7 / 49
2・幼馴染と御曹司の邂逅
抱いてよ・1
しおりを挟む
(私に明日、あのお店へ会いに来いと言いたかったのかしら……?)
渉の腕に抱き上げられて移動しているのをいいことに、香帆は悶々と先程常連客に告げられた言葉の意味を読み取ろうと必死になる。
(あのバーへ通うようになってから。ニ日連続で顔を出したことは、ないのだけれど……)
思わせぶりな発言をすれば、香帆が自らの意志で彼へ会いにいくとでも思っているのなら、大間違いだ。
(渉はなんだか、すごく怒っているみたいだし……)
香帆は渉の幼馴染であって、交際相手ではない。
文句を言われる筋合いもないのだが──。
(幼い頃に交わした結婚の約束を、思い出してくれたらいいのに……)
彼の腕の中でないものねだりをしていれば、あっと言う間に自宅へ到着した。
彼は当然のように香帆の部屋ではなく、隣の渉が暮らしている部屋に幼馴染を連れ込むと、靴を脱いだあと廊下を経由し、寝室のベッドに彼女を下ろす。
「あ、ありがとう……」
普段であればどういたしましてと笑顔を浮かべるはずの渉は、無言で床の上にしゃがみ込むと、彼女のヒールを脱がせた。
フローリングにそのまま置くと、掃除が大変だからだろう。
窓を開けてバルコニーに靴を置いた彼は、ピシャリと音を立てて締め、香帆を振り返る。
目の笑っていない彼は、幼馴染に明るい声で問いかけた。
「あの男と、一年前から交流があんの?」
この問いかけに、どう答えるのが正解なのだろうか。
香帆はそれがわからず、暗い顔で口籠る。
(渉には関係ないでしょ、なんて突き放したら……。きっと、険悪な雰囲気になるわ……)
隣に暮らしていて、職場も一緒の幼馴染と喧嘩なんかしたら、気まずいことこのうえない。
(私は渉に嫌われたくて、飲んだくれていたわけではないもの……)
それだけはどうにか避けたかった香帆は、事実だけを述べると決めた。
「ただの、顔見知りよ……。今日、初めて会話をしたの……」
「その割には、随分仲が良さそうだったじゃねぇか。まるで──恋人みたいに」
香帆にとって渉のこの発言は、一番聞きたくない言葉だった。
(大好きな人に、他の男性との交際を疑われるなんて……)
悪夢としか言いようのない誤解をどうにか解くため、彼女は額から汗を流しながら引き攣った笑みを浮かべて告げる。
「わ、渉だって……。仲のいい女友達の一人や二人くらい、いるでしょう……?」
「あいつ、香帆の友達なのかよ」
「こ、これから……! そうなるかもしれない人なの!」
「ふぅん……」
思わせぶりな反応をした渉に、香帆はほっと胸を撫で下ろす。
(よかった。納得してもらえたみたいだわ)
これでいつもと様子の違う渉も、明るく元気な姿を見せてくれる。
そんな彼女の喜びも束の間。
「あの男は止めとけ」
彼は香帆に強い口調で、そう言い放つ。
(どうして渉から、こんなことを言われなければいけないの……?)
納得ができない彼女は、目を見開きながら茫然と呟いた。
「な、何を言って……」
「男女の間に、友情なんか成立しねぇから。香帆が傷つく前に、縁を断ち切るべきだ」
「で、でも! 私と渉は、こうして一緒のベッドにいたって! 何も起きないわ!」
「そりゃ、前提が違うだろ。オレと香帆は、幼馴染なんだから……」
渉の言葉を受けた香帆は、強い衝撃を受けた。
(私は渉を、親友だと思っていたのに……)
渉にとって彼女は、恋愛対象でもなければ、友達ですらない。
幼馴染と言う特別なカテゴリーに区別されている。
そう宣言されてしまった彼女は、不安そうに問いかけた。
「幼馴染は、友達にすらなれないの……?」
彼を愛する彼女にとって、恋愛対象外であることは百歩譲って仕方ないと割り切れる。
(私は、こんなにも……渉が大好きなのに……)
だが、友人にすらなれないと言われたのは我慢ならなかった。
渉の腕に抱き上げられて移動しているのをいいことに、香帆は悶々と先程常連客に告げられた言葉の意味を読み取ろうと必死になる。
(あのバーへ通うようになってから。ニ日連続で顔を出したことは、ないのだけれど……)
思わせぶりな発言をすれば、香帆が自らの意志で彼へ会いにいくとでも思っているのなら、大間違いだ。
(渉はなんだか、すごく怒っているみたいだし……)
香帆は渉の幼馴染であって、交際相手ではない。
文句を言われる筋合いもないのだが──。
(幼い頃に交わした結婚の約束を、思い出してくれたらいいのに……)
彼の腕の中でないものねだりをしていれば、あっと言う間に自宅へ到着した。
彼は当然のように香帆の部屋ではなく、隣の渉が暮らしている部屋に幼馴染を連れ込むと、靴を脱いだあと廊下を経由し、寝室のベッドに彼女を下ろす。
「あ、ありがとう……」
普段であればどういたしましてと笑顔を浮かべるはずの渉は、無言で床の上にしゃがみ込むと、彼女のヒールを脱がせた。
フローリングにそのまま置くと、掃除が大変だからだろう。
窓を開けてバルコニーに靴を置いた彼は、ピシャリと音を立てて締め、香帆を振り返る。
目の笑っていない彼は、幼馴染に明るい声で問いかけた。
「あの男と、一年前から交流があんの?」
この問いかけに、どう答えるのが正解なのだろうか。
香帆はそれがわからず、暗い顔で口籠る。
(渉には関係ないでしょ、なんて突き放したら……。きっと、険悪な雰囲気になるわ……)
隣に暮らしていて、職場も一緒の幼馴染と喧嘩なんかしたら、気まずいことこのうえない。
(私は渉に嫌われたくて、飲んだくれていたわけではないもの……)
それだけはどうにか避けたかった香帆は、事実だけを述べると決めた。
「ただの、顔見知りよ……。今日、初めて会話をしたの……」
「その割には、随分仲が良さそうだったじゃねぇか。まるで──恋人みたいに」
香帆にとって渉のこの発言は、一番聞きたくない言葉だった。
(大好きな人に、他の男性との交際を疑われるなんて……)
悪夢としか言いようのない誤解をどうにか解くため、彼女は額から汗を流しながら引き攣った笑みを浮かべて告げる。
「わ、渉だって……。仲のいい女友達の一人や二人くらい、いるでしょう……?」
「あいつ、香帆の友達なのかよ」
「こ、これから……! そうなるかもしれない人なの!」
「ふぅん……」
思わせぶりな反応をした渉に、香帆はほっと胸を撫で下ろす。
(よかった。納得してもらえたみたいだわ)
これでいつもと様子の違う渉も、明るく元気な姿を見せてくれる。
そんな彼女の喜びも束の間。
「あの男は止めとけ」
彼は香帆に強い口調で、そう言い放つ。
(どうして渉から、こんなことを言われなければいけないの……?)
納得ができない彼女は、目を見開きながら茫然と呟いた。
「な、何を言って……」
「男女の間に、友情なんか成立しねぇから。香帆が傷つく前に、縁を断ち切るべきだ」
「で、でも! 私と渉は、こうして一緒のベッドにいたって! 何も起きないわ!」
「そりゃ、前提が違うだろ。オレと香帆は、幼馴染なんだから……」
渉の言葉を受けた香帆は、強い衝撃を受けた。
(私は渉を、親友だと思っていたのに……)
渉にとって彼女は、恋愛対象でもなければ、友達ですらない。
幼馴染と言う特別なカテゴリーに区別されている。
そう宣言されてしまった彼女は、不安そうに問いかけた。
「幼馴染は、友達にすらなれないの……?」
彼を愛する彼女にとって、恋愛対象外であることは百歩譲って仕方ないと割り切れる。
(私は、こんなにも……渉が大好きなのに……)
だが、友人にすらなれないと言われたのは我慢ならなかった。
2
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる