全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン

文字の大きさ
59 / 67

58. 王妃の告白①

しおりを挟む
 

 王宮の療養室で一週間ほど私に付けられた侍女から、昼食後に送迎の馬車が用意されることを伝えられた。
  退院日となっている今日、コンスティ家まで送り届けるという手筈になっている。


 ただ私には帰る前にどうしてもお会いしたい人がいた。それはこの事件の首謀者であるミラ王妃。数日前から要望を出していたものが、やっと認められてぎりぎりで許可が得られたという。
 その報告を受けて、私は侍女に目的の場所まで案内をしてもらうことなった。

 長い廊下を渡り、それは外廊下に続いていた。その先ににある小さめの棟が目的地らしい。扉を開けて中に入ると、ひっそりと静まり人の気配さえ感じない。しかし手入れはしっかりされているようで、埃っぽさなどは感じなかった。

 ここは、貴族が罪を犯した際に幽閉される棟であるとのこと。

 初めて訪れる場所に周囲を観察しながら歩いていると、廊下で何かを話している男性が目に入った。


「ライラさん?」
 先に向こうから声を掛けられ、お互いに驚いた顔をする。

「マルクス先生、どうしてここに」
「君こそ、身体はもう大丈夫なのかい?」

 ずっと部屋にこもりきりで元気が有り余っていることを伝えると、安心したように笑った。

「面会が遮断されていて、君への訪問を許可されていなかったから心配していたんだ。ルーク殿下のもとにいるから大丈夫だろうとは思っていたんだけどね」

 そう和やかに話した後、真剣な面持ちになって私に謝罪をした。

「今回の事は、君の担任、そして学園側の人間として謝罪をしたかった。君を危険な目に合わせることになって本当に申し訳ない」
「あ、あの、これは先生方の責任ではありません。説明をすると長くなってしまうのですが……」

 ふと横を見ると、私付きの侍女と先生に付いていた案内人が、空気を読んで後方へと下がっていた。
 午後には家に帰らなくてはならない私はここで長話をしている場合ではない。

「先生がここにいらっしゃるということは、もしかしてミラ王妃にお会いにいらしたのですか?」

 私はどうしても王妃とガチンコ話をしたくてここに来た。もう何も秘密にすることはないのだから、遠慮なく話してみたかったのだ。
 マルクス先生は、元クラスメイトであることと私とルーク様の担任という理由でここを訪れたのだろうか。

「……僕は両陛下と学年が一緒でね、三年間同じ教室で学んだクラスメイトだったんだ。王妃陛下がなぜこんな事態を起こしたのかどうしても理由を知りたかった。先日学園も夏休みに入ったこともあって、こうして訪れたんだ」

 あの事件以降の入院生活は、どこか現実味がなく日々の感覚が失われていたけれど、言われてみればもう夏休みだ。


「それからこれは君に伝えておこうと思う。今年の精霊祭は中止になったよ」
「えっ……」

 私は驚いて声を失う。そして私が再び口を開く前に先生は話を切り上げた。

「君がここにいるのもミラ王妃に話を聞きに来たからだろう? 丁度いい、一緒に行って話をしよう。きっとお互い知らない話もあるはずだ」

 偶然同じ時間に訪れていたマルクス先生と会えたのは、とてもラッキーだったのかもしれない。私も二人の話を聞いてみたかった。





「あら、随分と懐かしい顔がいるわね」

 中に通されると、けだるそうにソファに深くもたれ、透明のグラスをゆらゆらと揺らしている王妃がいた。早い時間からお酒を飲んでいるのだろうか、王妃の顔がやや上気したように少し赤みを帯びている。

 室内はそこまで大きくはないものの、内装はとても豪華でとても罪人用の部屋とは思えない造りだ。
 部屋には王妃付きの侍女二名と、騎士が壁で待機している。彼は護衛兼見張り役といったところだろうか。



「お久しぶりでございます、陛下」
「あなたからそんな呼び方をされるのは慣れないわ、マルクス」
「ミラ……」

 学生時代の彼らの呼び方なのだろうか。
 私が礼をしても王妃はこちらを見ることなく、先生にだけ顔を向けた。


「騒動の顛末は聞いたよ。僕は君と古い友人でもあり、彼女の担任でもある。ずっと君たちのことが気にかかっていた。特にジュリアさんが学園に来た時から……。でも話を聞いて、今も自分の中で整理が出来ないことがある。まず、君がライラさんではなくルーク殿下を……狙ったというのは本当のことなのか?」
「貴方にそれを話して何になるの? そんなこと、もう散々話し尽くしたわ。私を取り調べた騎士団長にでも聞けばいいでしょう」
「僕はまだ信じられずにいる。子供が出来たと知った時は、わざわざ個人的に知らせてくれるほどあんなに喜んでいたじゃないか。あの時、あれほど幸せそうだった君がどうして……」

 意外にも、この二人は個人的なやりとりするほど親しい間柄だったようだ。私の知らない時代の話を、耳を澄まして聞いていた。


「そうね、嬉しかったわ。初めて私のお腹に宿った子だもの。嬉しくないわけがないでしょう」
 王妃はそっと左手をお腹に当てる。

「でも、呪われた子が生まれてしまったのよ、しかたがないでしょう? 国に災いをもたらす子なら、この子を産んだ私が責任を持って消さなければならないの」

 赤らんでいた顔を更に赤くして、王妃は次第に興奮した様に声が大きくなっていった。

「生まれた直後に、事故の振りをして殺そうともしたわ。でもいつか呪いが解けて、私の可愛いルークが帰ってきてくれるかもしれないと思うと、それが出来なかった」

 王妃の口から以前にも聞いた『呪い』の話が出た。あれは私を駒として誘い込む作り話ではなかったということ?
 殺すと言いながら可愛いルークと口にする王妃を、どう捉えていいのかわからなくなる。


「でもそれは間違いだったわ。私のルークはいつまで経っても帰ってこなかった。聖女が決まればあの子は王太子になってしまう。だからそれまでに片を付けなければいけなかったのよ。それなのに――――」

 いきなりこちらに顔を向けられて、憎々し気に睨まれた。

「本当にやってくれたわ。貴女のせいでこの国は終わるのよ」

「ちょっと待ってくれ、ミラ」
 慌てたようにマルクス先生が間に割って入る。

「呪いとはなんだ? ライラさんはミラからこの話を聞いたことがあるのかい?」

 私は頷くと、精霊殿巡拝の後に誘われたお茶会でそんな話をされたことがあることを手短に話した。

「ミラ、まさか……イリーナに何か言われたのか?」
 
 イリーナ。この名前は知っている。マルクス先生が王妃の同級生だと知った時に、当時の聖女候補生のことを調べようとしたことがあった。その時にセシリアとイリーナという名前があったことを憶えている。けれど王妃以外の情報は記録に残されておらず、それ以上知ることは出来なかった。

『マル先生はね、昔好きな人を亡くした過去があるんだよ』

 今ではもう、懐かしく感じる友人の話。そのイリーナさんという人が、先生の想い人ということだろうか。


「あら、貴方は知らないのね。あの時はすぐに箝口令が敷かれたから当然かもしれないけれど、あれだけ親しかったあなたまで知らないとは思わなかったわ。あなたのお父様に訊ねてみたら?」

 そう言ってゆらゆら揺らしていたグラスをテーブルに置いた。

「あの子ね、臨月だった私にわざわざ会いにきたのよ。お祝いしたいからという理由でね。私は元クラスメイトのよしみで受け入れたわ。
 ……ここまで話せばマルクスも予想がつくかしら。彼女、私の前にやってきて自分の胸をナイフで突き立てたの。私の目の前で自殺を試みたのよ」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...