この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第二十五話 立ち上がる意志

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どれくらい眠ったのか分からないけど、目を覚ますとお腹が空いていた。

夢の中でも、ハルートやオリヴィアが現れて、私を苦しめ続けた。

でも、現実に戻ってきても、状況は何も変わっていない。

オリヴィアは死んだままだし、ハルートは犯人のままだ。

それでも、お腹は容赦なく空く。

人間の体は、悲しみとは関係なく、生きるために動き続けるんだ。

ベッドから起き上がって、部屋を出る。

何も食べたくない気がしていたけど、体が食べ物を求めている。

宿屋の食事処に向かった。

◆ ◆ ◆

「あ、セレナちゃん。起きたのね」

宿主が気遣うような笑顔で迎えてくれる。

「はい……」

「大変だったみたいだけど、とりあえず何か食べなさい。温かいスープがあるから」

宿主の優しさが、胸に染みる。

でも、今の私には、その優しさに応える元気がなかった。

「ありがとうございます……」

席に座ると、すぐに温かいスープが運ばれてきた。

一口飲むと、急に食欲が爆発した。

手が止まらなくなる。

さっきまで何も食べたくないと思っていたのに、今度は食べることしか考えられない。

こんな状況なのに、お腹は減るんだ。

オリヴィアは死んだのに、私は生きている。

そんな自分が、なんだか悔しかった。

涙が出てきた。

悲しいけど、お腹は減る。

辛いけど、食べ物は美味しい。

そんな矛盾した感情に、混乱してしまう。

「くす」

隣のテーブルで、バランが笑っていた。

いつからそこにいたのか、朝から酒を飲んでいる。

「丸一日寝てたな」

「バランさん……」

「無事で何よりだ」

バランがのんびりとした口調で言う。

「泣きながら飯を食うなんて、面白い奴だな」

「面白くなんて……」

でも、確かに私は涙を流しながら、スープをすすっていた。

我ながら、変な光景だと思う。

「人間、悲しんでも腹は減る。当たり前のことだ」

バランが大笑いする。

「だから、飯は食え。生きてる証拠だからな」

その言葉で、少しだけ気持ちが楽になった。

生きているから、お腹が空く。

生きているから、涙が出る。

生きているから、悲しい。

それでいいのかもしれない。

罪悪感を抱く必要はないんだ。

「ありがとうございます、バランさん」

「礼を言われるようなことは何もしてない」

バランが酒をぐいっと飲み干す。

「さて、俺は行くぞ」

「どこに行くんですか?」

「お前が安全だってことが分かったからな。やることができた」

バランが席を立つ。

「自分が何をするか、自分で考えろ」

そう言って、バランは宿屋を出て行った。

私一人が残された。

でも、少しだけ前向きな気持ちになっていた。

まだ、これからどうすればいいのか分からない。

でも、とりあえず生きている。

それだけは確かだった。

◆ ◆ ◆

食事を終えて、私は自分の部屋に戻った。

窓際の椅子に座って、外の景色を眺める。

王都の街並みは、いつもと変わらず平和に見える。

人々が普通に生活をして、普通に笑い合って、普通に過ごしている。

昨日あんなことがあったのに、世界は何事もなかったように回り続けている。

(当たり前よね……)

私にとっては大きな出来事だったけど、他の人たちには関係ないことだ。

みんな、それぞれの人生を生きている。

私も、自分の人生を歩んでいかなければならない。

でも、どうやって?

これからどうすればいいのか、全く分からない。

ハルートを追いかけるべきなのか。

それとも、諦めて元の生活に戻るべきなのか。

答えが見つからない。

そのとき、ノックの音がした。

「はい」

「セレナ、私よ」

サラの声だった。

扉を開けると、サラが心配そうな顔で立っている。

「調子はどう?」

「少し、良くなりました」

「そう、良かった」

サラが部屋に入ってくる。

「実は、騎士団から連絡があったの」

「騎士団から?」

「明日、正式な事情聴取があるそうよ。今日話したことを、もう一度詳しく聞かせてほしいって」

私は少し身構えた。

また、あの辛い記憶を話さなければならないのか。

「大丈夫。私も一緒について行くから」

サラの言葉で、少し安心した。

一人じゃない。

サラがいてくれる。

「それと……」

サラが少し躊躇してから、続けた。

「アランという人のことも聞かれるかもしれない」

「アラン?」

「セレナが以前、怪しい人影を見たって話してたでしょ? その人の特徴を聞きたいらしいの」

私は心の奥で、複雑な気持ちになった。

アランのことを疑っていた自分が、今となっては恥ずかしい。

真犯人はハルートだったのに、私は全然違う人を疑っていた。

「分かりました。答えられることは、答えます」

「ありがとう。辛いでしょうけど、真実を明らかにするためには必要なことだから」

サラの言葉に、私は頷いた。

確かに、辛い。

でも、オリヴィアのためにも、ちゃんと真実を話さなければならない。

それが、生き残った私の責任なのかもしれない。

◆ ◆ ◆

サラが帰った後、私は再び窓の外を眺めていた。

夕日が沈んでいく。

また一日が終わろうとしている。

でも、何も考えることができない。

頭の中は、まだ混乱したままだった。

オリヴィアの最期の姿。

ハルートの冷たい目。

血のついた短剣。

それらの記憶が、ぐるぐると頭の中を回り続けている。

これからどうすればいいのか、全く分からない。

考えようとしても、思考がまとまらない。

ただ、ぼんやりと座っているだけ。

時間だけが過ぎていく。

夜が来て、また朝が来る。

時間は止まってくれない。

でも、私の心は止まったままだった。

オリヴィアがいない現実を、まだ受け入れることができずにいた。

そんな気持ちで、私は長い夜を過ごした。

宿主が、私の大食いっぷりに驚いて、後でとんでもないツケを回してくることになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。

(つづく)
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