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覚醒
20.中ボス戦2
しおりを挟む「さ、再生!?」
エリアスを驚かせたのは目の前に五体満足で迫ってくるキングオークでも無ければ、再生を目の前の相手が持っているという事実でもない。
振るわれる腕を避けながらも考える。
どうやらこのオークにはなぜだか魔力が備わっていると。
再生のスキルはスライムなどが持っており広く知られているが、それは魔力が尽きるまでの有限の現象である。いくら魔石を壊されまいと魔力が尽きれば再生の限界が訪れ、魔石を残して塵となって消えていく運命にある。
だが前提条件が違う。
再生というスキルは魔力があるから使えるものなのだ。
一般的に探索者で出回っている情報の中のオークは魔力を一切持たない。そもそも再生なんてスキルを持つ余地が存在しないはずなのである。
それに対して目の前の相手は……
今正にその失ったはずの腕でエリアスをまた追い詰める。
飛んでくる腕をしゃがみこみで躱し、横向きに薙ぎ払われる腕は魔力の弾丸で弾いて逸らすことにより避けていく。実弾を使うのは、再生を持っていた事実からコストに対してパフォーマンスが見合っていないと考え使用を控える。
それ以上にそんな余裕はない。
何より恐れるのは魔法。
エリアスは相手に魔力があるということを知ってしまったがために迂闊に近づいて魔法が飛んでくる可能性も排除できなくなってしまったのである。
近接戦闘特化だと思っていたオークからゼロ距離魔法を放たれたら避けることはほぼ不可能。
〈収束〉を準備しておくことにしてことに決める。
別に命を差し出してまでの戦闘がしたい訳では無いのだ。
グギャー
一声鳴いたかと思えばキングオークの目の前に魔弾が現れる。それはなんの属性も加わっていないただの魔力の塊であった。
道のものであるために何よりも不気味に思うがエリアスは避けることはしない。
片手を前に突き出してすることは〈収束〉。魔弾の構造をしっかりと読み取る。
どうやらとっても危ないものであったこともそこで知る。
魔弾はエリアスの魔導銃からでも射出は可能だ。
けれども銃の特性を生かし、ほぼ不可視の弾丸をつくるにはどうしても小さな弾丸が必要になる。そのため相手への効果は実弾を使うのとそこまで大きな違いはなく耐性によって使い分けるくらいである。
今回のオークが放った魔弾は魔導銃で射出される弾丸とは規模が違う。人間の頭くらいの大きさのある弾丸が銃弾の速度には劣るが、それの半分以上の速度では飛んでくる。
何がまずいかといえばその大きさと込められた魔力量が比例していないこと。魔弾とはある大きさの魔力の塊を設定し、そこに魔力を注入していく構造をとるものである。
炸裂した時にならないと内包魔力は分からない。
そしてその炸裂した魔力がどうなるのか。
「魔力回路を壊して1日近く魔力を使用不可にするなんてね……」
こんな相手が本当に25階層の中ボス程度の存在なのだろうか?50階層で出てきても驚かないんだけど。そんな愚痴を心の中でこぼすエリアスだがその事は逆手に取ればエリアスにとって何よりも有利な状況であることを示唆している。
手をキングオークに向かって振るう。
連動した〈放出〉が発動され一直線に相手をめがけて驀進していく。
魔弾の早さは弾丸と比べたためか速さが掴みづらかったかもしれないが、人間は視認できるが反射が間に合わない程度の速度は有しているはずだ。
それなのに目の前の敵はそれをギリギリで躱してしまった。
いや、躱しきれてはいなかった。
グギャギャギャギャギャーーーーーー
その左足の指先へと魔弾が着弾していた。
驚異的な速度の回避行動に驚くとともに、しっかりと機動力を奪ったことに安堵するエリアス。
そこでキングオークは驚きの行動に出る。
グギャギャーーーー!!!!!!
自分の運命を察しての悪あがきなのか、最後の意地いうものなのか。動けない自分の体をもはや顧みない攻撃。
魔弾が当たった場所の魔力回路は壊れた。
けれどもその他の場所に残っていた魔力は詰まりまでは流れていくようになっている。
だからそれを壊れた回路に至るまでの間に持てる限りの魔力を顕現させて無数に浮かぶ魔弾を作製した。
そしてエリアスの方向へと飛んでくる魔弾。
それは白黒の世界にある流星群かのようなものであった。
エリアスは素早く銃口を魔弾に合わせ、自らも魔弾を打ち込むことにより弾道をずらし、数発打ち込むことに相殺したり間を縫って避けているかのように全てを躱す。
その時になって初めて思った。
おかしいなと。
最初に見えた大量の魔弾をこちらへと全力で撃って来ているはずなのに、自分がよけられる程度の魔弾しか襲いかかって来ていないのだ。
そんなことを考えながらも相殺した魔弾が弾け飛び、魔力の波動で視界が揺れる光景を見ながら思案しているとその奥にある場面が見える。
キングオークが笑いながらそこに立っていた。ただ目線はこちらには向いていない。
魔弾の襲いかかる量は馬鹿にならないほどにこちらへと迫ってきているし、多分足止めが目的なのだとやっと確信することとなる。
オークの姿は片足を負傷した結果立つことがままならなくなっている。けれども今の状態では身体のことは特に関係ないだろう。
……残りの魔弾はすべてアイリスへと飛んでいっていた。
そのことに気づいたエリアスは魔弾の包囲網を突き進もうにも余裕を持って捌けばさばくほどそれに合わせて新たな魔弾が調節して現れる。
自らの左腕から〈収束〉の発動。
エリアスも負けじと魔弾をつくる。
相手よりもちょっとだけ威力をあげて。
魔力のカーテンに揺れる視界の奥を目を凝視して眺める。
アイリスが何かをこっちに向けて叫んでいる様子が伺える。
けれども分からない。
アイリスはエリアスの作戦通りに他のオークたちを殲滅してくれていた。彼女の周りにはたくさん転がるオークの死体。
不気味な翠の血液を浴びながらもしっかり土地に足を踏みしめて、空間を震わせるようなオーラを放ちながらそこに立っていた。
だが、倒し終えたがゆえにアイリスの敵はキングオークと変わる。その時起きることといえば、その圧倒的な威圧感が全て一体の相手へと向くこと。
不幸にもエリアスの魔弾〈放出〉のタイミングと被る。
敵へと向かい駆けており、距離が近づいたところでのキングオークの暴走。アイリス側からしてもエリアスのことは見えていなかったし、助けを求められる状態になかった。
次に魔力の切れ間から覗くアイリスの様子は全身がボロボロとなっていた。
魔弾を肉体を持って弾いているのが見えた。けれども、その防御方法はアイリスの体さえも弾けさせているように見えてしまう。幸いにしてアイリスのスキルは魔力を一切使わないため魔弾の効果は一般の人と比べれば今一つといったところかもしれない。
されども強大な攻撃。
いくら身体を強化したと言っても、魔弾の衝撃までは抑えられない。魔弾の攻撃は何よりも魔力回路を壊す特性と同様に物理的にも内部からの破損を促すものでもあった。
一つの魔弾を弾く度にアイリスの意識が不鮮明になっていき体から溢れ出るオーラが空気に溶けていく。
「異能を使え!」
エリアスがどんなに叫んでも向こうへ声は届かない。
魔弾の着弾音に勝る音量を出す術もない。
視界の中に映ってくるのは吐血しながらも、内部器官が侵されながらも倒れることなく戦い続けるその姿。
その瞳の奥に映るのは…………
エリアスだった。
そのことに気づいた時何か自分のたかが外れたように感じた。
左手を前に構える。
その手にはただただ〈収束〉を発動させる。
それは攻撃を収めるものであってその膨大な魔弾のエネルギーの接近により視界を狭め、制御を用し、動くことを不可能とする。それでもただ手を前へと突き出したままでいる。
そして逆の手。
その手のひらの中に握りこまれた魔導銃はその白銀のボディーを今、練り上げられた魔力に呼応して金色へと染め上げていた。
実弾を装填する。
魔力を込めたはずの魔導銃の中に実弾も重ねる。
実弾は弾かれることもなく、それがさも当然であるかの様子で銃の中へと吸い込まれていくように消えていく。
伸びた左手には魔弾が〈収束〉していく。自分に向けての攻撃しか収束できないという欠点があったこの能力。
自分に向けられた攻撃とは何か。
そんなことを何度も考えた。
そして今、一つの結論に今たどり着く。
ルームの中で撃たれる魔弾が全てエリアスの手中へと収まっていく。
自分に攻撃が向けられたと認識したとき。それはひどく曖昧な定義。曖昧すぎたのだ。
だからそれを逆手にとる。
エリアスがその人を失いたくない。そして相手も同様の気持ちを抱いている時。その人は、彼女は僕の一部であると認識させる。事実そうではない。だが拡大解釈すればそうとも言えなくない。ただ、そうやすやすと使えるものではなさそうなことはわかる。今回は運が良かった。それだけだ。
集まる魔力は膨大。
エリアスにも魔力制御の限界量はある。
対して魔力の〈収束〉はとどまることを知らない。使い勝手に困るそれをエリアスは〈放出〉する。
反対の手に持つ相棒に向けて。
さらに輝きを増す銃身。一滴の魔力さえもこぼれ落ちることなく吸い込まれていく。
内包される黒魔石が大量の魔力を喜んでいる。
外を包み込む白魔石が貯め込まれた魔力を速くはきだしたいと訴えかけてくる。
照準を合わせる。
片足を負傷した相手はその場から動くことは出来ない
覚えている元いた場所へと銃身を傾ける。
魔導銃がはやくはやくと急かしてくるような感覚さえも受ける。
新たに左手に〈収束〉した魔弾に自分の魔力を介在させ開放し、、弾丸の通る道を創る。
あまたの飛来してくる透明な魔弾に対してこちらが飛ばす一つの、それでいてほかとは比べ物になっていないその高エネルギー体は青銀色に輝く。
そしてキングオークの持つ魔弾の全てを食いつぶし、青銀の閃光でそのルームを覆い尽くした。
残ったルームにいるのはキングオーク、アイリス、エリアスのみ。
そしてその右手の甲に刻まれた魔法陣さえもが魔導銃の輝きと共に金色が強く輝き、まるで共鳴しているかのような様に見受けられる。
鮮やかな蒼。
煌めく銀。
この世界ではないような幻想的な空間でいて、それなのに肌を刺す魔力がひしひしと伝わってきておりここが現実世界であると脳に、心に感覚が強く訴える。
魔力の氾濫するルームに残る大量の魔力の残滓さえもが魔導銃へと〈収束〉していく。
今回は黒魔石による吸収ではない。
エリアスによる〈収束〉であり『等価交換』だ。
銃が闇に包まれる。
それに呼応して空間の魔力は食い尽くされていく。
ルームの中の魔力がほぼ尽きた頃。
魔導銃は変わらぬ姿でそこにある。
変貌した雰囲気を纏わせてそこにある。
気づいた時にはキングオークがその軌道上に乗っている。
エリアスはごく自然な動作で引き金へと手をかける。
そして…………
ドガッ、ズゴンッ、、、、ズザザザザ
目の前は全てが白く染められていた。
その光は蒼かもしれないし紅がもしれないし金色をしていたかもしれない。
けれどもそれは人間の認識できるキャパシティーを超えていた。
引き金を引いた瞬間に訪れた世界の終わり。
見えていた世界は全てが奪われた。
その弾丸の発射された音速へと誰もが追いつけないうちに全てが終わっていた。
音さえも、光さえも、そして撃った張本人であるエリアスももちろん。
残されたのは先程までの状態が欠片しか残っていないような目の前の光景。広大であったそのルームのキングオークがいた辺りの場所は大きく地面を削られ跡形も残っていない。
ただそこにはドロップアイテムと魔石のみが残る。
その背後に迫っていた壁面は崩れた。
弾丸がめり込んで割れたとかそういう問題ではなかった。
弾丸自体が衝撃波となってこのボス部屋を崩壊させてしまっていた。その証拠にその穴の奥には次のこれまでとは違った階層への入口が覗く。
でも今はそれどころではない。
先に進むことも大事。
でもそれは帰れてこその心配。
「アイリス!!!」
血にまみれ倒れ伏す1人の少女の元へとかけた。
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