この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第三十二話 取り返しのつかない現実

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「これは……まずい……」

騎士団員の声が、だんだん大きくなってきた。

私たちは不安になって、ハルートが運ばれている方向を見る。

担架の周りに、何人かの騎士団員が集まっている。

みんな、深刻な表情をしていた。

「どうしたんでしょう……?」

アリアナが心配そうに呟く。

そのとき、騎士団員の一人がこちらに向かって歩いてきた。

表情は、とても重々しい。

「申し訳ございません……」

その言葉を聞いた瞬間、私の胸に嫌な予感が走った。

◆ ◆ ◆

「何かあったんですか?」

サラが代表して聞く。

騎士団員は、明らかに言いにくそうにしていた。

「実は……攻撃スキルが心臓に直撃していまして……」

私の血の気が引いた。

「まさか……」

「即死でした」

その瞬間、世界が止まったような気がした。

ハルートが……死んだ?

私が……殺したの?

「そんな……嘘でしょ……?」

私の声が震える。

でも、騎士団員の深刻な表情を見れば、それが事実だということが分かった。

「セレナ……」

アリアナが私の名前を呼ぶけど、私には何も聞こえなかった。

頭が真っ白になって、何も考えられない。

◆ ◆ ◆

私は、ハルートを殺してしまった。

止めるつもりだった。

捕まえるつもりだった。

殺すつもりなんて、全然なかった。

でも、結果的に私が彼の命を奪ってしまった。

大切な仲間の命を。

「セレナ、しっかりして」

サラが私の肩を揺する。

でも、私は現実を受け入れることができなかった。

ハルートは確かに罪を犯した。

でも、死ぬほどの罪だったのだろうか。

それに、彼には事情があったんだ。

両親を殺された怒りと、正義への想いが、彼を間違った道に導いてしまった。

でも、それでも……彼は私の仲間だった。

◆ ◆ ◆

そのとき、意外な声が聞こえてきた。

「バチが当たったんだよ!」

振り返ると、タリアンが大笑いしていた。

ハルートが死んだと聞いて、急に元気になったようだ。

「あの世で後悔しな!」

タリアンがハルートの遺体に向かって叫ぶ。

死んでしまうかもしれないという恐怖から解放されて、すっかり調子を取り戻したようだった。

でも、その光景を見て、私は更に気分が悪くなった。

確かにハルートは罪を犯した。

でも、こんな風に死を嘲笑われるほどの人間だったのだろうか。

私の知っているハルートは、優しくて、正義感が強くて、仲間想いの青年だった。

そんな彼が、なぜこんなことになってしまったのだろう。

◆ ◆ ◆

「タリアン」

そのとき、後ろから騎士団員が声をかけた。

「今度は、お前がバチを受ける番だ」

タリアンが振り返ると、騎士団員が何かの書類を持っていた。

「え……? 何それ……?」

「お前たちの不正行為の証拠だ。ハルートが残していた記録と、物的証拠が揃っている」

タリアンの顔が青ざめる。

「ちょっと待てよ……俺は被害者だぞ?」

「被害者であると同時に、犯罪者でもある」

騎士団員がタリアンに手錠をかける。

「不正の証拠隠滅、収賄、職権乱用……数え切れないほどの罪状がある」

「そんな……」

タリアンが慌てふためく。

さっきまでの勢いは、もうどこにもなかった。

「俺は……俺は騙されただけだ! みんなでやってたことだろ!」

でも、騎士団員は聞く耳を持たない。

タリアンは、そのまま連行されていった。

◆ ◆ ◆

その光景を見て、私は複雑な気持ちになった。

確かに、タリアンたちの不正行為は許されることではない。

でも、ハルートがそれを裁くために人を殺すことも、許されることではなかった。

そして、私がハルートを殺してしまったことも……。

正義って、一体何なんだろう。

正しいことをしようとして、でも結果的に間違ったことをしてしまう。

その繰り返しで、誰も幸せになれない。

「セレナ……」

サラが心配そうに私を見る。

「大丈夫?」

「分からない……」

私は正直に答えた。

「何が正しくて、何が間違っているのか、もう分からない」

「セレナ……」

アリアナも心配そうに私を見ている。

でも、私には何と答えていいのか分からなかった。

◆ ◆ ◆

そのとき、騎士団員がまた私たちの方にやってきた。

今度は、私に向かって。

「申し訳ございませんが……」

私は覚悟を決めた。

きっと、私も逮捕されるんだろう。

攻撃スキルの使用と、殺人の罪で。

「気持ちは分かりますが、攻撃スキルの使用と殺人で、拘束させていただきます」

やはり、そうだった。

私は騎士団に捕まることになった。

でも、不思議と抵抗する気持ちは起きなかった。

ハルートを殺してしまった。

それは事実だから。

私には、その責任を取る義務がある。

「セレナ!」

アリアナが叫ぶ。

「そんな……セレナは悪くない!」

「アリアナ……」

「ハルートを止めただけでしょう? 正当防衛よ!」

でも、私にはそう思えなかった。

確かに、ハルートを止めようとした。

でも、結果的に彼を殺してしまった。

その事実は変わらない。

「大丈夫」

私はアリアナに微笑みかける。

「きっと、すぐに戻ってくるから」

嘘だった。

いつ戻ってこられるのか、全く分からない。

もしかしたら、もう戻ってこられないかもしれない。

でも、アリアナを安心させたかった。

私は、騎士団に連れられて、その場を去った。

朝日が昇る中、新しい一日が始まろうとしている。

でも、私の心は、深い闇の中にあった。

取り返しのつかないことをしてしまった。

その現実が、重くのしかかってきていた。

(つづく)
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