この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第十六話 不穏な噂

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今日も平和な王都の朝――のはずだったんだけど、ギルドに向かう途中の街の雰囲気が、なんだかいつもと違う気がした。

通りすがりの人たちが小声で何かを話し合っていたり、商店の店主が深刻そうな顔で首を振っていたり。私が通り過ぎても、いつものような挨拶もない。

(なんだろう……?)

胸の奥に小さな違和感を抱えたまま、ギルドの扉を開く。

「おはようございます!」

いつものように元気よく声をかけたけど、オリヴィアの表情は少し曇っていた。普段の穏やかな笑顔じゃなくて、心配そうに眉をひそめている。

「あ、セレナ。おはよう。今日は早いのね」

「はい! でも、なんだか街の雰囲気が変でした。何かあったんですか?」

オリヴィアは一瞬言葉に詰まって、それから小さくため息をついた。

「実は……ちょっと物騒な話なんだけど。最近、王都で殺人事件が相次いでいるの」

「え……殺人事件?」

背筋がぞくりと寒くなる。魔物の襲撃なら慣れているけど、人が人を――そんなことを考えただけで、胸が重くなった。

◆ ◆ ◆

オリヴィアに案内されて、ギルドの奥の会議室に向かう。人の出入りが少ない場所で、こういう重要な話をするときに使われるらしい。

「詳しい話を聞かせてください」

椅子に座りながら、私は身を乗り出した。

「ええ。実は、騎士団から情報収集の依頼が来ているの。正式な捜査は騎士団が行うけど、街の人たちから話を聞くのは、ギルドの方が得意だから」

オリヴィアは手元の資料をめくりながら話し始める。

「分かっていることは……まず、すべて夜間に発生していること。それから、被害者は不意打ちで襲われているわ」

「夜に、不意打ち……」

「そして一番気になるのが、被害者の職業。騎士団員、教会関係者、商人――立場の違う人たちが狙われているの」

私は首をかしげる。

「ばらばらな感じですね。なにか共通点は……?」

「それが、まだはっきりしないのよ。ただ……」

オリヴィアは困ったような表情を浮かべる。

「騎士団員も被害に遭っているということは、犯人は相当な実力者だと思われるの。おそらく、スキル持ちの可能性が高いわ」

「スキル持ちが……」

その言葉を聞いて、私の胸に複雑な気持ちが湧き上がる。スキルは人を守るためのもののはずなのに、それが人を傷つけるために使われているなんて。

「スキルって、本当に慎重に付与する必要があるのよね……」

オリヴィアがぽつりとつぶやく。まるで独り言のように。

「え?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと愚痴っぽくなっちゃった」

オリヴィアは苦笑いを浮かべる。

「スキルの付与儀式に関わっていると、時々思うの。この人に本当にスキルを渡して大丈夫かしら、って。でも、条件を満たしている以上、断ることはできないから……」

「そんなこと、考えたことありませんでした」

確かに、私がスキルをもらったときも、アリアナは手続きを淡々と進めてくれた。でも、その裏でこんな風に悩んでいる人もいるんだ。

「まあ、今回の件とは関係ないかもしれないけどね。とにかく、セレナには街の人たちから情報を集めてもらいたいの。普段の依頼のついでで構わないから」

「はい、分かりました!」

◆ ◆ ◆

会議室を出ると、ちょうどサラとハルートが訓練場から戻ってきたところだった。

「おはよう、セレナ! 今日も早いね」

サラが明るく手を振る。でも、ハルートの方はなんだか浮かない顔をしている。

「おはよう。二人とも、訓練お疲れさま」

「ハルート、どうしたの? なんだか元気ないけど」

サラが心配そうにハルートを覗き込む。

「……別に。ちょっと考え事してただけだ」

ハルートは短く答えて、視線を逸らした。いつものクールな態度だけど、今日は少し違う気がする。まるで、何かに苛立っているような……。

「そういえば、街で変な噂聞かない?」

私は試しに聞いてみる。

「噂?」

「殺人事件の話。最近、王都で起きてるらしいんだけど……」

その瞬間、ハルートの表情がわずかに変わった。ほんの一瞬だったけど、何かを隠すような、そんな顔に見えた。

「ああ、それなら少し聞いたことがある」

サラが答える。

「騎士団の人たちも警戒してるみたい。夜の巡回を増やしてるって話だし」

「そうなんだ……」

私はちらりとハルートを見る。彼はまだ何かを考え込んでいるようだった。

(気のせいかな……?)

でも、なんとなく胸のざわつきが収まらない。まるで、平和だった日常に、小さなひびが入り始めているような、そんな予感がした。

「とりあえず、今日も気をつけて依頼をこなそうか」

サラの提案で、私たちはそれぞれの仕事に向かった。

でも――歩きながら、私はもう一度ハルートの横顔を見た。

いつもより少し暗い表情の彼を見て、心の奥で小さな警鐘が鳴っているのを感じていた。

きっと、杞憂だと思いたい。

でも、この違和感が現実になったとき、私たちの日常は大きく変わってしまうのかもしれない。

そんな不安を胸に抱えながら、私は今日も王都の街へ向かった。

まだ知らない。

この後に待ち受けている、すべての悲劇を――。

(つづく)
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