大好きな歌で成り上がる!~元孤児でも、歌うことは諦めません~

kurimomo

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第二章 側仕え編

たとえ孤児の分際と言われようとも

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~パイル視点~



孤児院にやってきた私とミーアお姉ちゃんは、ボロボロの状態で水を運んでいるウィルを見つけた。



ウィルによると、現在孤児院では、はやり病が流行しているとのことだ。ウィルの説明を聞きながら、私たちは皆が臥せっている部屋へと向かった。





「この部屋でみんなが臥せっている。……その、お前らが驚かないように先に言っておくが、みんなには変な痣が現れているんだ。」



「変な痣?」



「ああ。こんな感じの痣だ。」



ウィルはそういうと、自身の左袖をまくって、私たちに見せた。



すると、ウィルの左腕には、上に向かって絡みついているような黒い痣ができていた。ぶつけたとかそういう感じの痣ではない。内側から何か、おぞましいものが這い上がっているかのような、そんな痣だ。



「……なんてことなの。その痣が、みんなの身体に……。その痣に、痛みはあるの?」



「いいや、痛みはない。だけど、感覚がなくなっていく感じはある。熱や咳もでる。……俺は幸い、なぜだか左半身にしかこの痣が出ていなくて、何とか行動できていたんだ。」



この痣も、感覚がなくなっていくことについても、前世の記憶を含めて、全く心当たりがない。

私たちだけでは、どうすることもできないかもしれない……。



「じゃあ、開けるぞ。」



ウィルは私たちの反応を見ながらそういうと、ゆっくりと扉を開いた。



そこには、大人も子供も関係なく、熱や咳にうなされる皆の姿があった。

ウィルの言うとおり、みんなの身体にはウィルと同じような黒い痣ができている。



「みんな!」



私とミーアお姉ちゃんは、みんなの元へと駆け寄った。

みんなの額の上には、濡れタオルがのせてあった。

この数を、ウィルが一人で行っていたんだ……。





「私たちも手伝うわ! 手分けして、みんなの濡れタオルを替えましょう。」



「そうだね、ミーアお姉ちゃん。ウィルは水を運んでくれたし、休んでて。ね?」



「いいや、俺もやる。みんな熱がひどくて、すぐに冷やさなきゃならないんだ。」



「……わかったよ。すぐにとりかかろう。」





そうして私たちは、黙々とみんなの汗をぬぐいながら、濡れタオルを取り替えた。



……だけどこれでは、現状維持にしかならない。いや、対処が進まない分、むしろ悪い方へと徐々に進行している。もっと根本的な治療や薬などの解決策が必要だ。



「ウィル、院長先生はどこにいらっしゃるの?」



ミーアお姉ちゃんも私と同じことを考えたらしく、ウィルに院長先生の居場所を尋ねた。

ウィルは少し視線をそらした後に、ゆっくりと口を開いた。



「自室で何かを行っているようだ。何かはわからないが、院長先生が俺たちのために何かをしてくれていることはわかる。状態が一番ひどいのが院長先生だからだ。しばらくまてば、この部屋に戻ってくると思う。」





ウィルの話からすると、院長先生は原因に心当たりがあり、何かしらの対策をうっていることになる。

だけど、対策が追い付かないほど、この病の勢いがすごいのかもしれない。



……これはもう、孤児院内で解決できるレベルではないのかもしれない。

だとすると、頼る先は一つ、神殿だ。神殿が私たち孤児に簡単に手を差し伸べてくれるとは限らないけど、いっきに側仕え候補を失って困るのは神殿のはずだ。そこをつければ、助けてもらえるかもしれない。



「神殿に助けを求めよう。神官長なら……話だけは聞いていただけるかもしれない。」



「俺たちもそう考えた。」



私がそういうと、ウィルは首を横に振って声を上げた。



「俺たちもそう考えたんだ。だけど、院長先生が貴族の力を借りても解決は難しいとおっしゃったんだ。」



「お貴族様の力を借りても解決が難しい? それはいったい、どういうことなの?」



「どういうことかはわからない。だけど、そうおっしゃっていたんだ。」



お貴族様の力を借りても解決が難しいということは、お金や技術的な問題ではないということ? 私が知らないだけで、現世にも同じような症例があって、だけどこの世界の医療レベルでは、治療が難しいということかもしれない。



……だけど、難しいということは、不可能ではないということだ。

どちらにしろ、このまま何もしなければ、問題は解決せず、みんなの命が危ないことには変わりはない。





「私、神官長に事情をお話して、力をお借り出来ないか頼んでみるよ。難しいというだけで、可能性が全くないわけではないかもしれない。何か行動を起こさなければ、現状は変わらないと思うから。」



「……パイル。パイルの言うことには一理あるわ。だけど、いくら側仕えとは言え、孤児の願いを神官長が聞き届けてくださるかしら? 最悪、孤児の分際でと言われ、処罰されるかもしれないわ。」



「うん、そうかもしれないね。……だけど、今この場で、神殿内で最も力を持っているお貴族様に話ができる可能性があるのは、私だけなんだよ。だから、行ってくるよ。私は大丈夫。側仕えだけではなくて、楽師も拝命しているからね。最悪の場合でも、利用価値があると判断されて、命をとられるところまではいかないと思う。……2人は、みんなのことをお願いね。」





私がそういうと、ミーアお姉ちゃんは悲しげな表情を浮かべながらも、頷いてくれた。

一方、ウィルは下を向いたまま拳を強く握っていた。その表情は、初めて出会った時と同じくらいに伸びてしまった前髪に隠れてしまっていた。













ーー













私は、全速力で来た道を引き返して神官長室へと向かった。

神官長はおそらく、イングランド様やメイウッド公爵様とお話をしている最中だろう。

だけど今の私には、悠長に話し合いが終わるのを待っている余裕はない。



私は呼吸を整えて、神官長室の扉をノックした。

中から現れたのはユットゲー様で、私の姿を確認すると、少し目を見開いた。しかし、すぐにいつもの人好きのしそうな笑顔に表情を変えた。





「いったいどうしたのだ? 孤児院にむかっていたはずではなかったのか?」



「はい。孤児院には着いたのですが……孤児院内では、原因不明の病によって、ほとんどのものが臥せっていました。自力では解決ができないと判断し、神官長にご助力をお願いしたく、すぐに戻ってまいりました。



「孤児院で原因不明の病だと……? それは一大事だな。だが、神官長が其方らにお力を貸すとは限らないぞ。むしろ、孤児がいくら死のうが我々貴族にとっては、たいして問題はない。それでも、中に入るのか?」



「はい。どうか、お願いいたします。」





神官長が手を差し伸べてくれないことは、先程想定していたことだ。ユットゲー様に厳しい視線を送られた程度で、ひるむわけにはいかない。





「よかろう。」





ユットゲー様はそういうと、一度扉を閉じて、神官長に事情を説明しに行った。

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