戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と器用さでお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

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最終試練

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『ラストステップ開始』

 その言葉と同時に、僕の意識はその場所から喪失する。

 そこは一言で表すのであれば、道場と呼ぶことのできる場所だった。床は一面畳みで、数十人を同時に稽古するだけの広さを持った空間。
 僕の記憶の中にその景色と合致する場所は一つしかなかった。

 更に言えば、そこには二人の人物が居た。
 一人は男。この道場の主が自分であると知っているかのように、一番奥の位置に真剣を携え座っている。
 もう一人は女。この空間に似つかわしくない部分は上げればキリが無いが、金色に輝くロングヘアーと、とても人間的とは言えない尖った耳。

「どうして僕の住んでいた道場にお前が現れる、ウィン」

「マイマスター、これはダンジョン探索における最終試練です。ここがこんな場所なのは、貴方の試練にこの場所が選ばれたから。そして私がここに居るのは、貴方のサポートを行い、貴方に試練をクリアして頂くためです」

 僕は、ある道場の経営をする父親を持っていた。父は母と結婚しても仲睦ましく暮らしていた。結婚して数年で僕が生まれた。僕が生まれてからも両親は仲良し夫婦だった。
 そして、約8年前に両親は死んだ。それは事故で、誰も悪くないようなそんな死に方だった。

 父の道場を売り払えば、僕が生きていけるくらいのお金にはなって、僕はこれまでアルバイトもする事なく暮らしてこれた。
 ここは間違いなくその道場だ。

 そしてあそこに座っているのは間違いなく……

 考えるが先か、その男は自身の刀に手をかけ、立ち上がる。立ち上がりのエネルギーを利用し、一気に加速。その剣は間違いなく僕の、『俺』の首を狙っている。

「ッチ!」

 飛びのいて後方へ回避。しかし、即座に振るわれた二撃目はまたも俺の首へ寸分の狂いなく振るわれる。
 正確無比、連撃剣。その型は間違いなく、親父の剣。道場で教える事はなく、もっと大きくなった時に俺に教えてくれると約束してくれていたあの剣だった。

 二撃目を避けても即座に振るわれる三撃目。反撃の隙はこれっぽっちも存在しない。後ろに避けても、左右に避けても、この空間の広さは固定されている。
 案外早くその時はやってくる。背中が道場の壁にぶつかった。避ける方向が無い。
 俺は勢いよく、身を屈める。頭の数ミリ上を刀が通過する。しかし、親父の視線は俺を離してはくれない。無駄のない動作で足ばらいが行われ、俺は重力に従って転ぶしかない。

「シャドウドライブ!」

 これまでで初めて、死の恐怖を回避するために振るったスキルは、俺の願いにこたえる事はなく、体になんの変化も起こすことなく、俺に真剣が振り下ろされる場面を目撃する事しかできなかった。


 俺は死んだ。



「いいえ。マイマスター、貴方は死にません」

「っっは!」

 起き上がるとウィンの顔が目の前にあった。その奥には揺ら揺らと光の灯らない目を向ける親父の姿があった。

「ご説明いたします。この世界ではスキルを発動する事はできません。貴方はスキルの力に頼ることなく、あの試練を攻略しなければならない。そしてこの世界に試練のリタイアは可能ですが、失敗はありません。貴方は死ぬたびに復活する。さあマイマスター、あの試練に打ち勝つことが向こうの世界へ行くための鍵ですよ」

 感情を写すことのない表情でウィンは俺にそんな言葉を吐いてくる。
 言葉を理解するのに時間はかからなかった。別に、難しい話じゃない。それにこれは俺の願いを叶えるための物だ。
 俺は知りたかった。親父のあの剣を。
 ずっと、何年も分からなかったのだ。どれだけの道場の門をたたいても、どれだけの武術を知っても。
 それは全て、遠い日に見た親父には遠く及ばない剣だらけだった。

「俺は、俺の持てる全てを使って親父に打ち勝てばいいって事だ」

「yes」

 先手を取られれば、流れを取り返す事は難しい。ならば、こちらが先手を取るしかない。

 俺の剣は愛用していた二本の短剣。それは宿った力は失われているようだが、形状は全く一緒だった。
 そもそも、こっちは二本で相手は一刀。なら、取り返せないのは相手とて同じ。

 その光の灯っていない瞳から会話ができる訳ではないと思う。それに、俺は会話なんて必要としていない。
 そこにあるのは、知りたい、そして倒したいという二つの欲求のみ。

 右手に持つ刃を左へ振りぬくと同時に、もう一方の短剣を回転させて持ち変える。振りぬくエネルギーを利用して回転し、左に持った短剣は振りぬく。
 右側が迫る二本の短剣を一刀目は首から上を引いて回避。大振りな二振り目はギリギリを見切って最小のバックステップで回避する。
 だが、それくらいの芸当ができる事は知っている。

 振りぬき終わる前に左手に持つ短剣の握る力を弱め、投擲する。
 キンと、金属同士の接触音が室内に響いた。俺の投げた短剣はその道着にすら触れることなく刀で打ち払われていた。

「クソが」

 呟いたのと、俺が斬られるのは同時だった。

 『僕』は倒れていた身体を起こす。間違いなく斬られたというのに、僕の身体どころか服にすら一切の傷は無かった。
 短剣は手元に戻っており、僕はそれを力強く握る。

 さっきの戦闘で、あの人がやっている事は理解できた。
 防御に関して、あの人は間違えない。ただ相手の攻撃に対して完全な回答を返しているだけ。そしてあの剣は、間違えない限り負けないようにできている。
 そして攻めてに転じた瞬間に、相手に一切の反撃を許さない連撃に変わる。一刀目は二刀目の為に、二刀目は三刀目の為に。それが始まれば相対する相手がそれを覆す隙間は存在しない。

 相手を見る。一つ一つ隙間を探す。切り返せるように、姿勢を捕らえ次の動作を予測し、相手の行動の先の先を考え身体を動かす。
 僕には未来予知なんてできない。武術の達人のような動きもスキルがあるからできるもので、今の僕にはそれも出来ない。大きく見積もっても『そこそこ』止まり。僕は結局一番になる才能は無い。

 だから見るのだ。相手を真似る。そうすることで、一番の人間と限りなく同じことができるようになっていく。
 僕はそれを知っている。僕はずっと、『あいつ』みたいになりたかった。
 自らの力で新しい物を作り出してしまうような、絶対的な天才に。

 けど、最近解って来た事がある。僕は『あいつ』にはなれない。僕がそう思うように、あいつも僕が羨ましいと考えているという事。
 あいつが、僕と自分とで完璧な人間になれると信じている事。

 だから、僕には結局目の前のそれを見て、理解して、真似る事しか出来ないのだとしても。それでも、それでいいと最近は思えるんだ。

「だから父さん、僕とアイツが二人で完璧だと証明するために父さんに勝つよ」


 僕の力をお前にあげるよ

 ………………

 なあ、この身体の最初の持ち主はお前なんだから

 …………………………

 僕とお前が1つになれば、本当の意味で何にも負けない人間になることができる。お前も解っているだろ? 僕はお前が、両親を失って1人で生きていくことができなかったから生まれた人格だ。決して、僕が自分のストレスの捌け口としてお前を作った訳じゃない。

 だから、俺に身体を返して消えるっていうのか。

 そうだ。僕の模倣にお前の早熟が合わされば、誰にも負けない最強に至れる。僕はそれでいい。

 ………………………………………
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