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第2話 実家に帰省した人形師
しおりを挟む「うぁぁー」
枕に蹲り唸り声を上げる。
やる事が無く暇なのだ。
白夜に首を言い渡されて、俺にはギルドに残る気持ちは欠片も無かった。
ギルドでの人間関係にも疲れきっている。
別のギルドに入る事も無く、俺は退職金と共に実家に帰って来ていた。
しかし、後悔が全くない訳でも無い。
実際、あのギルドに所属している時と今ではやる気とか熱量という物が全く変化している。
熱の種類が違うのだ。
レイドダンジョンを踏破し続け、日本最高峰のギルドまで上り詰め、そのうちスパークルトーチが比類なき最高のギルドになる事を目指していた。
他のメンバーがどうだったのかは知らないが、少なくとも俺はそういう夢を持っていた。
でも今は、そんな情熱は無い。
まるで最初から無かったみたいに。
完全に消え失せた。
今はただ金を稼ぎたい。
レイを復活させる為に。
だが、俺にできるのは迷宮探索だけ。
しかしそれにはギルドに入る必要がある。
人形師単体、しかも相棒不在。
そんな俺がソロで上級の迷宮を攻略するなんて無理だ。
精々下級迷宮の掃除が関の山。
しかし、そんなので修理費は。
3億円は稼げない。
退職金を含めても、俺の貯蓄は3千万程。
残り2億7000万円が必要だ。
スマホを開き、SNSを開く。
昨今、一流探索者はSNSのアカウントを持っている事が多い。
強い探索者はそれだけ有名なのだ。
俺もそれは同様。
募集していた個人的な仕事の依頼が来ていないか確認したが、やはりソロの人形師に仕事などある筈も無い。DMは0件だ。
「そう言や、フォロー外し忘れてたな」
フォロー欄から俺の興味を推察したAIが、俺のおすすめに白夜たちの記事が出す。
『【スパークルトーチ】また新たなレイドダンジョンを攻略』
俺がギルドを辞めて一月。
彼等は順風満帆絶好調らしい。
そもそもあいつ等は強い。
あの時の事故は、事前調査で判明していなかった巨人の存在が原因だ。
あの巨人は、通常のレイドダンジョンのモンスターやボスに比べても圧倒的な強さだった。
正しく事故だろう。
事故が無ければ。
ちゃんと準備すれば。
スパークルトーチはレイドダンジョンでも負けない。
『【スパークルトーチ】の攻略済みレイドダンジョンはこれで34カ所。世界21位、日本では3位の成績になる』
今頃あいつ等は宴会でもしてんだろうか。
そう思うとやるせない気持ちが湧く。
「あぁぁぁ、何やってんだ俺」
「ほんと、何やってんの」
「うわっしょい、びっくりしたぁ」
「24にもなって最早可愛げが消失してる息子が帰って来て、私はどうしようかと悩んでるのにあんたは何を一人で部屋で唸ってんのよ」
「母ちゃん! 勝手に部屋開けるなよ!」
俺の部屋の扉を開けたのは俺の母親。
安形恭子だ。
「お母さん結構期待してたんだけどな。
日本一のギルドの団員になってやる!
って意気込んで出て行った時は」
「そんなん言ってたっけ俺」
「言ってたわよ。動画あるわよ。見る?」
「見ねぇよ! つか消せよ!」
「はぁ、それが今やニート。
彼女も居ないし、働きもしてないし、何やってるかと思ったら一人で部屋でぶつぶつ言ってるし。
お母さんもう心配。凄い心配」
演技がかった口調で煽って来る母ちゃん。
てか、今もニートじゃねぇし。
貯金あるし。
ちょっと休んでるだけだし。
「それで、何をそんなに悩んでるか知らないけどさ。
ちょっとお使い行って来てくれる?」
「お使い? 何?」
「庭のダンジョンよ。
管理業者に頼むのもお金かかるから、家に居る間くらい管理しておいて」
俺の家には庭にダンジョンがある。
俺が中学の時に発生した物だ。
その時、クラスデバイスの製造会社に勤めていた親父が、俺にデバイスをプレゼントしてくれた。
それから、高校時代の放課後は毎日ダンジョンに潜っていた。
そのお陰でスパークルトーチに入れた。
「あぁ、あれか。
分かったよ」
これでも俺も長男だ。
実家に全く献身もせずに身を置く訳にもいくまい。
一応仕送りはしてたけど、庭の手入れくらいはやらせてもらう。
迷宮№【10011】。
迷宮ランク【E】。
俺が呼んでいた名前は【ブリキ迷宮】。
「ありがと、九郎」
母ちゃんは俺の名前を呼んで微笑んだ。
まぁ、しゃーねーか。
「それとね、私は人形がお嫁さんとか行って連れて来ても全然大丈夫だから」
キャッとか言って母ちゃんは出て行く。
そんな事しねぇよ。
最適性クラスが【人形師】だっただけ。
人形に特別愛着がある訳じゃ無い。
……あった訳じゃなかった。
これは恋愛感情とは結構違うと思う。
レイを生き返したいと願うこの思いは。
◆
我が家の庭は結構広い。
なんか実は家って旧家らしい。
けど親父はちょっと役職がある程度のサラリーマン。
母は専業主婦だ。
爺さんの遺産は多少あったらしいし、家も無駄にデカいが、貴族的な暮らしなんて俺は無縁で普通の家庭と多分育ちは殆ど変わらない。
その無駄に広い庭には【異界門】がある。
簡単に言えばダンジョンの入り口だ。
「兄さん!」
庭に出ると弟が待っていた。
安形桂。
7つ離れた俺の弟。
今は17か。結構デカくなったな。
俺と違って可愛げのある顔つきだ。
ストレートの髪質に円らな瞳。
きっと母さんに似たんだろう。
女の子とかにもモテそうだ。
「おぉー、そう言えばお前も最近ダンジョンに行ってるんだって?」
「うん! 僕も将来は探索者目指してるから」
「あんま無理すんなよ」
「へへ、兄さんに言われたくないよ」
車の運転と同じ様に、自分や家族の所有地にできたダンジョンは適切な管理をする限りは探索者証明を持たなくても入る事ができる。
それを利用して、俺や弟は学生時から修練を積んでいる訳だ。
実際、大人になってからこの訓練は馬鹿にならない差になる。
「それで? 母ちゃんが管理しとけって言ってたけど……」
「うん、ボスが復活したみたいなんだよね」
ダンジョンにはボスが居る。
それは普遍の法則だ。
ボスを討伐する事で探索者には『ダンジョンを消滅させる権利』が与えられる。
が、権利を得て消滅させない事もある。
産業として利用されている物は、敢えて残されている物が結構な数存在するのだ。
この庭ダンジョンもその一つ。
俺が訓練用に欲しいと父に強請った。
しかし、ボスは成長する事で『ダンジョンの外に出る能力』を有する事がある。
それを防ぐために定期的に復活するボスを討伐する必要があるのだ。
通常は地方ギルドに頼む依頼だが、自分で解決できるなら依頼料が当然浮く訳で。
「おっけーまかせろ。
行ってくる」
「ねぇ、僕も見学に着いて行っていい?」
「そうだな、まぁいいぞ」
このダンジョンのボスは何度も倒してる。
今更負ける可能性は皆無。
それは弟を守りながらでも同じだ。
「やりぃ!」
俺は弟を連れて空間に開いた黒い穴【異界門】を潜る。
同時に、探索者の必須装備である【クラスデバイス】を取り出した。
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