この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第三十三話 牢獄の中で

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騎士団本部の牢獄に入れられて、私は一人になった。

狭い石の部屋に、簡素なベッドと水差しがあるだけ。

窓は小さくて、鉄格子が嵌められている。

外の光が、わずかに差し込んでくるだけだった。

私は床に座り込んで、膝を抱えた。

頭の中で、同じことがぐるぐると回っている。

ハルートを殺してしまった。

私が、仲間を殺してしまった。

◆ ◆ ◆

事情聴取では、あの夜のことを詳しく聞かれた。

なぜタリアンの代わりに巡回に出たのか。

ハルートとどんな会話をしたのか。

どうして攻撃スキルを使ったのか。

私は正直に答えた。

ハルートを止めたかった。

これ以上罪を重ねさせたくなかった。

でも、殺すつもりはなかった。

騎士団の人たちは、私の話を静かに聞いてくれた。

でも、結果は変わらない。

人を殺した事実は、消えないのだから。

◆ ◆ ◆

牢獄に戻ってからも、私は何も話さなかった。

面会に来てくれる人もいたけど、会う気になれなかった。

サラが来てくれたとき、牢番の人が声をかけてくれた。

「面会の方が来ていますが、どうしますか?」

「すみません、今日は会えません」

「分かりました」

サラには申し訳ないと思った。

でも、今の私には、誰とも話をする気力がなかった。

自分が何をしてしまったのか、まだ整理がついていないから。

◆ ◆ ◆

初めて人を殺してしまったということの重さを、改めて実感している。

スキルの恐ろしさも、思い知らされた。

私が学んだ攻撃スキルは、確実に人を殺すことができる力だった。

そんな力を、私は軽い気持ちで覚えてしまった。

強くなりたい、仲間を守りたい、そんな気持ちで。

でも、その力がこんな結果を招くなんて。

力を持つということは、こんなにも重いことなのか。

そんなことを考えていると、体が震えてきた。

怖い。

自分の力が怖い。

また誰かを傷つけてしまうかもしれない。

また誰かを殺してしまうかもしれない。

そう思うと、もうスキルなんて使いたくなくなった。

◆ ◆ ◆

でも、一方で複雑な気持ちもあった。

ハルートは確かに人を殺していた。

オリヴィアも、他の被害者も、彼が奪った命だった。

私が彼を止めなければ、もっと多くの人が犠牲になっていたかもしれない。

タリアンも殺されていただろう。

そう考えると、私がしたことは間違いだったのだろうか。

でも、だからといって、ハルートを殺して良かったのだろうか。

答えが見つからない。

正しいことなんて、分からない。

ただ、ハルートがもうこの世にいないという事実だけが残っている。

◆ ◆ ◆

どれくらい時間が経ったのか分からない。

牢獄では、時間の感覚が曖昧になってしまう。

食事の時間で、朝昼晩が分かるくらいだった。

食べ物は質素だったけど、ちゃんと栄養は取れているようだった。

でも、味はよく分からなかった。

何を食べても、砂を噛んでいるような感覚だった。

気持ちが沈んでいると、食べ物の味も分からなくなるものなんだ。

そんなことを思いながら、私はぼんやりと過ごしていた。

◆ ◆ ◆

ある日、牢番の人が声をかけてきた。

「面会の方が来ています」

「どなたですか?」

「サラという方です。もう何度も来られているのですが……」

サラが、何度も面会に来てくれていたのか。

申し訳ない気持ちになった。

でも、やっぱり会う気にはなれなかった。

「すみません、今日も会えません」

「分かりました。でも、あの方はとても心配されているようですよ」

牢番の人の言葉が、胸に刺さった。

サラは、ハルートのことでも悩んでいるはずなのに、私のことまで心配してくれている。

きっと、アリアナも心配してくれているだろう。

でも、私には今、誰にも会えない。

自分の気持ちを整理するまでは、誰とも話したくなかった。

◆ ◆ ◆

夜になると、小さな窓から星が見えた。

王都の夜空は、あまり星が見えないけど、それでも幾つかの明るい星は確認できた。

あの星たちは、ハルートが生きていた頃と同じように輝いている。

でも、ハルートはもういない。

オリヴィアも、もういない。

私たちの仲間は、どんどん減っていく。

残されたのは、私とサラとアリアナだけ。

でも、私はここにいる。

牢獄の中で、一人で悩んでいる。

こんなことで良いのだろうか。

でも、どうすることもできなかった。

時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。

そして、私の心は、ますます沈んでいくのだった。

静寂の中で、私はただ自分の罪の重さを噛み締めていた。

取り返しのつかないことをしてしまった。

その現実が、私を押し潰そうとしていた。

でも、逃げることはできない。

ここで、しっかりと向き合わなければならない。

自分がしたことと、その責任と。

そして、これからどう生きていくべきなのかと。

答えは、まだ見つからなかった。

でも、考え続けなければならない。

それが、私にできる唯一のことだった。

(つづく)
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