この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第九話 訓練の始まり

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教会の儀式を終えてギルドの建物へと戻る道すがら、私は深呼吸を繰り返した。背筋を伸ばして歩いているつもりだけれど、心はまだ、さっきアリアナさんに言われた「器用貧乏」という言葉に引っかかっている。

ギルドの扉をくぐると、どこかホッとする空気が出迎えてくれた。

「おかえりなさい、セレナさん」

優しく微笑む受付嬢――オリヴィアさんが、すぐに私を見つけてくれた。

「あっ、ただいま戻りました。儀式……終わりました」

言い終えた瞬間、どうしてか涙が込み上げてきそうになる。

私、ちょっと疲れてるのかな。

「緊張してたみたいね。……どうだった?」

オリヴィアさんの温かい眼差しが、私の内側のざわめきをそっとなだめてくれる。

「特別なスキルらしいんですけど、“器用貧乏”なんだそうです……。すごいのか、すごくないのか……なんだか分からなくて」

思わず弱音を吐いてしまう。

でも、オリヴィアさんは優しく微笑んだまま、私の肩をそっと叩いた。

「セレナさん。ね、器用貧乏って、言葉だけ聞けばマイナスっぽいけど……本当は、いろんなことに対応できる才能よ。これからどう伸ばすかは、自分次第。焦らなくて大丈夫」

「あ……はい、ありがとうございます」

「訓練場の場所、案内図で説明してあげるわね。今日はちょうど指導担当の先生がいるはず。迷わずに行けそう?」

「ええ、きっと大丈夫です」

と返事しつつ、地図を受け取った手が微妙に震える。――あれ、緊張してるのかな。

オリヴィアさんに背中を押されるように、ギルドの玄関を出た。

……すると。

「……あの、セレナさん、私も一緒に行きます」

真後ろから、控えめにアリアナさんの声がした。

いつの間にか、私のすぐ後ろに立っている。

「えっ、一緒に?」

「はい……責任もって案内します、って神官長に言われて」

少しだけ拗ねたような顔が、なんだか微笑ましくて私はふっと笑う。

一人じゃ心細かったから、ありがたかった。

*  *  *

訓練場はギルド本館の裏手――高い石壁に囲まれた広い敷地で、昼下がりの日差しが地面にまだら模様を作っていた。

訓練用の木剣や的、そして広めの土のスペース。緊張感とどこかぬくもりのある場所。

門のすぐそばには、屈強な男の人が両腕を組んで仁王立ちしていた。

「オレァ、今日から新人を見ることになったバランだ。よろしゅうな!」

迫力満点の太い声。

筋骨隆々、髪は短いオールバック、ベストとシャツには細かい傷や油汚れが目立つ。現場あがりの“ザ・教官”という雰囲気。

「よろしくお願いします……!」

私が思わず背筋を伸ばして頭を下げると、すぐ隣でアリアナさんも小さく礼をする。

「おー、礼儀正しいな。おぅ、他のも来てるぜ」

バランさんが顎で指し示す方を見ると、二人の同世代くらいの冒険者が待っていた。

ひとりは、切れ長の目に短髪ストレートの少年――ハルート。

もうひとりは、柔らかな金髪で片側だけ三つ編み、おっとりとした空気の女の子――サラ。

「俺、ハルート。よろしく。スキルは……まだ、全然だけど」

素っ気なく、それでも目だけは真剣。何かを背負っている空気がある。

「私はサラ。よろしくね。スキルは、えっと……能力向上、だけならちょっと使えるようになったかな?」

サラはにこやかに言う。彼女の隣には細身の槍が立てかけてある。

どうやら要領がいいタイプらしい。

「みんな揃ったな。さっそく始めるぞー!」

バランさんが両手を叩き、訓練場の空気がぴんと引き締まった。

*  *  *

「まずはスキルの基礎な! ――攻撃スキルっつーのは《アーツ・スラッシュ》だ。こう、ギュイン! って斬撃がバーッ! て飛ぶ。分かるな?」

「ギュイン……バーッ……?」

思わず目を丸くしてしまう。

隣のサラが私の耳元で小声で囁く。

「バランさんの説明、分かりづらいから真に受けないで。結局、慣れるしかないってこと」

思わず苦笑い。サラも同じことを思ってたんだ。

バランさんはさらに勢いを増す。

「で、槍なら《スピアスラスト》! ズドーン! と突いて、ズシャッとエフェクトが出る! 打撃系は《クラッシュ》、ドカーンってやって硬い殻もバキバキだ!」

ハルートはふっと鼻で笑う。

「要するに、武器に合わせてスキルを使い分けろってことだろ」

「おう、さすがだハルート! その通りだァ!」

バランさんは得意げだが、私は「ギュイン」と「バーッ」と「ドカーン」しか頭に残らない。

(……説明のクセが強い……)

「移動スキルは《クイック・ステップ》な。スッと動いてサッと避ける。ジャンプもだ。スッ! て感じで飛べる!」

(スッて……どんなイメージなんだろう)

「能力向上スキルは《パッシブ・全身強化》! 身体がシュワァァって熱くなって、動きがガツーンと良くなる!」

(シュワァァ……ガツーン……)

もう頭の中が擬音まみれで大混乱。

(ごめんなさいバランさん、全然分からない……!)

そんな私の様子を察したのか、サラがまたそっと耳打ちしてくる。

「私も最初そうだったよ。大丈夫、慣れたら何とかなったし、細かいところは後で一緒に練習しよっか?」

「ありがとう、サラさん……」

温かい言葉に、心がふわっと軽くなる。

*  *  *

「スキルの発動にはな、スキル名を唱えつつ、しっかりイメージすること! 《アーツ・スラッシュ》なら剣を振って斬撃が飛ぶイメージ。《パッシブ・全身強化》なら体が力で満ちるイメージ!」

バランさんの熱血指導は止まらない。

「一度使うと三分のクールタイムがある。無理に使い続けると、ぶっ倒れるから気をつけろ。応用は後回しでいい。とにかく“型”を覚えろ! ……あとは実践で体に叩き込めぇ!」

最後は声量で押し切るバランさん。

ハルートもサラも、苦笑しつつも真剣な表情で頷いていた。

「さて――んじゃ、模擬戦といくか! 誰が最初にやる?」

私はどきっとした。いきなり戦うの? と体が強ばる。

「緊張するなよ。模擬戦ってのは“練習”だ。失敗してもいい」

バランさんはそう言って、励ますように笑う。

私、ちゃんとできるかな……

でも――せっかく手に入れたこの力、絶対に使いこなしてみせる。

胸に小さく誓いを立てて、私は剣の柄をぎゅっと握った。

(つづく)
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