9 / 34
第九話 訓練の始まり
しおりを挟む
教会の儀式を終えてギルドの建物へと戻る道すがら、私は深呼吸を繰り返した。背筋を伸ばして歩いているつもりだけれど、心はまだ、さっきアリアナさんに言われた「器用貧乏」という言葉に引っかかっている。
ギルドの扉をくぐると、どこかホッとする空気が出迎えてくれた。
「おかえりなさい、セレナさん」
優しく微笑む受付嬢――オリヴィアさんが、すぐに私を見つけてくれた。
「あっ、ただいま戻りました。儀式……終わりました」
言い終えた瞬間、どうしてか涙が込み上げてきそうになる。
私、ちょっと疲れてるのかな。
「緊張してたみたいね。……どうだった?」
オリヴィアさんの温かい眼差しが、私の内側のざわめきをそっとなだめてくれる。
「特別なスキルらしいんですけど、“器用貧乏”なんだそうです……。すごいのか、すごくないのか……なんだか分からなくて」
思わず弱音を吐いてしまう。
でも、オリヴィアさんは優しく微笑んだまま、私の肩をそっと叩いた。
「セレナさん。ね、器用貧乏って、言葉だけ聞けばマイナスっぽいけど……本当は、いろんなことに対応できる才能よ。これからどう伸ばすかは、自分次第。焦らなくて大丈夫」
「あ……はい、ありがとうございます」
「訓練場の場所、案内図で説明してあげるわね。今日はちょうど指導担当の先生がいるはず。迷わずに行けそう?」
「ええ、きっと大丈夫です」
と返事しつつ、地図を受け取った手が微妙に震える。――あれ、緊張してるのかな。
オリヴィアさんに背中を押されるように、ギルドの玄関を出た。
……すると。
「……あの、セレナさん、私も一緒に行きます」
真後ろから、控えめにアリアナさんの声がした。
いつの間にか、私のすぐ後ろに立っている。
「えっ、一緒に?」
「はい……責任もって案内します、って神官長に言われて」
少しだけ拗ねたような顔が、なんだか微笑ましくて私はふっと笑う。
一人じゃ心細かったから、ありがたかった。
* * *
訓練場はギルド本館の裏手――高い石壁に囲まれた広い敷地で、昼下がりの日差しが地面にまだら模様を作っていた。
訓練用の木剣や的、そして広めの土のスペース。緊張感とどこかぬくもりのある場所。
門のすぐそばには、屈強な男の人が両腕を組んで仁王立ちしていた。
「オレァ、今日から新人を見ることになったバランだ。よろしゅうな!」
迫力満点の太い声。
筋骨隆々、髪は短いオールバック、ベストとシャツには細かい傷や油汚れが目立つ。現場あがりの“ザ・教官”という雰囲気。
「よろしくお願いします……!」
私が思わず背筋を伸ばして頭を下げると、すぐ隣でアリアナさんも小さく礼をする。
「おー、礼儀正しいな。おぅ、他のも来てるぜ」
バランさんが顎で指し示す方を見ると、二人の同世代くらいの冒険者が待っていた。
ひとりは、切れ長の目に短髪ストレートの少年――ハルート。
もうひとりは、柔らかな金髪で片側だけ三つ編み、おっとりとした空気の女の子――サラ。
「俺、ハルート。よろしく。スキルは……まだ、全然だけど」
素っ気なく、それでも目だけは真剣。何かを背負っている空気がある。
「私はサラ。よろしくね。スキルは、えっと……能力向上、だけならちょっと使えるようになったかな?」
サラはにこやかに言う。彼女の隣には細身の槍が立てかけてある。
どうやら要領がいいタイプらしい。
「みんな揃ったな。さっそく始めるぞー!」
バランさんが両手を叩き、訓練場の空気がぴんと引き締まった。
* * *
「まずはスキルの基礎な! ――攻撃スキルっつーのは《アーツ・スラッシュ》だ。こう、ギュイン! って斬撃がバーッ! て飛ぶ。分かるな?」
「ギュイン……バーッ……?」
思わず目を丸くしてしまう。
隣のサラが私の耳元で小声で囁く。
「バランさんの説明、分かりづらいから真に受けないで。結局、慣れるしかないってこと」
思わず苦笑い。サラも同じことを思ってたんだ。
バランさんはさらに勢いを増す。
「で、槍なら《スピアスラスト》! ズドーン! と突いて、ズシャッとエフェクトが出る! 打撃系は《クラッシュ》、ドカーンってやって硬い殻もバキバキだ!」
ハルートはふっと鼻で笑う。
「要するに、武器に合わせてスキルを使い分けろってことだろ」
「おう、さすがだハルート! その通りだァ!」
バランさんは得意げだが、私は「ギュイン」と「バーッ」と「ドカーン」しか頭に残らない。
(……説明のクセが強い……)
「移動スキルは《クイック・ステップ》な。スッと動いてサッと避ける。ジャンプもだ。スッ! て感じで飛べる!」
(スッて……どんなイメージなんだろう)
「能力向上スキルは《パッシブ・全身強化》! 身体がシュワァァって熱くなって、動きがガツーンと良くなる!」
(シュワァァ……ガツーン……)
もう頭の中が擬音まみれで大混乱。
(ごめんなさいバランさん、全然分からない……!)
そんな私の様子を察したのか、サラがまたそっと耳打ちしてくる。
「私も最初そうだったよ。大丈夫、慣れたら何とかなったし、細かいところは後で一緒に練習しよっか?」
「ありがとう、サラさん……」
温かい言葉に、心がふわっと軽くなる。
* * *
「スキルの発動にはな、スキル名を唱えつつ、しっかりイメージすること! 《アーツ・スラッシュ》なら剣を振って斬撃が飛ぶイメージ。《パッシブ・全身強化》なら体が力で満ちるイメージ!」
バランさんの熱血指導は止まらない。
「一度使うと三分のクールタイムがある。無理に使い続けると、ぶっ倒れるから気をつけろ。応用は後回しでいい。とにかく“型”を覚えろ! ……あとは実践で体に叩き込めぇ!」
最後は声量で押し切るバランさん。
ハルートもサラも、苦笑しつつも真剣な表情で頷いていた。
「さて――んじゃ、模擬戦といくか! 誰が最初にやる?」
私はどきっとした。いきなり戦うの? と体が強ばる。
「緊張するなよ。模擬戦ってのは“練習”だ。失敗してもいい」
バランさんはそう言って、励ますように笑う。
私、ちゃんとできるかな……
でも――せっかく手に入れたこの力、絶対に使いこなしてみせる。
胸に小さく誓いを立てて、私は剣の柄をぎゅっと握った。
(つづく)
ギルドの扉をくぐると、どこかホッとする空気が出迎えてくれた。
「おかえりなさい、セレナさん」
優しく微笑む受付嬢――オリヴィアさんが、すぐに私を見つけてくれた。
「あっ、ただいま戻りました。儀式……終わりました」
言い終えた瞬間、どうしてか涙が込み上げてきそうになる。
私、ちょっと疲れてるのかな。
「緊張してたみたいね。……どうだった?」
オリヴィアさんの温かい眼差しが、私の内側のざわめきをそっとなだめてくれる。
「特別なスキルらしいんですけど、“器用貧乏”なんだそうです……。すごいのか、すごくないのか……なんだか分からなくて」
思わず弱音を吐いてしまう。
でも、オリヴィアさんは優しく微笑んだまま、私の肩をそっと叩いた。
「セレナさん。ね、器用貧乏って、言葉だけ聞けばマイナスっぽいけど……本当は、いろんなことに対応できる才能よ。これからどう伸ばすかは、自分次第。焦らなくて大丈夫」
「あ……はい、ありがとうございます」
「訓練場の場所、案内図で説明してあげるわね。今日はちょうど指導担当の先生がいるはず。迷わずに行けそう?」
「ええ、きっと大丈夫です」
と返事しつつ、地図を受け取った手が微妙に震える。――あれ、緊張してるのかな。
オリヴィアさんに背中を押されるように、ギルドの玄関を出た。
……すると。
「……あの、セレナさん、私も一緒に行きます」
真後ろから、控えめにアリアナさんの声がした。
いつの間にか、私のすぐ後ろに立っている。
「えっ、一緒に?」
「はい……責任もって案内します、って神官長に言われて」
少しだけ拗ねたような顔が、なんだか微笑ましくて私はふっと笑う。
一人じゃ心細かったから、ありがたかった。
* * *
訓練場はギルド本館の裏手――高い石壁に囲まれた広い敷地で、昼下がりの日差しが地面にまだら模様を作っていた。
訓練用の木剣や的、そして広めの土のスペース。緊張感とどこかぬくもりのある場所。
門のすぐそばには、屈強な男の人が両腕を組んで仁王立ちしていた。
「オレァ、今日から新人を見ることになったバランだ。よろしゅうな!」
迫力満点の太い声。
筋骨隆々、髪は短いオールバック、ベストとシャツには細かい傷や油汚れが目立つ。現場あがりの“ザ・教官”という雰囲気。
「よろしくお願いします……!」
私が思わず背筋を伸ばして頭を下げると、すぐ隣でアリアナさんも小さく礼をする。
「おー、礼儀正しいな。おぅ、他のも来てるぜ」
バランさんが顎で指し示す方を見ると、二人の同世代くらいの冒険者が待っていた。
ひとりは、切れ長の目に短髪ストレートの少年――ハルート。
もうひとりは、柔らかな金髪で片側だけ三つ編み、おっとりとした空気の女の子――サラ。
「俺、ハルート。よろしく。スキルは……まだ、全然だけど」
素っ気なく、それでも目だけは真剣。何かを背負っている空気がある。
「私はサラ。よろしくね。スキルは、えっと……能力向上、だけならちょっと使えるようになったかな?」
サラはにこやかに言う。彼女の隣には細身の槍が立てかけてある。
どうやら要領がいいタイプらしい。
「みんな揃ったな。さっそく始めるぞー!」
バランさんが両手を叩き、訓練場の空気がぴんと引き締まった。
* * *
「まずはスキルの基礎な! ――攻撃スキルっつーのは《アーツ・スラッシュ》だ。こう、ギュイン! って斬撃がバーッ! て飛ぶ。分かるな?」
「ギュイン……バーッ……?」
思わず目を丸くしてしまう。
隣のサラが私の耳元で小声で囁く。
「バランさんの説明、分かりづらいから真に受けないで。結局、慣れるしかないってこと」
思わず苦笑い。サラも同じことを思ってたんだ。
バランさんはさらに勢いを増す。
「で、槍なら《スピアスラスト》! ズドーン! と突いて、ズシャッとエフェクトが出る! 打撃系は《クラッシュ》、ドカーンってやって硬い殻もバキバキだ!」
ハルートはふっと鼻で笑う。
「要するに、武器に合わせてスキルを使い分けろってことだろ」
「おう、さすがだハルート! その通りだァ!」
バランさんは得意げだが、私は「ギュイン」と「バーッ」と「ドカーン」しか頭に残らない。
(……説明のクセが強い……)
「移動スキルは《クイック・ステップ》な。スッと動いてサッと避ける。ジャンプもだ。スッ! て感じで飛べる!」
(スッて……どんなイメージなんだろう)
「能力向上スキルは《パッシブ・全身強化》! 身体がシュワァァって熱くなって、動きがガツーンと良くなる!」
(シュワァァ……ガツーン……)
もう頭の中が擬音まみれで大混乱。
(ごめんなさいバランさん、全然分からない……!)
そんな私の様子を察したのか、サラがまたそっと耳打ちしてくる。
「私も最初そうだったよ。大丈夫、慣れたら何とかなったし、細かいところは後で一緒に練習しよっか?」
「ありがとう、サラさん……」
温かい言葉に、心がふわっと軽くなる。
* * *
「スキルの発動にはな、スキル名を唱えつつ、しっかりイメージすること! 《アーツ・スラッシュ》なら剣を振って斬撃が飛ぶイメージ。《パッシブ・全身強化》なら体が力で満ちるイメージ!」
バランさんの熱血指導は止まらない。
「一度使うと三分のクールタイムがある。無理に使い続けると、ぶっ倒れるから気をつけろ。応用は後回しでいい。とにかく“型”を覚えろ! ……あとは実践で体に叩き込めぇ!」
最後は声量で押し切るバランさん。
ハルートもサラも、苦笑しつつも真剣な表情で頷いていた。
「さて――んじゃ、模擬戦といくか! 誰が最初にやる?」
私はどきっとした。いきなり戦うの? と体が強ばる。
「緊張するなよ。模擬戦ってのは“練習”だ。失敗してもいい」
バランさんはそう言って、励ますように笑う。
私、ちゃんとできるかな……
でも――せっかく手に入れたこの力、絶対に使いこなしてみせる。
胸に小さく誓いを立てて、私は剣の柄をぎゅっと握った。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる