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本家と分家
しおりを挟む流石にダンジョンができたタイミングが悪かった。テストの二週間前にできるとはどういうことだ。廊下に張られたテストの順位を見て僕は肩を落とした。
8位 樋口徹。
高校に入ってから一番順位が低い。気にしすぎも良くないか。まあ勉強時間一日にしてはよくやったと褒めるべきだろう。
「徹君はやっぱり頭がいいんですね」
現れたのは椎名寧。政府に僕の学校を聞いて同じ学校に転校してきたやばいやつ。本人曰くお願いを叶えてもらうために転校してきたらしいがそのお願いについては固く口を閉ざしている。
まだその時ではないらしい。
「学年主席が何を言っているんですかね」
テスト前までダンジョンに籠って、しかもテスト一日前に転校してきたくせに学年1位って。元々結構なお嬢様学校にいたらしいし学力もかなりあるのだろう。
流石に降霊術で頭いい奴を憑依させたとかではないはず。うん、考えないようにしよう。
「テストも終わりましたし、今日はご一緒に帰りませんか?」
「お願い事とやらの話か?」
「はい。できれば私の家にいらしてください」
「わかった」
この件について僕は彼女に逆らうことはできない。お願い事を完遂するまでは奴隷にでもなってやるつもりだ。
彼女の家の事は気になったので調べてある。情報源は隊長だ。彼女の家は結構な名家らしいのだがもっとでかい家の分家に当たるらしい。その本家は何百年も前から続く陰陽師の一族で、そういう力は現実に存在していて陰ながら日本を守っている家なんだそうだ。
しかし、その分家に本家の当主を凌駕する才能を持つ者が生まれた。そりゃ安倍晴明の守護を持つ存在だ、この世のあらゆる霊能力者よりも強力な力だろう。
そして件の分家に来てしまった。和風建築のめっちゃでかい家。掃除するだけで一日が終わりそうだ。
僕は客間に通された。客間がある家って本当にあるんだな。
「私のお願いは本家に縛られない事です」
まあ概ね予想通りだ。なんでも本家当主(34歳)と婚約の話まであるらしい。
馬鹿なのだろうか。いや、日本ってのは昔の文化を大切にとか言って色々強要してくる国だったな。
「分かった何とかしよう」
「え? 今の段階で何か手があるのですか?」
「なんだ、分かっててお願いしてきた訳じゃないんだ」
「はい、恥ずかしながら私には何も思いつきませんでした」
「簡単な事だよ。本家が持っている物を奪えばいい」
「奪う?」
「そうだよ。まず、本家はなんで君に命令できるか解る?」
「それは地位を持っているからです」
「正解。ならなぜ本家は地位を持っている?」
「今までの実績を政府に認められているから?」
「正解だ。じゃあ、それを奪うにはどうする?」
「本家以上の活躍を政府に認めてもらう」
「君は知っているはずだよ。今一番政府に認めてもらう方法を」
少し悩み、彼女は顔を上げた。それは答えを見つけた目。
「ダンジョン攻略、ですか?」
「なんだ、解ってるじゃないか。だから僕とパーティーを組もう」
「パーティー?」
「ああ、ゲームはあまりしない?」
「はい、電子機器は苦手で」
「パーティーっていうのは一緒にダンジョンを攻略する仲間の事だよ。僕と君が組めばダンジョン攻略を最速で進める事ができる。ダンジョンの登場によって世界は変わろうとしている、ダンジョンをどれほど知っているかはその国の力に直結している。だからダンジョンを最速で攻略している限り、本家だろうがなんだろうが僕たちよりも国にとって重要度の高い存在はこの国に存在しない。大統領だって僕たちよりも下の存在になる」
実際僕はそれを見ている。警察官を気絶させて衣服を剥ぐ。この時点で暴行と窃盗だ。そして無断でのダンジョン侵入は公務執行妨害に該当するだろう。しかし僕は一切その罪を償ってはいない。
何故なら、その法律を取り決めている国その物が僕を切る事ができないから。それほどまでに僕は現在の日本にとって重要なポジションにいる。
「できますか? 本当にそんな事ができますか?」
不安なのだろう。そりゃそうだ。ダンジョンが現れて3週間ほど経過した今でもダンジョンとは未知の塊だ。天空まで続く塔の10階までしか僕たち人類は到達していない。それは目算でも10分の1にも届かない程の低位。
だからこそ天空には何があるのか予想するのもはばかられるような悪魔がいる可能性は大いに存在する。しかし僕には確信がある。僕と『俺』、そして彼女が居れば僕たちは完全無欠だ。
「確証ない、でも確信はある。僕達は負けない」
「私は貴方にこのお願いをすると決めた時から貴方の事を信じています。だから貴方の言葉を信じます」
「よし、それじゃあこれからのバイトは二人ペアで受けられるように隊長に相談してみ……」
プルルルル!
相談してみようと言ったとたん僕のスマホが鳴り出した。
かけてきたのは隊長だった。
丁度いい。今相談しよう。そう思って着信を受け取る。
「もしもし。隊長、実は相談があるんですけど、」
「緊急事態だ! 百鬼夜行のユニークスキルを持った男が姿を消した!!」
隊長は酷く慌てた声だった。そして僕はその事態の緊急性を把握する。
「分かりました。今ちょうど寧さんと一緒にいます。僕達はどうすればいいですか?」
「丁度いい、それなら直ぐに二人で警察庁まで来てくれ、そこで詳細を話す!」
「分かりました」
電話を切る。
「徹君どうしましたか?」
僕の慌てた様子を寧さんは察したのだろう。心配そうに声をかけてくる。
寧さんに事情を説明して僕達は直ぐに警察庁に向かった。
僕達が向かうのは警察庁に新たに作られた迷宮部。ダンジョンに関するあらゆる問題を解決する課だ。
メンバーは隊長を始めとした10層攻略者部隊とバイトで僕と寧。それと上との仲介役が何人かいる。ダンジョン攻略が本格的に開始されればこの国で一番大きな力を持つ部隊になるだろう。
「それで、何があったんですか?」
迷宮部の扉を開けて隊長に詰め寄った。
能力が分からないスキル。しかもユニークスキルである百鬼夜行のスキルスクロールを誰かが使ったという話すら初耳なのに、それが逃走したとなればどんな被害が日本を襲うか予想もつかない。レベル1だからと言って侮る事はできないのがユニークスキルだ。実際寧さんのユニークスキルはレベル8にして『俺』が手も足も出なかった鬼を消滅させている。
「百鬼夜行のスキルスクロールを使ったのは九重斎という男だ」
「九重さんですか?」
「知っているのか寧さん」
「はい、私の家と同じ一ノ瀬の分家の家の一つです」
「なるほど、百鬼夜行というスキルの名前から、覚えるのなら陰陽師の関係者がいいと考えたわけか」
「そういうことだ。そして百鬼夜行の能力も判明した」
「隊長さん、どんな能力だったのですか?」
「僕も気になります」
「ああ、それは自分のレベル以下の怪異の強制支配」
それは一人で軍隊を作れるという事だ。妖怪や怪異固有の能力があれば、それはもしかすれば日本の保有する兵力を越える可能性も考えられる。
「それは……まずいですね」
「そうでしょうか? 今のご時世人里に姿を見せる怪異なんて極稀です。支配する対象が居なければ何の意味もないと思いますけど」
「いやあるだろ。阿保みたいな量の怪異が無限湧きしてる場所が」
「あっ!!」
そう、この能力の本来の目的はやはりダンジョンでの使用だろう。もしも酒吞童子クラスの化け物を支配できるとしたら倒せるのは寧さんだけだ。そして最大の問題。支配されたモンスターがダンジョン外へ出てくる可能性。
もしもそんな事になれば被害は計り知れない。
「だから俺たちに出された命令は九重斎の拘束。それが無理ならば殺害だ」
それは僕からすれば、いつか来るだろうと覚悟していた言葉。しかし、彼女には余りにも重い言葉だった。
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