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人間界<魔族の夫婦を救え>
魔王のありがたい宣言
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「魔王様が両手から血を流して、人間界から戻ってきた」
あるものは魔王様がやられたと大騒ぎし、またあるものは血だらけになるほどの死闘を繰り広げて魔族を救ったのだと、誉れ高そうに告げる。
「うるさい」
大混乱に陥る魔族を鎮めたのは、俺ではなく皇女様の一喝だった。
人間に騒がしいと指摘されたことにプライドが傷ついた魔族たちは更に騒ぎはじめるが、気が立っている皇女様は一歩も引かない。
「あなた達が騒いだせいで、ハレルヤの傷口が開いたらどう責任を取るつもりなの?」
魔族たちの騒がしい声で傷口など開くはずもないのだが、魔族たちは指摘を受けてぴたりと口を閉ざした。皇女様の目がマジだったからってのも、あるだろう。
皇女様は人間だが、魔族たちも俺の花嫁候補であることは理解しているので、強く宣言されたら従うしかない。
「人間界はね、みんなと違う容姿や行動していると確認したら、寄ってたかって迫害するような恐ろしい所なの」
長らく人間界で暮らし、身内に虐げられてきた皇女様は臨場感たっぷりに魔族たちへ言い聞かせる。
彼らの反応は様々だ。
人間の言葉など信じる必要はないと心を閉ざすもの、魔王の花嫁たる娘が語る言葉は、魔王の言葉と同義だと認識する者──皇女様は魔族達の視線を諸共せず、静かに魔族のたちへと命じた。
「ハレルヤが助けた夫婦は軽い気持ちで人間界へ足を運んだみたいだけど、かるい気持ちで行き来するような場所じゃない。人間界へ遊びに行こうなんて、考えないで。私達だって、何度もたった一人の馬鹿を救うために、命懸けで人間界に行くほどお人好しじゃない」
皇女様の主張を聞いた俺が感じたのは、八つ当たりだってことだ。
俺が皇帝に剣の切っ先を向けられ、怪我をしたから。
皇女様は自身の無力さに苛まれ、これ以上俺が傷つかないように魔獣へ言い聞かせているのだ。
人間界を安全だと思っている頭の足りてない魔族が何度も足を運び、命の危機に晒されることがないように。
皇女様に諭された魔族たちは、反論することなく静かになった。
「おいらの軽率な行動で、魔王様が血だらけに……!」
「震えてる暇があれば、奥さん体調を気遣って。お腹の子は?平気なの?」
「そうだ!だ、大丈夫か!?」
「お腹の中で、動いてはいるようだから……大丈夫だと思いたいけれど……」
「お医者様は?いないの?いないなら呼んできて!」
皇女様の指示により、集まっていた魔族達が魔族街へと駆けていく。
俺は指の間から血を流し過ぎて口を開く気力さえもなく、皇女様によって何度か第三の急所である角を、強く引っ張られた時の痛みが遅れてやってきたようで、ここが魔族の前でなければ、大の字になって寝りたかった。
「ハレルヤ、大丈夫?ドレス、包帯代わりにして巻こうか?」
「ドレスが汚れるから、触んなって。高いんだろ」
「ドレスは作り直せるけど、ハレルヤが死んじゃったら……私、生きていけないもん……」
「出血多量で死んだりしねぇから、安心しろ」
「ハレルヤ。でも……」
「あー。お前ら、心配かけてごめんな。俺はこの通り、ピンピンしてる。人間に捕まった魔族も無事だ」
俺はどうにか気力を振り絞って平気なふりをしたが、相当無理をしていた。
ちょうどいい機会だから、この魔界をこれからどのように治めていくか語るつもりだったが、騙り終える前にみっともなく意識を消失してしまいそうだ。
情けねぇな……。
「俺はこれから、この魔界を誰もが暮らしやすい世界になるよう治めていく。人間界は腐ってる。魔界で暮らすのが一番いいと思ってもらえるように、魔族や人間界から追放された奴らが穏やかに暮らせる世界を作っていくつもりだ。お前らも、問題が起きたらすぐに俺へ連絡してくれ。小競り合い程度なら部下に任せるかもしれねぇなら、大事なら俺が対処する」
俺がそう宣言すると、魔族たちはざわついた。なんでざわつくのかと驚いたが、どうやら親父が魔王としてこの魔界に君臨していた時代は、下々の諍いごとには不干渉を貫いていたらしい。
なるほどな。通りで大騒ぎしているわけだ。
両手から血を流す魔王に、魔族たちが揉め事を起こしたら直々に問題解決するから安心しろと宣言選された所で、どこまで魔族たちが俺を信頼できるかは未知数だが──俺の宣言は、魔王様のありがたいお言葉として魔界を騒がせた。
あるものは魔王様がやられたと大騒ぎし、またあるものは血だらけになるほどの死闘を繰り広げて魔族を救ったのだと、誉れ高そうに告げる。
「うるさい」
大混乱に陥る魔族を鎮めたのは、俺ではなく皇女様の一喝だった。
人間に騒がしいと指摘されたことにプライドが傷ついた魔族たちは更に騒ぎはじめるが、気が立っている皇女様は一歩も引かない。
「あなた達が騒いだせいで、ハレルヤの傷口が開いたらどう責任を取るつもりなの?」
魔族たちの騒がしい声で傷口など開くはずもないのだが、魔族たちは指摘を受けてぴたりと口を閉ざした。皇女様の目がマジだったからってのも、あるだろう。
皇女様は人間だが、魔族たちも俺の花嫁候補であることは理解しているので、強く宣言されたら従うしかない。
「人間界はね、みんなと違う容姿や行動していると確認したら、寄ってたかって迫害するような恐ろしい所なの」
長らく人間界で暮らし、身内に虐げられてきた皇女様は臨場感たっぷりに魔族たちへ言い聞かせる。
彼らの反応は様々だ。
人間の言葉など信じる必要はないと心を閉ざすもの、魔王の花嫁たる娘が語る言葉は、魔王の言葉と同義だと認識する者──皇女様は魔族達の視線を諸共せず、静かに魔族のたちへと命じた。
「ハレルヤが助けた夫婦は軽い気持ちで人間界へ足を運んだみたいだけど、かるい気持ちで行き来するような場所じゃない。人間界へ遊びに行こうなんて、考えないで。私達だって、何度もたった一人の馬鹿を救うために、命懸けで人間界に行くほどお人好しじゃない」
皇女様の主張を聞いた俺が感じたのは、八つ当たりだってことだ。
俺が皇帝に剣の切っ先を向けられ、怪我をしたから。
皇女様は自身の無力さに苛まれ、これ以上俺が傷つかないように魔獣へ言い聞かせているのだ。
人間界を安全だと思っている頭の足りてない魔族が何度も足を運び、命の危機に晒されることがないように。
皇女様に諭された魔族たちは、反論することなく静かになった。
「おいらの軽率な行動で、魔王様が血だらけに……!」
「震えてる暇があれば、奥さん体調を気遣って。お腹の子は?平気なの?」
「そうだ!だ、大丈夫か!?」
「お腹の中で、動いてはいるようだから……大丈夫だと思いたいけれど……」
「お医者様は?いないの?いないなら呼んできて!」
皇女様の指示により、集まっていた魔族達が魔族街へと駆けていく。
俺は指の間から血を流し過ぎて口を開く気力さえもなく、皇女様によって何度か第三の急所である角を、強く引っ張られた時の痛みが遅れてやってきたようで、ここが魔族の前でなければ、大の字になって寝りたかった。
「ハレルヤ、大丈夫?ドレス、包帯代わりにして巻こうか?」
「ドレスが汚れるから、触んなって。高いんだろ」
「ドレスは作り直せるけど、ハレルヤが死んじゃったら……私、生きていけないもん……」
「出血多量で死んだりしねぇから、安心しろ」
「ハレルヤ。でも……」
「あー。お前ら、心配かけてごめんな。俺はこの通り、ピンピンしてる。人間に捕まった魔族も無事だ」
俺はどうにか気力を振り絞って平気なふりをしたが、相当無理をしていた。
ちょうどいい機会だから、この魔界をこれからどのように治めていくか語るつもりだったが、騙り終える前にみっともなく意識を消失してしまいそうだ。
情けねぇな……。
「俺はこれから、この魔界を誰もが暮らしやすい世界になるよう治めていく。人間界は腐ってる。魔界で暮らすのが一番いいと思ってもらえるように、魔族や人間界から追放された奴らが穏やかに暮らせる世界を作っていくつもりだ。お前らも、問題が起きたらすぐに俺へ連絡してくれ。小競り合い程度なら部下に任せるかもしれねぇなら、大事なら俺が対処する」
俺がそう宣言すると、魔族たちはざわついた。なんでざわつくのかと驚いたが、どうやら親父が魔王としてこの魔界に君臨していた時代は、下々の諍いごとには不干渉を貫いていたらしい。
なるほどな。通りで大騒ぎしているわけだ。
両手から血を流す魔王に、魔族たちが揉め事を起こしたら直々に問題解決するから安心しろと宣言選された所で、どこまで魔族たちが俺を信頼できるかは未知数だが──俺の宣言は、魔王様のありがたいお言葉として魔界を騒がせた。
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