戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と器用さでお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

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フランスの戦力

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「私に姫様を傷つけさせないでいただきたい」

 執事服の男が王女にナイフを突きつけ、鋭い眼光を放つ瞳をこちらへ向ける。
 しかし、先ほどの動揺が嘘のようにアーサスさんは汗一つ見せずに沈黙している。その様はまるで事の結末を予見しているかのように。

「ああ、要求を聞くよ。セバス」

「ではまず、持ってきた槍を渡してください」

 アーサスさんが黛さんに目配せすると、黛さんが察するように腰に付けたポーチから一本の旗を取り出した。しかし、その先端はとがっており、確かに槍と言われればそう思える程度には殺傷能力を備えていそうだった。

「ほら、これでいいかい?」

 投げるように槍を転がし、その槍を黒装束の内の一人が拾い上げる。
 その男は魔法陣のを発生させ槍にかざした。数秒の後、何か確認が済んだように槍を執事服の男に手渡した。

「本物です。魔法の反応もありません」

 黒装束の男がそういうと執事服の男がそれを受け取り、王女へ渡した。

 もしも、本当にそれが聖典だったとしてもこちらには聖槍がある。これが互角だとするなら勝敗を分かつのはそれ以外の要因でしょう。ならば、私共にも勝ちの目はあるはず。

 なんて考えているのでしょうか。

 そして、私のその考えは的中したようでセバスさんは動き出す。ナイフを引き王女へ命令する。

「あの女の相手をしなさい」

 王女の焦点の定まっていなかった目が私を捉えた。槍の形が変化する。それは緑色の樹木を彷彿とさせるような槍。
 さて、どんな能力なのでしょうか。生憎私は道具の鑑定を行えるようなスキルは持っていません。だからあの槍がどんな能力を持っているのか分からない。

「王女を殺さずに無力化してほしい。できるかい?」

「了解しました」

 アーサスさんの問いかけに私は了承の意を答える。

 付与術。水の型。風の型。土の型。火の型。
 私は速く、私は早い。
 私は硬く、私は強い。
 雷の型。
 私の時間は加速する。

 王女は槍による刺突を繰り出してくる。その先端には雷がバチバチと音を立てながら光っている。それが四度放たれる。
 私はそれを躱す。触れただけで即死級の電圧を浴びせられる可能性がある。だから弾く事もできない。それを完全な回避を持って避け続ける。雷を認識できる反射神経を得た私の前で、そんな槍の突きは止まって見える。
 水が流れるように、私の身体は必要な動作しか行わず、風がなびくようにその所作に無駄はない。

 見切り、届かないギリギリの回避を行い続ける。

 そして、付与術を用いたディスペルをかけ続ける。
 何度も何度も。外からの解呪だけでは王女に掛かっている洗脳は解除できない。だが、逆に王女が内から破ろうとしていても、内からだけの解放ではその縛りは解けない可能性がある。
 だから、私はその可能性に賭ける。王女が中から私が外から解呪を試みれば成功の兆しも生まれるかもしれない。

 少しづつだが、解呪の効きが良くなっていっているように感じる。

「そのまま一生、人形として生きていくおつもりですか!?」

 少し怒気を孕んだ私の声は確かに王女へ届いたはずだ。
 それを証明するように、どんどん王女の動きが鈍くなっていっている。

「…………んなわけ…………」

「なんですか? 言いたい言葉があるのなら自分の口と言葉で紡ぎなさい」

「そんなわけないでしょう!!」

 彼女が持つ緑色に輝く樹木の槍が更に光を増し彼女を包み込む。
 解呪ディスペル成功。私は確かに彼女の呪いが解けた手ごたえを感じた。
 なるほど、あの槍は状態異常を解除するような代物だったのですか。案外私が思っていたよりも彼女の精神は強く抵抗していたようだった。

 ただし、解呪と同時に彼女は倒れるように気絶してしまった。流石に一週間も誘拐されていればそんな物か。
 戦闘が終わった事を確認し、彼女を戦闘域から離れた場所へ寝かしなおすとアーサスさんの方に目をやった。

「薫、僕を守れ!」

「畏まりました」

 黛さんがアーサスさんとセバスさんの間に割り込む。セバスさんのスキルが発動し、紫色の光が黛さんに直撃した。
 しかし黛さんに異常が現れる様子はなく、ピンピンしている。その後も黒装束の男たちの魔法攻撃も無傷で耐えている。
 アーサスさんは腰から一丁の拳銃を取り出した。まさか、そんなもので抵抗できるというのか。

 セバスさんや、その仲間の黒装束の男たちは紛いなりにも49階層へ到達するほどの強者だ。銃弾でもダメージは通るかもしれないが、一撃で殺すには無理がある。
 弱点である喉や頭に当たったとしても一発程度ならその肉だけで止められてしまう可能性は十分にある。
 レベルアップを繰り返せば人間はそれほどまでに強固になってしまう。

 全く同じ個所に同時に二発でも当てない限り、今までの銃の使用方法では勝利は難しい……「パン、パン」……はず。
 乾いた音が二発聞こえた。そして黒装束の男の内の一人が倒れこむ。
 その男は右足の太腿から血を流している。どうやらその傷は貫通しているようで、ステータスがどれだけ強化されていたとしても足に穴が開けば立つ事は困難になる。

「まずは一人」

 そういうと、倒れこんだ一人の両腕両足に銃弾を撃ち込んだ。撃ち込んだ弾丸の数は最初の二発を合わせて8発。だが、男が出血している箇所は4か所。
 結論は二つに一つだ。アーサスさんの銃弾の二分の一が明後日の方向へ飛んで行った場合。そしてもう一つの可能性、寸分違わず同じ場所へ二発当てた可能性。
 いや、男の近くに銃痕は見当たらない。ならば後者が正しいのだろう。

「ケイオス、何人まかせてもいい?」

「全員任せてもいい」

 そういうと少年と呼べる容姿だったはずのケイオス君の身体が突如として肥大化した。
 右腕は蟹のハサミを巨大化させたような姿。頭にはサイの角のような立派な角が生えている。左腕はゴリラの腕のように筋肉質になり黒い毛が覆っている。
 下半身は四足方向へと変化し、その足は馬のように見える。衣服も破れさり、最低限残された布は腰巻のように彼に装着されている。

 私は今更ながら彼らのスキルを鑑定する。驚くべき事に彼らは三人ともレベル10未満だった。おかしい、49階層での敵は殆どすべて徹君が倒していた。しかし、それでも同行していた彼等のレベルも上がるはずだ。そう10レベル程度までは。
 私の考えを信じるならば、彼らはこのダンジョンに入るまでレベルは0だったのではないだろうか。それを証明するように、彼らの全てのスキルのレベルは2以下だった。ダンジョン内で一度も戦闘していないのならスキルレベルがその程度でも当たり前だ。

 そして三人が三人ともユニークスキルを持っていた。
 黛薫 【絶対守護者オールガードナー
 ケイオス・リクル 【弱肉強食プレデター
 アーサス・ペンディアス 【超演算ジーニアス

 通常スキルにはレベルは高くない者の、武術系や魔法系のスキルを幾つか持っていた。

 ケイオス君が巨大化した腕で敵を吹き飛ばしていく。一撃で壁まで吹き飛ばされた男たちは背中をダンジョンの壁に打ち付け気絶してしまった。

 もう残っているのは執事服の男、セバスさんだけだった。

「セバス、君は僕達の事を侮りすぎている。これでも僕は騎士団長だしこの二人もそれに次ぐ実力を持つ隊長だ。君では勝てない」

「それはどうでしょうか。いえ、確かに姫様を失ってしまった今、私共の作戦は失敗に終わってしまっている。しかし、我が王はそれすら見越しておられた」

 セバスさんの身体が隆起している。まるでその筋肉が肥大化していくように。ケイオス君のように身体の形その物が変化しているという訳ではなく、人間と言う存在の格を持ったまま強制的に強化されて行っているかのような。

「我が王はわたくしに三つの力を授けてくださいました。一つは【天道】、対象を支配下に置く能力。もう一つは【修羅道】、自身の肉体能力を飛躍的に向上させるスキル。そして最後に【人間道】、自身の魔力量を飛躍的に向上させるスキルです」

 彼の言っている事は嘘ではない。私の魔力感知はそれを感じ取っていた。今、セバスさんの魔力量は徹さんを越えている。まさか身体能力まで徹くん以上という訳ではないと願うばかりですね。

 そして気になる事が二つ増えました。一つは与えられたという言葉。それを信じるとするのならば、あの人の王は他者へスキルを渡す事ができるという事になる。スキルスクロールを貰ったという意味ならそれでいいのですが、どうしても気になる言葉です。
 そしてもう一つは、フランス語で喋っていたはずの彼の口から、何故かスキルの名称だけは日本語で聞こえた事。
 まさか、その王と言うのは日本人だとでも言うのですか。

「セバス……」

「遅い!」

「っ!」


 アーサスさんの言葉を最後まで聞く事なく、セバスさんは移動した。走ったという認識で間違いないのだろうか、私が瞬きした一瞬で黛さんの前まで移動し、その腹に拳を突き刺していた。
 今まで、どんな精神攻撃も魔法攻撃も無効化していた黛さんがダメージを受けている。まさか物理攻撃には耐性がないというのか。いや、黛さんのユニークスキルはそんな物ではない気がする。理由を考えるなら、それでも黛さんのダメージは少ないからだ。魔力も身体能力も徹さんに並ぶとするなら、常人なら壁に埋まるような勢いで吹き飛んでもおかしくない。それを、数m後ずさって耐えているのだ。それは異常な防御能力だと言える。

 ただし、黛さんが蹲るよりも早くセバスさんは次の動作へ移った。黛さんを蹴り飛ばし、ケイオス君へ一瞬で接近し、殴りつける。咄嗟に反応したケイオス君は蟹ばさみでそれを防ぐが、蟹ばさみはバラバラに砕け散り、ケイオス君自身も吹き飛んだ。

「これは少し、まずいな……」

 アーサスさんの澄ました顔が焦りを浮かべていた。
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