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3・俺だけの、運命の女神(6年前・武彦)
運命の女神(2)
「運命の女神に出会った」
「はい……?」
「俺は彼女と結婚する」
秘書の塩谷燈に昨夜の光景を掻い摘んで打ち明けたところ、「仰っている意味がよくわからないのですが」とドン引きされた。
幼馴染は自分に淡い恋心をいだいている疑惑があるので、その反応も無理はないだろう。
しかし、こちらだってその程度で止まるような生半可な想いなどいだいてはいない。
彼女の姿を脳裏に何度も思い浮かべながら、歌うように続きを話す。
「世を忍ぶ借りの名は、片平希美と言うらしい」
「一体、何があったのですか……」
「阿知賀商事、専務の娘だ」
「その名は……」
「彼女はよく手入れの施された黒髪を棚引かせ、透き通った瞳でこちらを見つめた。その瞳は愛らしく、そして――。とても可憐だった……」
「うちの総務で働く、事務員ではありませんか」
俺が感極まった様子で彼女の話をしている間、有能な秘所はあることに気づく。
その後、即座にファイリングされた履歴書の中から該当した書類を取り出し、見せびらかしてくる。
「おとなしい方ですね。武彦様の口にした内容とは、似ても似つきません」
そこに貼りつけられた顔写真には、2つに結わえた髪をきっちりと3つ編みに編み込み、分厚い眼鏡をかけた文学少女のような風貌の女性が写っていた。
「もっと、よく見せろ」
「承知いたしました。片平希美。20歳。高校を出てすぐ、新卒でわが社へ入社しております。今のところ、目立ったトラブルはありませんが……。同じ部署の女性達とは、距離を置いているようです」
「何故だ?」
「純粋に、性格が合わないのでしょう。男っ気がないものですから」
俺は燈の解説を受けながら、履歴書を凝視する。
昨夜目にした彼女の艶やかな姿など微塵も感じられないが、名前欄には確かに片平希美と記載がある。
これが世を忍ぶ仮の姿であるならば、実際に会って確かめるのが一番だ。
「着いてこい」
「構いませんが……。よろしいのですか。総務部で騒ぎを起こしたら、彼女は針の筵になるかと……」
「彼女が本当に俺の女神ならば、永遠にそばに置く」
「それはそれで、問題になります……」
燈は希美に対してあまりいい感情を持ち合わせていないようで、なんとも言えない表情で視線を逸らす。
しかし、俺の言うことは絶対だと認識しているのだろう。
こちらを強く静止しないあたりが、この女性らしい。
「乗り込む準備は?」
「滞りなく」
俺達は軽口を叩き合い、女の園と化した総務部へ乗り込んだ。
「片平常務!?」
「どうされたんですか?」
「皆様、お騒がせしており大変申し訳ございません。仕事に集中していただけますでしょうか」
燈が丁寧な口調で邪魔な女性職員を牽制している間、これほど大きな騒ぎになっているにもかかわらず、一切こちらを見ようともせずにパソコンの画面と格闘する希美へ近づく。
そうして、無言で彼女の3つ編みに触れた。
「え?」
なんの前触れもなく結んでいた髪を解かれるなど、思いもしなかったのだろう。
彼女は何が起こっているのかさっぱりわからないと言わんばかりの表情でこちらをじっと見つめながら、されるがままになる。
俺は希美が無抵抗なのをいいことに髪を手櫛で透き、邪魔な眼鏡を取り除いた。
「こんなにも、近くにいたのか……。俺の、女神……」
「仰っている意味が、よく……」
――やはり彼女は、昨夜出会った女神に間違いなかった。
なぜこれほどまでに美しい容姿を隠すのかは不明だが、これは願ってもない状況だ。
希美が地味な女性に擬態してくれたおかげで、彼女の魅力にほかの男達が気づかなくて済んだのだから……。
「はい……?」
「俺は彼女と結婚する」
秘書の塩谷燈に昨夜の光景を掻い摘んで打ち明けたところ、「仰っている意味がよくわからないのですが」とドン引きされた。
幼馴染は自分に淡い恋心をいだいている疑惑があるので、その反応も無理はないだろう。
しかし、こちらだってその程度で止まるような生半可な想いなどいだいてはいない。
彼女の姿を脳裏に何度も思い浮かべながら、歌うように続きを話す。
「世を忍ぶ借りの名は、片平希美と言うらしい」
「一体、何があったのですか……」
「阿知賀商事、専務の娘だ」
「その名は……」
「彼女はよく手入れの施された黒髪を棚引かせ、透き通った瞳でこちらを見つめた。その瞳は愛らしく、そして――。とても可憐だった……」
「うちの総務で働く、事務員ではありませんか」
俺が感極まった様子で彼女の話をしている間、有能な秘所はあることに気づく。
その後、即座にファイリングされた履歴書の中から該当した書類を取り出し、見せびらかしてくる。
「おとなしい方ですね。武彦様の口にした内容とは、似ても似つきません」
そこに貼りつけられた顔写真には、2つに結わえた髪をきっちりと3つ編みに編み込み、分厚い眼鏡をかけた文学少女のような風貌の女性が写っていた。
「もっと、よく見せろ」
「承知いたしました。片平希美。20歳。高校を出てすぐ、新卒でわが社へ入社しております。今のところ、目立ったトラブルはありませんが……。同じ部署の女性達とは、距離を置いているようです」
「何故だ?」
「純粋に、性格が合わないのでしょう。男っ気がないものですから」
俺は燈の解説を受けながら、履歴書を凝視する。
昨夜目にした彼女の艶やかな姿など微塵も感じられないが、名前欄には確かに片平希美と記載がある。
これが世を忍ぶ仮の姿であるならば、実際に会って確かめるのが一番だ。
「着いてこい」
「構いませんが……。よろしいのですか。総務部で騒ぎを起こしたら、彼女は針の筵になるかと……」
「彼女が本当に俺の女神ならば、永遠にそばに置く」
「それはそれで、問題になります……」
燈は希美に対してあまりいい感情を持ち合わせていないようで、なんとも言えない表情で視線を逸らす。
しかし、俺の言うことは絶対だと認識しているのだろう。
こちらを強く静止しないあたりが、この女性らしい。
「乗り込む準備は?」
「滞りなく」
俺達は軽口を叩き合い、女の園と化した総務部へ乗り込んだ。
「片平常務!?」
「どうされたんですか?」
「皆様、お騒がせしており大変申し訳ございません。仕事に集中していただけますでしょうか」
燈が丁寧な口調で邪魔な女性職員を牽制している間、これほど大きな騒ぎになっているにもかかわらず、一切こちらを見ようともせずにパソコンの画面と格闘する希美へ近づく。
そうして、無言で彼女の3つ編みに触れた。
「え?」
なんの前触れもなく結んでいた髪を解かれるなど、思いもしなかったのだろう。
彼女は何が起こっているのかさっぱりわからないと言わんばかりの表情でこちらをじっと見つめながら、されるがままになる。
俺は希美が無抵抗なのをいいことに髪を手櫛で透き、邪魔な眼鏡を取り除いた。
「こんなにも、近くにいたのか……。俺の、女神……」
「仰っている意味が、よく……」
――やはり彼女は、昨夜出会った女神に間違いなかった。
なぜこれほどまでに美しい容姿を隠すのかは不明だが、これは願ってもない状況だ。
希美が地味な女性に擬態してくれたおかげで、彼女の魅力にほかの男達が気づかなくて済んだのだから……。
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