僕と彼女のレンタル家族

suzudeer

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第16話 「求めるモノ」

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 部屋の奥から、聞き慣れた女性の声が聞こえる。緊張感が高まると同時に、不快感も在過とうかを襲った。玄関まで出迎えてくれる神鳴かんな。その後ろの部屋に、頭だけ覗かせ、こちらを見ていた神鳴の母親――雷華らいか

「お義母さん……、来てるの?」
「うん。たまたま家の近くに用事があって、お惣菜買ってきてくれたよ!」

「そうなんだ」

 在過は奥の部屋まで行くと、軽く会釈をして「ありがとうございます」と一言伝える。しかし、雷華の表情は真顔。娘の前では微笑んでいたが、在過と視線を合わせると表情が消える。

「喧嘩しないで、仲良く食べるのよ」

「大丈夫だよ、ママ」

「それと。在過君? これは、妹さんに渡してくれるかな」

「え、妹にですか?」

「病気で大変なんでしょ? たまたま見つけてね、気に入ってくれると思うのだけど。応援のメッセージカードも入ってるから、喜んでくれるかしら」

「ありがとうございます。ちなみに、何が入ってるんでしょうか」

「妹さんと、二人で開けてからのお楽しみで。神鳴も好きなモノだから、ここで開けちゃうと奪われちゃうよ」

「ちょっと! さすがに神鳴も、奪ったりしないよ! でも、すごく気になる」

「ほらみなさい。神鳴の分は、今度買ってきてあげるから」

 プレゼント用のラッピングがされている、正方形の箱。手に持つ感触は軽く、在過はお菓子的な物かと考えた。また、嫌われていると思っていた雷華から、妹に対しての贈り物を貰ったことで、すこし嬉しい気持ちにもなっていた。

「本当、ありがとうございます」

「いいのいいの。それじゃぁ。神鳴、私は帰るね」

「うん、お惣菜ありがとね」

 玄関まで見送ると、在過は先に風呂場に向かいシャワーを浴びる。せっかく頂いた品物だ。早番帯の時に、妹に届けに行こうと考えていた。

「明後日は早番だから、妹に渡してくるよ」
「うん。神鳴も行く」

「ですよねぇ」
「なに? 妹に会うの嘘なの? もしかして、妹に会う口実で、別の女の子と会うの!」

「いや、ついてくるのは良いんだけど。まだ、家族のみしか面会できないんだ」
「あぁ、そっか。なら、近くで待ってる」

「わかった、それでいいなら行くか」
「そのあと、カラオケ行きたい!」

「ほんと、カラオケ好きだよな」
「毎日でも行ける」

 二人は、雷華が持って来てくれたお惣菜を食べながら過ごし、いつものようにゲームをして遊ぶ。その間に、在過の携帯にメールが届く為、ゲーム最中ではあったが返信などをしていると。

「ねぇ、いま神鳴と遊んでるの! さっきから誰とメールしてるのっ!」
「あぁ、ごめん。前職の人とか、学友とか」

「……もういい! 寝る」
「怒るなよ」

 不貞腐れてしまった神鳴は、ベットにうつ伏せになる。テーブルのお惣菜のゴミや、テレビとゲームの電源を切った在過は、電気スタンドの明かりをつける。うつ伏せに眠っている神鳴に対して、覆いかぶさるように抱きしめる。

 右側から「ごめんね、お前だけが好きなんだ」と囁いた。在過は、今までの経験から何を言えば効果的なのか把握している。予想通りに事が進み、神鳴から「もっと言って」と声が漏れ出している。

 強く抱きしめながら、何度も気持ちを伝える。満足してくれたのか、神鳴は体を仰向けにすると、その表情は顔を真っ赤にして泣いていた。

「もぉ、すぐ泣くんだから。神鳴ちゃんは、まだまだ子供ですねぇ」
「子供じゃないもん。在君が構ってくれないから、神鳴は悪くないもん」

 流れ出す涙を拭い、深い口づけをする。
 数秒……数十秒と長い時間、好きな人と触れ合う感触。苦しそうな鼻息と、少し唇が離れた時に聞こえる荒い吐息。収まらない欲求が、行動に現れる。なんども唇を重ね合わせ、ゆっくりと舌を絡め合わせる。

「んぅ……あぅ、んっ」

 神鳴から漏れ出す声が、より在過の気持ちを掻き立てる。雰囲気に飲まれ、神鳴は在過の右手を自分の胸に押し当てる。お互い言葉を交わさないが、やさしく愛撫し、ときには力強く。

 そっと顔をあげると、糸を引くように神鳴の唇から唾液が視界に入る。お互い肩で呼吸をするように、虚ろな瞳をしている神鳴に吸い込まれるように、在過は首筋を噛む。

「もっと強くしてほしい」
「ん」

 要望通り、在過は少し力を入れて首筋を噛む。先ほどまで、胸に押し当てていた手を下に持って行き、ショーツの中に滑り込ませる。すでにショーツは湿っており、溢れた液が在過の手に絡みつく。ねっとりと温かく、指をゆっくりと中に入れていく。溢れた液が、潤滑剤の役割を果たし、抵抗なく中指は入る。

「大丈夫? 痛くないか?」
「んぅぅっ。んっ、あっんうぅん」

 痛みの確認をするが、神鳴は腰を仰け反らせ――吐息が漏れる。指を奥に入れ、第一関節部分を少しまげて、掻き出すように引く。そのたびに吐息を漏らし、在過の右手が液で溢れる。

「んぅぅぁはあぁぁぁ!」

 何度か繰り返しているうちに、吐息とは違う大きな声で叫び、神鳴は両手を広げて在過を抱きしめた。在過も力を込めて、強く抱きしめ返す。深く吐き出す吐息と、神鳴の汗と混じるボディーソープの香り。

「ん」

 再度、軽い口づけをした。

「はぁ、はぁ……はぁ。もうっダメ、力はいらない」
「ふふ。あれだけ叫べばな」

「――ばか」

 テーブルの上にあるウエットティッシュ神鳴に渡し、在過も自分の手を拭う。

「……その、まだ怖くて。最後まで、できないけど……ごめんね」
「神鳴が好きだから、したい、と言う気持ちはあるけど。焦る必要はないよ」

「うん」

 手を握りながら、お互いの顔をみてクスっと笑う。

 ――幸せな時間。
 ――好きな人と一緒に過ごせる、大切で貴重な時間。

 こんなひと時を、ずっと、ずっと手に入れたかった在過は自然と手に力がこもる。しかし、一度経験した記憶は消えない。在過は、その幸せな時間と同時に、神鳴の背後にいる雷華らいか亜衣あいの存在も気になってしまっている。

 雷華に関しては、わざわざ妹にプレゼントを用意してくれた為、もしかしたら理解してくれたのかもしれない。そんな気持ちも多少芽生えているが、それまで言われている言葉が……在過の脳内に深く記憶されてしまっている。

 ――娘を苦しめた君が、これからも幸せになりませんように。

 在過とて、理解できないわけじゃない。長男の在過は、将来のこと考えたときに家族の問題が発生した場合、対処しなくてはいけない。それこそ、介護が必要になったり、金銭面的な問題が発生する可能性が大きいのだ。

 そんな状態の男と付き合っていると知れば、一人娘の親としては不安が残るだろう。ましてや、この数ヶ月間で。理由がどうあれ”娘が泣いている”と言う事実がある。

 彼女らにとって、泣いた理由は重要ではない。泣いていた事実があれば、が被害者なのだ。

 そういった状況が仕上がれば、理由付けはいくらでもできてしまう。また、反論すること自体が許せない状況が、より傷を深めていく。喧嘩はお互いを深めることもできれば、傷を深めることもできてしまう表裏一体。

 在過は、自分の心が神鳴に溺れていくほど、不安要素も蓄積されていく。また、家族の話をしても一緒に居てくれる神鳴の存在が大きく、手放したくないと言う感情も溢れ出す。そんな感情の裏に、もう一人は嫌だ、怖い、寂しい、。と別の気持ちがある事に気づかない。

 体力を奪われ、疲れた神鳴はギュっと在過の手を握りしめたまま寝息を立てている。そんな姿を見つめながら、涙がこぼれる在過。

 妹は自分自身や過去と戦っている。自分の体を痛めつけ、苦しんでいる。本来なら、友達と遊んだり、彼氏ができたりと楽しめたはずだ。介護職に就職し、心理学や精神疾患に関する書籍を読み漁った。

 だが、知識を得ても何もできなかった。話を聞いてあげることしかできず、次第には……「死にたい」と言われ続ける在過自身が壊れ、妹の存在を疎く思う事もあった。

「……いいんだろうか」

 幾度と考えてしまう”自分だけ楽しく暮らしていいのだろうか?”と。

 ゆっくりと意識が遠くなり、在過は夢の中に入る。

「……」

 寝息を立てた在過を確認した神鳴は、寝たフリをやめるとベットから降りる。枕元に置いてる在過の携帯を手に持つと、在過の人差し指を携帯に押し当て、指紋認証ロックを解除した。

「……」
 
 携帯の通話履歴を確認すると、妹と神鳴の表示画面。その合間合間に、職場と表示されているが、どうやら女の子と通話はしていないらしい。しかし、安心ができなかった。

 今度は、通話アプリを起動させる。メッセージ一覧のトップは、神鳴が表示されており、それを見た神鳴の頬が緩む。だが、そのあとに続く履歴が許せなかった。

 妹やノウたりんとのやり取りは、神鳴の中で許容範囲になっていたが、それ以外のやり取りしている表示名に女性がいる。上から順番に名前をタップして、メール内容を確認していく。

 その内容は、仕事関係の人もいれば、飲みに行く約束の話をしている人物もいた。私には絵文字やスタンプを使ってくれないのに、どうしてこの人にはスタンプを送るんだろう。そんな不信感が、神鳴の行動を活性化させる。

 メール画面右上部のメニューバーから、”削除"と言う項目を押す。画面中央部分に「このトークアカウントは削除されます」と表示されている。一度削除してしまうと、相手のアカウントIDを登録しないと二度と連絡ができなくなるのだ。

「……」

 神鳴は、躊躇なく”OK”の文字に触れた。正常に削除されました、と表示され神鳴の表情は微笑む。その瞬間に、寝返りでこちらを向いた在過に驚き、携帯をスリープモードにする。

 そっとベットに戻り、在過の手をギュっと握りしめた。

「神鳴だけでいいもん」
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