びに図書室の掃除。3つ、食事の給仕。4つ、来客対応、となっています。その他雑務が少なからずありますが、それはやりながら説明します。そしてあなたはそれに加えて、楽師の業務があるかと思います。残念ながら私には楽師の業務を説明することができませんので、神官長の迷惑とならないように、神官長の御心を推し量って業務にあたってください。」
最後のは一旦おいておくとして、前半4つは事前に孤児院で説明されていたとおりだ。この業務のために、孤児院の勉強や礼儀作法、そして掃除の時間が設けられていたと言ってもいいだろう。
「わかりました。大まかな1日のスケジュールをお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「朝は6時に朝食です。ただし、朝食の前にお祈りをするので、それまでに身支度を整えてください。7時から9時までは掃除。それから、お昼までの間は事務仕事。昼食の給仕をはさんで、13時から18時まで事務仕事。夕食の給仕をはさんで、神官長の湯あみの手伝いとなります。湯あみは同性の側仕えが手伝うので、あなたは大丈夫です。そして、21時には就寝です。側仕えの食事は、給仕の合間に交代でとることになります。加えて、神官長の要望にいつでも対応できるように、毎日寝ずの番をおきます。交代でしますので、全力で任に当たるようにしてください。」
……わー、すごく楽しそう。
何とも健康的な生活リズムのようだ。事務仕事の量がおかしなことになっているが、少ない人数で回しているのだからこんなことになってしまうのだろう。
まあ、それは頑張るしかないとして、大事なのは湯あみ後から就寝までの間は自由時間なのかどうかだ。私の歌のレッスンの時間を確保できるかは、死活問題だ。
「大変よくわかりました。……つかぬことをお聞きしますが、湯あみ後から就寝時間までの間は、自由時間という認識でよろしいでしょうか。」
私がそういうと、アルミ―は背筋がヒヤッとするような笑みを浮かべた。やっぱり、自由時間とかそういうのは側仕えの分際で言ってはいけなかったかな……。
「自由時間? 私たちは、崇高な神官長にお仕えすることを許されているのですよ。私たちの自由など、神官長に捧げるべきものです。よって、いついかなる時も神官長にお仕えできるように、自由時間も神官長に捧げるように。」
……。
後で、労働基準法を確認しておくとしよう。私は冷めそうになった視線を全力で温めなおして、笑顔で返事をした。
11
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜
見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。
ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。
想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!
966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」
最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。
この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。
錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。
王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる