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転生?前世?偽聖女をざまぁせよ

公爵令嬢と本物聖女

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 聖女さん達は卒業式終了後リコリスに協力してもらう。
 偽聖女を足止めし「聖女メロリーチェが生きていると教会に知られても構わないから、聖女カーディナルと直接対決する」方向で話が進んでいた。
 ここで問題になるのは、聖女メロリーチェが死んでいると信じていたお嬢様の存在だ。
 俺とスレインさん、ティトマスは聖女メロリーチェがメロディアとして生き延びていることを知っているが、お嬢様だけは今この場で初めてその事実を知ることになる。

「せせせせせ、聖女さま!?聖女メロリーチェさまですって!?」
「はい。聖女メロリーチェです。何度か、言葉を交わしたことがありますよね」
「う、う…っ、うそですわ!聖女メロリーチェ様が、あのような三流商店の娘として暮らしているなど!わ、わたくし、信じなくてよ!?」
「信じて頂かないと…話が進まないのですが…」
「ああああああ!そ、そのお顔!憂いを帯びたその美しい顔は!まさしく聖女メロリーチェさま…っ!あああっ!どうしてですの!?どうして神はこのような試練を聖女さまへお与えになりまして!?聖女さまは本来、何よりも代えがたく、神にも等しいお方…!このような仕打ち!あ、あんまりですわ~!!」

 スピカに聖女ガチ勢と呼ばれただけはあり、聖女さんを思ってお嬢様は力の限り叫んでスピカの木製椅子に縋り付いた。
 聖女さんに縋りつかなかっただけまだ冷静な判断ができるのかもしれないが、聖女さまは短く切り揃えた髪を聖女時代の時と全く同じ姿であることを証明する為なのか、ウィッグを被ったまま引き攣った笑みを浮かべている。
 聖女さん、自分が聖女様って呼ばれることに関してかなり抵抗があるみたいだからな。
 国を担う公爵令嬢がドン引きレベルの聖女ガチ勢と知り、どう反応していいのかわからないのだろう。

「あの、ほんとに大丈夫なんスか?この人。うちが偽聖女と対峙している間にこういう感じで絶叫されたらめんどくさいんスけど…」
「いくら聖女と言えども公爵令嬢にこの人呼ばわりは不敬かと」
「あっ。そうッスよね…うちの方が立場は下…」
「いいえ!聖女様のお立場は本来であれば神に等しいのですから、国王よりも上ですわ!もっとわたくしを蔑んでくださいませ!わたくし、美しい聖女様にそのような瞳を向けられたら…っ!」
「エデル、うるさい」
「はいぃ、スピカさま!わたくし、少しばかり興奮してしまって…公爵令嬢としてはあるまじき言動でしたわ」

 とにかく、聖女さんは面と向かって偽聖女に「聖女を名乗り、聖騎士を率いて派手に罪のない民を虐殺したのか」どうしても聞きたいらしい。
 その辺りの意思は尊重するとして、魔法の打ち合いになったときどうやって身を守りスピカに処刑椅子に座らせるのかが問題だった。

「リコリスさんには絶対防壁魔法があるので、守る必要はないと思うんです。うちにはマスティフがいるんで、公爵令嬢さんは…」
「自分の身は自分で守れますわ~!」
「なら問題ないッスね。公爵令嬢さんとラクルスさんは物陰に隠れて待機していて欲しいッス。戦意を消失させた瞬間を狙って、バクっと一発お願いします」
「マスティフは今、偽聖女の護衛騎士として活動しているので、他の者に姿を見られると困るんスよね。うちは死んでいることになっているんで、恐怖のあまり集団幻覚を見たってことにすれば、どうにかなるんスけど…」
「その辺りの裏工作はわたくしにお任せください聖女様!」
「じゃあ、お願いするッス。あと…相談すること…あったッスかね?」
「偽聖女カーディナルの件ですが」

 黙って話を聞いていたティトマスが口を挟んだ。
 彼は。聖女カーディナルの言動が時折おかしいこと、何らかの魔力汚染の気配を感じ、定期的にコールドゲート博士ーーつまり魔石研究の第一人者である俺の父親に会っていると告げた。
 どんな隠し玉を持っているかわからないので十分警戒して欲しいと言われ、俺たちは頷く。

 俺たちの最終目標はお嬢様の御学友かつ聖女さんの友人であるリコリス・ネクロフィリカを理由のない暴力から守り、偽聖女カーディナルを処刑すること。
 そして俺たちは二手に分かれ、ついにその日を迎えたのだった。
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