この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第七話 スキル付与の儀

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朝の王都は、どこか特別な光に包まれていた。

私は新しい制服に袖を通し、手首のブローチをきゅっと握りしめる。

――今日、私は「力」を授かる。

胸の奥で静かに、でも確かに鼓動が跳ねている。

ギルドの扉を押し開けると、見慣れた緑色の制服――オリヴィアさんがすぐに微笑みかけてくれた。

「おはよう、セレナさん。よく眠れましたか?」

「はい、昨日はぐっすりでした。本当に……」

言いかけて、なんだか恥ずかしくなってしまう。

オリヴィアさんは優しい笑顔で「それなら良かった」と返してくれた。

「今日は大切な日ですね。……紹介したい人がいます」

オリヴィアさんが振り返ると、カウンターの奥から、淡いピンクの髪の少女が現れた。

年齢は私より少し下に見える。小柄で、清楚な雰囲気。

でも、その瞳の奥には、どこか強い光が宿っていた。

「こちらはアリアナさん。今日のスキル付与の案内役です」

「はじめまして、セレナさん。オルディナ聖堂、シスター見習いのアリアナと申します。本日はよろしくお願いします」

きちんとした口調と、丁寧すぎるくらいの一礼。

少しだけ肩がこわばっているのが分かる。私も思わず背筋を伸ばした。

「よ、よろしくお願いします……!」

オリヴィアさんが「大丈夫、アリアナちゃんは頼りになる子ですよ」と背中を押してくれた。

「それでは、参りましょうか」

アリアナさんの案内で、私はギルドを後にした。

まだ朝の涼しさが残る石畳を歩きながら、街の雑踏の中、ふたりだけの小さな行列になる。

教会の正門は、まるで神話の世界から切り取られたような壮麗さだった。

でも、装飾は驚くほど控えめ。白い壁と磨かれた床、天井の高いアーチ――

すべてが、ただ“静けさ”のためだけに存在しているようだった。

(空気が……冷たい。背筋までピンと伸びる)

コツン、コツン。

靴音が静かな礼拝堂に響くたび、自分がこの空間に溶け込んでいくような錯覚がする。

「こちらで、お着替えをお願いします」

アリアナさんが控えめに用意してくれたのは、白くてシンプルなローブ。

袖口にだけ、細い金糸の刺繍。余計な飾りは一切ないけど、不思議と身が引き締まる。

着替えを済ませて控室を出ると、アリアナさんが静かに頷いた。

「それでは、ご案内いたします」

私はローブの裾を気にしながら、重い礼拝堂の扉を押した。

巨大な神像の前、教壇の脇に立つ神官長が経典を開いて待っていた。

(なんだか、夢みたい……でも、絶対に覚えておこう)

神官長は静かに祈りを捧げ、ゆっくりと聖典の朗読を始める。

言葉は重く、しかし温かい。

一言一言が、私の胸の奥底までしみわたる。

「……セレナ・フェルシュタイン。ここに、神の加護と導きがありますように」

私は膝をつき、頭を垂れる。

清らかな光が、窓から床に差し込む。

(――これが、私の“始まり”)

そして、儀式は次の段階へと移る。

アリアナさんが私を立たせ、礼拝堂の奥にある小さな扉をそっと開けた。

「セレナさん、こちらです」

そこは――まるで世界が一変したかのような暗闇。

扉が閉まると、音も光も、全てが消え去る。

自分の心音だけが、やけに大きく聞こえてくる。

(暗い……息が詰まりそう)

でも、逃げたくはなかった。

やがて――

頭の奥に、どこか別の世界から響いてくる声がした。

《――おまえは、何を欲する?》

心が凍りつく。

思わず唇を噛みしめて、でも答えようとする。

(……妹を守る力が、欲しい)

――けれど、その声は、さらに問いかけてくる。

《本当に、それだけか? 力を手に入れた、その先でおまえは何を捨てる?》

――私は、何を……?

怖い。

分からない。

(私は、妹と――ただ、幸せに生きたいだけなのに……)

けれど、その「答え」は、うまく口にできないまま――

闇の中で、私は沈黙した。

次の瞬間、ふっと何かが背中をなぞるような感覚。

気づけば、扉が静かに開いていた。

アリアナさんが、心配そうな顔で立っている。

「セレナさん、大丈夫ですか?」

「……はい、なんとか」

震える手でローブの裾を握る。

でも、不思議と、もう暗闇は怖くなかった。

「儀式は、これで終了です。……背中、見せていただいても?」

頷いて、ローブを少しずらす。

アリアナさんの目が、丸くなる。

「……まさか。こんな……」

彼女は慌てて神官長の元へ駆けていく。

私はぽかんと、静かな礼拝堂にひとり取り残された。

背中には、ほんのり温かい“何か”が刻まれている。

(これが――スキル、私だけの……)

期待と、不安と、説明できないざわめき。

私の新しい人生が、ここから始まろうとしていた。

---

(つづく)
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