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創造主の館
しおりを挟む「あの、貴方は何なのですか?」
10の倍数の階層に到達する度に現れる選定妖精のウィンが僕に語り掛けてきた。今までの作業的な恩恵の配布とは違う明確な感情を持って。
「それはこっちのセリフだよ。結局ルールブックとやらにもダンジョンにおける法則が記載されていただけでダンジョンの発生目的や原理は書かれていなかった。別にダンジョンを作ってくれたことが悪いなんて言うつもりはないし、むしろ感謝する事ではあるけれど、興味はあるね。君が何者なのか」
「ええ、50階層まで到達した貴方にはそれを知る権利があります」
妖精は綺麗なお辞儀を見せた。やはりこの妖精だけはダンジョン内の街に住む人形達とは違って自分の意思を持っている。
「50階層到達の褒美は我が主との対談権です。どうぞこちらへ」
50階層には一つの館が建っていた。10、20、30、40階層にある街には幾つもの建物があったが、この階層にはその館しかない。妖精はその館の入り口を指した。
我が主、その言葉に間違いがないのならそこにいるのはこのダンジョンを作った存在なのだろう。
僕は妖精と一緒に館へと歩みを進めた。
客間と言って案内された部屋には一つのソファと大きなモニターが置かれていた。それ以外には装飾と呼べるような物は一切存在しなかった。
対談とは言っても本人と直接面と向かって話せるわけではないようだ。
モニターが光りを宿し、映像を映し出す。そこには豪華そうな椅子に座った女のような影が写しだされいた。部屋が暗いようで、顔はおろか着ている服の色すら分からない。
「50階層到達おめでとう。こんなにも早く冒険者が現れてくれたことを嬉しく思うわ」
女は足を組みなおして笑いかけるような声色で話しかけてくる。謎にエロいのは何故だろうか。
「いいえ、それで僕は何を教えてもらえるんですか?」
「このダンジョンを作った理由と貴方がこれから何をしなければならないかよ」
「じゃあやっぱり、ダンジョンはこれで終わりじゃないってことですか」
「そうよ。というか私は貴方の世界を救ってあげるためにダンジョンを作った正義の科学者でダンジョンは世界を救う為の装置なの」
正義の科学者かどうかは置いといて、彼女の話には非常に興味がある。世界を救うためにダンジョンを作る。今現在のダンジョン内での志望者件数は数万人規模だから普通に考えれば救うどころか人的被害を増やし続けている事になるのだが、しかしダンジョンを作れるような存在が言うのなら真実なのではないかという期待もある。だから、その真意は非常に興味深い。
「私の命を賭けてもいい、この世界は何もしなければ時期に滅ぶわ」
そう言い放った彼女は、暗闇の向こうに居ながらも危機感を感じさせるような表情が伺えた。
「それで、貴方は何者でどんな理由で世界が滅ぶんですか?」
それを聞かずして彼女の言葉を信用する訳にはいかない。
「私は異世界人よ」
彼女の言葉は通常なら衝撃の一言なのだろう。けれど、何故だか彼女のその言葉には世界が滅ぶと言った時ほどの臨場感が無かったような気がした。
だから僕は彼女の言葉を待つ。何も分からないままでは何が正解なのかも分からないからだ。
正しいとか正しくないとか、そんなことに興味はないが、しかしそれでも話を聞かなければ僕がどうしたいかも分からない。
「それで?」
「ダンジョンは異世界へのゲートなのよ」
彼女の説明はこうだった。
向こうの世界には知的生命体は存在せず、この世界に概念だけで存在する異形の怪物が住んでいる。悪魔や天使、神話の神々や伝説の生き物、ファンタジー世界の怪物がそこには存在している。そして、その世界とこの世界が今急速に接近している。このまま行けば世界の境界が曖昧になり、そこら中にモンスターがあふれる世界になるだろう。
だから、それを防ぐためにダンジョンという入り口を設定した。全ては街中に突然モンスターが現れて蹂躙されるという最悪の事態を防ぐため。
しかし、それだけでは世界の接近を遅くさせる事はできても完全になくすことはできない。だからダンジョン50階層に到達した冒険者を異世界に送り、接近を遅らせるために退魔業を行わせる。
異世界と今の世界の接近を遅らせるにはその原因である向こうの世界のキャパシティを制御するしかない。向こうの世界のモンスターが増えれば増える程、容量を求めて向こうの世界はこちらの世界へ近づいてくる。つまり、向こうの世界のモンスターを減らせば減らす程、この世界を異形溢れる世界にしないようにできるのだ。
小さなゲートができる事態は何度かあったが、今は全世界を巻き込んで世界が1つになろうとしている。世界全体に対する最大の危機。
「だから君たち冒険者には向こうの世界へ行って異形を狩る仕事をしてもらいたい。報酬は偉業を倒す事で得られる力と素材として上質な効果を秘める異形が残すアイテムの数々だ」
「それじゃあなんでテメェは異世界人のはずなのに知性があるんだ?」
俺は妖精の方を見ながら問いただす。何か確たる証拠がある訳じゃない。ただ、画面の向こうの女とこの妖精が似ているなと思ってしまった。
妖精と出会ったのはほんの数回だけだ、それも階層到達の報酬を貰う一方的な会話を数回かわしただけ。
だから、確証もないし証拠もない。ただの勘だ。
「何故、私に問いかけるのですか?」
「いや、画面の向こうの女とあんたが妙に似ていると思ってな」
「ですが、私はここにいますよ?」
「ん? おかしな話だぜ。全世界の人間が同時に攻略しているダンジョンの10階層毎に現れる妖精がたった一体の身体で機能するのか?」
「なるほど、どうやらばれてしまったようですね」
やっぱりな。妙な納得感を得ながら俺は妖精を見つめた。アジア系の顔立ちなのに自然な金髪を持つ少女のような見た目を持つ人物。そして七色に輝く羽を持つ妖精。尖った耳はまるで小説で登場するエルフのようで、その服装も妖精の女王であるかのように気品にあふれる物だった。
「なあ、教えてくれよ妖精さん。今の話はどれくらい本当なんだ?」
「全て真実ですよ。まあ、私は異世界人ではなく異世界を発見しただけの科学者に作られた向こうの世界とこっちの世界の住人の醜いキメラでしかありませんが」
「そうか? 俺は美人さんだと思うけどな」
「それはどちらもの素材の形が良かっただけの事だと思います」
「それになんか問題があるのか?」
「ふふ。いいえ、何も問題はありませんよ」
彼女の笑顔は美しかった。
「最初の50階層到達者である貴方に最後の祝福を与えましょう。この階層へ最初に到達した英雄に与えられるのは私の全権利です。私の主となり得る方へは期待半分不安半分でしたが、どうやら期待しても良い方のようです」
「ああ、存分に期待してくれ」
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