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牢で迎えた朝
しおりを挟む「こら、起きなさい」
牢の床に丸くなって眠る美琴を、恒興が優しく揺り動かす。
「んー……まだ……」
寝ぼけているのか、美琴はすぐに目を開けようとしない。
「話を聞きに来たのだ。起きてもらわねば困るだろう?」
牢に閉じ込めている相手に対して彼は随分と甘く、まるで妹の世話を焼く優しき兄のようだ。腰に手を当てため息を吐いたが、危機感のない美琴に手を焼いているという程度で、眼差しは優しい。
「……ん……? わっ!」
目を開けた瞬間美琴の視界に飛び込んで来たのは、光秀の切れ上がった瞳だった。
恒興が困り果てている横で、美琴の傍に膝をついてじっと顔を覗き込んでいたのだ。
驚きに大声を発した美琴だが、光秀は一切動じていない。それどころか、至近距離で見つめる光秀の口元には、意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
驚くとか慌てるとか、そういった所が全く想像できないタイプだ。
「これ、かように大きな声を出すものではないぞ」
恒興はやはり兄のように嗜めるのみで、武将というには優しすぎる感がある。
寝ていた筵の上に座り直すと、乱れた髪を恒興が手で整えてくれた。
「髪が乱れているぞ」
「あ、ありがとうございます」
恒興は世話焼き体質なのだろうか。
光秀は二人のやりとりに鋭い視線を送るが、当人たちは微塵も気づかないようだ。
「水を差すようで悪いが、昨夜の話の続きを聞かせてもらうぞ」
光秀の冷たい声音が、牢の中であったという現実を美琴に思い出させた。
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