この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第二十話 願いと笑い声

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「今日も訓練、頑張ろうね」

「ああ」

ハルートと向かい合って、いつものように訓練を始める。

二人ともまだスキルが使えない。バランに指導してもらっているけど、なかなか発動の兆しすら見えない。

「はあ、はあ……」

木剣を振るい、受け流し、また振るう。基本的な動作の繰り返しだけど、ハルートとの実力差は相変わらず感じる。

「セレナ、ちょっと休憩しようか」

「うん」

木剣を置いて、訓練場の端に腰を下ろす。ハルートも隣に座った。

「おい、セレナ」

「なに?」

「もしも……スキルが使えるようになって、誰にも負けない力を手に入れたらどうする?」

は少し考えて、それから屈託のない笑顔を浮かべた。

「誰にも負けないなら、目の前の人をバンバン救っちゃうよ」
即答だった。迷いも、躊躇もない。
その答えを聞いて、ハルートは少し驚いたような顔をした。それから、安心したような表情になる。
「そうか……」
ハルートが小さくつぶやいた。私と同じ気持ちを持っていることを確認できて、嬉しそうだった。
そのとき、ハルートが鼻で小さく笑った。

「ふっ」

「え? 何?」

「いや、別に」

でも、その笑い方は馬鹿にしているような笑いじゃなくて、なんだか安心したような、温かい笑いだった。きっと、私たちが同じ志を持っていることを確認できて、嬉しかったんだと思う。

でも、そんな素直な気持ちを見せるのが照れくさいのか、ハルートはわざと馬鹿にするような口調で言った。

「だから、知らない奴についていって、痛い目に会うんだよ」

「それは言わないで!」

私は少し怒って、ハルートの腕を叩いた。

「あはは、ごめんごめん」

そこにサラがやってきて、私たちのやり取りを見て笑い出した。

「あらあら、今日も仲良しね」

「仲良しじゃないです!」

「そうそう、仲良しじゃない」

でも、私たちが言えば言うほど、サラの笑いは止まらなくなった。

結局、三人で笑い合いながら、訓練を終えることになった。

◆ ◆ ◆

訓練場からギルドに戻る途中で、オリヴィアと出会った。

「お疲れさま、セレナ。今日も訓練だったの?」

「はい。でも、まだスキルは使えなくて……」

「焦らなくても大丈夫よ。きっと、セレナにとって大切な瞬間が来たときに、自然と使えるようになるから」

オリヴィアの優しい言葉に、少し元気が出る。

「そうだ、セレナ」

「はい?」

「最近、暗い話題が多いから、今度お食事でもしましょうか。美味しいものを食べて、楽しいお話をして、気分転換しない?」

「わあ、いいですね! ぜひお願いします!」

私が嬉しそうに答えると、後ろから声がした。

「セレナだけズルい!」

振り返ると、アリアナが少し膨れた顔でこちらを見ている。どうやら話を聞いていたらしい。

「あら、アリアナ」

オリヴィアは全く動じず、穏やかに微笑んだ。

「じゃあ、セレナの後にアリアナも一緒に行きましょうか」

「本当ですか?!」

アリアナの顔がぱあっと明るくなる。オリヴィアと一緒にお食事なんて、彼女にとっては夢みたいなことなんだろう。

「もちろんよ。楽しみにしていてね」

「はい! ありがとうございます!」

アリアナは嬉しそうに手をぎゅっと握りしめて、小さく飛び跳ねた。

その姿を見て、私も自然と笑顔になる。

こういう平和な日常が、ずっと続けばいいのに。

でも、心の奥で小さな不安がささやいている。

昨日見た人影のこと。アランへの疑念のこと。

(きっと考えすぎよね……)

私は首を振って、そんな暗い考えを追い払おうとした。

今は、オリヴィアやアリアナとの楽しい約束のことだけを考えていよう。

「それじゃあ、明日の夕方はどうかしら?」

「はい! 楽しみにしてます!」

「私も!」

三人で約束を取り付けて、それぞれの道を歩いていく。

訓練場からギルドの受付へ。

今日も一日が終わる。

平和で、穏やかで、温かい一日。

でも、私はまだ知らない。

この平和な日常が、もうすぐ大きく揺らぐことになるということを。

そして、信じていた仲間の中に、恐ろしい秘密を抱えた人がいるということを――。

◆ ◆ ◆

その夜、宿屋の自分の部屋で、私は窓の外を眺めていた。

王都の夜景が静かに広がっている。

明日はオリヴィアとお食事。楽しみだな。

アリアナも一緒だから、きっと賑やかになりそう。

そんな他愛もないことを考えながら、私はベッドに入った。

今日のハルートとの会話を思い出す。

「目の前の人をバンバン救っちゃうよ」

そのときの彼の笑顔は、本当に優しくて、頼もしかった。

私たちは同じ夢を持っている。

人を守りたい、救いたいという同じ気持ちを持っている。

だから、きっと大丈夫。

私たちは仲間だから。

そんな安心感に包まれながら、私は眠りについた。

まだ知らない。

その優しい笑顔の裏に、何が隠されているのかを――。

(つづく)
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