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手ぬるい尋問

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 それから美琴は、四百年以上も後の日本で安土城跡を見学しに来たこと。天守跡にいたら地震が起きて気を失ったらしいこと。気がついたらここにいたことを出来るだけ落ち着いて話した。


 光秀は美琴が何を話してもさして驚く様子はなく、恒興はいちいち驚いたり納得したりと、全く対照的な反応を示した。


 話しているうちに頭の中が整理されてきて、美琴はある可能性に辿り着く。


「タイムスリップ、なのかな……」


 恒興も、美琴の現れ方を「降って湧いた」と言っていたし、この二人がタチの悪いコスプレ武将ごっこをしている訳でもないとなると、やはりそれ以外に見当がつかない。


「どういう事だ」

 光秀が声を発すると、空気が冷たくなるように感じる。鋭い目つきに冷たく低い声。威圧感が半端ない。


「えっと、時間とか空間を超えて移動した、って事かなと……」

「……神隠しか」


 光秀が呟く。

 ただ腕を組んでいるだけであるのに、絵に描いたような美しさがあり、信長贔屓の美琴にはそれが嫌味に思えた。


「神隠しと言えば、幼子が遭うものと思うておりました。まさかこのような女子が神隠しとは……」
 
 恒興は心底驚いた様子で、ぽかんと口を開けている。


「俺には幼子同様に見えるが……」


 皮肉な笑みを浮かべる光秀に、美琴はカチンときて頰を膨らませた。

 白い頰が膨らんで、小さな唇がより小さく見えるのが、美琴の幼さを余計に強調させている。

(幼子同様って、酷い!)

 だが言い返せるほど大人っぽい外見でもなければ、中身も同じようなものだ。

 肩までの髪は黒いストレートだが、それに釣り合わない大きくて丸い瞳に小さな唇が、二十三歳という年齢にしては美琴を幼く見せているのは事実だった。

 中身に関しても同じで、特筆できるような特技も資格もなく、どんな相手にも即座に合わせて会話を楽しめるような術も持ち合わせていなかった。


 気にしている事を言い当てられて、ますます光秀という男が嫌いになる。

 隣で笑い声をあげる恒興にまで腹が立った。

「恒興さん、笑いすぎですよ!」

「すまんすまん」と言いながらも、恒興の笑いはなかなか収まらない。

 しかしタイムスリップと考えれば、昨夜見た安土城や目の前にいる二人の武将の存在にも納得がいく。

 なぜそうなってしまったのかは、美琴の頭で考えても解りそうにない。考えても答えのわからない悩みに時間を費やすのは無駄の極みだと、常々思っている。

 この有り得ない現状を受け止めるしか、美琴に出来そうな事はないのだ。

 とにかく、少しでも光秀に不穏なものを見つけたら、全力で阻止しよう。
 そう決意し、美琴は光秀の顔をじっと睨んだ。
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