38 / 40
最終試練
しおりを挟む『ラストステップ開始』
その言葉と同時に、僕の意識はその場所から喪失する。
そこは一言で表すのであれば、道場と呼ぶことのできる場所だった。床は一面畳みで、数十人を同時に稽古するだけの広さを持った空間。
僕の記憶の中にその景色と合致する場所は一つしかなかった。
更に言えば、そこには二人の人物が居た。
一人は男。この道場の主が自分であると知っているかのように、一番奥の位置に真剣を携え座っている。
もう一人は女。この空間に似つかわしくない部分は上げればキリが無いが、金色に輝くロングヘアーと、とても人間的とは言えない尖った耳。
「どうして僕の住んでいた道場にお前が現れる、ウィン」
「マイマスター、これはダンジョン探索における最終試練です。ここがこんな場所なのは、貴方の試練にこの場所が選ばれたから。そして私がここに居るのは、貴方のサポートを行い、貴方に試練をクリアして頂くためです」
僕は、ある道場の経営をする父親を持っていた。父は母と結婚しても仲睦ましく暮らしていた。結婚して数年で僕が生まれた。僕が生まれてからも両親は仲良し夫婦だった。
そして、約8年前に両親は死んだ。それは事故で、誰も悪くないようなそんな死に方だった。
父の道場を売り払えば、僕が生きていけるくらいのお金にはなって、僕はこれまでアルバイトもする事なく暮らしてこれた。
ここは間違いなくその道場だ。
そしてあそこに座っているのは間違いなく……
考えるが先か、その男は自身の刀に手をかけ、立ち上がる。立ち上がりのエネルギーを利用し、一気に加速。その剣は間違いなく僕の、『俺』の首を狙っている。
「ッチ!」
飛びのいて後方へ回避。しかし、即座に振るわれた二撃目はまたも俺の首へ寸分の狂いなく振るわれる。
正確無比、連撃剣。その型は間違いなく、親父の剣。道場で教える事はなく、もっと大きくなった時に俺に教えてくれると約束してくれていたあの剣だった。
二撃目を避けても即座に振るわれる三撃目。反撃の隙はこれっぽっちも存在しない。後ろに避けても、左右に避けても、この空間の広さは固定されている。
案外早くその時はやってくる。背中が道場の壁にぶつかった。避ける方向が無い。
俺は勢いよく、身を屈める。頭の数ミリ上を刀が通過する。しかし、親父の視線は俺を離してはくれない。無駄のない動作で足ばらいが行われ、俺は重力に従って転ぶしかない。
「シャドウドライブ!」
これまでで初めて、死の恐怖を回避するために振るったスキルは、俺の願いにこたえる事はなく、体になんの変化も起こすことなく、俺に真剣が振り下ろされる場面を目撃する事しかできなかった。
俺は死んだ。
「いいえ。マイマスター、貴方は死にません」
「っっは!」
起き上がるとウィンの顔が目の前にあった。その奥には揺ら揺らと光の灯らない目を向ける親父の姿があった。
「ご説明いたします。この世界ではスキルを発動する事はできません。貴方はスキルの力に頼ることなく、あの試練を攻略しなければならない。そしてこの世界に試練のリタイアは可能ですが、失敗はありません。貴方は死ぬたびに復活する。さあマイマスター、あの試練に打ち勝つことが向こうの世界へ行くための鍵ですよ」
感情を写すことのない表情でウィンは俺にそんな言葉を吐いてくる。
言葉を理解するのに時間はかからなかった。別に、難しい話じゃない。それにこれは俺の願いを叶えるための物だ。
俺は知りたかった。親父のあの剣を。
ずっと、何年も分からなかったのだ。どれだけの道場の門をたたいても、どれだけの武術を知っても。
それは全て、遠い日に見た親父には遠く及ばない剣だらけだった。
「俺は、俺の持てる全てを使って親父に打ち勝てばいいって事だ」
「yes」
先手を取られれば、流れを取り返す事は難しい。ならば、こちらが先手を取るしかない。
俺の剣は愛用していた二本の短剣。それは宿った力は失われているようだが、形状は全く一緒だった。
そもそも、こっちは二本で相手は一刀。なら、取り返せないのは相手とて同じ。
その光の灯っていない瞳から会話ができる訳ではないと思う。それに、俺は会話なんて必要としていない。
そこにあるのは、知りたい、そして倒したいという二つの欲求のみ。
右手に持つ刃を左へ振りぬくと同時に、もう一方の短剣を回転させて持ち変える。振りぬくエネルギーを利用して回転し、左に持った短剣は振りぬく。
右側が迫る二本の短剣を一刀目は首から上を引いて回避。大振りな二振り目はギリギリを見切って最小のバックステップで回避する。
だが、それくらいの芸当ができる事は知っている。
振りぬき終わる前に左手に持つ短剣の握る力を弱め、投擲する。
キンと、金属同士の接触音が室内に響いた。俺の投げた短剣はその道着にすら触れることなく刀で打ち払われていた。
「クソが」
呟いたのと、俺が斬られるのは同時だった。
『僕』は倒れていた身体を起こす。間違いなく斬られたというのに、僕の身体どころか服にすら一切の傷は無かった。
短剣は手元に戻っており、僕はそれを力強く握る。
さっきの戦闘で、あの人がやっている事は理解できた。
防御に関して、あの人は間違えない。ただ相手の攻撃に対して完全な回答を返しているだけ。そしてあの剣は、間違えない限り負けないようにできている。
そして攻めてに転じた瞬間に、相手に一切の反撃を許さない連撃に変わる。一刀目は二刀目の為に、二刀目は三刀目の為に。それが始まれば相対する相手がそれを覆す隙間は存在しない。
相手を見る。一つ一つ隙間を探す。切り返せるように、姿勢を捕らえ次の動作を予測し、相手の行動の先の先を考え身体を動かす。
僕には未来予知なんてできない。武術の達人のような動きもスキルがあるからできるもので、今の僕にはそれも出来ない。大きく見積もっても『そこそこ』止まり。僕は結局一番になる才能は無い。
だから見るのだ。相手を真似る。そうすることで、一番の人間と限りなく同じことができるようになっていく。
僕はそれを知っている。僕はずっと、『あいつ』みたいになりたかった。
自らの力で新しい物を作り出してしまうような、絶対的な天才に。
けど、最近解って来た事がある。僕は『あいつ』にはなれない。僕がそう思うように、あいつも僕が羨ましいと考えているという事。
あいつが、僕と自分とで完璧な人間になれると信じている事。
だから、僕には結局目の前のそれを見て、理解して、真似る事しか出来ないのだとしても。それでも、それでいいと最近は思えるんだ。
「だから父さん、僕とアイツが二人で完璧だと証明するために父さんに勝つよ」
僕の力をお前にあげるよ
………………
なあ、この身体の最初の持ち主はお前なんだから
…………………………
僕とお前が1つになれば、本当の意味で何にも負けない人間になることができる。お前も解っているだろ? 僕はお前が、両親を失って1人で生きていくことができなかったから生まれた人格だ。決して、僕が自分のストレスの捌け口としてお前を作った訳じゃない。
だから、俺に身体を返して消えるっていうのか。
そうだ。僕の模倣にお前の早熟が合わされば、誰にも負けない最強に至れる。僕はそれでいい。
………………………………………
0
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる