16 / 34
第十八話 暗闇の真実
しおりを挟む
「今日の依頼、お疲れさま!」
サラが満足そうに背伸びをする。商人の護衛任務だったけど、魔物に襲われることもなく、無事に完了することができた。
「そうですね。平和な一日でした」
私も安堵の息をつく。昨日の貧民街での出来事があったから、今日はなんだか心が重かったけど、サラと一緒にいるとだんだん気持ちも軽くなってくる。
「そういえば、セレナ」
サラが振り返る。
「近くに例の殺人現場があるから、ちょっと見ていかない?」
「えっ、現場ですか?」
「騎士団の捜査は終わってるし、野次馬根性みたいで悪いけど……でも、冒険者として街の安全に関わることだから、現場の雰囲気くらい知っておいた方がいいと思うの」
確かに、それは一理ある。オリヴィアからも情報収集を頼まれているし。
「分かりました。行ってみましょう」
◆ ◆ ◆
現場は王都の比較的静かな住宅街の一角にあった。もう規制線は張られていないけど、血痕らしき黒いシミが石畳に残っているのを見て、私は思わず身震いした。
「ここで……」
「うん。三日前の夜に、商人の男性が襲われたって聞いてる」
サラが現場を見回しながら説明する。
「犯人は一度現場に戻ってくるって言うでしょ? だから時々様子を見に来てるの」
「そうなんですか」
私も辺りを見回す。夕方の薄暗い光の中で、普段は人通りの多い道も、なんだか不気味に見える。
そのとき――
路地の奥に、人影がちらりと見えた。
「サラさん、あそこ」
「え?」
サラが私の指差す方向を見る。黒い外套を着た人物が、こちらを見ているような気がした。
「あっ!」
サラが声を上げる。
「犯人かもしれない! 急いで!」
私たちは慌てて駆け出した。でも、人影は素早く路地の奥へ消えていく。
「待って!」
必死に追いかけるけど、相手の方が足が速い。それに、入り組んだ路地を熟知しているようで、私たちはすぐに見失ってしまった。
「はあ、はあ……駄目、逃げられちゃった」
サラが息を切らしながら膝に手をつく。
「でも、確かに誰かいましたよね」
「うん。怪しい格好してたし……もしかしたら本当に犯人だったかも」
「あの服装……」
私は記憶を辿る。黒い外套、がっしりした体格、そして歩き方。
「なんだか、見覚えがあるような……」
「え? 知ってる人?」
「分からないけど、なんとなく……あ」
その瞬間、私の頭に一つの可能性が浮かんだ。
あの体格、あの歩き方。
まさか――アラン?
「セレナ? どうしたの?」
「い、いえ。きっと気のせいです」
私は慌てて首を振る。でも、胸の奥の違和感は消えない。
アランが犯人だなんて、そんなことあるわけない。彼は私を助けてくれた人だし、騎士団の人なんだから。
でも――
「とりあえず、ギルドに報告しましょうか」
サラの提案で、私たちは現場を後にした。
◆ ◆ ◆
「現場で不審な人物を目撃した?」
オリヴィアが真剣な表情で聞き返す。
「はい。追いかけたんですけど、逃げられてしまって……」
「そう。でも、よく気がついたわね」
オリヴィアが私の頭を優しく撫でてくれる。いつものように温かい手のひらで、少し緊張がほぐれた。
「犯人とは限らないけど、何か知っている可能性はあるわね。特徴は覚えてる?」
「黒い外套を着ていて、がっしりした体格でした。歩き方に特徴があったような……」
私は、アランの名前を出すかどうか迷った。
でも、結局言えなかった。
確証もないのに、人を疑うようなことは言いたくない。それに、もしアランが本当に関係ないなら、彼に迷惑をかけてしまう。
「分かったわ。騎士団にも報告しておくわね」
「はい、お願いします」
◆ ◆ ◆
その夜、私は宿屋の自分の部屋でベッドに座り込んでいた。
窓の外は既に真っ暗で、街の灯りがぽつぽつと見える。
(アランが犯人だなんて、考えすぎよね……)
でも、一度浮かんだ疑念は、なかなか消えてくれない。
あの時助けてくれたアラン。優しくて、頼りになって、私にとっては恩人のような存在。
そんな彼が、人を殺すなんて。
「そんなわけない」
声に出して言ってみる。でも、自分の声が震えているのに気がついた。
もし――もしも、本当にアランが犯人だったら?
私が信じていた人が、実は……。
(駄目、考えちゃ駄目)
私は頭を振って、そんな考えを追い払おうとした。
でも、心の奥底で小さな声が囁いている。
――もしかしたら、もしかしたら……。
その夜、私はなかなか眠ることができなかった。
窓の外を時々見ては、黒い外套の人影がいないか確認してしまう。
きっと杞憂だ。
きっと考えすぎだ。
でも、もしそうじゃなかったら――。
真実を知るのが怖い。
でも、知らないままでいるのも怖い。
複雑な気持ちを抱えたまま、私は長い夜を過ごした。
明日になれば、この不安も消えてくれるだろうか。
それとも、もっと大きな真実が待っているのだろうか。
答えを求めて、でもその答えを恐れて。
私の心は、まるで暗い迷路の中を彷徨っているようだった。
(つづく)
サラが満足そうに背伸びをする。商人の護衛任務だったけど、魔物に襲われることもなく、無事に完了することができた。
「そうですね。平和な一日でした」
私も安堵の息をつく。昨日の貧民街での出来事があったから、今日はなんだか心が重かったけど、サラと一緒にいるとだんだん気持ちも軽くなってくる。
「そういえば、セレナ」
サラが振り返る。
「近くに例の殺人現場があるから、ちょっと見ていかない?」
「えっ、現場ですか?」
「騎士団の捜査は終わってるし、野次馬根性みたいで悪いけど……でも、冒険者として街の安全に関わることだから、現場の雰囲気くらい知っておいた方がいいと思うの」
確かに、それは一理ある。オリヴィアからも情報収集を頼まれているし。
「分かりました。行ってみましょう」
◆ ◆ ◆
現場は王都の比較的静かな住宅街の一角にあった。もう規制線は張られていないけど、血痕らしき黒いシミが石畳に残っているのを見て、私は思わず身震いした。
「ここで……」
「うん。三日前の夜に、商人の男性が襲われたって聞いてる」
サラが現場を見回しながら説明する。
「犯人は一度現場に戻ってくるって言うでしょ? だから時々様子を見に来てるの」
「そうなんですか」
私も辺りを見回す。夕方の薄暗い光の中で、普段は人通りの多い道も、なんだか不気味に見える。
そのとき――
路地の奥に、人影がちらりと見えた。
「サラさん、あそこ」
「え?」
サラが私の指差す方向を見る。黒い外套を着た人物が、こちらを見ているような気がした。
「あっ!」
サラが声を上げる。
「犯人かもしれない! 急いで!」
私たちは慌てて駆け出した。でも、人影は素早く路地の奥へ消えていく。
「待って!」
必死に追いかけるけど、相手の方が足が速い。それに、入り組んだ路地を熟知しているようで、私たちはすぐに見失ってしまった。
「はあ、はあ……駄目、逃げられちゃった」
サラが息を切らしながら膝に手をつく。
「でも、確かに誰かいましたよね」
「うん。怪しい格好してたし……もしかしたら本当に犯人だったかも」
「あの服装……」
私は記憶を辿る。黒い外套、がっしりした体格、そして歩き方。
「なんだか、見覚えがあるような……」
「え? 知ってる人?」
「分からないけど、なんとなく……あ」
その瞬間、私の頭に一つの可能性が浮かんだ。
あの体格、あの歩き方。
まさか――アラン?
「セレナ? どうしたの?」
「い、いえ。きっと気のせいです」
私は慌てて首を振る。でも、胸の奥の違和感は消えない。
アランが犯人だなんて、そんなことあるわけない。彼は私を助けてくれた人だし、騎士団の人なんだから。
でも――
「とりあえず、ギルドに報告しましょうか」
サラの提案で、私たちは現場を後にした。
◆ ◆ ◆
「現場で不審な人物を目撃した?」
オリヴィアが真剣な表情で聞き返す。
「はい。追いかけたんですけど、逃げられてしまって……」
「そう。でも、よく気がついたわね」
オリヴィアが私の頭を優しく撫でてくれる。いつものように温かい手のひらで、少し緊張がほぐれた。
「犯人とは限らないけど、何か知っている可能性はあるわね。特徴は覚えてる?」
「黒い外套を着ていて、がっしりした体格でした。歩き方に特徴があったような……」
私は、アランの名前を出すかどうか迷った。
でも、結局言えなかった。
確証もないのに、人を疑うようなことは言いたくない。それに、もしアランが本当に関係ないなら、彼に迷惑をかけてしまう。
「分かったわ。騎士団にも報告しておくわね」
「はい、お願いします」
◆ ◆ ◆
その夜、私は宿屋の自分の部屋でベッドに座り込んでいた。
窓の外は既に真っ暗で、街の灯りがぽつぽつと見える。
(アランが犯人だなんて、考えすぎよね……)
でも、一度浮かんだ疑念は、なかなか消えてくれない。
あの時助けてくれたアラン。優しくて、頼りになって、私にとっては恩人のような存在。
そんな彼が、人を殺すなんて。
「そんなわけない」
声に出して言ってみる。でも、自分の声が震えているのに気がついた。
もし――もしも、本当にアランが犯人だったら?
私が信じていた人が、実は……。
(駄目、考えちゃ駄目)
私は頭を振って、そんな考えを追い払おうとした。
でも、心の奥底で小さな声が囁いている。
――もしかしたら、もしかしたら……。
その夜、私はなかなか眠ることができなかった。
窓の外を時々見ては、黒い外套の人影がいないか確認してしまう。
きっと杞憂だ。
きっと考えすぎだ。
でも、もしそうじゃなかったら――。
真実を知るのが怖い。
でも、知らないままでいるのも怖い。
複雑な気持ちを抱えたまま、私は長い夜を過ごした。
明日になれば、この不安も消えてくれるだろうか。
それとも、もっと大きな真実が待っているのだろうか。
答えを求めて、でもその答えを恐れて。
私の心は、まるで暗い迷路の中を彷徨っているようだった。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる