寝取られるくらいなら、抱いてやるよ 幼馴染の執着愛に囚われて

桜城恋詠

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2・幼馴染と御曹司の邂逅

幼馴染と御曹司の睨み合い・1

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「あの! 会計……」
「気にするな」

 顔を真っ赤にながら慌てた彼女が肩代わりしてもらった金額を支払おうとしたが、断られてしまった。

「でも……」
「自宅はここから近いのか」
「そう、ね……。徒歩、十分くらいかしら……」
「なら、このまま送って行こう」
「え!? そんな、悪いですよ……!」

 香帆は見知らぬ男性に抱き上げられたまま、夜の街を歩き続けるのは無理だと反論したが……。
 涼しい顔で彼女を抱えて歩く彼には、何を言っても無駄のようだ。

「騒ぎ立てるなら、ホテルに連れ込むぞ」
「な……っ!」

 まさかの脅し文句に絶句すれば、常連客はクスクスと笑い声を上げた。
 どうやら香帆の赤くなったり青くなったりする姿が、面白くて仕方ないらしい。

「笑い事じゃ……!」
「言っただろう。俺が忘れさせてやる、と」
「そ、それは……」
「君はとても、魅力的な女性だからな。合意を得られるのならばこの先に進むし、その気がなければ、何もしない」

 彼はあくまで、主導権は香帆にあると告げた。

(いくら酔っ払っていたって……。好きでもない人と、ホテルに行くのがどう言うことなのかくらいは、わかるわ……)

 彼の誘いに乗れば、一時的には渉を忘れられるかもしれないが……。
 自宅も隣同士で、職場も同じともなれば、香帆には逃げる場所がなかった。

(一瞬だけでは、意味がないもの……)

 肌を許した常連客よりも、圧倒的に幼馴染と一緒にいる時間が多いのならば……。
 二人の男性の間に板挟みとなり、苦しむ自身の姿は容易に想像できる。

「安心してくれ。送り狼になるほど、女性には困っていない」

 どれほど優しくしてくれたとしても、所詮は男性だ。

 渉も、彼も。

 香帆のような外見だけは気が強そうに見える普通の女に手を出すくらいなら、女性らしい人間を抱きたいに決まっている。

(抱かせてほしいと懇願されたいわけじゃ、なかったけれど……)

 女性として、魅力がないと宣言された。
 それがすべてだ。

(渉以外に言われるのも、きついな……)

 香帆は泣き出したい気持ちでいっぱいになりながらも、彼の言葉を信じて身を預けると決意した。

 ──会話を終えた直後、悲しそうに眉を伏せたからだろうか。

 香帆の自宅前に到着するまで、男性は無言を貫いていた。

(私から交流を深めるような話を、した方がよかったのかしら……?)

 夜風に当たって、少しだけ酔いが醒めた彼女がそう後悔しても、あとの祭りだ。

「……今日は、ありがとう。わざわざ、ここまで。送って頂いて……」

 ──別れの時が近い。

 名前も知らない男性をマンション内に連れ込み、渉と鉢合わせたら……。
 何を言われるかなど、わかったものではない。
 香帆は下ろしてほしいと遠回しに伝えたつもりだったが、歩みを止めた彼は何かを考えるような固い表情のまま、いつまで経っても彼女から身体を離す気配がなかった。

「あの……?」
「香帆ー!」

 困惑した香帆が不思議そうな声を出した瞬間──上空から近所迷惑としか言いようがない大音量で、聞き馴染みのある声に叫ばれた。
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