13 / 62
高校三年 お家騒動
小競り合いを終えて
しおりを挟む
(ここで私に話を振ってくるんだ……)
冗談じゃない。
海歌は繋いだ手から逃れようと身を引くが、山王丸が折れてしまいそうなほど強く握っている為指を離せなかった。
(虐げたつもりはないけれど、見てみぬふりをし続けている……)
見知らぬ令嬢の視線と、海歌の名字を耳にして顔を上げた葛本の視線が混ざり合う。
令嬢は一度くらい虐げたことがあるに決まっていると海歌を睨みつけてくるが、葛本の視線は今にも泣き出しそうなほどに揺れている。
(葛本は私に、なんて言ってほしいのだろう……)
海歌は葛本の縋るような目線から逃れるように、隣に佇む山王丸を見上げた。
微笑む彼は、海歌の決断を後押ししているようにも見える。
(いつから?)
海歌が一族の集まりで一切葛本と関係を持っていなかったことを目敏く確認していた人物がいるとは思えず、嘘でもいいから葛本を虐げるふりをしておけばよかったと後悔する。
虐げられている彼に手を差し伸べることなく、見てみぬふりをしてきたツケを精算する時が来たのかもしれない。
出る杭は、打たれる。
一人だけ周りと違うことをしていれば、いい意味でも悪い意味でも目立つ。
海歌はそれに自分で気づくべきだったのだ。
この場で咄嗟にやりましたと宣言したところで、葛本を救いたい山王丸に嘘を暴かれてしまう。
(ここは、黙秘を貫くべきだ)
海歌は覚悟を決めると、だんまりを決め込む。
山王丸は彼女の態度に肩を落としてため息をこぼした。
「まあいいや。どっちにしろ、立場が悪くなるのは避けられない。賢明な判断だと思うよ。俺は好きだなあ。若草さんのそう言う所」
「山王丸様」
「様づけなんていらないよ」
「そ、れは……」
「俺達は対等なんだから。さ、いつまでも土の上で正座なんてしてないで、行こう」
山王丸に凄まれた海歌がたじろいでいる間に、彼は土の上で膝をつく葛本に右手を差し伸べ引き上げる。
このまま葛本を連れて行かれたら、ストレスを発散する道具がいなくなると慌てたのだろう。
海歌と山王丸が本家の人間であることをすっかり忘れた令嬢は激昂した。
「グズを助けて、一体なんになりますの!?」
「何もならないけど、見過ごすわけには行かないよ。立場に縛られ、家に縛られ。苦痛を味わった人間がどう言う末路を歩むのか――考えたことはあるかい」
「あるわけないでしょう!?」
「君は刺されても文句は言えないようなことをしている。それをちゃんと、理解した方がいいよ。よく言うじゃないか。撃たれる覚悟があるやつだけ引き金を引けって。ああ、銃のね」
「馬鹿にしないでくださる!? 私を誰だと――」
「和光さん」
女性の声に聞き覚えのあった海歌は、硬い表情でその声がした方向へ視線を向ける。
そこに居たのは、無表情で子ども達を見つめる海歌の母で――。
「そして、葛本の息子。お話があるの。よろしいかしら」
「な……! ど、どうして、若草の奥様が……!」
「もちろんです。行こう」
強く歯ぎしりをしながら二の句が紡げない令嬢は、子ども達の問題に親が口出ししてくるなど思いもしなかったのだろう。
海歌の母は本家の娘だ。
彼女に逆らうと言うことは、一族全員を敵に回すと同義。
そのリスクを追ってまでも葛本を所有物扱いはできないようで、悔しそうに視線を逸した。
(よかった。これで、葛本はもう……)
一体どのような風の吹き回しなのか。
母親が何を考えているかなどさっぱり理解できないが、助かったことは確かだ。
山王丸の主催する茶会で、本家の娘が葛本へ声をかけた。
彼女が彼を目にかけていると騒ぎになれば、大っぴらに虐げられることはなくなるだろう。
海歌は突如現れた母親に感謝しながらも、険しい表情を崩すことはない。
「お母様……」
「あなたも来なさい」
「はい……」
海歌がまずしなければならないことは、母親に対する謝罪と感謝を告げることだ。
だが、言葉を紡ぐ前に山王丸や葛本達と移動するように母から命じられた海歌は暗い表情で頷き口を閉ざす。
「椎名、怪我はない?」
「おう……」
か細くはあるが、山王丸に話しかけられた葛本からはしっかりした声が返ってくる。
「行こう」
何がなんだか状況を読み込めないまま、自分が助かったことを知った葛本、よくわからないまま母についてくるように命じられた海歌、二人と手を繋ぎ満面の笑みを浮かべる山王丸。
四人は山王丸の本邸一室に場所を移し、一つのテーブルを囲むことになった。
冗談じゃない。
海歌は繋いだ手から逃れようと身を引くが、山王丸が折れてしまいそうなほど強く握っている為指を離せなかった。
(虐げたつもりはないけれど、見てみぬふりをし続けている……)
見知らぬ令嬢の視線と、海歌の名字を耳にして顔を上げた葛本の視線が混ざり合う。
令嬢は一度くらい虐げたことがあるに決まっていると海歌を睨みつけてくるが、葛本の視線は今にも泣き出しそうなほどに揺れている。
(葛本は私に、なんて言ってほしいのだろう……)
海歌は葛本の縋るような目線から逃れるように、隣に佇む山王丸を見上げた。
微笑む彼は、海歌の決断を後押ししているようにも見える。
(いつから?)
海歌が一族の集まりで一切葛本と関係を持っていなかったことを目敏く確認していた人物がいるとは思えず、嘘でもいいから葛本を虐げるふりをしておけばよかったと後悔する。
虐げられている彼に手を差し伸べることなく、見てみぬふりをしてきたツケを精算する時が来たのかもしれない。
出る杭は、打たれる。
一人だけ周りと違うことをしていれば、いい意味でも悪い意味でも目立つ。
海歌はそれに自分で気づくべきだったのだ。
この場で咄嗟にやりましたと宣言したところで、葛本を救いたい山王丸に嘘を暴かれてしまう。
(ここは、黙秘を貫くべきだ)
海歌は覚悟を決めると、だんまりを決め込む。
山王丸は彼女の態度に肩を落としてため息をこぼした。
「まあいいや。どっちにしろ、立場が悪くなるのは避けられない。賢明な判断だと思うよ。俺は好きだなあ。若草さんのそう言う所」
「山王丸様」
「様づけなんていらないよ」
「そ、れは……」
「俺達は対等なんだから。さ、いつまでも土の上で正座なんてしてないで、行こう」
山王丸に凄まれた海歌がたじろいでいる間に、彼は土の上で膝をつく葛本に右手を差し伸べ引き上げる。
このまま葛本を連れて行かれたら、ストレスを発散する道具がいなくなると慌てたのだろう。
海歌と山王丸が本家の人間であることをすっかり忘れた令嬢は激昂した。
「グズを助けて、一体なんになりますの!?」
「何もならないけど、見過ごすわけには行かないよ。立場に縛られ、家に縛られ。苦痛を味わった人間がどう言う末路を歩むのか――考えたことはあるかい」
「あるわけないでしょう!?」
「君は刺されても文句は言えないようなことをしている。それをちゃんと、理解した方がいいよ。よく言うじゃないか。撃たれる覚悟があるやつだけ引き金を引けって。ああ、銃のね」
「馬鹿にしないでくださる!? 私を誰だと――」
「和光さん」
女性の声に聞き覚えのあった海歌は、硬い表情でその声がした方向へ視線を向ける。
そこに居たのは、無表情で子ども達を見つめる海歌の母で――。
「そして、葛本の息子。お話があるの。よろしいかしら」
「な……! ど、どうして、若草の奥様が……!」
「もちろんです。行こう」
強く歯ぎしりをしながら二の句が紡げない令嬢は、子ども達の問題に親が口出ししてくるなど思いもしなかったのだろう。
海歌の母は本家の娘だ。
彼女に逆らうと言うことは、一族全員を敵に回すと同義。
そのリスクを追ってまでも葛本を所有物扱いはできないようで、悔しそうに視線を逸した。
(よかった。これで、葛本はもう……)
一体どのような風の吹き回しなのか。
母親が何を考えているかなどさっぱり理解できないが、助かったことは確かだ。
山王丸の主催する茶会で、本家の娘が葛本へ声をかけた。
彼女が彼を目にかけていると騒ぎになれば、大っぴらに虐げられることはなくなるだろう。
海歌は突如現れた母親に感謝しながらも、険しい表情を崩すことはない。
「お母様……」
「あなたも来なさい」
「はい……」
海歌がまずしなければならないことは、母親に対する謝罪と感謝を告げることだ。
だが、言葉を紡ぐ前に山王丸や葛本達と移動するように母から命じられた海歌は暗い表情で頷き口を閉ざす。
「椎名、怪我はない?」
「おう……」
か細くはあるが、山王丸に話しかけられた葛本からはしっかりした声が返ってくる。
「行こう」
何がなんだか状況を読み込めないまま、自分が助かったことを知った葛本、よくわからないまま母についてくるように命じられた海歌、二人と手を繋ぎ満面の笑みを浮かべる山王丸。
四人は山王丸の本邸一室に場所を移し、一つのテーブルを囲むことになった。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる