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美琴の日常
しおりを挟む用意された食事に箸をつけた美琴は、あまりにも薄い味噌汁に眉を顰める。
(やっぱり、まずい……)
光秀の館に来てからというもの、出される味噌汁の味のなさにうんざりしていた。
湯の中にわずかな野菜が漂っているだけの椀を手に、疑問を感じながらも口へ運ぶ。
(この館ではこれが普通、とか?)
それを確かめる術はないが、文句を言っても始まらない。他人にやってもらっているのだから、一人暮らしの生活と比べたらとんでもなく贅沢なことなのだ。
それに、食べる物があり、住む部屋があるだけマシだ。牢に入れられていた時の事を思い起こし、自分を励ました。
ここ数日は、光秀にもらった仕事をこなし一日を過ごしていた。
仕事と言っても、光秀のそばで、彼が書き上げた書状を折り畳んだり纏めたり、墨を磨ったり。雑用にもならない程度だが。
それでもやる事があるのは、美琴にとって嬉しい事だった。
会社勤めの毎日では、休みたいと思うことの方が多かったが、ここへ来て暇を持て余している事に辟易してきたところだ。
こうして光秀の近くにいれば、自然と悪行も監視できる。監視といっても具体的なアイデアもなく、光秀の様子を時折見つめているだけなのだが。
光秀はと言うと、日々淡々と書状を読み書きし、時に家臣へ指示を出し、信長のところへ通い、と至極真面目に将としての実務をこなしているように思える。信長に対しての翻意を見抜いてやろうと意気込んでいたものの、そんな様子は微塵も見てとれなかった。
光秀に教えられた通り、ゆっくりと静かに墨を磨る美琴は、不意にかけられた言葉に少し慌ててしまった。
「遅くなったが昼餉にする。お前の分も、ここへ運ばせよう」
「あ、はい」
急に昼食を共にすることになったが、書状の量が多かった今日は、時短のためにそうするのだろうと解釈した。
いつもならば一旦自室に戻り、食事をすませてから再び仕事に取り掛かっている。今日はそうする暇も惜しいほどに、折り畳む書状も、磨る墨の量も多い。
今では墨を磨るのにも慣れてきて、ゆっくりと溶け出す黒い液体を見るのや、磨る時の音を聞くのも気持ちが凪いで好きな時間となりつつある。
何が書かれているのか読み解くのは難しいが、光秀の整った綺麗な文字を眺めていると、妙に心が落ち着くような気がして、美琴はこの作業が好きだった。
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