忽然と現れたダンジョンの最上階へ

マリルリ

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出現、そして1階層

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23時30分現在。

 今俺は家のリビングにいる。最もリビングとキッチンがくっついてる形の一人暮らしだが。

 準備は整った。何の準備かって?そら戦のだよ。懐中電灯と補助食品、水に短剣、その他キャンプ用品だ。

 お前は山に篭もりに行くのかと言われれば似通ったものを感じる。ダンジョンにこもりに行くのだ。

 俺が推測するに明日からってことにはあしたの0時からだろう。スキルも同様だと考えられる。皆が行動するのは昼からだろうな。国もダンジョンの規制をかけたとしても夜の0じからにはなるまい。ダンジョンということは宝箱もあるのだろう。ほんでポーションといった類もあるはずだ。それらが最初の1人しか取れない可能性はゼロではない。そのためにダンジョンに夜から駆け込むのだ。


「携帯の準備もおっけいっと」

 携帯を眺めている理由はトゥイッターでバカがここにダンジョンあるぞと騒ぐと思ったからだ。

 こうして時が過ぎ、今日という日が終わりを迎えた。トゥイッターの画面を眺める。はっ、やはり予想は正しかった。1分、2分、3分…時が過ぎていく事に「ダンジョンありました!名古屋駅です!」「背景にダンジョン写してみました」「家の近くにダンジョンあるんだがwww」といった誰が得するのかわからないトゥイートが沢山あった。今のところは5つものダンジョンが発見されている。札幌、東京、名古屋、大阪、福岡だ。まぁ都会どころが集まっている。

 さぁて乗り込みに行こうか。意気込みながら俺は車に乗り込む。

 そうして夜の道で少ない車を掻い潜りながら走っていった。

「おっと、ついたな」

 まだ名古屋駅には着いていないがそれらしきものは見える。ひょっとしなくても東京タワーよりも、東京スカイツリーよりもでかい建物が出現したのだ。さすがに驚かずには居られない。神恐るべし。

 周囲には少なからず人々が跋扈していた。写真を撮るもの、脅威に感じているもの、元々近くにいたのか突然現れたのに恐怖を感じているもの。様々な状況である。その中で脇目も降らずに、俺はそのダンジョンの中に入っていった。






 ****







「よし、侵入は成功だな。まずはステータスを確認しないと。ステータス」

 その一言で目の前にあるはずのない画面が現れた。

 名前 神谷徹
 職業 中級剣士
 レベル 1
 スキル 剣技

 と簡潔なものだ。名前はそのまま。やはり剣に偏ったステータスになっている。剣術で下級剣士っぽいな。剣聖のスキルを持っていたらどうなるのか気になるところではある。

 まずは1階。もしかしたら先に来ているものが居るかもしれないから気をつけないと。

 このダンジョンは迷路のような形となっていた。タワーが上に連なっているということはこの階の何れかに上に登る階段、もしくは近未来的なワープ装置のようなものがあるのだろう。

「おっと、お出ましかな」

 赤い瞳を持った獣が現れた。兎だ。まるーく太った兎。そこまでは普通のと変わりはないが額の部分だけが変わっていた。鋭くとがった角が生えている。その存在を強調するかのように。

 さぁて、どうすっかなぁ。あいつ素早そうだしなぁ。レベル1でも行けるのか?確実にこっち捉えてるな。逃げさしてくれなさそう。

 等と考えながら一歩一歩兎に近づいていく。少しばかり獰猛な瞳を浮かべながら。

「キュキュ?」

「おうおう、可愛らしい声出して油断誘っても無駄だぞ」

「キュ!」

 心外だとでも言いたそうに鳴いている。ははは、冗談キツイぜ。嘘つきにはお仕置きしないとなぁ?

 その瞬間徹の姿がぶれる。

 勉強よりは得意ではないスポーツ分野。得意ではないだけで全国大会には余裕で出場出来るほどではあっただろう。個体値とでも言うのか、元々備わっている身体能力、これから伸びるべき素養、それらにおいても低くはないものだろう。

「きゅ?キュキュキュ!」

 びっくりしたのも束の間、目前に迫っている人影から逃れることは出来ない。出来ることは自分の額に生まれた時からあった角を突き出すことだけだろう。

 しかしそんなことは徹も百も承知。

 華麗に最小限の動きだけでよけ、カウンターのような形で短剣を突き刺した。

 ザシュッ

 人によっては気持ちいいと感じるかもしれない音が、少なくない血飛沫と共に流れる。

 そうしてそのまま兎の命は尽きて行った。

「ふぅ、俺の動きについて来れない兎ってなんだよ。レベルはまだ上がる感じはないな。この調子で兎に焦点を絞って狩りを続けて見ようか」

 そうして幾らかの時間が過ぎ、3たいの兎を殺した時にそれが起こった。

 体の内側から暑くなってくる感覚。自分の体が作り替えられるような痛み。それらが1度に起こった。

「ぎゃぁぁぁぁ」

 なんだこれは!?レベルアップの弊害か!?やばい、意識を持ってかれる!

 少し考えたらわかる事だっただろう。ゲームの中ではレヘルアップはステータス値を上昇させるものだ。筋トレなどが出来るわけでもなかったらどうしたら伸びるのか。それは根本から作り替えるしかない。

 それなら今目前で起きているこの現象に不可解な点は少しもないだろう。

 数分の後それは収まった。

「す、ステータス」

 息切れになりながらそう答える。


 名前 神谷徹
 職業 中級剣士
 レベル 2
 スキル 剣技

 よし、レベルアップが行われているな。もしあれでレベルアップじゃなかったら発狂するところだったぜ。

 さぁレベルアップの恩恵を感じよう。

 そうして目の前に現れたのは緑色の皮膚をまとった自分よりも小柄な存在、通称ゴブリンであった。

「よりによってゴブリンかぁ、さすがに人は殺したことがないから抵抗があるなぁ」

 まぁ犬や猫なら殺したらどんなんなるんかなぁって軽い気持ちで殺したことがあるけどな。

 などと心の内に納めておきながらゴブリンと退治する。手に持たれたのは貧相な棍棒。リーチでは負けているものの打ち合った場合ではさすがに負けることもないだろう。

「グギギガ!」

 ドタドタと隠す気もなく真っ直ぐこちらに走ってくる。魔物ってのはこんな単細胞しか居ないのか?

 この時は知らなかったが、こいつらが走ってくる恐怖は初心者を殺すのには充分だと多くの人々から述べられていた。

「はぁ!」

 まぁ、そらこんだけまっすぐこられたら多少早くとも刺さるわな。そうやってゴブリンは儚き命を終えるのであった。

 初めて人型の存在を殺したが特に何も感じなかったな。ゴブリンだからだろうか。そんなことを思っていたら、間髪入れずに後ろから自分に近づいている足音が聞こえた。さっきのやつの仲間だろうか。

「グギャァ!!」

「っ、やば、さっきより早い!?」

 一瞬の戸惑いの後、直ぐにゴブリンと対峙するが、戦いに置いてのその間が思っているほど大切であったのだ。

「ギャァ!!」

 そうして自分の脇腹に棍棒を叩きつけられた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 ゴブリンと似たような奇声を発する。骨は折れてはいないらしい。最も、レベルアップがなかったら折れていたのかもしれないぐらい、ギリギリだったが。

 活きのいい叫び声を聞いて、ゴブリンの仲間がさらにやってくる。

 合計4体。絶望的な数の差であった。

「ふぅ!ダンジョン舐めていたな。まさかゴブリン達がパーティーを組んでいるとは。ゴフッ。はぁはぁ、次はこっちの番だよ、魔物共化け物共めめ」

 そうして自分のポケットからある薬品を取り出す。

 硫酸。それはみんなにとって馴染みの存在だろう。中学生でも聞いたことはあるはず。高校生ならH2SO4で習ったはずだ。自分たちが知っている存在の中でかなり強い酸だろう。

 はいN大学さんすいません。盗んでしまいました。だって近くの硫酸置いてるところでも売ってもらえる気がしなかったもん。昨日あんなこともあったし。しかも大学の規制緩すぎなんだよね。あんなん盗まれても文句言えねぇよ。

 そう思いながら少なくはない硫酸を短剣にたっぷりとかけ、残りをゴブリンに投げ去った。

 奴らは何をしているんだ?お前はバカか?とでも言いたげなようにこちらを向いて嘲笑する。

 はっ、お前らの方が馬鹿なんだよ。この量の硫酸を被った痛みを思い知れ!

 一体のゴブリンに致死量の硫酸がかけられる。直ぐに皮膚が溶けていった。

「「「!?!?!?」」」

 もはや驚きで声も出ないようだ。

 その隙が命取りだということを俺は先程学んだ。次はお前達の番だよ。

 ザシュッザシュッグサッ

 最初の1匹には上手く避けられたが、残りのふたりの首を深く切り付けることに成功した。もうあいつらは長くないだろう。

「さぁ、もうお前だけだぞ。どうする?尻尾をまいて逃げるか?」

 仲間を殺され、先程まで侮っていた存在に馬鹿にされ、怒らないほどゴブリンの思考は発達していなかった。

「ゴギガガギゴ!」

 まぁた学習しない馬鹿なヤツが走ってきた。さっき攻撃を食らったのは不意打ちだったからだ。多少早くともそんなに何回も食らうかよ。

 そうして最後のゴブリンも死んで行った。

 その直後、また"あれ"が行われた。レベルアップだ。計5体のゴブリンで上がった。兎よりも位の高い存在なのかもしれない。

 1度経験した分、叫び声を上げるまでにはならなかった。

「ふぅ、ステータス」

 名前 神谷徹
 職業 中級剣士
 レベル 3
 スキル 剣技

 このレベルが上がる感じいいな。やり遂げた感がすごいいい。しかもこの場所では気を抜いたら直ぐに命を落とす。そのはらはら感も良きかな。

「ん?あれはなんだ?部屋?」

 先程のゴブリン達が来た先に小さな部屋があった。

 ギィィ

 不気味な音を立てながらドアを開ける。

「おっ、初めての宝箱だな」

 開けてみると入っていたのは鉄の剣だった。紛うことなき鉄の剣。初期装備みたいなものだ。

「まぁ短剣よりはマシだよな。リーチも伸びるし使い慣れてるしそろそろ日も登るだろうし帰るか」

 そうして最初のダンジョン探索は終わりを告げるのだった。


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