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本物の安土城
しおりを挟む絶対に逃げ出さない事を誓約させられ、手首を縄で硬く縛られた美琴は、外に出て声も出ないほどの驚きを体験した。
見上げたその場所に、安土城がそびえ立っていたのだ。
「安土城だ」
光秀の声には、自分が造り上げたのだと言わんばかりの自負が滲み出ている。
「うそ……」
「美琴、と言ったな。どこの者かわからぬが、正真正銘、あれが信長様のお造りになった安土城だ。今日の地揺れで、お前は降って湧いた様に天守に姿を現した。そして気を失っていたのだ」
「覚えているか?」と恒興に問われ、畳と着物の裾から出た足、それに金属が重なり合うような音がしていたのを思い出した。
(もしかしたら、その場で斬られていたかもしれない)
あれが安土城の天守内だったとは。
美琴は辺りを見回し、景色を確かめた。
街灯のない夜の森は、虫の声と葉のざわめきだけに囲まれて、他には何も見えない。
(本当に、明智光秀と池田恒興なの……?)
頭の中がかなりパニックだ。目の前に、灰燼と化したはずの安土城がそびえ立ち、歴史上の人物が二人も現れたのだ。
驚きなのか興奮なのか絶望なのかわからないが、とにかく混乱する頭をどうにか冷静に保とうと必死になった。
恐る恐る光秀の方を見上げると、温度を感じさせない視線を注がれているのがいたたまれない。だが、この人が信長を殺した首謀者だと思うと、今度は急に怒りが湧いてきた。
光秀さえいなければ。
本能寺の変など起こさなければ。
信長を殺さなければよかったのに。
戦国時代というのは、下克上が常であったかも知れない。それでも、乱世の革命児を葬り去る事はしないで欲しかった。
信長ファンとして、光秀の陰謀をなんとか止められないだろうか。
「光秀、様……」
掴みかかり詰問したい気持ちをなんとか堪え、出来るだけ丁寧に言葉を紡ぐ。
「信長様を、どうか、裏切らないでください。お願いします!」
突然何を言い出すのかと勘繰られる不安は、杞憂に終わった。
「……無論だ」
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