63 / 66
ととのう
しおりを挟む
大学に入り、ボランティアサークルを選んだことに特に深い意味はなかった。
キャンパスライフの充実、そんなものに若干の憧れを抱いていたことは否定できない。
しかし、テニスサークルでも、旅行サークルでもない、ボランティアサークルというのが自分にはなんとなくあっているように思っていた。
合宿という名の一年生だけでの旅行企画に、自分が何気なく提案した琵琶湖のサウナベースが採用された。
陽キャたちの集まりに若干気後れがあったものの、前から行きたい場所だったのでそれだけでも参加する価値はあるはずだった。
男女6人を乗せたボックスカーを駐車場に止め、待ってましたとばかりに皆で一斉に地上に降り立つ。
「すげーいい景色!」
「いやー当たりだろこれ!!」
「よく知ってたわねこんなところ」
「これは提案者のお手柄だな!」
全てを自然に囲まれた空間。
眼前に開けた、海と見紛うほどの湖。
たしかにそこは想像通り、いや、想像以上に素晴らしい場所だった。
皆その絶景を讃えながら楽しそうに目的のベースへと降りていく。
ただ1人を除いて。
表情は穏やかなものの、大人しいその彼女だけはほとんど何も言葉を発さなかった。
一緒にサークル活動をしているうちに、ずっと彼女のこと気にしている自分に気がついた。
明るく楽しい、という雰囲気ではない。
皆と仲良く話す姿もほとんど見たことはなかった。
でも、いつも慎ましやかに、真面目に黙々と活動に参加している彼女にいつしか惹かれていた。
急遽の企画、しかも陽キャたちの集まりだ。
なのでまさか彼女が来るとは思ってもいなかった。
その参加を知ったときに心が飛び跳ねったのは言うまでもない。
「んじゃさっそくサウナ入ろうぜー」
「そうだな。汗流してからクルージング、で夜はバーベキュー、だな!」
「うちら女子はあっちねー」
「なんでだよ。一緒に入ろうぜ」
「いやに決まってんでしょ。このスケベ野郎」
「おーこわ。やっぱこっちからお断りー」
そんな冗談とも本音ともわからない会話がなされながら面々が準備をしていく。
そうか。そりゃそうだよな、と内心がっかりしながらも少し安心する。
アウトドアなので水着着用だろう。
彼女の姿を他の男に見られたくない。
自分の貧弱な体を晒したくない。
もちろん彼女の姿を見てみたいとという下心も。
ここまで無駄に葛藤していた自分が恥ずかしくなった。
シャワーで汗を洗い流し、湖面付近のテントサウナに身を投じた。
うん。今の季節に合わせた丁度いい温度だ。
「うわ、やっぱり熱いなー」
「我慢比べしようぜ」
「おおいいね。ぶっ倒れるなよ」
サウナをふざけた勝負の場にするとはなんという冒涜。
だが空気を壊すわけにもいかず、もちろんそんなことは口には出さない。
まずは座ってじっと目を瞑る。
この温度と湿度。
そうだな。
時計に目をやる。10分と言ったところか。
ロウリュだろうか。アロマの香りが心地よい。すぐ外は湖面の絶景。
「うわーおれ、もうだめ。ギブ」
「おれもー降りたー。負けでいいや」
皆外へ出てしまった。
もう? と思いながらも残された時間をひとりで楽しむことにした。
ちょうど10分。
もう良い頃合いだ。
ゆっくりと立ち上がりほてった身体を外気に晒す。
風が気持ち良い。
そして何より。
水風呂だ。日本最大の水風呂。
クルージングよりもバーベキューよりも、何よりも一番の楽しみだった。
足元からゆっくりと入水する。
膝、胸、肩まで徐々に浸水。
全身が研ぎ澄まされていくのを感じる。
体内時計で2分を測り、出てから湖畔のリラックスチェアへ。
顔にタオルを掛けもたれかける。
静寂。
もう皆戻ってしまったようだ。水風呂にも入らなかったのだろうか。
なんともったいない。
ここまで来てこんな至福を味わえないなんて。
あと2サイクルかな。
そんなことを考えているとふと横に何者かの気配を感じた。
「冬はシングルになるってね」
その声に心臓が飛び跳ねた。
顔からタオルを外して飛び起きる。
先ほどまで心に思い描いていた水着姿の彼女はタオルを羽織り、現実として隣のチェアに腰掛けていた。
「え、あ、あ、そうらしいね、、」
慌ててそう返事してから気がついた。
シングル。
水風呂の温度が一桁であることを表すサウナ用語だ。普通の人はまず知らないはずだ。
パンフレットか何かで見たのだろうか。
「ま、まだいたんだね。てっきりもう戻ってるかと……」
「うん。みんな戻っちゃったみたいだね。こんな貴重なロケーション滅多にないんだから。ありないよね」
「そ、そうだよね。すごく落ち着くし」
言葉とは裏腹に、外気浴で落ち着いたはずの鼓動は再度高鳴っていく。
「ねえ、あまみって出したことある? 私一回もないんだよね」
あまみ、とはサウナにおいて皮膚に網目のようなものができる現象。
もう、確定だ。
「あのさ、、、。サウナ、好きなの?」
「うん。もちろん。だからこそ来たんだし」
「そっか奇遇だね。おれもなんだよね」
「うん。知ってるよ」
「そっかそうだよね。おれが提案したんだもんね」
「そうだよ。ね、こんな感じで他にも目星つけてるところあるの?」
「え、あ、そうだね。え? そ、そうだな。ええとー、、、」
これは単なる雑談なのか?
それとも次の機会の可能性、、、?
あと2サイクル。
今日は、おそらくととのえないだろう。
キャンパスライフの充実、そんなものに若干の憧れを抱いていたことは否定できない。
しかし、テニスサークルでも、旅行サークルでもない、ボランティアサークルというのが自分にはなんとなくあっているように思っていた。
合宿という名の一年生だけでの旅行企画に、自分が何気なく提案した琵琶湖のサウナベースが採用された。
陽キャたちの集まりに若干気後れがあったものの、前から行きたい場所だったのでそれだけでも参加する価値はあるはずだった。
男女6人を乗せたボックスカーを駐車場に止め、待ってましたとばかりに皆で一斉に地上に降り立つ。
「すげーいい景色!」
「いやー当たりだろこれ!!」
「よく知ってたわねこんなところ」
「これは提案者のお手柄だな!」
全てを自然に囲まれた空間。
眼前に開けた、海と見紛うほどの湖。
たしかにそこは想像通り、いや、想像以上に素晴らしい場所だった。
皆その絶景を讃えながら楽しそうに目的のベースへと降りていく。
ただ1人を除いて。
表情は穏やかなものの、大人しいその彼女だけはほとんど何も言葉を発さなかった。
一緒にサークル活動をしているうちに、ずっと彼女のこと気にしている自分に気がついた。
明るく楽しい、という雰囲気ではない。
皆と仲良く話す姿もほとんど見たことはなかった。
でも、いつも慎ましやかに、真面目に黙々と活動に参加している彼女にいつしか惹かれていた。
急遽の企画、しかも陽キャたちの集まりだ。
なのでまさか彼女が来るとは思ってもいなかった。
その参加を知ったときに心が飛び跳ねったのは言うまでもない。
「んじゃさっそくサウナ入ろうぜー」
「そうだな。汗流してからクルージング、で夜はバーベキュー、だな!」
「うちら女子はあっちねー」
「なんでだよ。一緒に入ろうぜ」
「いやに決まってんでしょ。このスケベ野郎」
「おーこわ。やっぱこっちからお断りー」
そんな冗談とも本音ともわからない会話がなされながら面々が準備をしていく。
そうか。そりゃそうだよな、と内心がっかりしながらも少し安心する。
アウトドアなので水着着用だろう。
彼女の姿を他の男に見られたくない。
自分の貧弱な体を晒したくない。
もちろん彼女の姿を見てみたいとという下心も。
ここまで無駄に葛藤していた自分が恥ずかしくなった。
シャワーで汗を洗い流し、湖面付近のテントサウナに身を投じた。
うん。今の季節に合わせた丁度いい温度だ。
「うわ、やっぱり熱いなー」
「我慢比べしようぜ」
「おおいいね。ぶっ倒れるなよ」
サウナをふざけた勝負の場にするとはなんという冒涜。
だが空気を壊すわけにもいかず、もちろんそんなことは口には出さない。
まずは座ってじっと目を瞑る。
この温度と湿度。
そうだな。
時計に目をやる。10分と言ったところか。
ロウリュだろうか。アロマの香りが心地よい。すぐ外は湖面の絶景。
「うわーおれ、もうだめ。ギブ」
「おれもー降りたー。負けでいいや」
皆外へ出てしまった。
もう? と思いながらも残された時間をひとりで楽しむことにした。
ちょうど10分。
もう良い頃合いだ。
ゆっくりと立ち上がりほてった身体を外気に晒す。
風が気持ち良い。
そして何より。
水風呂だ。日本最大の水風呂。
クルージングよりもバーベキューよりも、何よりも一番の楽しみだった。
足元からゆっくりと入水する。
膝、胸、肩まで徐々に浸水。
全身が研ぎ澄まされていくのを感じる。
体内時計で2分を測り、出てから湖畔のリラックスチェアへ。
顔にタオルを掛けもたれかける。
静寂。
もう皆戻ってしまったようだ。水風呂にも入らなかったのだろうか。
なんともったいない。
ここまで来てこんな至福を味わえないなんて。
あと2サイクルかな。
そんなことを考えているとふと横に何者かの気配を感じた。
「冬はシングルになるってね」
その声に心臓が飛び跳ねた。
顔からタオルを外して飛び起きる。
先ほどまで心に思い描いていた水着姿の彼女はタオルを羽織り、現実として隣のチェアに腰掛けていた。
「え、あ、あ、そうらしいね、、」
慌ててそう返事してから気がついた。
シングル。
水風呂の温度が一桁であることを表すサウナ用語だ。普通の人はまず知らないはずだ。
パンフレットか何かで見たのだろうか。
「ま、まだいたんだね。てっきりもう戻ってるかと……」
「うん。みんな戻っちゃったみたいだね。こんな貴重なロケーション滅多にないんだから。ありないよね」
「そ、そうだよね。すごく落ち着くし」
言葉とは裏腹に、外気浴で落ち着いたはずの鼓動は再度高鳴っていく。
「ねえ、あまみって出したことある? 私一回もないんだよね」
あまみ、とはサウナにおいて皮膚に網目のようなものができる現象。
もう、確定だ。
「あのさ、、、。サウナ、好きなの?」
「うん。もちろん。だからこそ来たんだし」
「そっか奇遇だね。おれもなんだよね」
「うん。知ってるよ」
「そっかそうだよね。おれが提案したんだもんね」
「そうだよ。ね、こんな感じで他にも目星つけてるところあるの?」
「え、あ、そうだね。え? そ、そうだな。ええとー、、、」
これは単なる雑談なのか?
それとも次の機会の可能性、、、?
あと2サイクル。
今日は、おそらくととのえないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
声劇・シチュボ台本たち
ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。
声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。
使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります)
自作発言・過度な改変は許可していません。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる