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転生?前世?偽聖女をざまぁせよ

いざ、王都

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「ガルド公爵令嬢。お帰りなさい」
「ごきげんよう、王立騎士スコット。ライオネットと一緒ではありませんのね?」
「僕だって四六時中ライオネットと一緒にいるわけではないよ。彼は?」
「ガルド公爵家別邸の庭師、マルクス・メイホールですわ!今日はニルヴァーナ商会に植物の種を見繕いに来ましたの!」
「庭師自ら?大変ですね」
「ええ。自分の目で見て確かめたかったので…」
「木の伐採だけじゃないんだ」
「花を植えるのも庭師の役目でしてよ~!さあ、マルクス!ニルヴァーナ商会はこっちでしてよ!」
「うわっ。お嬢様!急に手を引っ張ったら…!」

 いくらボロが出ないようにと言ったって、身体接触によって魔力譲渡が引き起こされると知っているにも関わらず当然のように触るのはやめてほしい。
 ぴりりとした快感と魔力が譲渡される感覚に身震いした俺に目もくれず、警戒した様子のお嬢様は何故か声を落として俺にだけ聞こえるように囁いた。

「今の王立騎士、スコットはリコリスさんのお兄様ですの」
「なんだって?」
「リコリスさん、お兄様には心配を掛けたくないとずっと耐えているんですのよ。信じられます?3年間でしてよ!?王立騎士のお兄様が耳にすれば、教会との戦争になると…なんて健気で美しい心の持ち主なのかしら…!わたくし、感動して、目から涙が」

 嘘くさい涙だな。

 ハンカチで目頭を抑えたお嬢様はリコリスがどれほど酷い目に合わされているかを俺に報告しながら、ニルヴァーナ商会に俺を誘う。
 なんの変哲もない、普通の店だ。
 お嬢様は日傘をしまうと当然のように開けろと指出したので、仕方なく空いている手でドアを開け、お嬢様をエスコートする。
 肩に木製椅子を載せて、上半身裸で公爵令嬢をエスコートする男ーーニルヴァーナ商会店主も驚いたことだろう。
 二の句が紡げず絶句している店主に向かって、お嬢様は声を張り上げた。

「わたくしの名はエデル・フォン・ガルド。王立学園3年の公爵令嬢ですわ。このお店で扱っている一番良い植物の種をくださる?それと、メロディア・ニルヴァーナ様はいらっしゃるかしら。わたくし、マスティフ・コールドゲートと知り合いですの」
「マスティフと?一体公爵令嬢にどんな繋がりがあるって言うんだか…」

 店主がガサゴソと棚を漁り、高級感溢れるパッケージをお嬢様に差し出した。
 裏面には3つ粒入り、南国でしか採取できないフルーツの種と書かれている。
 3000Gだそうだ。1粒1000G。
 A級の魔獣を3体倒せば手に入る金額ではあるが、魔獣討伐士になりたての令嬢がA級の魔獣を討伐できるようになるには数年掛かるだろう。
 手段のためには金に糸目をつけないお嬢様だからこそぽんと払える金額だが、目的の人物に会うためにぽんと支払っていい金額ではないことは確かだった。

「メロディアはマスティフと共に王立学園に向かった。あんたらも、同じ目的か?」
「ええ。リコリス・ネクロフィリカはわたくしの学友ですの。彼女と協力して、学友を助けたい。目的が同じなら、バラバラに動くよりも効率的でしてよ」
「…2人で行かせるよりも4人で行かせた方がいい、か。わかった。町外れの宿屋だ。今日はそこに滞在すると聞いている」
「ありがとうございます。合流した暁には、今後ともご贔屓にさせていただきますわ。では、ごきげんよう」

 俺たちは来た道を戻り、2人が宿泊する宿屋に向かった。
 宿屋で先ほどと同じようにエデル・フォン・ガルドの名を出したお嬢様に恐れ慄く店主はあっさりと部屋番号を俺達に伝え、俺たちはティトマスと聖女さんと顔を合わせることになった。

「…一体なんのようですか」
「スピカが復活した。偽聖女を処刑したい」
「ーーどうぞ」

 身近にこちらの状況を話せば、ティトマスはそれに答えて室内に招き入れてくれた。
 ほっと一息付きながら、お嬢様と共に室内へ入室する。

「あれ?マスティフ。ケルディムじゃなかったんですね。ええと、ラクルスさんと…どちらさまッスか?」
「貴方もわたくしの名を知りませんの!?まったく。公爵令嬢の名前くらい覚えて損はありませんわよ?王立学園3年、エデル・フォン・ガルドですわ」
「エデル・フォン・ガルド、教会と取引している画商…」
「あら。確かにわたくしは教会と関わりがありますけれど、わたくしは悪事を暴く側でしてよ!あのような蛮族共が聖騎士を名乗ることすらおこがましい…。一緒にされるなどごめんですわ~!」
「え、でも。いや、えっと。マスティフ。どのような繋がりで、一体何の用なんスか?」
「目的は同じだそうです」
「偽聖女の討伐?」
「俺はスピカに犯罪者の血肉を食らわせたい。お嬢様はリコリス・ネクロフィリカを助けて教会の戦力を削りたいーーまあ、そんな感じだ」
「ご令嬢さんはリコリスさんのお知り合いなんスか?うち、リコリスさんからお名前聞いたことないッスけど…」
「貴女こそ!リコリス・ネクロフィリカと知り合いですの?わたくしは学友ですわ。彼女が偽聖女にいびり倒されている姿を見て、これ以上傷つかぬようあの手この手妨害しておりましたのに…本人に認知されていないなど、一生の不覚ですわ…!スピカ様!慰めてくださいませ!」
「自業自得」
「スピカさまあ~!」

 お嬢様はウインディーネを使役できる影響下なのか、俺と同じようにスピカが木製椅子状態で声だけを伝えてきてくる場合でもスピカの声を聞くことができるらしい。
 俺の肩から室内に下ろした椅子に縋り付いてわんわん泣いている。
 聖女さんはヤバい人を見るような目でドン引きしているが、ティトマスがいつものことですと告げることにより、深く追求することはやめていた。
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