ショートショート始めました。

借り入れ

「60まで？」
「はい。このままだとあなたの寿命は60歳で尽きることになります」
「ええと、今50だから、あと10年しか生きられないということですか？」
「そういうことになります」
「いや、困ります！ 私は家族がいるんです。まだやりたい事もたくさんあります。そんなに早く死ぬわけにはいかないんです」
「そうですか。でもそんなことは私には関係ないことです」
「そんな…」
「と言いたいところですが、実はこの状況を打開する方法があります」
「なんですか？」
「知りたいですか？」
「当たり前です！ 教えてください！」
「そうですか。では特別に教えて差し上げましょう。借り入れですよ」
「借り入れ？」
「はい。寿命を借り入れるんです」
「はあ…。でも一体誰から？」
「私です。私が寿命をお貸しいたします」
「そんなことできるんですか？」
「ええ。私の寿命はまだまだ先ですから、多少お貸ししたところで問題ありません」
「いや、そういう問題ではなく…。本当にそんな事ができるんですか？」
「ええ。できますよ。信じなければそれまでです。この話はなかったことに…」
「いえ、信じます、信じます。是非、お願いします！ 貸してください！」
「そうですか。はい。構いませんよ。ではどのくらいにしましょう？」
「少なくとも平均寿命くらいまでは生きたい。80歳くらいまでは」
「ということは20年ほどですね。お易い御用だ」
「本当ですか！？ ありがとうございます！ え、でもちょっと待ってください。借りる、ということは返さなくてはいけないんですよね？」
「ええ。もちろんです」
「どうやって返すんですか？」
「なに、簡単なことです。長生きすればいいんです。健康を維持して、長生きできる体を作ればいいんです。もし、20年の借り入れで80歳まで生きたいのであれば、利息含めて105歳まで生きられるようにしてください。それでようやく完済できます」
「なるほど。でもできなかったら？ 100歳以上なんてなかなか生きられるものじゃない」
「その場合は債務不履行となりますのでその時点で寿命を迎えることになります。例えば90歳までしか生きられない身体だとわかれば70歳を待たずに死んでしまうわけです。それを本来の寿命の60歳の時点で判断させていただきます。つまり、猶予はあと10年」
「なるほど。でも、そんな、いつまで生きられるかなんてことがわかるんですか？」
「ええ、わかりますよ。だから今のままではあなたは60歳までしか生きられないとわかっているわけですし」
「そう言われればそうか。わかりました。105歳まで生きられる身体になるよう、頑張ります。だから20年貸してください。よろしくお願いします」