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氷炎と不明
しおりを挟むまたダンジョンかよ。まあ、俺の存在価値が最も高い場所だから俺はそれでいい。数日間、テストだなんだで溜まったストレスを発散させてもらおうか?
「兎、犬、猪、熊、蛇、小鬼。関係ねえなあ! 今の俺にとっちゃどれも変わらねえ、雑魚だ!」
切り裂く。俺が持つ武器は現在ダンジョンで発見されている最強の武器。空の妖刀。
その効果は天剣流と月剣流の剣技を習得するという物。
天剣流は相手を翻弄する技。
「天剣流、天狐」
空を駆ける古の狐の名を持つその技は常時発動で空を足場にできる。
加速する。空中を蹴る、連続で幾度も。目が追い付かない程の速度で、足場を蹴って蹴って蹴って蹴る。
その速度はどんどん加速してく。景色が見えない敵が捕らえられない。このスピードに俺自身が追い付いていない。
だからなんだ?
「天剣流、天心」
目を使わずに戦う技。自身の魔力を空間に引き延ばす事によってその情報の伝達スピードは人間の反射の限界を超える。
天心とは認識と把握を完全に同時に行う技だ。
「天剣流、天舞」
高速回転を行いながら剣を振り回す事で移動と攻撃を同時に行う、奥義を除けば天剣流唯一の攻撃技。
切って切って切りまくる。目を開けていないから目が回るとかそういう事はない。視覚や聴覚に頼るのではなく、空間を把握する天心はこの技と非常に相性がいい。
「さあ、ホブゴブのエリアだ。寧、タイムは?」
「まだダンジョンに入って3時間ほどです。聞いてはいましたが、品性の欠片もありませんね貴方は」
この女とパーティーを組む事が決まった時相棒は俺の存在について話していた。
「別にかまわねえだろ? 俺は別にお前の事を認めてる訳じゃねえ、相棒が言うから仕方なく一緒にいるが、百鬼夜行もダンジョン攻略も俺と相棒一人で十分なんだよ」
「それは聞き捨てなりませんね。貴方では酒吞童子を倒せなかったでしょう?」
「チッ、さっさと行くぞ。奴がいるとしたら9階層だ」
ダンジョンの性質はこの数日である程度調べられている。階層事のマップも提供されているから迷う事はない。後は最短ルートを蹴散らせばいい。
パン、パン、パン、パン。ダッダッダッダ。
この連続的な破裂音は寧だ。あの女の装備は拳銃とアサルトライフル、それとナイフ一本だ。軍隊が着るような軽装で防刃防弾チョッキを着ている。最初に着ていた巫女服は霊力を高める効果があるらしいが、魔力譲渡があればそんな物に頼る必要はない。俺の魔力回復速度があれば枯渇するという事は考えにくい。錬金術で作ったポーションもある。
何より、9階層までなら銃さえあれば攻撃力は事足りる。
9階層ボス部屋前、そこには一人の男がいた。ダンジョンは入り口を警備隊が固めているが、俺たちが入る前に何者かに突破されていた。このタイミングでとなれば犯人は一人しかいないだろう。
陰陽師を始めとした日本の裏を支配する一族、一ノ瀬家の分家である九重家の現当主。九重斎、あの女が言うには自分に次ぐ実力を持つ退魔師らしい。
扱う術は相手を燃やし尽くす獄炎と相手を完全に凍結する氷魔。その能力から付けられた呼び名は『氷炎ひょうえん』。なんて厨二設定なのだろうか。
「さてと、やっと見つけたぜ氷炎さん?」
「そうか、君が10層攻略者『不明』」
俺の情報は基本的に秘蔵されている。知ってるのは迷宮関係者か政府の相当上の方に限られる。
名前も歳も分からないから付けられたあだ名は不明アンノウン。
「その名前は好きじゃないんだけどな。それで、テメェはここで何をやってんだ?」
「九重さん、何故こんなことを!」
「寧ちゃんか、君も来ていたんだね」
「はい、私たちはパーティーですから」
「ははっ、本当にゲームみたいだ。けどね、大人達にはこのゲームを楽しむ余裕はないんだよ?」
ぞろぞろと出てきたホブゴブリンが俺たちを取り囲んだ。ここまでの数に一斉に襲われたのは初めてだな。
「私はこれでも非暴力主義なんだ。だから寧ちゃん、お願いだからこのまま帰ってくれないかな?」
「どうして九重さんはこんな事をしているんです、目的は何なんですか?」
「決まっているじゃないか。一ノ瀬の家に復讐するためさ」
「復讐……」
「ピンと来てない顔をするって事は君のお父様はまだ君には何も教えていないんだね」
自傷気味に笑いながら活力のない目を男は見せた。何か苦い記憶を思い出すように。
「どういう事ですか?」
「話はここまでだ。帰ってくれないというのならこの鬼達を動かすよ?」
「はあ、話は終わったか? 寧」
「はい、一先ず制圧してから話を聞きましょう」
「何を言っている、状況が見えていないのか?」
「お前こそ、誰を前にしていると思っている。10階層攻略者、それはアメリカ陸軍一個中隊が全滅した階層を攻略したということだぜ?」
「ッ!! 行け、お前たち!奴を殺せ!」
天剣流奥義、天照。それは高密度かつ凄まじ切断能力を持った一刀。魔力を込める事によって範囲や距離を拡張する飛ぶ斬撃となる。それを後ろに位置取っていたホブゴブリンに当てる。
魔力による切断性と範囲拡張という能力を付与された斬撃は、一刀で数十の敵を切り裂いた。
「なっ!!」
「ほら、もう一発行くぜ! 伏せろ寧!」
後ろにいたホブゴブリンが上下二つに分かれた事を確認した後、今度は前の敵を両断する。
「氷盾!!」
鬼どもは全員殺し尽くした。けど男の足元からいきなり氷が生えてきて男は斬撃を凌いでいた。
「徹君、死にかけました·····」
恨めしそうに見てくんな。生きてたからいいだろ。
「それが退魔術なのか? まるで魔法だな」
「そちらこそ魔法のような力です。それが10階層攻略者の力という事ですか」
「ま、そういうことだ。それでお前を守ってくれる怪物達は綺麗さっぱり光となったが、まだやるかい?」
「私は、諦める訳にはいかないのです。家のために、そして子供たちの為に! 獄炎氷魔!!」
左右から炎と氷が襲ってくる。回避するのは簡単だ。この攻撃は前後左右に回避する事は不可能なほどの範囲を持つ技だが、それは空中を駆ける事ができる俺にとっては簡単に避けられる一撃でしかない。
しかし、このタイミングで回避を選択するとあの女は確実に死ぬ。別に俺は構わねえが、相棒から守れと言われている以上見捨てる事はできない。
「はあ、めんどくせぇ。ブレイブソード」
換装で短剣を装備し、空の妖刀と今出した短剣で炎と氷を受ける。本来ならその奔流に飲まれ凍死か焼死だが、霊力、つまり魔力で構成された技である以上ブレイブソードの吸収対象だ。
氷と炎はモンスターが消える時と同じように光の粒となって小太刀と短剣に吸収されていく。
相手の魔法攻撃と同じ魔力を消費する事でその魔法攻撃を剣にエンチャントする。ちなみに物理攻撃は威力に応じた魔力消費によって物理的な破壊力と属性を吸収することができる。
「てめえに返すぜ。名前はそうだな、ブレイブソード=氷炎」
「待ってください!」
誰が待つかよ。
いいや、待つんだ。そいつは生かす。
はぁ。めんどくせぇなぁ。
剣を振り下ろす。あいつには当てない。炎の斬撃と氷の斬撃は男の両肩を掠めていった。
「な、なんだそれは……。何をしたんだ……」
「九重さん。私は貴方が何をしようとしているのか分かりません。けれど、私は貴方が素晴らしい人格者だと信じています。だから話してください。協力できる事があるかもしれないじゃないですか」
「何も知らず、才能も持っている君に何が解るというんだ!」
「確かに私は何も知りません。何も解っていないのかもしれません。けれど、私には貴方がいい人だって事だけは解るんです! 貴方は怪異を従えて何をするつもりだったのですか?」
これだ。他者に勇気を与える力。俺が嫌いな力。そして相棒が真に認めている力。
「私は…… いやだめだ、君を巻き込む訳には……」
「大丈夫です。確かに私一人には大きすぎる問題なのかもしれません。けれど、私には仲間がいます。だから貴方も私たちと仲間になりませんか?」
彼女は微笑む、天使の如く。
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