この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第十三話 騎士団の雑用

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「……う、うそでしょ……?」

朝の淡い光の下、私は鏡の前で自分の姿に絶句した。

王都の騎士団本部でもらった“制服”――真新しいはずの紺色の上着と、白のケープ。

だけど、思っていたより……ちょっと、いや、だいぶキツい。

(やっぱり体重増えた? いや、バストと太ももが……絶対鍛えすぎたせいだ……)

制服のベルトをきつく締めてみるけれど、お腹まわりが気になって思わずため息。

「……これ、私、ほんとに騎士団の一員に見えるのかな……」

小さな声でつぶやきながら、与えられたロッカーで着替えを終える。

なんとなく気まずい気分で廊下に出ると、先に制服に着替えたサラがにこやかに手を振ってくれた。

「おっ、セレナ。おっかえり! 似合ってるよ、その制服」

「え……あ、ありがとう……。でも、なんか動きにくいし、ピチピチだし……」

「鍛えすぎでしょ。あんた、その体、絶対元・農家出身じゃないわよね」

「……ひ、ひどい……!」

肩を落としていると、後ろからアリアナの小気味よい声が飛んでくる。

「まったく、騎士団の品位を保つのが大変なのよ? ちゃんと襟も直して!」

「えぇ……はい、すみません……」

その小言は制服姿のチェックから、髪型、靴紐の締め方まで徹底的。

でも、どこかその指摘に嬉しそうな響きが混じっている――オリヴィアの前では見せない、アリアナ独特の“高圧的な甘え”だ。

「ハルートは? もう来てるの?」

「ああ、あっちで暇そうにしてる。ほら、あれ」

サラが指さす先に、ハルートが壁にもたれて腕を組んでいる。

「その制服……ちょっとは頭良さそうに見えるな、セレナ」

「どういう意味それ……?」

「いや、まあ、普段よりマシって話だよ」

「……失礼な!」

思わず睨み返すと、ハルートは少しだけ口の端を上げて「冗談」とぼそり。

でもサラがすかさずツッコミを入れる。

「セレナは、服だけじゃなくて所作も気をつけなきゃダメだよ? 昨日、靴裏に泥つけてたでしょ」

「あっ……ごめん……」

皆からの注意が一通り終わったところで、オリヴィアさんが様子を見にきてくれた。

「セレナさん、とても似合っていますよ。王都の制服、着こなすの難しいんですけど、セレナさんならきっと大丈夫」

その一言が、今日いちばん心に沁みる。

私は思わず「ありがとうございます……」と小さな声で返す。

(……唯一、救われる……)



制服姿のまま、朝イチで命じられたのは“本部のトイレ掃除”。

モップを握りしめ、ため息をつきながら、無心で床を磨く。

(……私、何やってるんだろ……)

バケツの水に手を浸し、泡だらけの手を眺める――冒険者になったのに、なんでこんな地味な仕事を……。

でも、案外こういう作業って、嫌いじゃない。

「ねえ、セレナ。その掃除、アリアナさんの仕事だったって本当?」

サラがひそひそと耳打ちしてくる。

「えっ、そうなの?」

「うん。アリアナさん、自分の仕事の一部をうまく人に回すの、結構得意なのよ。気をつけて」

私は思わずアリアナのほうをちらりと見る。

彼女は遠くから“ちゃんとやってる?”と小さく手を振りつつ、どこか満足げな顔だ。

(……この子、本当にオリヴィアさんの前と私たちの前でキャラ違うなあ……)

掃除の後は、剣の手入れ。

木剣や訓練用の防具をきちんと拭き上げる。

「細かい作業は好き?」

「……好きっていうより、なんか落ち着くかな」

「あんた、なんだかんだで性格“いい子”だよね」

サラがそう笑うのを聞いて、なんとなく誇らしい気分になる。



昼からは訓練。

バラン教官が「よし、動け!」と号令をかける。

一見大雑把だけど、動きは鋭い。サラとハルートも、もはや私にとって大事な“仲間”になっていた。

(でもスキル、まだ使えないんだよな……)

訓練の合間、サラが「焦らなくていいよ」と励ましてくれる。

「バラン先生、言ってること分かる?」

「……3割くらい……」

「私も同じ」

二人でくすっと笑い合う。

(不思議と、前より心が軽い)



そして夕方は、街の巡回。

特に“貧民街”担当が多い。

今日もハルートとペア。

汚れた小路、痩せた猫、物乞いの子どもたち――街の底辺を歩くたびに、王都の現実がじわじわ胸に沁みてくる。

「なあ、セレナ。こういう場所、怖くないか?」

「正直、ちょっと……でも、なんか慣れたかも」

「……ふーん」

ハルートの横顔は、どこか複雑そうだ。

「お前、もし危ないことがあったらすぐ逃げろよ。余計な正義感は出すな」

「……うん、気をつける」

「……でも、まあ、お前はお人好しすぎて、放っとけねえな」

「なにそれ、褒めてるの?」

「さあな」

そのあとも小競り合いは続いたけど、巡回中の“仲間感”が少しだけ心地よい。



夜になると、今度はサラと夜間警備。

街の大通りや、静かな小路を二人で歩く。

「……夜って、ちょっと怖いね」

「でも、誰かと一緒だと大丈夫でしょ」

「……うん。サラと一緒なら、安心かも」

「ふふ、私も」

歩きながら、色々な話をする。

スキルのコツや、王都の話、家族の話――夜の静けさに包まれ、私はなんとなく、サラに全部話してしまいたくなった。



こんなふうに、慌ただしくもどこか温かい毎日が続いていく。

制服の違和感、アリアナの小言、仲間の優しさ――どれも全部、王都でしか味わえない“日常”。

(早く、もっと強くならなきゃな……)

そう心に誓いながら、私は夜空を見上げた。

星が静かに瞬いている。

いつかこの空の下で、胸を張って「私は大丈夫」と言える日が来るだろうか――

“今はまだ、ちょっとだけ遠い未来の話だ”

(つづく)
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