光秀の甘やかな策略〜堕ちたのは戦国武将の腕の中

今雪みく

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決闘

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(どうしよう……)

 月明かりの照らす草地で向かい合う二人の姿に、為す術もなく美琴はただ立ち尽くしていた。

 とんでもない事になった原因がまさか自分にあるなどとは考えたくもなかったが、目の前の状況から逃れる事も叶わず、美琴は胸の前で手を握りしめる。


「信長様……かような刻限にかような場所でお話とは、よほど他の者に聞かれてはならない重要な案件と察しますが、一体、どのようなお話やら」

 光秀の冗談めかした物言いに、信長は双眸をぎらつかせる。

「戯けるな……お前は賢い。そのお前が俺に仕え、横暴に耐えるのはなぜだ。お前が、天下を取ろうと、企んでいるからではないのか」

 勘違いだ、と美琴は思った。

 だが光秀は、否定も肯定もしない。

 信長に天下を治めてもらうためのあらゆる手立てを尽くし、その為ならば何でもする、と言っていた光秀の言葉が嘘だったとは思いたくない。

 けれど光秀の本意は彼にしかわかるはずもない。確かめたわけでもない美琴が口を挟んでいい話ではなく、何も出来ない事が歯がゆい。

「それだけではない。お前が美琴を気に入っている事も、委細承知」

(え? そんなの聞いてない)

 確かに身体は重ねた。けれどあれは、信長のものになるための儀式のようなものだと、美琴は思っていた。

「であるとすれば、如何なさると?」

 否定しない光秀に、真実なのだろうかとの思いが湧き上がるが、日頃から揶揄われてばかりだった美琴には、俄かには信じられない。

 当惑する美琴をよそに二人は睨み合いを止めようとせず、腰の刀をすらりと抜いた信長は、光秀にその切先を向けた。


「光秀……お前を、斬る」

「二人ともっ、やめてください!」

「……どうあっても、と仰せなら、致し方ございません」

 美琴の叫びは、二人には届かなかった。

「……抜け! 手加減無用だ。俺が敗れたその時は、天下も女も全て、お前にやる」

「…………御意」

 ゆっくりと抜いた刀の柄を、光秀が握り直す。
 信長に向けられた刃先が、月明かりに煌いた。

 二人は睨み合い、間合いを取る。一触即発の状況に、美琴は息を飲んだ。

 天下の安泰を願う二人であったはずなのに、どこかですれ違い戻れないところまで来てしまった事が悔しい。けれども力のある者同士がぶつかり合うのは必然なのかもしれないとの思いに、戸惑いつつも見守ることしかできない。


 先に動いたのは光秀だった。

 信長めがけて走る彼からは、躊躇いなど微塵も感じられない。謀反を企て天下を狙う事こそが本心であったのだと思わせる気迫が、美琴にまで伝わってくる。

 信長が斬られても光秀が斬られても、美琴にとって辛いことであるのには変わりない。人が人を殺し、強者が弱者を支配する乱世の習いとはあまりにもかけ離れた世界で生きて来たのだ。

 ぬくぬくと生きてきた自分の覚悟が、戦国の世を生き抜いてきた彼らとは根本的に違うのだと、目の前に突きつけられる。

 刀身がぶつかり合う。振り降ろされれば棟で弾き返し、弾かれればまた斬りかかる。どちらも退かないのは、両者の力が等しいということなのだろうか。

 緊張と恐怖しか感じていなかった美琴だが、目の前で刀を閃かせ合う二人の姿に一瞬見惚れて、神聖な儀式でも見ているかのような錯覚を覚えた。

 均衡を保っているかと思われた二人だったが、次第に光秀が後ずさり、信長が主導権を握り前進していく。

(光秀様!)

 危ない、と感じた瞬間、次々に繰り出される刃を辛うじて受ける光秀の前に、美琴は駆け出していた。

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