この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第十八話 暗闇の真実

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「今日の依頼、お疲れさま!」

サラが満足そうに背伸びをする。商人の護衛任務だったけど、魔物に襲われることもなく、無事に完了することができた。

「そうですね。平和な一日でした」

私も安堵の息をつく。昨日の貧民街での出来事があったから、今日はなんだか心が重かったけど、サラと一緒にいるとだんだん気持ちも軽くなってくる。

「そういえば、セレナ」

サラが振り返る。

「近くに例の殺人現場があるから、ちょっと見ていかない?」

「えっ、現場ですか?」

「騎士団の捜査は終わってるし、野次馬根性みたいで悪いけど……でも、冒険者として街の安全に関わることだから、現場の雰囲気くらい知っておいた方がいいと思うの」

確かに、それは一理ある。オリヴィアからも情報収集を頼まれているし。

「分かりました。行ってみましょう」

◆ ◆ ◆

現場は王都の比較的静かな住宅街の一角にあった。もう規制線は張られていないけど、血痕らしき黒いシミが石畳に残っているのを見て、私は思わず身震いした。

「ここで……」

「うん。三日前の夜に、商人の男性が襲われたって聞いてる」

サラが現場を見回しながら説明する。

「犯人は一度現場に戻ってくるって言うでしょ? だから時々様子を見に来てるの」

「そうなんですか」

私も辺りを見回す。夕方の薄暗い光の中で、普段は人通りの多い道も、なんだか不気味に見える。

そのとき――

路地の奥に、人影がちらりと見えた。

「サラさん、あそこ」

「え?」

サラが私の指差す方向を見る。黒い外套を着た人物が、こちらを見ているような気がした。

「あっ!」

サラが声を上げる。

「犯人かもしれない! 急いで!」

私たちは慌てて駆け出した。でも、人影は素早く路地の奥へ消えていく。

「待って!」

必死に追いかけるけど、相手の方が足が速い。それに、入り組んだ路地を熟知しているようで、私たちはすぐに見失ってしまった。

「はあ、はあ……駄目、逃げられちゃった」

サラが息を切らしながら膝に手をつく。

「でも、確かに誰かいましたよね」

「うん。怪しい格好してたし……もしかしたら本当に犯人だったかも」

「あの服装……」

私は記憶を辿る。黒い外套、がっしりした体格、そして歩き方。

「なんだか、見覚えがあるような……」

「え? 知ってる人?」

「分からないけど、なんとなく……あ」

その瞬間、私の頭に一つの可能性が浮かんだ。

あの体格、あの歩き方。

まさか――アラン?

「セレナ? どうしたの?」

「い、いえ。きっと気のせいです」

私は慌てて首を振る。でも、胸の奥の違和感は消えない。

アランが犯人だなんて、そんなことあるわけない。彼は私を助けてくれた人だし、騎士団の人なんだから。

でも――

「とりあえず、ギルドに報告しましょうか」

サラの提案で、私たちは現場を後にした。

◆ ◆ ◆

「現場で不審な人物を目撃した?」

オリヴィアが真剣な表情で聞き返す。

「はい。追いかけたんですけど、逃げられてしまって……」

「そう。でも、よく気がついたわね」

オリヴィアが私の頭を優しく撫でてくれる。いつものように温かい手のひらで、少し緊張がほぐれた。

「犯人とは限らないけど、何か知っている可能性はあるわね。特徴は覚えてる?」

「黒い外套を着ていて、がっしりした体格でした。歩き方に特徴があったような……」

私は、アランの名前を出すかどうか迷った。

でも、結局言えなかった。

確証もないのに、人を疑うようなことは言いたくない。それに、もしアランが本当に関係ないなら、彼に迷惑をかけてしまう。

「分かったわ。騎士団にも報告しておくわね」

「はい、お願いします」

◆ ◆ ◆

その夜、私は宿屋の自分の部屋でベッドに座り込んでいた。

窓の外は既に真っ暗で、街の灯りがぽつぽつと見える。

(アランが犯人だなんて、考えすぎよね……)

でも、一度浮かんだ疑念は、なかなか消えてくれない。

あの時助けてくれたアラン。優しくて、頼りになって、私にとっては恩人のような存在。

そんな彼が、人を殺すなんて。

「そんなわけない」

声に出して言ってみる。でも、自分の声が震えているのに気がついた。

もし――もしも、本当にアランが犯人だったら?

私が信じていた人が、実は……。

(駄目、考えちゃ駄目)

私は頭を振って、そんな考えを追い払おうとした。

でも、心の奥底で小さな声が囁いている。

――もしかしたら、もしかしたら……。

その夜、私はなかなか眠ることができなかった。

窓の外を時々見ては、黒い外套の人影がいないか確認してしまう。

きっと杞憂だ。

きっと考えすぎだ。

でも、もしそうじゃなかったら――。

真実を知るのが怖い。

でも、知らないままでいるのも怖い。

複雑な気持ちを抱えたまま、私は長い夜を過ごした。

明日になれば、この不安も消えてくれるだろうか。

それとも、もっと大きな真実が待っているのだろうか。

答えを求めて、でもその答えを恐れて。

私の心は、まるで暗い迷路の中を彷徨っているようだった。

(つづく)
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