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第二章 側仕え編
不愉快なのはあなたの方です
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「では、書類をお願いします。」
側仕えはそういと、私に支払簿を預けて退出していった。
この仕事にも少しずつ慣れてきたみたいだ。
質問の回数をも減ってきて、だいぶ1人で仕事をこなせるようになってきた。
よし、一気にやってしまおう!
っと、危ない。気を付けないと、作業中に鼻歌が出てしまいそうになる。それだけ今、私はご機嫌なのだ。
なぜかというと、神官長から楽師業務を頑張ったご褒美として、孤児院に行く権利を頂いたからだ。孤児院のみんなにはもう会えないのだと覚悟してきたから、こんなにうれしいことはない。それに、側仕えとして孤児院のみんなに生の声を届けることもできる。みんな、元気に暮らしているかな。来週が待ち遠しいな。
そうして、たるみそうな心を何とか律しながら執務を行っていると、扉のノック音が聞こえてきた。私がいつもどおりに扉を開くと、そこには黒色の服を着た神官が立っていた。
「神官のダッカ―ラだ。神官長に話があるゆえ、すぐに通せ。」
「かしこまりました。どのようなご用件か伺ってもよろしいでしょうか。」
「側仕えなどに話すことは何もない。いいから通せ。」
「かしこまりました。神官長にお繋ぎいたしますので、少々お待ちください。」
外向きの笑顔を浮かべながら応対した私は、そのまま神官長の元へ向かい事情を話した。私の話を聞いた神官長は、汚物でも見るような視線を扉に向けてため息をついた。
「面会の予約もせずに突然やってくるとは品位のかけらもないが、まあよかろう。通してくれ。」
「かしこまりました。」
私は神官長の言葉に一礼して、品位のかけらもないという神官を神官長室へと通した。
領主様とおそらく何らかの関係のある神官長に対して、このようにアグレッシブな行動をとるとは、なかなか凄い人だな。
「要件はなんだ? 面会の予約も取り付けずに来るとは、可及的速やかな判断が必要な事柄なのだろうな。」
「左様にございます、神官長。要件というのは、私の側仕えを孤児院へ戻していただきたいということにございます。」
「ほう。可及的速やかに側仕えを孤児院に戻したいということは、その者は其方によほどの無礼を働いたのか?」
「はい、私を不愉快にさせる行動にございます。どうやら子を身ごもったようで、側仕えとしての仕事を碌にせずに吐いてばかりいるのです。不愉快極まりないので、即刻孤児院に戻すようお願いします。」
孤児院は、妊娠した側仕えが戻されることが少なくない数あった。
望まない妊娠をしてしまった側仕えを、この様に人間の屑のような神官たちが厄介払いとばかりに孤児院に戻すのだ。
無事に子を産み、下女として孤児院で働ける人はほとんどいなく、望まぬ行為を強要され心を病んでしまったり、子を産んだ後すぐに側仕えに戻されたりする側仕えの方が多い。戻された側仕え専用の部屋が、孤児院には存在していた。私たち子どもは立ち入りを制限されていて、院長先生や下女たちが世話をしていた。
私が神官長付の側仕えになってからあまり日が経っていないため、この様な場面に遭遇するのは初めてだ。当の側仕えとお腹の子供のことを考えると、とても穏やかな気持ちではいられない。しかし、本当に悔しいけど、神官同士の話に一側仕えでしかない私がとやかく言うことはできない……。私は侮蔑のこもった視線を神官に向けてしまわないように、視線を下にさげた。
「なるほど、事情は分かった。それにしても其方、昨年もこの様なことがあったな。其方にばかり、新たな側仕えを補充することは出来ないのだぞ?」
「それについては、子を産んだ後に私の所に戻しているので、問題ないかと存じます。私は他の者たちと同じ程度しか、新たな側仕えを召し上げておりませんので。」
「ふむ、まあよい。ユットゲーを行かせるので、側仕えを可及的速やかに引き渡すように。」
「ありがとうございます。では、失礼いたします。」
神官はそいうと、慇懃に礼をした後に部屋を出ていった。
……神官長は、今の神官のようなことをする人ではないと思う。短い時間しか過ごしていないけど、なんとなくそんな気がする。だけど、だからといって側仕えに配慮してくれる人でもないのだ。なぜならば、神官長は貴族だから。始めからわかってはいたけど、とてつもなく悲しい気持ちになる。神官長にとって私たちは、側仕えで孤児でしかないのだ。
ーー
浮かれていた気持ちが沈んだまま、1週間がすぎて最終の金の日の朝となった。嬉しい気持ちでいっぱいの状態で孤児院に向かいたかったけど、どうにも気持ちを切り替えることができなかった。
しかし、だからこそ、孤児院に行って皆の顔を見て話したい。これって、私の自己満足なのかな……。
そうしてグルグルと考えていると、神官長に名前を呼ばれた。
「本日の夕食の時間から就寝の時間まで、孤児院に行くことを許可する。私たちはこれから1週間程用務があるため、神殿には戻ってこない。私がいないからといって、指定の時間までに戻ってこないということがないように。」
「かしこまりました。」
神官長たち、1週間も出かけるのか。たしかに、ここ1週間の業務量はとても多かった。おそらく、1週間空けてもいいように重要な仕事を終わらせていたのだろう。
ここで門限を破ってしまっては、せっかく手に入れた孤児院に行く権利を剥奪されてしまうかもしれない。気持ち少し早めに戻ってくることにしよう。
「アルミ―、パイルが孤児院から指定の時間までに戻ってくることを確認しておくように。」
「かしこまりました。」
神官長の信奉者のアルミ―が監視役に就任してしまっては、1秒の遅れも許されない。万が一に備えて、30分ほど前には残念だけど戻ってくることにしよう。
アルミーは神官長と同じような圧力を感じる微笑みを浮かべて、私のことをロックオンした。まるで私は、肉食獣に睨まれた草食獣みたいだ。こういう時は、微笑みを返しておくに限るね。
「それともう一つ、パイルには楽師として再び仕事をしてもらう予定だ。次はシュトラウスを弾きながら歌ってもらう予定だ。場所は神殿内を予定している。私がいない間も、稽古を怠らぬようにするように。」
「かしこまりました。」
あらあら。もう次のライブの予定が入ってしまったね。
神殿内ということは、神官長のお客さんに向けて歌うのだろうか? もしかして、またまたイングランド様ということはないよね? イングランド様は領主だし、そんな人がこう何回もうろちょろとしていいはずがないもんね。領のトップなわけだし、それはそれは膨大な仕事を抱えていることだろう。神官の格好をして神殿に来たり、神官長の用務に付いて行ったりする時間なんて……ないはずだよね!
これでもしイングランド様だったら、私のファン確定だよね。
神官長は一つうなづくと、ユットゲー様とカジケープを連れて出発していった。うーん。なんとなくだけど、イングランド様と会う予定のような気がするな……。
よし、今日一日仕事を頑張ろう。孤児院のみんなの元気な顔を見て、私も元気をもらおう。もし、皆に歌を聞きたいと言われたら何を歌おうかな。オリジナルソングを歌うのもいいかもしれないし、楽師として覚えた神様に捧げる歌を歌うのもいいかもしれない。
うん、楽しみだな。
側仕えはそういと、私に支払簿を預けて退出していった。
この仕事にも少しずつ慣れてきたみたいだ。
質問の回数をも減ってきて、だいぶ1人で仕事をこなせるようになってきた。
よし、一気にやってしまおう!
っと、危ない。気を付けないと、作業中に鼻歌が出てしまいそうになる。それだけ今、私はご機嫌なのだ。
なぜかというと、神官長から楽師業務を頑張ったご褒美として、孤児院に行く権利を頂いたからだ。孤児院のみんなにはもう会えないのだと覚悟してきたから、こんなにうれしいことはない。それに、側仕えとして孤児院のみんなに生の声を届けることもできる。みんな、元気に暮らしているかな。来週が待ち遠しいな。
そうして、たるみそうな心を何とか律しながら執務を行っていると、扉のノック音が聞こえてきた。私がいつもどおりに扉を開くと、そこには黒色の服を着た神官が立っていた。
「神官のダッカ―ラだ。神官長に話があるゆえ、すぐに通せ。」
「かしこまりました。どのようなご用件か伺ってもよろしいでしょうか。」
「側仕えなどに話すことは何もない。いいから通せ。」
「かしこまりました。神官長にお繋ぎいたしますので、少々お待ちください。」
外向きの笑顔を浮かべながら応対した私は、そのまま神官長の元へ向かい事情を話した。私の話を聞いた神官長は、汚物でも見るような視線を扉に向けてため息をついた。
「面会の予約もせずに突然やってくるとは品位のかけらもないが、まあよかろう。通してくれ。」
「かしこまりました。」
私は神官長の言葉に一礼して、品位のかけらもないという神官を神官長室へと通した。
領主様とおそらく何らかの関係のある神官長に対して、このようにアグレッシブな行動をとるとは、なかなか凄い人だな。
「要件はなんだ? 面会の予約も取り付けずに来るとは、可及的速やかな判断が必要な事柄なのだろうな。」
「左様にございます、神官長。要件というのは、私の側仕えを孤児院へ戻していただきたいということにございます。」
「ほう。可及的速やかに側仕えを孤児院に戻したいということは、その者は其方によほどの無礼を働いたのか?」
「はい、私を不愉快にさせる行動にございます。どうやら子を身ごもったようで、側仕えとしての仕事を碌にせずに吐いてばかりいるのです。不愉快極まりないので、即刻孤児院に戻すようお願いします。」
孤児院は、妊娠した側仕えが戻されることが少なくない数あった。
望まない妊娠をしてしまった側仕えを、この様に人間の屑のような神官たちが厄介払いとばかりに孤児院に戻すのだ。
無事に子を産み、下女として孤児院で働ける人はほとんどいなく、望まぬ行為を強要され心を病んでしまったり、子を産んだ後すぐに側仕えに戻されたりする側仕えの方が多い。戻された側仕え専用の部屋が、孤児院には存在していた。私たち子どもは立ち入りを制限されていて、院長先生や下女たちが世話をしていた。
私が神官長付の側仕えになってからあまり日が経っていないため、この様な場面に遭遇するのは初めてだ。当の側仕えとお腹の子供のことを考えると、とても穏やかな気持ちではいられない。しかし、本当に悔しいけど、神官同士の話に一側仕えでしかない私がとやかく言うことはできない……。私は侮蔑のこもった視線を神官に向けてしまわないように、視線を下にさげた。
「なるほど、事情は分かった。それにしても其方、昨年もこの様なことがあったな。其方にばかり、新たな側仕えを補充することは出来ないのだぞ?」
「それについては、子を産んだ後に私の所に戻しているので、問題ないかと存じます。私は他の者たちと同じ程度しか、新たな側仕えを召し上げておりませんので。」
「ふむ、まあよい。ユットゲーを行かせるので、側仕えを可及的速やかに引き渡すように。」
「ありがとうございます。では、失礼いたします。」
神官はそいうと、慇懃に礼をした後に部屋を出ていった。
……神官長は、今の神官のようなことをする人ではないと思う。短い時間しか過ごしていないけど、なんとなくそんな気がする。だけど、だからといって側仕えに配慮してくれる人でもないのだ。なぜならば、神官長は貴族だから。始めからわかってはいたけど、とてつもなく悲しい気持ちになる。神官長にとって私たちは、側仕えで孤児でしかないのだ。
ーー
浮かれていた気持ちが沈んだまま、1週間がすぎて最終の金の日の朝となった。嬉しい気持ちでいっぱいの状態で孤児院に向かいたかったけど、どうにも気持ちを切り替えることができなかった。
しかし、だからこそ、孤児院に行って皆の顔を見て話したい。これって、私の自己満足なのかな……。
そうしてグルグルと考えていると、神官長に名前を呼ばれた。
「本日の夕食の時間から就寝の時間まで、孤児院に行くことを許可する。私たちはこれから1週間程用務があるため、神殿には戻ってこない。私がいないからといって、指定の時間までに戻ってこないということがないように。」
「かしこまりました。」
神官長たち、1週間も出かけるのか。たしかに、ここ1週間の業務量はとても多かった。おそらく、1週間空けてもいいように重要な仕事を終わらせていたのだろう。
ここで門限を破ってしまっては、せっかく手に入れた孤児院に行く権利を剥奪されてしまうかもしれない。気持ち少し早めに戻ってくることにしよう。
「アルミ―、パイルが孤児院から指定の時間までに戻ってくることを確認しておくように。」
「かしこまりました。」
神官長の信奉者のアルミ―が監視役に就任してしまっては、1秒の遅れも許されない。万が一に備えて、30分ほど前には残念だけど戻ってくることにしよう。
アルミーは神官長と同じような圧力を感じる微笑みを浮かべて、私のことをロックオンした。まるで私は、肉食獣に睨まれた草食獣みたいだ。こういう時は、微笑みを返しておくに限るね。
「それともう一つ、パイルには楽師として再び仕事をしてもらう予定だ。次はシュトラウスを弾きながら歌ってもらう予定だ。場所は神殿内を予定している。私がいない間も、稽古を怠らぬようにするように。」
「かしこまりました。」
あらあら。もう次のライブの予定が入ってしまったね。
神殿内ということは、神官長のお客さんに向けて歌うのだろうか? もしかして、またまたイングランド様ということはないよね? イングランド様は領主だし、そんな人がこう何回もうろちょろとしていいはずがないもんね。領のトップなわけだし、それはそれは膨大な仕事を抱えていることだろう。神官の格好をして神殿に来たり、神官長の用務に付いて行ったりする時間なんて……ないはずだよね!
これでもしイングランド様だったら、私のファン確定だよね。
神官長は一つうなづくと、ユットゲー様とカジケープを連れて出発していった。うーん。なんとなくだけど、イングランド様と会う予定のような気がするな……。
よし、今日一日仕事を頑張ろう。孤児院のみんなの元気な顔を見て、私も元気をもらおう。もし、皆に歌を聞きたいと言われたら何を歌おうかな。オリジナルソングを歌うのもいいかもしれないし、楽師として覚えた神様に捧げる歌を歌うのもいいかもしれない。
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