寝取られるくらいなら、抱いてやるよ 幼馴染の執着愛に囚われて

桜城恋詠

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2・幼馴染と御曹司の邂逅

抱いてよ・1

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(私に明日、あのお店へ会いに来いと言いたかったのかしら……?)

 渉の腕に抱き上げられて移動しているのをいいことに、香帆は悶々と先程常連客に告げられた言葉の意味を読み取ろうと必死になる。

(あのバーへ通うようになってから。ニ日連続で顔を出したことは、ないのだけれど……)

 思わせぶりな発言をすれば、香帆が自らの意志で彼へ会いにいくとでも思っているのなら、大間違いだ。

(渉はなんだか、すごく怒っているみたいだし……)

 香帆は渉の幼馴染であって、交際相手ではない。
 文句を言われる筋合いもないのだが──。

(幼い頃に交わした結婚の約束を、思い出してくれたらいいのに……)

 彼の腕の中でないものねだりをしていれば、あっと言う間に自宅へ到着した。

 彼は当然のように香帆の部屋ではなく、隣の渉が暮らしている部屋に幼馴染を連れ込むと、靴を脱いだあと廊下を経由し、寝室のベッドに彼女を下ろす。

「あ、ありがとう……」

 普段であればどういたしましてと笑顔を浮かべるはずの渉は、無言で床の上にしゃがみ込むと、彼女のヒールを脱がせた。

 フローリングにそのまま置くと、掃除が大変だからだろう。

 窓を開けてバルコニーに靴を置いた彼は、ピシャリと音を立てて締め、香帆を振り返る。
 目の笑っていない彼は、幼馴染に明るい声で問いかけた。

「あの男と、一年前から交流があんの?」

 この問いかけに、どう答えるのが正解なのだろうか。
 香帆はそれがわからず、暗い顔で口籠る。

(渉には関係ないでしょ、なんて突き放したら……。きっと、険悪な雰囲気になるわ……)

 隣に暮らしていて、職場も一緒の幼馴染と喧嘩なんかしたら、気まずいことこのうえない。

(私は渉に嫌われたくて、飲んだくれていたわけではないもの……)

 それだけはどうにか避けたかった香帆は、事実だけを述べると決めた。

「ただの、顔見知りよ……。今日、初めて会話をしたの……」
「その割には、随分仲が良さそうだったじゃねぇか。まるで──恋人みたいに」

 香帆にとって渉のこの発言は、一番聞きたくない言葉だった。

(大好きな人に、他の男性との交際を疑われるなんて……)

 悪夢としか言いようのない誤解をどうにか解くため、彼女は額から汗を流しながら引き攣った笑みを浮かべて告げる。

「わ、渉だって……。仲のいい女友達の一人や二人くらい、いるでしょう……?」
「あいつ、香帆の友達なのかよ」
「こ、これから……! そうなるかもしれない人なの!」
「ふぅん……」

 思わせぶりな反応をした渉に、香帆はほっと胸を撫で下ろす。

(よかった。納得してもらえたみたいだわ)

 これでいつもと様子の違う渉も、明るく元気な姿を見せてくれる。
 そんな彼女の喜びも束の間。

「あの男は止めとけ」

 彼は香帆に強い口調で、そう言い放つ。

(どうして渉から、こんなことを言われなければいけないの……?)

 納得ができない彼女は、目を見開きながら茫然と呟いた。

「な、何を言って……」
「男女の間に、友情なんか成立しねぇから。香帆が傷つく前に、縁を断ち切るべきだ」
「で、でも! 私と渉は、こうして一緒のベッドにいたって! 何も起きないわ!」
「そりゃ、前提が違うだろ。オレと香帆は、幼馴染なんだから……」

 渉の言葉を受けた香帆は、強い衝撃を受けた。

(私は渉を、親友だと思っていたのに……)

 渉にとって彼女は、恋愛対象でもなければ、友達ですらない。
 幼馴染と言う特別なカテゴリーに区別されている。
 そう宣言されてしまった彼女は、不安そうに問いかけた。

「幼馴染は、友達にすらなれないの……?」

 彼を愛する彼女にとって、恋愛対象外であることは百歩譲って仕方ないと割り切れる。

(私は、こんなにも……渉が大好きなのに……)

 だが、友人にすらなれないと言われたのは我慢ならなかった。
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