19 / 34
第二十一話 恐怖の影
しおりを挟む
「セレナ、緊急事態よ」
朝一番にギルドに向かうと、オリヴィアが深刻な表情で私を呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「また事件が発生したの。すぐに現場に向かってほしい」
胸に嫌な予感が走る。
「被害者は……?」
「騎士団員よ。タリアンの相方の」
私の血の気が引いた。昨日あれだけ元気に話していたのに。
◆ ◆ ◆
現場に着くと、すでに騎士団の人たちが検証を行っていた。そして、その中にタリアンの姿も見える。
私たち三人が到着すると、タリアンがこちらに気づいた。
「あ……冒険者の連中」
いつもの偉そうな態度とは全然違う。震え声で、顔色も青白い。
「タリアン……」
私が声をかけると、彼はびくりと肩を震わせた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫って……大丈夫なわけないだろ」
タリアンの声に、今まで聞いたことのない弱さが混じっている。
「なんで……どうしてこんなことに……」
「タリアン」
サラが優しく声をかける。
「何か、心当たりはあるの?」
「心当たりって……」
タリアンが急に怯えたような表情になる。
「もしかして、今度は俺じゃないかって……そう思ってるんだ」
「なぜそんなことを?」
私が尋ねると、タリアンは周りを見回してから、小声で答えた。
「俺たちには……非公式なグループがあったんだ。5人の騎士で作ってた」
「グループ?」
「その……あまり褒められたことじゃないけど、街の連中から小銭をもらったり、ちょっとした嫌がらせをしたり……」
サラの表情が厳しくなる。
「不正をしていたということね」
「そんな大層なもんじゃない! ちょっとした小遣い稼ぎだよ!」
タリアンが慌てて言い訳する。
「でも……今回の事件の被害者は、全部そのグループのメンバーなんだ」
私たちは顔を見合わせた。
「全部って……」
「俺以外は、もう……」
タリアンの声が震える。
「生き残りは俺だけなんだ。だから、きっと次は……」
そのとき、タリアンの強がりが復活した。
「でも、俺は違うからな! そんな簡単に殺されてたまるか!」
そう言い放って、タリアンは足早にその場を去っていく。
でも、その後ろ姿は明らかに怯えていた。
◆ ◆ ◆
タリアンが去った後、私たちは現場の状況を確認した。
「やはり、深夜の巡回中に襲われたようですね」
サラが騎士団の人から聞いた情報を教えてくれる。
「犯行の手口も、今までと同じ。一撃で致命傷を与えられている」
私は現場を見回しながら、何か手がかりがないか探していた。
そのとき――
建物の影に、人影がちらりと見えた。
(また……!)
今度こそ確認しなければ。私は足音を立てないように、そっとその方向に向かう。
影の中に佇む人物。黒い外套を着て、こちらに背を向けている。
体格、立ち振る舞い、そして――
(やっぱり、アラン?)
その人物がゆっくりと振り返りかける。
私は慌てて身を隠そうとしたけど、足音を立ててしまった。
人影は素早く、路地の奥へと消えていく。
「セレナ? どうしたの?」
サラとハルートが駆け寄ってくる。
「あそこに……また例の人が」
「え? どこ?」
私が指差した方向を見るけど、もう誰もいない。
「逃げられちゃいました……」
「そうか……残念だったな」
ハルートが少し悔しそうに言う。
「でも、セレナがいなかったら気づけなかった。君の観察力はすごいよ」
彼の言葉に、私は複雑な気持ちになった。
褒められて嬉しい反面、見たものがアランだったかもしれないという不安が消えない。
◆ ◆ ◆
次の日、ハルートと二人で街を歩いていた。
「昨日、タリアンが言ってた話、どう思う?」
「不正をしていた騎士たちが狙われてるってことか」
「うん。もしそうなら、犯人にとって何か理由があるのかも」
ハルートは少し考え込むような表情を見せた。
「正義感の強い人間なのかもしれないな。不正を許せない、とか」
「そうかもしれませんね」
私たちは、以前アランと出会った場所にも立ち寄ってみた。もしかしたら、また会えるかもしれないと思って。
でも、結局アランには会えなかった。
「いないみたいだね」
「そうですね……」
少し残念に思っていると、突然ならず者5人に囲まれた。
「おい、お前ら。金を出せ」
「え?」
「聞こえなかったのか? 金を出せって言ってんだよ」
5人の男たちが、にやにやしながら私たちを取り囲む。
「セレナ、下がってて」
ハルートが前に出る。
「ハルート、でも5人も……」
「大丈夫だ」
そう言って、ハルートは構えを取った。
そして――
あっという間だった。
ハルートの動きが、まるで別人のように素早くなる。5人のならず者を、まるで子供扱いするように、次々と倒していく。
「う、うわあああ!」
「化け物だ!」
ならず者たちは慌てて逃げていく。
「ハルート……すごい」
私は呆然と立ち尽くしていた。
「そんなに強かったなんて……」
「俺だって、それなりに上達してるんだぜ」
ハルートが少し得意げに言う。
でも、その時の彼の動きは、明らかに普通の冒険者のレベルを超えていた。
(もしかして、スキルを……?)
そんな疑問が頭をよぎったけど、口には出さなかった。
もしスキルが使えるようになったなら、教えてくれるはずだから。
でも、心の奥で小さな違和感を感じていた。
◆ ◆ ◆
その時、私たちは気づかなかった。
遠くの建物の影で、黒い外套の人物が一部始終を見ていたことを。
その人物が、静かに微笑んでいたことを。
そして、すべてが計画通りに進んでいることを確認して、再び闇の中に消えていったことを――。
真実は、まだ隠されたままだった。
でも、少しずつ、確実に、表面に浮かび上がろうとしていた。
私たちの平和な日常に、大きな影が落ちようとしている。
その影の正体を知ったとき、すべてが変わってしまうのだ。
(つづく)
朝一番にギルドに向かうと、オリヴィアが深刻な表情で私を呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「また事件が発生したの。すぐに現場に向かってほしい」
胸に嫌な予感が走る。
「被害者は……?」
「騎士団員よ。タリアンの相方の」
私の血の気が引いた。昨日あれだけ元気に話していたのに。
◆ ◆ ◆
現場に着くと、すでに騎士団の人たちが検証を行っていた。そして、その中にタリアンの姿も見える。
私たち三人が到着すると、タリアンがこちらに気づいた。
「あ……冒険者の連中」
いつもの偉そうな態度とは全然違う。震え声で、顔色も青白い。
「タリアン……」
私が声をかけると、彼はびくりと肩を震わせた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫って……大丈夫なわけないだろ」
タリアンの声に、今まで聞いたことのない弱さが混じっている。
「なんで……どうしてこんなことに……」
「タリアン」
サラが優しく声をかける。
「何か、心当たりはあるの?」
「心当たりって……」
タリアンが急に怯えたような表情になる。
「もしかして、今度は俺じゃないかって……そう思ってるんだ」
「なぜそんなことを?」
私が尋ねると、タリアンは周りを見回してから、小声で答えた。
「俺たちには……非公式なグループがあったんだ。5人の騎士で作ってた」
「グループ?」
「その……あまり褒められたことじゃないけど、街の連中から小銭をもらったり、ちょっとした嫌がらせをしたり……」
サラの表情が厳しくなる。
「不正をしていたということね」
「そんな大層なもんじゃない! ちょっとした小遣い稼ぎだよ!」
タリアンが慌てて言い訳する。
「でも……今回の事件の被害者は、全部そのグループのメンバーなんだ」
私たちは顔を見合わせた。
「全部って……」
「俺以外は、もう……」
タリアンの声が震える。
「生き残りは俺だけなんだ。だから、きっと次は……」
そのとき、タリアンの強がりが復活した。
「でも、俺は違うからな! そんな簡単に殺されてたまるか!」
そう言い放って、タリアンは足早にその場を去っていく。
でも、その後ろ姿は明らかに怯えていた。
◆ ◆ ◆
タリアンが去った後、私たちは現場の状況を確認した。
「やはり、深夜の巡回中に襲われたようですね」
サラが騎士団の人から聞いた情報を教えてくれる。
「犯行の手口も、今までと同じ。一撃で致命傷を与えられている」
私は現場を見回しながら、何か手がかりがないか探していた。
そのとき――
建物の影に、人影がちらりと見えた。
(また……!)
今度こそ確認しなければ。私は足音を立てないように、そっとその方向に向かう。
影の中に佇む人物。黒い外套を着て、こちらに背を向けている。
体格、立ち振る舞い、そして――
(やっぱり、アラン?)
その人物がゆっくりと振り返りかける。
私は慌てて身を隠そうとしたけど、足音を立ててしまった。
人影は素早く、路地の奥へと消えていく。
「セレナ? どうしたの?」
サラとハルートが駆け寄ってくる。
「あそこに……また例の人が」
「え? どこ?」
私が指差した方向を見るけど、もう誰もいない。
「逃げられちゃいました……」
「そうか……残念だったな」
ハルートが少し悔しそうに言う。
「でも、セレナがいなかったら気づけなかった。君の観察力はすごいよ」
彼の言葉に、私は複雑な気持ちになった。
褒められて嬉しい反面、見たものがアランだったかもしれないという不安が消えない。
◆ ◆ ◆
次の日、ハルートと二人で街を歩いていた。
「昨日、タリアンが言ってた話、どう思う?」
「不正をしていた騎士たちが狙われてるってことか」
「うん。もしそうなら、犯人にとって何か理由があるのかも」
ハルートは少し考え込むような表情を見せた。
「正義感の強い人間なのかもしれないな。不正を許せない、とか」
「そうかもしれませんね」
私たちは、以前アランと出会った場所にも立ち寄ってみた。もしかしたら、また会えるかもしれないと思って。
でも、結局アランには会えなかった。
「いないみたいだね」
「そうですね……」
少し残念に思っていると、突然ならず者5人に囲まれた。
「おい、お前ら。金を出せ」
「え?」
「聞こえなかったのか? 金を出せって言ってんだよ」
5人の男たちが、にやにやしながら私たちを取り囲む。
「セレナ、下がってて」
ハルートが前に出る。
「ハルート、でも5人も……」
「大丈夫だ」
そう言って、ハルートは構えを取った。
そして――
あっという間だった。
ハルートの動きが、まるで別人のように素早くなる。5人のならず者を、まるで子供扱いするように、次々と倒していく。
「う、うわあああ!」
「化け物だ!」
ならず者たちは慌てて逃げていく。
「ハルート……すごい」
私は呆然と立ち尽くしていた。
「そんなに強かったなんて……」
「俺だって、それなりに上達してるんだぜ」
ハルートが少し得意げに言う。
でも、その時の彼の動きは、明らかに普通の冒険者のレベルを超えていた。
(もしかして、スキルを……?)
そんな疑問が頭をよぎったけど、口には出さなかった。
もしスキルが使えるようになったなら、教えてくれるはずだから。
でも、心の奥で小さな違和感を感じていた。
◆ ◆ ◆
その時、私たちは気づかなかった。
遠くの建物の影で、黒い外套の人物が一部始終を見ていたことを。
その人物が、静かに微笑んでいたことを。
そして、すべてが計画通りに進んでいることを確認して、再び闇の中に消えていったことを――。
真実は、まだ隠されたままだった。
でも、少しずつ、確実に、表面に浮かび上がろうとしていた。
私たちの平和な日常に、大きな影が落ちようとしている。
その影の正体を知ったとき、すべてが変わってしまうのだ。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる