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僕の力

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 冒険者制度が正式に採用された日本は、異常と呼べるほどの速度でそれを攻略していった。
 日本に現在確認されているダンジョンは天の塔のみ。そして、天の塔の10層到達者の数は採用試験から一ヶ月で推定300名以上。

 アメリカダンジョンの9階層突破以降、寧さんや九重さんとは一度もパーティーを組んでいない。僕はアメリカのダンジョンを秘密裏に攻略中で、寧さん九重さんペアは日本のダンジョンの最先端を攻略中だ。各国は競うように現在の到達階層を公表し始めた。それに倣うように冒険者たちは自分達が何階層まで踏み入っているかで自分達に順位をつけ始めた。

 天の塔、最高到達階層39階層。
 コロセウム、最高到達階層29階層。
 ワールドランキング1位、不明アンノウン。2位、巫女。3位、夜王。4位、龍姫ドラゴノイド。5位、勇者ブレイバー


 そして、僕の前にはもう何度目になるのかも分からない程見た巨大な扉が立ちはだかる。

 アメリカダンジョン『コロセウム』49階層。僕は今尚、他の追随を許すことなく独走している。
 世界政府が協力して製作したワールドランキングはあくまで公表されている情報を統計しているに過ぎない。僕は到達階層など公表していない。
 それでも1位なのは僕が教えた人が上に報告しているからだろう。オリビアさんにしつこく聞かれるから答えてるけど、止めようかな話すの。

 僕がコロセウムを攻略しているのは日本政府、アメリカ政府の両方が把握済みだ。
 ただ、僕が何階層まで攻略しているのかは両国とも把握できていない。僕が答えることを拒んだからだ。まあオリビアさんのごり押しには偶にゲロってしまうのでこうやって一位に祭り上げられているのだが。


 相棒、そろそろ交代しないとまずそうだぜ?


 目の前の巨体が活動を始めた。解析鑑定を発動し、相手の情報を覗く。
 解析鑑定は人間に使えば名前、パラメーター、ユニークスキル、スキルという4つの情報を見ることができる。そしてモンスターに使った場合には名前、ランク、スキルの三つの情報を見ることができる。

 しかし人間とモンスターのステータスには一点だけ全く別の表示形式となっている。

 自由の女神
 ランクA
 スキル 一の権能

 まずモンスターは基本的にスキルを一つしか持っていない。
 そしてモンスターの持つスキルにはレベルが存在しない。

「一の権能ね。名前から考えるにアメリカに関係するスキルって事か? ま、謎解きは任せるぜ」


 ああ、解析に入る。


 相棒はいつも正しい選択をする。
 なら、俺は俺の仕事をすればいい。それは俺にとって存在理由で生きる理由。
 俺は破壊衝動を満たすためにここにいる。

 嵐の魔弾+ダブルウェーブスラッシュ。風を凝縮して作られた数多の弾丸と、二本の飛ぶ斬撃を同時に放つ。斬撃は俺が、魔弾は相棒が発動することで集中力の分散による威力ダウンは発生しない。二つともが本来持つべき威力で放たれる。

 ただ、石でできたその女神は回避する事もなくそれを受け、尚も無傷で直立していた。

 石でできた女神は動き出す。右手を掲げ、その手のひらからは溢れんばかりの灼熱の光が解き放たれる。
 女神の手から赤い光線が放たれた。

 速い、回避できない。防御、いや無理だ。


 あれは魔法じゃない。僕でも止められない。


 相棒の言葉を聞き、即座にシャドウドライブを発動させる。シャドウドライブは魔法だろうが大質量だろうが全てをすり抜けて回避できる技だ。今までこれが破られたことはない。
 そう、今までは……

「くっ!!」

 左肩が赤く滲む。39階層のメデューサからドロップした石眼の魔服は繊維レベルで鉄並みの頑丈さを誇り、29階層のフェニックスからドロップした不死鳥の外装は炎ダメージをほぼ無効化する、はずだ·····
 しかしその装備は意味が無く、そしてシャドウドライブすらも効果を発揮せずその光線は俺の左肩を撃ち抜いた。

「ハイヒール」

 ハイヒールは効果ありだ。肩の傷がみるみるうちにふさがっていく。
 しかし完治するよりも前に石の女神が再び攻撃動作に入った。

 咄嗟に体を捻るが、今度は右膝を撃ち抜かれた。
 その後も何度も攻撃が来るが、発射から着弾までの時間が短すぎて回避がままならない。超加速と先読みの魔眼を併用すれば回避は可能かもしれない。
 しかし、それをしちまう訳にはいかない。未来視の魔眼は再使用までに結構な時間がかかる。それに一撃回避したところでそれだけじゃ結局じり貧で負けちまう。
 それなら攻めの起点にできるように温存しておく方がいい。

 それに俺は相棒を信じている。あいつは間違えねえ、回答がある問題であいつが間違える事はない。特に今みたいに相棒がノッてる時は。


 なあ、そうだろ?

 ああ、次の光線を回避してそのままつっこめ! 最初にお前の攻撃が通らなかった訳は分かった。。


超加速リミットアクセル!! プラス、先読みの魔眼フューチャービジョン!」

 先読みの魔眼の効果時間は30秒。


 アイツのスキル、一の権能は相手のスキルを無効にする効果を持っている。これは僕向けの相手だ、交代しよう。


 少なくとも、俺とこいつは二人で完全な存在となる。だから、俺はこいつの力を俺の力だと認めている。俺は石の女神の目の前で交代する。


 了解。


 僕はあいつを認めている。僕にはできない事をできるからだ。身体が同じなのだから、理論的に考えれば僕にもあいつと同じ動きができるはずだ。しかし、僕にはそれができない。手に入れたばかりのスキルを扱う能力、同時に複数のスキルを連結させ超人的な動きを可能とするマルチタスク。僕だって考える事なら同時にできる、でも動きながら複数の事を考える事はできない。
 そして何よりも、手に入れたばかりのスキルの独自的な使い方と他人の動きを完全にトレースできる解析眼。僕には思いもよらない事を思いつきでやってのける。それを僕は認めている。

 けれど、あいつも僕も一つ共通した認識を持っている。それは二人揃って完全になることができる事だ。

 確かに武力では僕はあいつに及ばない。けれど、魔法の才能においては僕が上。

「お前の能力は他者のスキルを無効化する事。しかしそれは権能と名づけられてはいてもスキルである事は変わりない。スキルは魔力によって発生する肉体能力だ。そして魔力によって発生している時点でその魔力量、魔力性質さえ理解してしまえばそれは未知ではない」

 石の女神は両腕を前に出し、灼熱を発生させる。
 それはただの炎の魔法。自由の女神の持つ松明の力なのだろう。
 ただし一の権能という能力のせいで、防御不能の絶対魔法と化している。

「お前の魔法は絶対なんだろう。けどじゃあさ、もしも絶対の魔法と絶対の魔法がぶつかったら勝敗はどうなるんだろうな?」

 ルールブックに書かれていたスキルの秘密。
 その人物が魔力を消費して行う行動がスキルとなって表記される。
 つまり、その能力の消費魔力、魔力性質、体の動きさえ理解できているなら、それを再現するだけで同じ能力を獲得できるという事だ。

 一の権能。その能力の魔力性質は解析済みだ。
 魔力操作と魔力変質があれば、それと全く同じ性質の魔法を創り出すことができる。

無効化魔法アブソリュートマジック、そして神聖魔法、聖なる加護に属性付与を発動する」

 そしてダメ押しのブレイブオーラ起動。石の女神の灼熱は僕の身体を焦がす事はなく、光線は僕の身体の表面を反射して明後日の方向へ飛んで行った。

 この距離なら僕にも必殺の一撃がある。
 僕が今使える魔法は8種類。風魔法、神聖魔法、影魔法、雷魔法、炎魔法、氷魔法、光魔法。その全ての属性に均等な魔力を割り振り合成させる。そして最後の魔法属性である無効化アブソリュート付与エンチャント

「ザ・ワン」

 白と黒で構成された最強の魔法は、属性に分けた魔力運用ではなく、属性を混合させる事で属性エネルギーの中に存在する破壊の力のみを抽出する。
 そこに存在するのは完全なる消滅。魔力すら残留させることなくこの世界のどこにも存在する事を許さない一撃。僕ですら身体から離れ過ぎると制御しきれない。だからその魔法を掌に発生させて突き出す。超強化された発勁のような物だ。

 僕の魔法が命中した瞬間、石でできた女神の像、自由の女神は光の粒すら残さず消滅した。
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