30 / 34
第三十二話 取り返しのつかない現実
しおりを挟む
「これは……まずい……」
騎士団員の声が、だんだん大きくなってきた。
私たちは不安になって、ハルートが運ばれている方向を見る。
担架の周りに、何人かの騎士団員が集まっている。
みんな、深刻な表情をしていた。
「どうしたんでしょう……?」
アリアナが心配そうに呟く。
そのとき、騎士団員の一人がこちらに向かって歩いてきた。
表情は、とても重々しい。
「申し訳ございません……」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸に嫌な予感が走った。
◆ ◆ ◆
「何かあったんですか?」
サラが代表して聞く。
騎士団員は、明らかに言いにくそうにしていた。
「実は……攻撃スキルが心臓に直撃していまして……」
私の血の気が引いた。
「まさか……」
「即死でした」
その瞬間、世界が止まったような気がした。
ハルートが……死んだ?
私が……殺したの?
「そんな……嘘でしょ……?」
私の声が震える。
でも、騎士団員の深刻な表情を見れば、それが事実だということが分かった。
「セレナ……」
アリアナが私の名前を呼ぶけど、私には何も聞こえなかった。
頭が真っ白になって、何も考えられない。
◆ ◆ ◆
私は、ハルートを殺してしまった。
止めるつもりだった。
捕まえるつもりだった。
殺すつもりなんて、全然なかった。
でも、結果的に私が彼の命を奪ってしまった。
大切な仲間の命を。
「セレナ、しっかりして」
サラが私の肩を揺する。
でも、私は現実を受け入れることができなかった。
ハルートは確かに罪を犯した。
でも、死ぬほどの罪だったのだろうか。
それに、彼には事情があったんだ。
両親を殺された怒りと、正義への想いが、彼を間違った道に導いてしまった。
でも、それでも……彼は私の仲間だった。
◆ ◆ ◆
そのとき、意外な声が聞こえてきた。
「バチが当たったんだよ!」
振り返ると、タリアンが大笑いしていた。
ハルートが死んだと聞いて、急に元気になったようだ。
「あの世で後悔しな!」
タリアンがハルートの遺体に向かって叫ぶ。
死んでしまうかもしれないという恐怖から解放されて、すっかり調子を取り戻したようだった。
でも、その光景を見て、私は更に気分が悪くなった。
確かにハルートは罪を犯した。
でも、こんな風に死を嘲笑われるほどの人間だったのだろうか。
私の知っているハルートは、優しくて、正義感が強くて、仲間想いの青年だった。
そんな彼が、なぜこんなことになってしまったのだろう。
◆ ◆ ◆
「タリアン」
そのとき、後ろから騎士団員が声をかけた。
「今度は、お前がバチを受ける番だ」
タリアンが振り返ると、騎士団員が何かの書類を持っていた。
「え……? 何それ……?」
「お前たちの不正行為の証拠だ。ハルートが残していた記録と、物的証拠が揃っている」
タリアンの顔が青ざめる。
「ちょっと待てよ……俺は被害者だぞ?」
「被害者であると同時に、犯罪者でもある」
騎士団員がタリアンに手錠をかける。
「不正の証拠隠滅、収賄、職権乱用……数え切れないほどの罪状がある」
「そんな……」
タリアンが慌てふためく。
さっきまでの勢いは、もうどこにもなかった。
「俺は……俺は騙されただけだ! みんなでやってたことだろ!」
でも、騎士団員は聞く耳を持たない。
タリアンは、そのまま連行されていった。
◆ ◆ ◆
その光景を見て、私は複雑な気持ちになった。
確かに、タリアンたちの不正行為は許されることではない。
でも、ハルートがそれを裁くために人を殺すことも、許されることではなかった。
そして、私がハルートを殺してしまったことも……。
正義って、一体何なんだろう。
正しいことをしようとして、でも結果的に間違ったことをしてしまう。
その繰り返しで、誰も幸せになれない。
「セレナ……」
サラが心配そうに私を見る。
「大丈夫?」
「分からない……」
私は正直に答えた。
「何が正しくて、何が間違っているのか、もう分からない」
「セレナ……」
アリアナも心配そうに私を見ている。
でも、私には何と答えていいのか分からなかった。
◆ ◆ ◆
そのとき、騎士団員がまた私たちの方にやってきた。
今度は、私に向かって。
「申し訳ございませんが……」
私は覚悟を決めた。
きっと、私も逮捕されるんだろう。
攻撃スキルの使用と、殺人の罪で。
「気持ちは分かりますが、攻撃スキルの使用と殺人で、拘束させていただきます」
やはり、そうだった。
私は騎士団に捕まることになった。
でも、不思議と抵抗する気持ちは起きなかった。
ハルートを殺してしまった。
それは事実だから。
私には、その責任を取る義務がある。
「セレナ!」
アリアナが叫ぶ。
「そんな……セレナは悪くない!」
「アリアナ……」
「ハルートを止めただけでしょう? 正当防衛よ!」
でも、私にはそう思えなかった。
確かに、ハルートを止めようとした。
でも、結果的に彼を殺してしまった。
その事実は変わらない。
「大丈夫」
私はアリアナに微笑みかける。
「きっと、すぐに戻ってくるから」
嘘だった。
いつ戻ってこられるのか、全く分からない。
もしかしたら、もう戻ってこられないかもしれない。
でも、アリアナを安心させたかった。
私は、騎士団に連れられて、その場を去った。
朝日が昇る中、新しい一日が始まろうとしている。
でも、私の心は、深い闇の中にあった。
取り返しのつかないことをしてしまった。
その現実が、重くのしかかってきていた。
(つづく)
騎士団員の声が、だんだん大きくなってきた。
私たちは不安になって、ハルートが運ばれている方向を見る。
担架の周りに、何人かの騎士団員が集まっている。
みんな、深刻な表情をしていた。
「どうしたんでしょう……?」
アリアナが心配そうに呟く。
そのとき、騎士団員の一人がこちらに向かって歩いてきた。
表情は、とても重々しい。
「申し訳ございません……」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸に嫌な予感が走った。
◆ ◆ ◆
「何かあったんですか?」
サラが代表して聞く。
騎士団員は、明らかに言いにくそうにしていた。
「実は……攻撃スキルが心臓に直撃していまして……」
私の血の気が引いた。
「まさか……」
「即死でした」
その瞬間、世界が止まったような気がした。
ハルートが……死んだ?
私が……殺したの?
「そんな……嘘でしょ……?」
私の声が震える。
でも、騎士団員の深刻な表情を見れば、それが事実だということが分かった。
「セレナ……」
アリアナが私の名前を呼ぶけど、私には何も聞こえなかった。
頭が真っ白になって、何も考えられない。
◆ ◆ ◆
私は、ハルートを殺してしまった。
止めるつもりだった。
捕まえるつもりだった。
殺すつもりなんて、全然なかった。
でも、結果的に私が彼の命を奪ってしまった。
大切な仲間の命を。
「セレナ、しっかりして」
サラが私の肩を揺する。
でも、私は現実を受け入れることができなかった。
ハルートは確かに罪を犯した。
でも、死ぬほどの罪だったのだろうか。
それに、彼には事情があったんだ。
両親を殺された怒りと、正義への想いが、彼を間違った道に導いてしまった。
でも、それでも……彼は私の仲間だった。
◆ ◆ ◆
そのとき、意外な声が聞こえてきた。
「バチが当たったんだよ!」
振り返ると、タリアンが大笑いしていた。
ハルートが死んだと聞いて、急に元気になったようだ。
「あの世で後悔しな!」
タリアンがハルートの遺体に向かって叫ぶ。
死んでしまうかもしれないという恐怖から解放されて、すっかり調子を取り戻したようだった。
でも、その光景を見て、私は更に気分が悪くなった。
確かにハルートは罪を犯した。
でも、こんな風に死を嘲笑われるほどの人間だったのだろうか。
私の知っているハルートは、優しくて、正義感が強くて、仲間想いの青年だった。
そんな彼が、なぜこんなことになってしまったのだろう。
◆ ◆ ◆
「タリアン」
そのとき、後ろから騎士団員が声をかけた。
「今度は、お前がバチを受ける番だ」
タリアンが振り返ると、騎士団員が何かの書類を持っていた。
「え……? 何それ……?」
「お前たちの不正行為の証拠だ。ハルートが残していた記録と、物的証拠が揃っている」
タリアンの顔が青ざめる。
「ちょっと待てよ……俺は被害者だぞ?」
「被害者であると同時に、犯罪者でもある」
騎士団員がタリアンに手錠をかける。
「不正の証拠隠滅、収賄、職権乱用……数え切れないほどの罪状がある」
「そんな……」
タリアンが慌てふためく。
さっきまでの勢いは、もうどこにもなかった。
「俺は……俺は騙されただけだ! みんなでやってたことだろ!」
でも、騎士団員は聞く耳を持たない。
タリアンは、そのまま連行されていった。
◆ ◆ ◆
その光景を見て、私は複雑な気持ちになった。
確かに、タリアンたちの不正行為は許されることではない。
でも、ハルートがそれを裁くために人を殺すことも、許されることではなかった。
そして、私がハルートを殺してしまったことも……。
正義って、一体何なんだろう。
正しいことをしようとして、でも結果的に間違ったことをしてしまう。
その繰り返しで、誰も幸せになれない。
「セレナ……」
サラが心配そうに私を見る。
「大丈夫?」
「分からない……」
私は正直に答えた。
「何が正しくて、何が間違っているのか、もう分からない」
「セレナ……」
アリアナも心配そうに私を見ている。
でも、私には何と答えていいのか分からなかった。
◆ ◆ ◆
そのとき、騎士団員がまた私たちの方にやってきた。
今度は、私に向かって。
「申し訳ございませんが……」
私は覚悟を決めた。
きっと、私も逮捕されるんだろう。
攻撃スキルの使用と、殺人の罪で。
「気持ちは分かりますが、攻撃スキルの使用と殺人で、拘束させていただきます」
やはり、そうだった。
私は騎士団に捕まることになった。
でも、不思議と抵抗する気持ちは起きなかった。
ハルートを殺してしまった。
それは事実だから。
私には、その責任を取る義務がある。
「セレナ!」
アリアナが叫ぶ。
「そんな……セレナは悪くない!」
「アリアナ……」
「ハルートを止めただけでしょう? 正当防衛よ!」
でも、私にはそう思えなかった。
確かに、ハルートを止めようとした。
でも、結果的に彼を殺してしまった。
その事実は変わらない。
「大丈夫」
私はアリアナに微笑みかける。
「きっと、すぐに戻ってくるから」
嘘だった。
いつ戻ってこられるのか、全く分からない。
もしかしたら、もう戻ってこられないかもしれない。
でも、アリアナを安心させたかった。
私は、騎士団に連れられて、その場を去った。
朝日が昇る中、新しい一日が始まろうとしている。
でも、私の心は、深い闇の中にあった。
取り返しのつかないことをしてしまった。
その現実が、重くのしかかってきていた。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる