この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

文字の大きさ
12 / 34

第十四話 勇者像と王都の記憶

しおりを挟む
王都の空は、少し白っぽい雲に包まれていた。

いつもの巡回の時間――今日はハルートと組んで、街の広場まで歩いてきた。

この広場は、王都の中心。

昼間は商人の掛け声や子どもたちの笑い声が響き渡るけれど、夕方になると急に静けさが広がる。

私はふと、広場の真ん中に立つ巨大な像に目を奪われた。

鋼の鎧を纏い、長剣を天に掲げている――堂々たる男性像。

(……ずっと気になってたんだよね)

「ねえ、ハルート。この像……誰の像?」

思いきって尋ねると、隣で歩いていたハルートが一瞬立ち止まった。

普段は皮肉屋で、あまり歴史とか語りそうにない彼だけど、今日はなぜか、真剣な顔つきで像を見上げる。

「……知らなかったか。こいつは“勇者クリストファー”の像だ」

「勇者……クリストファー?」

「そう。昔、この王都が魔物に襲われて、もう終わりかって時に――このクリストファーって男が、たった一人で最前線を押し上げたんだ。おかげで王都は滅びずに済んだ。今の“オリエンテ要塞”ができたのも、そのおかげ」

ハルートの声がどこか遠くを見ているようで、私は思わず聞き入る。

「すごい人だったんだね。……でも、なんだかこの像、少し寂しそうに見える」

「……そりゃそうさ」

ハルートは口を閉じ、少しだけ俯く。

やがて、ぽつりぽつりと語りはじめる。

「クリストファーは、魔物を倒して王都を救った。だけど……全てを救えたわけじゃない。王都に残ったのは、たくさんの“失われた命”と、“悲しみ”だった。

人々は悲しみをどうしていいかわからず……結局、全部“勇者”にぶつけたんだ」

「……え?」

「みんな、身近な人を亡くしてた。誰も魔物を恨んでどうにもならない。でも、目の前に“巨大な力”を持つ勇者がいる。『お前がもっと早ければ』『お前がもっと強ければ』って、無茶苦茶なことまで言われて……」

私は息をのむ。

クリストファー像の表情が、ほんの少し、憂いを帯びているように見えた。

「それで……どうなったの?」

「民衆の憎しみを煽った貴族がいた。王家はもう力を失ってて、誰も止められなかった。結局、勇者は“死刑”になったんだ。

たった一人で国を救った英雄が、最後は民衆の手で処刑された」

「……そんな……」

「皮肉なもんだよな」

ハルートはわざとらしく肩をすくめてみせたけど、横顔は少しだけ悲しそうだった。

「そのあと、また魔物が王都に攻めてきた。でも、勇者はいなくて……今度は大勢が犠牲になった。それで初めて、人々は自分たちの愚かさに気づいた。

だから、こうして像が建てられてる。あの日を、二度と忘れないために」

私は像の足元に近づき、金属のプレートに目を凝らす。

そこには――クリストファーの“最期の言葉”が刻まれていた。

『力は誰かのために振るうもの。しかし、その力が全てを救えるとは限らない。

それでも、私は――』

「……力って、難しいんだね」

思わず、ぽつりとこぼす。

「そうだな。正義も、責任も……結局、“誰かのため”に戦った奴ほど、最後は孤独になるのかもしれない」

「ハルートは……怖くないの? 正義とか、力とか」

彼は一瞬黙り、空を見上げた。

「怖いさ。でも、俺は……正しいと思ったことしかやらない」

「……うん。私も――」

(私も、妹のために強くなりたい。でも、“全部を救う”ことはできないって、今ならわかる気がする)

「ねえ、ハルート。この像が建ってる理由、教えてくれてありがとう」

私がそう言うと、彼は照れくさそうにそっぽを向く。

「……別に。知ってるやつ、少ないからな。

セレナ、お前……正義感は強いけど、無茶しすぎんなよ?」

「うん、大丈夫。私、無理しないって決めてるから……たぶん」

「“たぶん”かよ……」

そう言って、ハルートは苦笑い。

私は思わず、笑ってしまった。

夕暮れの広場。

勇者の像の影が、長く地面に伸びている。

私たちは、その足元で、しばらく黙って立ち尽くした。

王都の歴史――それは、“力を持つ者”の孤独と、責任の重さ。

でも、私たちの歩みは、まだ始まったばかり。

(勇者がたどり着けなかった“本当の救い”を、私は――見つけたい)

空には、明日へと続く夕焼けの光。

その下で、私はもう一度、妹のブローチをそっと握りしめた。

(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...