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魔王覚醒
先代魔王
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「ハレルヤ……?」
俺が王城内に入り、王座を目指して廊下を歩く途中で皇女様を抱きしめる腕の力を強めたからだろう。
不安そうに俺を見上げる皇女様と目があった。
「痛かったか?」
「もっと、ぎゅってしても平気だよ」
「潰れちまうだろ」
「ハレルヤに力強く抱きしめて貰うのは、好きだから」
またそんなこと言って……。
俺の皇女様は、どうしてこんなにも、かわいいことを平気で口にするんだ?
あれこれ世話を焼きたくなっちまうじゃねぇか。
「かわいい奴め」
「ハレルヤはかっこいいよ。王子様みたい」
「俺は魔王だぜ?」
「王には変わりない。王子様でも、魔王様でも。ハレルヤはハレルヤだよ」
皇女様は、俺が俺であれば何でもいいと告げた。人間として、出来過ぎだろ。俺の皇女様、マジかわいい。こんなにもかわいくて素直ないい子を呪い持ちだって理由で虐げてた奴らは一体何なんだよ。考えるだけでもムカつく。
「魔王様。どうぞあちらの椅子にお掛けください」
俺は皇女様を抱きしめたまま、玉座の間にやってきた。
ハムチーズは後方から、俺に玉座へ座れと指示する。
説明もなんもなしに、いきなりハムチーズを見下せる位置に座れとか……ちょっとは俺の気持ちも考えろよな。
「わぁ。すごく豪華で立派な椅子だね。黒くて、大きい。ハレルヤが座るのにぴったり!」
俺が微妙な顔をしたままその場に佇んでいれば、皇女様が俺を気遣って用意された椅子を褒めた。
キラキラと輝く瞳を玉座に向けた皇女様の期待には、従者としては答えなければならない。
俺は皇女様を抱き上げたまま、ゆっくりと玉座に繋がる階段を一段ずつ登り──そして、玉座に腰掛けた。
「このお部屋が、一望できるよ!変な人がハレルヤを痛めつけようとしても、すぐにわかるね!」
皇女様を膝上に載せてやれば、彼女は広々とした王座の間を見渡して大はしゃぎしている。
皇女として王座に座る権利があったはずの彼女は、その身に呪いの紋章が刻み込まれたせいで、王族扱いされなかった。
皇女らしい扱いを受けるのは初めてのことだから、興奮しているんだろう。
舐めたマネしやがって……。
本人が眼の前にいるわけでもねぇのに、声に出す必要はない。
俺は喉まで出てきそうになった言葉を無理矢理飲み込むと、皇女様と共に数段下の床に膝を折るハムチーズを見下した。
「1から100まで、俺に説明してくれるんだよな」
「はい。何なりとご命令くださいませ」
質疑応答形式かよ。魔王としての心得的なもんを説明してくれんじゃねぇのか……。
俺はため息を一つ溢すと、不安そうに俺を見つめてくる皇女様の頭を安心させるように撫でながら、ハムチーズへ問いかけた。
「俺はどっかの没落貴族に生まれた、人間ってことで間違いねぇんだな?」
「はい。魔王様は人間の母君より生まれています」
「……ハレルヤのお母様は……?じゃあ、お父様は……?」
「魔王様の父君こそ、先代の魔王様です。魔王様の父君は人間界の醜さを、身をもって実感するために、人間に擬態しておりました。代々騎士を排出する家系に生まれた母君と恋に落ちた父君は、醜い人間界の仕組みを変えようと尽力なさいましたが──」
「ちょっと待て。おれの親父は生きてるはずだぞ」
息子の俺へ一切の興味関心を抱いていなかった親父は、今もなおピンピンしているはずだ。皇女様が俺と離れたくないと駄々をこねるから、3年近く実家には戻ってねぇけど……。
ハムチーズは親父とお袋の話を遮った俺のことなど気にも止めず、顔色を変化させることなく淡々と、言葉の続きを紡いだ。
「魔王様の父君と母君は、亡くなりました」
「……なんでだよ。死因は?」
「父君と母君は、派手に動きすぎたのです。毒を含み……」
「魔王って、毒に耐性ねぇのかよ」
「当然ございます。母君が亡くなった後、目覚めた父君は悲しみに暮れ、毒殺を試みたものへ復讐を企てました。しかし、人間界の生活が染み付いていた父君は、魔王としての力を開放することなく──人間として戦いを挑み──あっけない、最期でした」
まるで親父の死に際を、見てきたように言うんだな。
俺は両親に愛された記憶もなければ、甲斐甲斐しく世話をされた記憶もねぇ。赤子の時でさえ、両親の顔を一度か二度目にした程度の些細なつながりしかなかった両親が死んだと告げられた所で、悲しむ必要があるとは思えなかった。
「ハレルヤ、大丈夫……?よしよし、する?」
「親父とお袋が死んでた所で、どうでもいいけどさ。皇女様に頭を撫でられるのは、悪かねぇ」
「ハレルヤ、いい子、いい子。悲しくないよ。私が、ずっと一緒にいてあげるからね」
皇女様が腕の中で俺を見上げ、不安そうな声を上げる。皇女様が俺の不安を取り除くために頭を撫でてくれると申し出たので、俺は喜んで身を屈め、皇女様に頭を撫でてもらった。
皇女様の頭を俺が撫でることはあっても、皇女様から撫でて貰うことなんざ滅多にねぇからな。俺は両親が死んで良かったと、表情を綻ばせた。
皇女様って、なんでこんなにかわいいのに迫害されてたんだろうな。
そりゃ全身に黒い唐草模様の入れ墨が刻み込まれていれば、誰だって恐ろしく感じるかもしれないけどさ。
迫害してた奴らは正気じゃねぇ。皇女様の周りがゴミクズだったお陰で、俺は彼女を独り占めできてるわけだけどな。
サンキュー、無能ども。俺の隣で笑う皇女様の魅力に気づいて、後から皇女様に言い寄って来んなよ。
俺が王城内に入り、王座を目指して廊下を歩く途中で皇女様を抱きしめる腕の力を強めたからだろう。
不安そうに俺を見上げる皇女様と目があった。
「痛かったか?」
「もっと、ぎゅってしても平気だよ」
「潰れちまうだろ」
「ハレルヤに力強く抱きしめて貰うのは、好きだから」
またそんなこと言って……。
俺の皇女様は、どうしてこんなにも、かわいいことを平気で口にするんだ?
あれこれ世話を焼きたくなっちまうじゃねぇか。
「かわいい奴め」
「ハレルヤはかっこいいよ。王子様みたい」
「俺は魔王だぜ?」
「王には変わりない。王子様でも、魔王様でも。ハレルヤはハレルヤだよ」
皇女様は、俺が俺であれば何でもいいと告げた。人間として、出来過ぎだろ。俺の皇女様、マジかわいい。こんなにもかわいくて素直ないい子を呪い持ちだって理由で虐げてた奴らは一体何なんだよ。考えるだけでもムカつく。
「魔王様。どうぞあちらの椅子にお掛けください」
俺は皇女様を抱きしめたまま、玉座の間にやってきた。
ハムチーズは後方から、俺に玉座へ座れと指示する。
説明もなんもなしに、いきなりハムチーズを見下せる位置に座れとか……ちょっとは俺の気持ちも考えろよな。
「わぁ。すごく豪華で立派な椅子だね。黒くて、大きい。ハレルヤが座るのにぴったり!」
俺が微妙な顔をしたままその場に佇んでいれば、皇女様が俺を気遣って用意された椅子を褒めた。
キラキラと輝く瞳を玉座に向けた皇女様の期待には、従者としては答えなければならない。
俺は皇女様を抱き上げたまま、ゆっくりと玉座に繋がる階段を一段ずつ登り──そして、玉座に腰掛けた。
「このお部屋が、一望できるよ!変な人がハレルヤを痛めつけようとしても、すぐにわかるね!」
皇女様を膝上に載せてやれば、彼女は広々とした王座の間を見渡して大はしゃぎしている。
皇女として王座に座る権利があったはずの彼女は、その身に呪いの紋章が刻み込まれたせいで、王族扱いされなかった。
皇女らしい扱いを受けるのは初めてのことだから、興奮しているんだろう。
舐めたマネしやがって……。
本人が眼の前にいるわけでもねぇのに、声に出す必要はない。
俺は喉まで出てきそうになった言葉を無理矢理飲み込むと、皇女様と共に数段下の床に膝を折るハムチーズを見下した。
「1から100まで、俺に説明してくれるんだよな」
「はい。何なりとご命令くださいませ」
質疑応答形式かよ。魔王としての心得的なもんを説明してくれんじゃねぇのか……。
俺はため息を一つ溢すと、不安そうに俺を見つめてくる皇女様の頭を安心させるように撫でながら、ハムチーズへ問いかけた。
「俺はどっかの没落貴族に生まれた、人間ってことで間違いねぇんだな?」
「はい。魔王様は人間の母君より生まれています」
「……ハレルヤのお母様は……?じゃあ、お父様は……?」
「魔王様の父君こそ、先代の魔王様です。魔王様の父君は人間界の醜さを、身をもって実感するために、人間に擬態しておりました。代々騎士を排出する家系に生まれた母君と恋に落ちた父君は、醜い人間界の仕組みを変えようと尽力なさいましたが──」
「ちょっと待て。おれの親父は生きてるはずだぞ」
息子の俺へ一切の興味関心を抱いていなかった親父は、今もなおピンピンしているはずだ。皇女様が俺と離れたくないと駄々をこねるから、3年近く実家には戻ってねぇけど……。
ハムチーズは親父とお袋の話を遮った俺のことなど気にも止めず、顔色を変化させることなく淡々と、言葉の続きを紡いだ。
「魔王様の父君と母君は、亡くなりました」
「……なんでだよ。死因は?」
「父君と母君は、派手に動きすぎたのです。毒を含み……」
「魔王って、毒に耐性ねぇのかよ」
「当然ございます。母君が亡くなった後、目覚めた父君は悲しみに暮れ、毒殺を試みたものへ復讐を企てました。しかし、人間界の生活が染み付いていた父君は、魔王としての力を開放することなく──人間として戦いを挑み──あっけない、最期でした」
まるで親父の死に際を、見てきたように言うんだな。
俺は両親に愛された記憶もなければ、甲斐甲斐しく世話をされた記憶もねぇ。赤子の時でさえ、両親の顔を一度か二度目にした程度の些細なつながりしかなかった両親が死んだと告げられた所で、悲しむ必要があるとは思えなかった。
「ハレルヤ、大丈夫……?よしよし、する?」
「親父とお袋が死んでた所で、どうでもいいけどさ。皇女様に頭を撫でられるのは、悪かねぇ」
「ハレルヤ、いい子、いい子。悲しくないよ。私が、ずっと一緒にいてあげるからね」
皇女様が腕の中で俺を見上げ、不安そうな声を上げる。皇女様が俺の不安を取り除くために頭を撫でてくれると申し出たので、俺は喜んで身を屈め、皇女様に頭を撫でてもらった。
皇女様の頭を俺が撫でることはあっても、皇女様から撫でて貰うことなんざ滅多にねぇからな。俺は両親が死んで良かったと、表情を綻ばせた。
皇女様って、なんでこんなにかわいいのに迫害されてたんだろうな。
そりゃ全身に黒い唐草模様の入れ墨が刻み込まれていれば、誰だって恐ろしく感じるかもしれないけどさ。
迫害してた奴らは正気じゃねぇ。皇女様の周りがゴミクズだったお陰で、俺は彼女を独り占めできてるわけだけどな。
サンキュー、無能ども。俺の隣で笑う皇女様の魅力に気づいて、後から皇女様に言い寄って来んなよ。
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