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ととのう
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大学に入り、ボランティアサークルを選んだことに特に深い意味はなかった。
キャンパスライフの充実、そんなものに若干の憧れを抱いていたことは否定できない。
しかし、テニスサークルでも、旅行サークルでもない、ボランティアサークルというのが自分にはなんとなくあっているように思っていた。
合宿という名の一年生だけでの旅行企画に、自分が何気なく提案した琵琶湖のサウナベースが採用された。
陽キャたちの集まりに若干気後れがあったものの、前から行きたい場所だったのでそれだけでも参加する価値はあるはずだった。
男女6人を乗せたボックスカーを駐車場に止め、待ってましたとばかりに皆で一斉に地上に降り立つ。
「すげーいい景色!」
「いやー当たりだろこれ!!」
「よく知ってたわねこんなところ」
「これは提案者のお手柄だな!」
全てを自然に囲まれた空間。
眼前に開けた、海と見紛うほどの湖。
たしかにそこは想像通り、いや、想像以上に素晴らしい場所だった。
皆その絶景を讃えながら楽しそうに目的のベースへと降りていく。
ただ1人を除いて。
表情は穏やかなものの、大人しいその彼女だけはほとんど何も言葉を発さなかった。
一緒にサークル活動をしているうちに、ずっと彼女のこと気にしている自分に気がついた。
明るく楽しい、という雰囲気ではない。
皆と仲良く話す姿もほとんど見たことはなかった。
でも、いつも慎ましやかに、真面目に黙々と活動に参加している彼女にいつしか惹かれていた。
急遽の企画、しかも陽キャたちの集まりだ。
なのでまさか彼女が来るとは思ってもいなかった。
その参加を知ったときに心が飛び跳ねったのは言うまでもない。
「んじゃさっそくサウナ入ろうぜー」
「そうだな。汗流してからクルージング、で夜はバーベキュー、だな!」
「うちら女子はあっちねー」
「なんでだよ。一緒に入ろうぜ」
「いやに決まってんでしょ。このスケベ野郎」
「おーこわ。やっぱこっちからお断りー」
そんな冗談とも本音ともわからない会話がなされながら面々が準備をしていく。
そうか。そりゃそうだよな、と内心がっかりしながらも少し安心する。
アウトドアなので水着着用だろう。
彼女の姿を他の男に見られたくない。
自分の貧弱な体を晒したくない。
もちろん彼女の姿を見てみたいとという下心も。
ここまで無駄に葛藤していた自分が恥ずかしくなった。
シャワーで汗を洗い流し、湖面付近のテントサウナに身を投じた。
うん。今の季節に合わせた丁度いい温度だ。
「うわ、やっぱり熱いなー」
「我慢比べしようぜ」
「おおいいね。ぶっ倒れるなよ」
サウナをふざけた勝負の場にするとはなんという冒涜。
だが空気を壊すわけにもいかず、もちろんそんなことは口には出さない。
まずは座ってじっと目を瞑る。
この温度と湿度。
そうだな。
時計に目をやる。10分と言ったところか。
ロウリュだろうか。アロマの香りが心地よい。すぐ外は湖面の絶景。
「うわーおれ、もうだめ。ギブ」
「おれもー降りたー。負けでいいや」
皆外へ出てしまった。
もう? と思いながらも残された時間をひとりで楽しむことにした。
ちょうど10分。
もう良い頃合いだ。
ゆっくりと立ち上がりほてった身体を外気に晒す。
風が気持ち良い。
そして何より。
水風呂だ。日本最大の水風呂。
クルージングよりもバーベキューよりも、何よりも一番の楽しみだった。
足元からゆっくりと入水する。
膝、胸、肩まで徐々に浸水。
全身が研ぎ澄まされていくのを感じる。
体内時計で2分を測り、出てから湖畔のリラックスチェアへ。
顔にタオルを掛けもたれかける。
静寂。
もう皆戻ってしまったようだ。水風呂にも入らなかったのだろうか。
なんともったいない。
ここまで来てこんな至福を味わえないなんて。
あと2サイクルかな。
そんなことを考えているとふと横に何者かの気配を感じた。
「冬はシングルになるってね」
その声に心臓が飛び跳ねた。
顔からタオルを外して飛び起きる。
先ほどまで心に思い描いていた水着姿の彼女はタオルを羽織り、現実として隣のチェアに腰掛けていた。
「え、あ、あ、そうらしいね、、」
慌ててそう返事してから気がついた。
シングル。
水風呂の温度が一桁であることを表すサウナ用語だ。普通の人はまず知らないはずだ。
パンフレットか何かで見たのだろうか。
「ま、まだいたんだね。てっきりもう戻ってるかと……」
「うん。みんな戻っちゃったみたいだね。こんな貴重なロケーション滅多にないんだから。ありないよね」
「そ、そうだよね。すごく落ち着くし」
言葉とは裏腹に、外気浴で落ち着いたはずの鼓動は再度高鳴っていく。
「ねえ、あまみって出したことある? 私一回もないんだよね」
あまみ、とはサウナにおいて皮膚に網目のようなものができる現象。
もう、確定だ。
「あのさ、、、。サウナ、好きなの?」
「うん。もちろん。だからこそ来たんだし」
「そっか奇遇だね。おれもなんだよね」
「うん。知ってるよ」
「そっかそうだよね。おれが提案したんだもんね」
「そうだよ。ね、こんな感じで他にも目星つけてるところあるの?」
「え、あ、そうだね。え? そ、そうだな。ええとー、、、」
これは単なる雑談なのか?
それとも次の機会の可能性、、、?
あと2サイクル。
今日は、おそらくととのえないだろう。
キャンパスライフの充実、そんなものに若干の憧れを抱いていたことは否定できない。
しかし、テニスサークルでも、旅行サークルでもない、ボランティアサークルというのが自分にはなんとなくあっているように思っていた。
合宿という名の一年生だけでの旅行企画に、自分が何気なく提案した琵琶湖のサウナベースが採用された。
陽キャたちの集まりに若干気後れがあったものの、前から行きたい場所だったのでそれだけでも参加する価値はあるはずだった。
男女6人を乗せたボックスカーを駐車場に止め、待ってましたとばかりに皆で一斉に地上に降り立つ。
「すげーいい景色!」
「いやー当たりだろこれ!!」
「よく知ってたわねこんなところ」
「これは提案者のお手柄だな!」
全てを自然に囲まれた空間。
眼前に開けた、海と見紛うほどの湖。
たしかにそこは想像通り、いや、想像以上に素晴らしい場所だった。
皆その絶景を讃えながら楽しそうに目的のベースへと降りていく。
ただ1人を除いて。
表情は穏やかなものの、大人しいその彼女だけはほとんど何も言葉を発さなかった。
一緒にサークル活動をしているうちに、ずっと彼女のこと気にしている自分に気がついた。
明るく楽しい、という雰囲気ではない。
皆と仲良く話す姿もほとんど見たことはなかった。
でも、いつも慎ましやかに、真面目に黙々と活動に参加している彼女にいつしか惹かれていた。
急遽の企画、しかも陽キャたちの集まりだ。
なのでまさか彼女が来るとは思ってもいなかった。
その参加を知ったときに心が飛び跳ねったのは言うまでもない。
「んじゃさっそくサウナ入ろうぜー」
「そうだな。汗流してからクルージング、で夜はバーベキュー、だな!」
「うちら女子はあっちねー」
「なんでだよ。一緒に入ろうぜ」
「いやに決まってんでしょ。このスケベ野郎」
「おーこわ。やっぱこっちからお断りー」
そんな冗談とも本音ともわからない会話がなされながら面々が準備をしていく。
そうか。そりゃそうだよな、と内心がっかりしながらも少し安心する。
アウトドアなので水着着用だろう。
彼女の姿を他の男に見られたくない。
自分の貧弱な体を晒したくない。
もちろん彼女の姿を見てみたいとという下心も。
ここまで無駄に葛藤していた自分が恥ずかしくなった。
シャワーで汗を洗い流し、湖面付近のテントサウナに身を投じた。
うん。今の季節に合わせた丁度いい温度だ。
「うわ、やっぱり熱いなー」
「我慢比べしようぜ」
「おおいいね。ぶっ倒れるなよ」
サウナをふざけた勝負の場にするとはなんという冒涜。
だが空気を壊すわけにもいかず、もちろんそんなことは口には出さない。
まずは座ってじっと目を瞑る。
この温度と湿度。
そうだな。
時計に目をやる。10分と言ったところか。
ロウリュだろうか。アロマの香りが心地よい。すぐ外は湖面の絶景。
「うわーおれ、もうだめ。ギブ」
「おれもー降りたー。負けでいいや」
皆外へ出てしまった。
もう? と思いながらも残された時間をひとりで楽しむことにした。
ちょうど10分。
もう良い頃合いだ。
ゆっくりと立ち上がりほてった身体を外気に晒す。
風が気持ち良い。
そして何より。
水風呂だ。日本最大の水風呂。
クルージングよりもバーベキューよりも、何よりも一番の楽しみだった。
足元からゆっくりと入水する。
膝、胸、肩まで徐々に浸水。
全身が研ぎ澄まされていくのを感じる。
体内時計で2分を測り、出てから湖畔のリラックスチェアへ。
顔にタオルを掛けもたれかける。
静寂。
もう皆戻ってしまったようだ。水風呂にも入らなかったのだろうか。
なんともったいない。
ここまで来てこんな至福を味わえないなんて。
あと2サイクルかな。
そんなことを考えているとふと横に何者かの気配を感じた。
「冬はシングルになるってね」
その声に心臓が飛び跳ねた。
顔からタオルを外して飛び起きる。
先ほどまで心に思い描いていた水着姿の彼女はタオルを羽織り、現実として隣のチェアに腰掛けていた。
「え、あ、あ、そうらしいね、、」
慌ててそう返事してから気がついた。
シングル。
水風呂の温度が一桁であることを表すサウナ用語だ。普通の人はまず知らないはずだ。
パンフレットか何かで見たのだろうか。
「ま、まだいたんだね。てっきりもう戻ってるかと……」
「うん。みんな戻っちゃったみたいだね。こんな貴重なロケーション滅多にないんだから。ありないよね」
「そ、そうだよね。すごく落ち着くし」
言葉とは裏腹に、外気浴で落ち着いたはずの鼓動は再度高鳴っていく。
「ねえ、あまみって出したことある? 私一回もないんだよね」
あまみ、とはサウナにおいて皮膚に網目のようなものができる現象。
もう、確定だ。
「あのさ、、、。サウナ、好きなの?」
「うん。もちろん。だからこそ来たんだし」
「そっか奇遇だね。おれもなんだよね」
「うん。知ってるよ」
「そっかそうだよね。おれが提案したんだもんね」
「そうだよ。ね、こんな感じで他にも目星つけてるところあるの?」
「え、あ、そうだね。え? そ、そうだな。ええとー、、、」
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漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
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漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
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漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
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