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狂気の目覚め
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ーー俺には愛ちゃんしかいないのに。
未成年の子どもができることなど多くない。愛の両親は金策に必死で、寄付金を集める話も本人に治療意思なしと判断され、大々的に募ることができず仕事に明け暮れている。本人に生きる気力がないのだから仕方ないと言えば仕方はないと諦めるのは簡単だが、諦めきれないからこそこうして輝跡は愛の様子を見に来ている。
愛の年齢が、自分の年齢が。もう少し大人であったのなら。
輝跡にとって愛は同じ病気を抱えるものであり、赤の他人だ。既に完治し退院した輝跡では、愛の死が間近に迫ったとしても気づくことなどできないだろう。どうして愛と自分は赤の他人なのだろうか。恋人になれたら一番だが、せめて血の繋がりさえあればと思うと、あの男が憎たらしい。
愛ちゃんと血の繋がりがあるにもかかわらず、愛のことを放ったらかして他の女に夢中だったあの男ーー
愛に群がる害虫の中でも、輝跡は人一倍忍のことが嫌いだった。血の繋がりがあるからこそ、愛に何かあった際、真っ先に連絡がいくであろうあの男は、「お兄ちゃん」と慕う愛に恋愛感情を抱いていることにひどい罪悪感を感じ、あろうことか愛との関係を断ち切ったのだ。都合のいい時だけ「お兄ちゃん」と呼ばれることに満足して、取り返しがつかないことになると予期した途端に擦り寄ってきた。このまま一生疎遠であればよかったのに。本当に邪魔しかしない男だ。愛に何かあったなら、真っ先にあいつから始末してやる。
「色男が。ひでー顔してんじゃん」
「鵜飼…」
「呼び捨てかよ。一応年上なんだけど。マナーのなってないガキはこれだから」
噂をすればなんとやら。愛の従兄妹である鵜飼忍と顔を合わせるのは二度目だ。一度目は愛に群がる害虫を一通り調べ上げた報告書を見たときから不誠実な男である印象が強く、「恋人でもないくせに女性の病室に入り浸るのはよくないですよ」と喧嘩を売ってやったが、忍はその場で反論することなく舌打ちだけして去っていった。愛に用事があるのなら出直せと存在を無視して愛の青白い顔を眺めていれば、肩を叩かれる。
「ちょっと面貸せや。寝てる愛のこと起こしたくねえだろ?」
なんで愛はこんな男と血の繋がりがあるんだと思わずにはいられない柄の悪さで誘いを受け、渋々病室を出る。鞄を病室においたままなのは必ず戻るという意思だ。忍へのマウントとも捉えることができるが。
「お前、愛の作ってるゲームで専用ルートが存在しないんだって?」
「専用ルート…?」
「はっ!知らねーのにマウント取ってたのかよ?とんだお笑い草だな!愛はお前のこと恋愛対象だって見てねえってことだよ!残念だったな!」
ーー愛ちゃんが僕を恋愛対象として見ていない?
そんなの嘘だ。小さな頃からずっと、同じ病気を抱える仲間として一緒に過ごしてきた。「2人とも病気が完治したら、結婚しようね」と約束したのを、愛は覚えていなのだろうか?それとも、近すぎる距離が、恋愛対象外にまで押しやったのか…。
ーー愛ちゃんに「僕のことが嫌い?」と問いかけて。嫌いだと言われたら。お友達のままがいいなんて言われて、愛ちゃんが死んだら。
考えるだけでも気が狂いそうだ。自分より下だと見下していた相手が…自分よりも上の位置にいたかもしれない事実が。輝跡の狂気を覚醒させる。
「彼氏面して満足してんのはどっちだよ。ムカついたから愛が一番好きな要素を俺のルートに詰め込んでやった!ゲームの中でも現実でも。愛を満足させてやれんのは俺だけだってことーー」
「…さない…」
「は?」
「ぽっと出の、他の女に現抜かしてた奴に愛ちゃんを渡すもんか。愛ちゃんは僕のものだ。愛ちゃんが僕のものにならなかったその時は…」
「その時は?」
「ーー全員殺す」
「はは!殺害予告かよ。狂っていやがる。お前、愛と同じ病気だったくせに、大金積んで一人だけ助かったんだろ?愛が死んで真っ先にやることが関わった人間を全員殺すことか!くだんねー。真に受けた俺が馬鹿だった」
「せいぜい、その時が来たらあの世で後悔するといいよ。僕は一度結んだ約束は違えない。僕は必ずそれを証明する」
「やってみろ。やれるもんなら」
ーーああ。もちろん。やり遂げてみせるよ。あんた達だって、愛ちゃんの死んだ世界でなんか生きる理由もないだろう?
愛との残り僅かな時間を楽しみながら、その裏で全員殺害する計画を企てていると知ったら、愛は輝跡を嫌いになるかもしれない。それでも構わなかった。輝跡はもう、今世には何も期待はしていない。来世で、また愛と巡り合い。今度こそ、愛を自分だけのものにする。そのために輝跡は、持てる力を持ってして運命に抗うと決めたのだ。
「お願いがあるんです。僕のーー瀬尾輝跡の隠しルートを用意してもらえませんか。愛ちゃんには知らせずに。サプライズで。愛ちゃんに喜んで貰いたいんです」
たとえその行いが、誰かの死の上に成り立った貴重な命を無駄にする行いだとしてもーー
未成年の子どもができることなど多くない。愛の両親は金策に必死で、寄付金を集める話も本人に治療意思なしと判断され、大々的に募ることができず仕事に明け暮れている。本人に生きる気力がないのだから仕方ないと言えば仕方はないと諦めるのは簡単だが、諦めきれないからこそこうして輝跡は愛の様子を見に来ている。
愛の年齢が、自分の年齢が。もう少し大人であったのなら。
輝跡にとって愛は同じ病気を抱えるものであり、赤の他人だ。既に完治し退院した輝跡では、愛の死が間近に迫ったとしても気づくことなどできないだろう。どうして愛と自分は赤の他人なのだろうか。恋人になれたら一番だが、せめて血の繋がりさえあればと思うと、あの男が憎たらしい。
愛ちゃんと血の繋がりがあるにもかかわらず、愛のことを放ったらかして他の女に夢中だったあの男ーー
愛に群がる害虫の中でも、輝跡は人一倍忍のことが嫌いだった。血の繋がりがあるからこそ、愛に何かあった際、真っ先に連絡がいくであろうあの男は、「お兄ちゃん」と慕う愛に恋愛感情を抱いていることにひどい罪悪感を感じ、あろうことか愛との関係を断ち切ったのだ。都合のいい時だけ「お兄ちゃん」と呼ばれることに満足して、取り返しがつかないことになると予期した途端に擦り寄ってきた。このまま一生疎遠であればよかったのに。本当に邪魔しかしない男だ。愛に何かあったなら、真っ先にあいつから始末してやる。
「色男が。ひでー顔してんじゃん」
「鵜飼…」
「呼び捨てかよ。一応年上なんだけど。マナーのなってないガキはこれだから」
噂をすればなんとやら。愛の従兄妹である鵜飼忍と顔を合わせるのは二度目だ。一度目は愛に群がる害虫を一通り調べ上げた報告書を見たときから不誠実な男である印象が強く、「恋人でもないくせに女性の病室に入り浸るのはよくないですよ」と喧嘩を売ってやったが、忍はその場で反論することなく舌打ちだけして去っていった。愛に用事があるのなら出直せと存在を無視して愛の青白い顔を眺めていれば、肩を叩かれる。
「ちょっと面貸せや。寝てる愛のこと起こしたくねえだろ?」
なんで愛はこんな男と血の繋がりがあるんだと思わずにはいられない柄の悪さで誘いを受け、渋々病室を出る。鞄を病室においたままなのは必ず戻るという意思だ。忍へのマウントとも捉えることができるが。
「お前、愛の作ってるゲームで専用ルートが存在しないんだって?」
「専用ルート…?」
「はっ!知らねーのにマウント取ってたのかよ?とんだお笑い草だな!愛はお前のこと恋愛対象だって見てねえってことだよ!残念だったな!」
ーー愛ちゃんが僕を恋愛対象として見ていない?
そんなの嘘だ。小さな頃からずっと、同じ病気を抱える仲間として一緒に過ごしてきた。「2人とも病気が完治したら、結婚しようね」と約束したのを、愛は覚えていなのだろうか?それとも、近すぎる距離が、恋愛対象外にまで押しやったのか…。
ーー愛ちゃんに「僕のことが嫌い?」と問いかけて。嫌いだと言われたら。お友達のままがいいなんて言われて、愛ちゃんが死んだら。
考えるだけでも気が狂いそうだ。自分より下だと見下していた相手が…自分よりも上の位置にいたかもしれない事実が。輝跡の狂気を覚醒させる。
「彼氏面して満足してんのはどっちだよ。ムカついたから愛が一番好きな要素を俺のルートに詰め込んでやった!ゲームの中でも現実でも。愛を満足させてやれんのは俺だけだってことーー」
「…さない…」
「は?」
「ぽっと出の、他の女に現抜かしてた奴に愛ちゃんを渡すもんか。愛ちゃんは僕のものだ。愛ちゃんが僕のものにならなかったその時は…」
「その時は?」
「ーー全員殺す」
「はは!殺害予告かよ。狂っていやがる。お前、愛と同じ病気だったくせに、大金積んで一人だけ助かったんだろ?愛が死んで真っ先にやることが関わった人間を全員殺すことか!くだんねー。真に受けた俺が馬鹿だった」
「せいぜい、その時が来たらあの世で後悔するといいよ。僕は一度結んだ約束は違えない。僕は必ずそれを証明する」
「やってみろ。やれるもんなら」
ーーああ。もちろん。やり遂げてみせるよ。あんた達だって、愛ちゃんの死んだ世界でなんか生きる理由もないだろう?
愛との残り僅かな時間を楽しみながら、その裏で全員殺害する計画を企てていると知ったら、愛は輝跡を嫌いになるかもしれない。それでも構わなかった。輝跡はもう、今世には何も期待はしていない。来世で、また愛と巡り合い。今度こそ、愛を自分だけのものにする。そのために輝跡は、持てる力を持ってして運命に抗うと決めたのだ。
「お願いがあるんです。僕のーー瀬尾輝跡の隠しルートを用意してもらえませんか。愛ちゃんには知らせずに。サプライズで。愛ちゃんに喜んで貰いたいんです」
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