この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

文字の大きさ
14 / 34

第十六話 不穏な噂

しおりを挟む
今日も平和な王都の朝――のはずだったんだけど、ギルドに向かう途中の街の雰囲気が、なんだかいつもと違う気がした。

通りすがりの人たちが小声で何かを話し合っていたり、商店の店主が深刻そうな顔で首を振っていたり。私が通り過ぎても、いつものような挨拶もない。

(なんだろう……?)

胸の奥に小さな違和感を抱えたまま、ギルドの扉を開く。

「おはようございます!」

いつものように元気よく声をかけたけど、オリヴィアの表情は少し曇っていた。普段の穏やかな笑顔じゃなくて、心配そうに眉をひそめている。

「あ、セレナ。おはよう。今日は早いのね」

「はい! でも、なんだか街の雰囲気が変でした。何かあったんですか?」

オリヴィアは一瞬言葉に詰まって、それから小さくため息をついた。

「実は……ちょっと物騒な話なんだけど。最近、王都で殺人事件が相次いでいるの」

「え……殺人事件?」

背筋がぞくりと寒くなる。魔物の襲撃なら慣れているけど、人が人を――そんなことを考えただけで、胸が重くなった。

◆ ◆ ◆

オリヴィアに案内されて、ギルドの奥の会議室に向かう。人の出入りが少ない場所で、こういう重要な話をするときに使われるらしい。

「詳しい話を聞かせてください」

椅子に座りながら、私は身を乗り出した。

「ええ。実は、騎士団から情報収集の依頼が来ているの。正式な捜査は騎士団が行うけど、街の人たちから話を聞くのは、ギルドの方が得意だから」

オリヴィアは手元の資料をめくりながら話し始める。

「分かっていることは……まず、すべて夜間に発生していること。それから、被害者は不意打ちで襲われているわ」

「夜に、不意打ち……」

「そして一番気になるのが、被害者の職業。騎士団員、教会関係者、商人――立場の違う人たちが狙われているの」

私は首をかしげる。

「ばらばらな感じですね。なにか共通点は……?」

「それが、まだはっきりしないのよ。ただ……」

オリヴィアは困ったような表情を浮かべる。

「騎士団員も被害に遭っているということは、犯人は相当な実力者だと思われるの。おそらく、スキル持ちの可能性が高いわ」

「スキル持ちが……」

その言葉を聞いて、私の胸に複雑な気持ちが湧き上がる。スキルは人を守るためのもののはずなのに、それが人を傷つけるために使われているなんて。

「スキルって、本当に慎重に付与する必要があるのよね……」

オリヴィアがぽつりとつぶやく。まるで独り言のように。

「え?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと愚痴っぽくなっちゃった」

オリヴィアは苦笑いを浮かべる。

「スキルの付与儀式に関わっていると、時々思うの。この人に本当にスキルを渡して大丈夫かしら、って。でも、条件を満たしている以上、断ることはできないから……」

「そんなこと、考えたことありませんでした」

確かに、私がスキルをもらったときも、アリアナは手続きを淡々と進めてくれた。でも、その裏でこんな風に悩んでいる人もいるんだ。

「まあ、今回の件とは関係ないかもしれないけどね。とにかく、セレナには街の人たちから情報を集めてもらいたいの。普段の依頼のついでで構わないから」

「はい、分かりました!」

◆ ◆ ◆

会議室を出ると、ちょうどサラとハルートが訓練場から戻ってきたところだった。

「おはよう、セレナ! 今日も早いね」

サラが明るく手を振る。でも、ハルートの方はなんだか浮かない顔をしている。

「おはよう。二人とも、訓練お疲れさま」

「ハルート、どうしたの? なんだか元気ないけど」

サラが心配そうにハルートを覗き込む。

「……別に。ちょっと考え事してただけだ」

ハルートは短く答えて、視線を逸らした。いつものクールな態度だけど、今日は少し違う気がする。まるで、何かに苛立っているような……。

「そういえば、街で変な噂聞かない?」

私は試しに聞いてみる。

「噂?」

「殺人事件の話。最近、王都で起きてるらしいんだけど……」

その瞬間、ハルートの表情がわずかに変わった。ほんの一瞬だったけど、何かを隠すような、そんな顔に見えた。

「ああ、それなら少し聞いたことがある」

サラが答える。

「騎士団の人たちも警戒してるみたい。夜の巡回を増やしてるって話だし」

「そうなんだ……」

私はちらりとハルートを見る。彼はまだ何かを考え込んでいるようだった。

(気のせいかな……?)

でも、なんとなく胸のざわつきが収まらない。まるで、平和だった日常に、小さなひびが入り始めているような、そんな予感がした。

「とりあえず、今日も気をつけて依頼をこなそうか」

サラの提案で、私たちはそれぞれの仕事に向かった。

でも――歩きながら、私はもう一度ハルートの横顔を見た。

いつもより少し暗い表情の彼を見て、心の奥で小さな警鐘が鳴っているのを感じていた。

きっと、杞憂だと思いたい。

でも、この違和感が現実になったとき、私たちの日常は大きく変わってしまうのかもしれない。

そんな不安を胸に抱えながら、私は今日も王都の街へ向かった。

まだ知らない。

この後に待ち受けている、すべての悲劇を――。

(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...