大好きな歌で成り上がる!~元孤児でも、歌うことは諦めません~

kurimomo

文字の大きさ
48 / 53
第二章 側仕え編

2つの願い

しおりを挟む
※ パイル視点



「我々は少し話すことがある。其方らは少し休んでいなさい。」



私の状態を確認した神官長が一つ頷くと、イングランド様はそういって大人たちと部屋の隅へと移動した。







「……パイル、本当に大丈夫なのか?」



「心配してくれてありがとう、ウィル。……だけどごめん、私のことよりもみんなの状態を確認してくれないかな? お願い、ウィル。」



私がそういうと、ウィルは皆の方へと視線を向けた後、悔しそうに奥歯をガリッと噛みしめながらも頷いてくれた。



ウィルは丁寧に私を壁際に運んだ後に、みんなの状態を確認しに行ってくれた。



ここから見ている限りでは、見える部分の黒い痣は皆の身体から無くなっているように見える。

だけど、痣が無くなっただけで身体に何らかのダメージが残っているかもしれない。

……どうか、どうかみんなが無事でありますように。







うん?

話している内容はわからないけど、貴族サイドがもめているみたいだ。

まあ内容は、私の今後に関することかな。

私が行ったことが、貴重なことであることはわかっているつもりだ。貴族に囲われるか、それとも貴族になるのかはわからないけど、今後の私の人生は全く違うものになるだろう。





先のことについて色々考えている間に、ウィルが私の所へと戻ってきた。



「確認したが、全員熱も下がって、呼吸も安定している。俺が見る限りでは、大丈夫のように見える。」



「本当!? よかった……。ウィルもなんともないの?」



「ああ。」





本当によかった。間に合って、本当によかった。

安心したからか一気に全身の力が抜けてしまった。



ふーーー。

歌を歌ってこんなに疲れたのは、初ライブを行った時以来だ。単純に身体的な疲労だけではなく、神官長が言っていたとおり魔力的何かも相まってかなり疲れているのだろう。

神官長の口ぶりからすると、これから魔力的何かを扱う練習とかもさせられるのかもしれないな。





「パイル、お前は……。」



「うん?」



私の名前を呼んだウィルは、続きをなかなか口にせずに下を向いている。

先程から何か言いたげではあったけど、心当たりがないわけではない。

聖女の力のことや貴族のこととか、歌のこととか……。





「……お前は、遠くに行ってしまうのか?」



「遠くに? ……そうだね、ある意味では遠くに行くのかもしれないね。」





孤児とは身分の差が天地のほどもある貴族の、その関係者になってしまうだろう。

物理的な距離はそれ程離れていなくても、会うことも口を利くことすらもできなくなってしまう、そういう意味で遠くに行ってしまうだろう。





「お前がやらなければいけないことなのか?」



「詳しくはまだよくわかっていないけど……そうだね。私しかできないこと、なのかもしれない。」



「……そうか。」





私は前世の知識を持っている転生者だ。

この世界に来たのは、私にしかできない何かがあるからなのもしれない。だから……。



「お前がやりたくないというなら、俺がお前を逃がす。」



「……え?」



「俺はお前に人生を変えてもらった。だけど、遠くに行ってしまえば……あれだ、借りを返す機会がなくなってしまう。だから、どうしてもやりたくないというのならお前を逃がすことで、借りを返す。」





冗談だよね? なんて、軽口をたたけないほど、ウィルの目は真剣そのものだった。

ウィルは私のことを本当に助けようとしてくれている。もう何年も前のあの時のことを大切にしてくれているんだ。



「ありがとう、ウィル。やっぱり、ウィルは優しいね。」



「そ、そんなんじゃねーよ! 俺はただ、貸しをつくったまま遠くに行かれるのは御免だと思っただけだ。」



「うふふふふふ。……だけど、大丈夫だよ。私は私の意思で、自分にしかできないことをしに行くよ。」



「……1人でか? 昔からお前のことを知っている孤児院のやつらが近くにいなくなるかもしれないんだぞ!」



「……そうだね。それはとても寂しいことだけど、代わりにみんなを守る力を得られるかもしれない。だから私は、たとえ1人でもがんばってみんなを守るよ。それに、私の夢も」







「パイル。」



すると、私たちの会話を遮るように、私の名前が呼ばれた。

どうやら、貴族サイドの結論が出たようだ。



私は返事をした後、ウィルの力も借りてゆっくりと立ち上がった。





「我が領を含め、この国では聖女不足が問題となっている。我が領においては、私の母上を除き、聖女は1人も存在していない。この様な状況の中で現れた其方のような強い聖女の力を持った者を、私たちは放っておくことができない。そのことをまず理解してほしい。」



イングランド様は、私に言い聞かせるように真剣な表情でそう言った。

私は孤児だ。領主のイングランド様に聖女として一生奉公しろと命じられれば、従うしかないのだ。



私は、イングランド様の目を見てしっかりと頷いた。





「其方に聖女の力があるとわかった時、私は其方を下級又は中級貴族の養女としようと考えていた。だが、これだけの力がある者を低い地位においておけば、様々な危険にさらされるだろう。其方にとっても、我が領にとっても大きな痛手となる。ゆえに、我々は其方を領主一族として迎えることとする。上級貴族の娘として洗礼式を受けたのちに、私の養女となってもらいたい。」



「……え?」





領主の養女……? この領のトップであるイングランド様の養女となるということはつまり……貴族の皆さんに仰がれる立場になるということ?

貴族になることは覚悟していたけど、まさか最も上位の領主一族になるなんて……。



「わ、私がイングランド様の養女になるのですか? それはあまりにも恐れ多いというか力不足のような気がいたしますが……。」



「普通ならそうだろうな。」





私の消極的な答えを、神官長がバッサリと切り捨てた。

イングランド様はともかく、神官長も賛成していることに驚きだ。神官長は私の貴族入りにも否定的だと思っていたけど……。



「優先するべきは、強い力を持った其方の安全だ。領主一族になれば、優秀な側近を付けられる。城に住むことができる。領の中で、これほど安全なものはないだろう。」



な、なるほど……。

孤児が領主一族になる云々よりも、聖女としての私を守りながら長く使っていきたいということかな。ある意味で、合理的な神官長らしい考えかもしれない。



「だが、これは命令ではない。領主一族になるということは、貴族として最上位の教養や知識、礼儀を身につけなければならない。其方の人生のほとんどの自由を奪うことになるだろう。……私は、其方のような子供に聖女という大役を一身に背負わせるのは酷だと思っている。しかし領主として、領のことを一番に考えねばならない。そこで、其方とは協力関係を築きたい。主従の関係ではなく、其方の意思で聖女になってもらいたいと考えている。」





私はイングランド様の言葉に、思わず目を見開いてしまった。領の利益を考えつつ、私にも配慮してくれるといているのだ。

命令されて終わりだと思っていたけど、これ以上ない譲歩をしてくれている。





「私たちが其方の自由を奪うことを代償に、其方の望みを2つかなえよう。もちろん、私たちができる範囲でとなるがな。聖女と領主の養女の2つの役割を負ってもらう分だ。……さあ、其方の返事を聞かせてくれ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

処理中です...