この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

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第三十四話 ハルートの真実

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数日が過ぎて、ついに私はサラと面会することにした。

このまま一人で悩んでいても、答えは見つからない。

それに、サラにも話さなければならないことがある。

ハルートのことを、一番よく知っているのは彼女だから。

面会室は、鉄格子で仕切られた質素な部屋だった。

サラが椅子に座って、私を待っていてくれる。

「サラさん……」

「セレナ」

サラの目は少し赤くなっていた。

きっと、私のことを心配して、あまり眠れていないんだろう。

「心配をかけて、すみませんでした」

「いいのよ。でも、話してくれて良かった」

サラが少し微笑む。

でも、その笑顔は以前のように明るくはなかった。

◆ ◆ ◆

「まず、私から話させて」

サラが口を開いた。

「ハルートのこと……詳しく話すわ」

「はい」

私は身を乗り出した。

サラの話を聞けば、ハルートが なぜあんなことをしたのか、理解できるかもしれない。

「ハルートの両親は、騎士団の騎士だった。それも、とても正義感の強い、誇れる人たちだった」

サラの声が、少し遠くを見るような響きになる。

「でも、大きな事件で汚職していた人物を捕まえることに成功したとき、騎士団の裏切り者に証拠を捏造されて、その人物は釈放されてしまった」

「裏切り者……」

「復讐として、幼いハルートが人質に取られて、両親は騎士団を辞めることになった。騎士を辞めるということは、スキルも返さなければならない」

私は息を呑んだ。

そんな酷いことがあったなんて。

「その数日後……ならず者に集団で襲われて、両親は帰らぬ人となった。汚職した連中が手を回していたのよ」

「ひどい……」

「両親を失ったハルートは、私の家に引き取られた。私たちは幼馴染だったから」

サラの表情が少し和らぐ。

「でも、話はそれで終わりじゃない」

◆ ◆ ◆

「その後、騎士団の裏切り者が判明したの。なんと、当時の騎士団長だった」

「騎士団長が……!」

「それを突き止めたのは、副団長だった人。かなり妨害もあったけど、当時騎士団最強の実力者だったその人が、騎士団長と汚職した者たちを断罪することに成功した」

「そうだったんですね……」

「そして、その副団長が新しい騎士団長になった」

「なるほど……」

「でも、ハルートにとっては複雑だったと思う。両親の仇は討たれたけど、怒りをぶつける相手を失ってしまったから」

サラが深くため息をつく。

「その怒りが、どこに向かったと思う?」

「分からないです……」

「不正を働く人たち全般に、向かったのよ」

私は、ハルートの気持ちが少し理解できた気がした。

両親を殺した直接の犯人は裁かれた。

でも、そもそもの原因を作った不正がなくならない限り、同じことが繰り返される。

だから、ハルートは自分の手で不正を働く人たちを裁こうとしたんだ。

◆ ◆ ◆

「それから、オリヴィアのことも話しておかなければならない」

サラの表情が、更に複雑になる。

「オリヴィアは当時からギルドにいて、ハルートの両親とギルドの間を取り持つ役割をしていた」

「そうだったんですか」

「当時のギルドは、騎士団よりも立場が弱くて、できることが限られていた」

「はい……」

「オリヴィアは一生懸命やってくれたけど、結局ハルートの両親を救うことはできなかった」

私は胸が痛くなった。

オリヴィアも、きっと自分を責めていたに違いない。

「ハルートは、オリヴィアのことを『両親を見捨てた人物の一人』だと思っていた」

「そんな……オリヴィアさんは、できる限りのことをしてくれたのに」

「私たちにはそう見えても、ハルートには違って見えていたのよ」

サラが悲しそうに微笑む。

「だから、今回の事件で、オリヴィアも標的になってしまった」

私は言葉を失った。

ハルートにとって、オリヴィアは仇の一人だったのか。

でも、私が知っているオリヴィアは、とても優しくて、誰よりも私たちのことを考えてくれる人だった。

きっと、当時も一生懸命だったはずだ。

◆ ◆ ◆

「新しい騎士団長になったことで、ギルドの地位も上がった。今では、もっと多くのことができるようになっている」

「そうですね……」

「でも、ハルートには、それが見えていなかった。過去の怒りと悲しみに囚われて、現実が見えなくなっていた」

サラの話を聞いて、私はハルートのことを少し理解できた気がした。

彼は悪人じゃなかった。

ただ、大切な人を失った怒りと悲しみが、彼を間違った道に導いてしまった。

でも、だからといって、彼がしたことが正しかったわけじゃない。

人を殺すことは、どんな理由があっても許されることじゃない。

そして、私がハルートを殺してしまったことも……。

「サラさん、一つ聞きたいことがあります」

私が口を開いた。

「何?」

「オリヴィアさんが殺されたとき……ハルートは私を見逃しました。それに、最後の戦いでも、トドメを刺そうとしたとき、一瞬動きを止めました」

私は、あの時のことを思い出す。

「どうしてだと思いますか?」

サラが少し考えてから、優しく微笑んだ。

「ハルートは、あなたのことが好きだったのよ」

「え……?」

「両親と似て、正義感があって、まっすぐなところが。家族のような愛情を抱いていた」

私は驚いた。

ハルートが、私のことを……。

「だから、あなたに止めてもらって、彼も本当は良かったと思ってるわ」

サラの言葉で、私の気持ちは更に複雑になった。

ハルートの想いを知った今、私は彼を殺してしまったことを、どう受け止めればいいのだろう。

答えは、まだ見つからなかった。

でも、一つだけ分かったことがある。

ハルートのことは、もう気にしないであげて欲しい。

彼は、きっと安らかに眠っているから。

そして、私も前に進まなければならない。

ハルートの分まで、正しい道を歩んでいかなければならない。

それが、生き残った私の責任なのかもしれない。

(つづく)
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