溺愛ネクストオールディーズ

桜城恋詠

文字の大きさ
6 / 9

狂気の目覚め

しおりを挟む
ーー俺には愛ちゃんしかいないのに。

未成年の子どもができることなど多くない。愛の両親は金策に必死で、寄付金を集める話も本人に治療意思なしと判断され、大々的に募ることができず仕事に明け暮れている。本人に生きる気力がないのだから仕方ないと言えば仕方はないと諦めるのは簡単だが、諦めきれないからこそこうして輝跡は愛の様子を見に来ている。

愛の年齢が、自分の年齢が。もう少し大人であったのなら。

輝跡にとって愛は同じ病気を抱えるものであり、赤の他人だ。既に完治し退院した輝跡では、愛の死が間近に迫ったとしても気づくことなどできないだろう。どうして愛と自分は赤の他人なのだろうか。恋人になれたら一番だが、せめて血の繋がりさえあればと思うと、あの男が憎たらしい。

愛ちゃんと血の繋がりがあるにもかかわらず、愛のことを放ったらかして他の女に夢中だったあの男ーー

愛に群がる害虫の中でも、輝跡は人一倍忍のことが嫌いだった。血の繋がりがあるからこそ、愛に何かあった際、真っ先に連絡がいくであろうあの男は、「お兄ちゃん」と慕う愛に恋愛感情を抱いていることにひどい罪悪感を感じ、あろうことか愛との関係を断ち切ったのだ。都合のいい時だけ「お兄ちゃん」と呼ばれることに満足して、取り返しがつかないことになると予期した途端に擦り寄ってきた。このまま一生疎遠であればよかったのに。本当に邪魔しかしない男だ。愛に何かあったなら、真っ先にあいつから始末してやる。

「色男が。ひでー顔してんじゃん」
「鵜飼…」
「呼び捨てかよ。一応年上なんだけど。マナーのなってないガキはこれだから」

噂をすればなんとやら。愛の従兄妹である鵜飼忍と顔を合わせるのは二度目だ。一度目は愛に群がる害虫を一通り調べ上げた報告書を見たときから不誠実な男である印象が強く、「恋人でもないくせに女性の病室に入り浸るのはよくないですよ」と喧嘩を売ってやったが、忍はその場で反論することなく舌打ちだけして去っていった。愛に用事があるのなら出直せと存在を無視して愛の青白い顔を眺めていれば、肩を叩かれる。

「ちょっと面貸せや。寝てる愛のこと起こしたくねえだろ?」

なんで愛はこんな男と血の繋がりがあるんだと思わずにはいられない柄の悪さで誘いを受け、渋々病室を出る。鞄を病室においたままなのは必ず戻るという意思だ。忍へのマウントとも捉えることができるが。

「お前、愛の作ってるゲームで専用ルートが存在しないんだって?」
「専用ルート…?」
「はっ!知らねーのにマウント取ってたのかよ?とんだお笑い草だな!愛はお前のこと恋愛対象だって見てねえってことだよ!残念だったな!」

ーー愛ちゃんが僕を恋愛対象として見ていない?

そんなの嘘だ。小さな頃からずっと、同じ病気を抱える仲間として一緒に過ごしてきた。「2人とも病気が完治したら、結婚しようね」と約束したのを、愛は覚えていなのだろうか?それとも、近すぎる距離が、恋愛対象外にまで押しやったのか…。

ーー愛ちゃんに「僕のことが嫌い?」と問いかけて。嫌いだと言われたら。お友達のままがいいなんて言われて、愛ちゃんが死んだら。

考えるだけでも気が狂いそうだ。自分より下だと見下していた相手が…自分よりも上の位置にいたかもしれない事実が。輝跡の狂気を覚醒させる。

「彼氏面して満足してんのはどっちだよ。ムカついたから愛が一番好きな要素を俺のルートに詰め込んでやった!ゲームの中でも現実でも。愛を満足させてやれんのは俺だけだってことーー」
「…さない…」
「は?」
「ぽっと出の、他の女に現抜かしてた奴に愛ちゃんを渡すもんか。愛ちゃんは僕のものだ。愛ちゃんが僕のものにならなかったその時は…」
「その時は?」
「ーー全員殺す」
「はは!殺害予告かよ。狂っていやがる。お前、愛と同じ病気だったくせに、大金積んで一人だけ助かったんだろ?愛が死んで真っ先にやることが関わった人間を全員殺すことか!くだんねー。真に受けた俺が馬鹿だった」
「せいぜい、その時が来たらあの世で後悔するといいよ。僕は一度結んだ約束は違えない。僕は必ずそれを証明する」
「やってみろ。やれるもんなら」

ーーああ。もちろん。やり遂げてみせるよ。あんた達だって、愛ちゃんの死んだ世界でなんか生きる理由もないだろう?

愛との残り僅かな時間を楽しみながら、その裏で全員殺害する計画を企てていると知ったら、愛は輝跡を嫌いになるかもしれない。それでも構わなかった。輝跡はもう、今世には何も期待はしていない。来世で、また愛と巡り合い。今度こそ、愛を自分だけのものにする。そのために輝跡は、持てる力を持ってして運命に抗うと決めたのだ。

「お願いがあるんです。僕のーー瀬尾輝跡の隠しルートを用意してもらえませんか。愛ちゃんには知らせずに。サプライズで。愛ちゃんに喜んで貰いたいんです」

たとえその行いが、誰かの死の上に成り立った貴重な命を無駄にする行いだとしてもーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

『推しに転生したら、攻略対象が全員ヤンデレ化した件』

春夜夢
ファンタジー
「推しキャラが死ぬバッドエンドなんて認めない──だったら、私が推しになる!」 ゲーム好き女子高生の私が転生したのは、乙女ゲームの中の“推しキャラ”本人だった! しかも、攻略対象たちがみんなルート無視で私に執着しはじめて……!? 「君が他の男を見るなんて、耐えられない」 「俺だけを見てくれなきゃ、壊れちゃうよ?」 推しキャラ(自分)への愛が暴走する、 ヤンデレ王子・俺様騎士・病み系幼なじみとの、危険すぎる恋愛バトルが今、始まる──! 👧主人公紹介 望月 ひより(もちづき ひより) / 転生後:ヒロイン「シエル=フェリシア」 ・現代ではゲームオタクな平凡女子高生 ・推しキャラの「シエル」に転生 ・記憶保持型の転生で、攻略対象全員のヤンデレ化ルートを熟知している ・ただし、“自分が推される側”になることは想定外で、超戸惑い中

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...