この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第二十三話 恐怖の影

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「セレナ、緊急事態よ」

朝一番にギルドに向かうと、オリヴィアが深刻な表情で私を呼び止めた。

「どうしたんですか?」

「また事件が発生したの。すぐに現場に向かってほしい」

胸に嫌な予感が走る。

「被害者は……?」

「騎士団員よ。タリアンの相方の」

私の血の気が引いた。昨日あれだけ元気に話していたのに。

◆ ◆ ◆

現場に着くと、すでに騎士団の人たちが検証を行っていた。そして、その中にタリアンの姿も見える。

私たち三人が到着すると、タリアンがこちらに気づいた。

「あ……冒険者の連中」

いつもの偉そうな態度とは全然違う。震え声で、顔色も青白い。

「タリアン……」

私が声をかけると、彼はびくりと肩を震わせた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫って……大丈夫なわけないだろ」

タリアンの声に、今まで聞いたことのない弱さが混じっている。

「なんで……どうしてこんなことに……」

「タリアン」

サラが優しく声をかける。

「何か、心当たりはあるの?」

「心当たりって……」

タリアンが急に怯えたような表情になる。

「もしかして、今度は俺じゃないかって……そう思ってるんだ」

「なぜそんなことを?」

私が尋ねると、タリアンは周りを見回してから、小声で答えた。

「俺たちには……非公式なグループがあったんだ。5人の騎士で作ってた」

「グループ?」

「その……あまり褒められたことじゃないけど、街の連中から小銭をもらったり、ちょっとした嫌がらせをしたり……」

サラの表情が厳しくなる。

「不正をしていたということね」

「そんな大層なもんじゃない! ちょっとした小遣い稼ぎだよ!」

タリアンが慌てて言い訳する。

「でも……今回の事件の被害者は、全部そのグループのメンバーなんだ」

私たちは顔を見合わせた。

「全部って……」

「俺以外は、もう……」

タリアンの声が震える。

「生き残りは俺だけなんだ。だから、きっと次は……」

そのとき、タリアンの強がりが復活した。

「でも、俺は違うからな! そんな簡単に殺されてたまるか!」

そう言い放って、タリアンは足早にその場を去っていく。

でも、その後ろ姿は明らかに怯えていた。

◆ ◆ ◆

タリアンが去った後、私たちは現場の状況を確認した。

「やはり、深夜の巡回中に襲われたようですね」

サラが騎士団の人から聞いた情報を教えてくれる。

「犯行の手口も、今までと同じ。一撃で致命傷を与えられている」

私は現場を見回しながら、何か手がかりがないか探していた。

そのとき――

建物の影に、人影がちらりと見えた。

(また……!)

今度こそ確認しなければ。私は足音を立てないように、そっとその方向に向かう。

影の中に佇む人物。黒い外套を着て、こちらに背を向けている。

体格、立ち振る舞い、そして――

(やっぱり、アラン?)

その人物がゆっくりと振り返りかける。

私は慌てて身を隠そうとしたけど、足音を立ててしまった。

人影は素早く、路地の奥へと消えていく。

「セレナ? どうしたの?」

サラとハルートが駆け寄ってくる。

「あそこに……また例の人が」

「え? どこ?」

私が指差した方向を見るけど、もう誰もいない。

「逃げられちゃいました……」

「そうか……残念だったな」

ハルートが少し悔しそうに言う。

「でも、セレナがいなかったら気づけなかった。君の観察力はすごいよ」

彼の言葉に、私は複雑な気持ちになった。

褒められて嬉しい反面、見たものがアランだったかもしれないという不安が消えない。

◆ ◆ ◆

次の日、ハルートと二人で街を歩いていた。

「昨日、タリアンが言ってた話、どう思う?」

「不正をしていた騎士たちが狙われてるってことか」

「うん。もしそうなら、犯人にとって何か理由があるのかも」

ハルートは少し考え込むような表情を見せた。

「正義感の強い人間なのかもしれないな。不正を許せない、とか」

「そうかもしれませんね」

私たちは、以前アランと出会った場所にも立ち寄ってみた。もしかしたら、また会えるかもしれないと思って。

でも、結局アランには会えなかった。

「いないみたいだね」

「そうですね……」

少し残念に思っていると、突然ならず者5人に囲まれた。

「おい、お前ら。金を出せ」

「え?」

「聞こえなかったのか? 金を出せって言ってんだよ」

5人の男たちが、にやにやしながら私たちを取り囲む。

「セレナ、下がってて」

ハルートが前に出る。

「ハルート、でも5人も……」

「大丈夫だ」

そう言って、ハルートは構えを取った。

そして――

あっという間だった。

ハルートの動きが、まるで別人のように素早くなる。5人のならず者を、まるで子供扱いするように、次々と倒していく。

「う、うわあああ!」

「化け物だ!」

ならず者たちは慌てて逃げていく。

「ハルート……すごい」

私は呆然と立ち尽くしていた。

「そんなに強かったなんて……」

「俺だって、それなりに上達してるんだぜ」

ハルートが少し得意げに言う。

でも、その時の彼の動きは、明らかに普通の冒険者のレベルを超えていた。

(もしかして、スキルを……?)

そんな疑問が頭をよぎったけど、口には出さなかった。

もしスキルが使えるようになったなら、教えてくれるはずだから。

でも、心の奥で小さな違和感を感じていた。

◆ ◆ ◆

その時、私たちは気づかなかった。

遠くの建物の影で、黒い外套の人物が一部始終を見ていたことを。

その人物が、静かに微笑んでいたことを。

そして、すべてが計画通りに進んでいることを確認して、再び闇の中に消えていったことを――。

真実は、まだ隠されたままだった。

でも、少しずつ、確実に、表面に浮かび上がろうとしていた。

私たちの平和な日常に、大きな影が落ちようとしている。

その影の正体を知ったとき、すべてが変わってしまうのだ。

(つづく)
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