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3 同じ色を持つ男
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「っ!! な……んだ。ヒューバードじゃない」
一瞬、マティアスと見間違えた男は、彼の護衛騎士であるヒューバードだ。ヒューバードも元はウルスラと同じく女帝付きだったのだが、輿入れと同時に皇配付きに替わっている。
ウルスラがマティアス付きに配置換えになったのと違って、ヒューバードの配置換えの理由は明らかだ。
というのもマティアスとヒューバード、二人が持つ色はとても似ている。珍しい黒髪に銀灰の瞳。僅かにヒューバードの方が銀灰に青みが混じっているが、間近で見ないと気付かないレベルだ。そのうえ背格好も似ており、おそらく影武者としての役割もヒューバードは担っているのだろう。
「……? なんだとはなんだ?」
「あ、いえ、気にしないで。こっちの話よ。ところで殿下はどちらへ?」
「もう陛下のお部屋へ入られたよ」
「そ、そう……。いつもより早いのね」
「あぁ、そうだな。陛下から呼び出しがあったんだ」
「じゃあ、私は早くこの部屋から出て行かないとね」
女帝の部屋へ入る扉は二つ。一つは廊下側の扉で、もう一つはこの皇配の部屋と繋がる扉だ。ヒューバードはこの部屋に残って引き続き護衛に当たるが、ウルスラはこれで今日の仕事は終了であり、早めに退出してしまいたかった。
というのも、じきに二人の愛し合う音が聞こえてくるだろうからだ。いくら重厚な扉とはいえ、激しくまぐわう音は外にまで漏れ聞こえてくると噂で聞いていた。
だというのに、ヒューバードはやけにのんびりしている。毎晩聞き慣れているせいなのか、悠長に会話を振ってくる始末だ。
「殿下のお顔が赤みを帯びていらしたんだが、何かあったのか?」
「へ? そうだった? べ、別に何もなかったわよ。いつもとまっったく同じだったわ」
「ふーん? 殿下から『ウルスラがバスルームから出てくるのに時間がかかると思うが、決して中を覗かないように』って言われたんだが……何もされてないよな?」
脇目を振らずに後片付けをしたせいか、ほんのり頬を上気させたウルスラの姿をヒューバードはじとりと見る。
マティアスが密室でお世話係に無体を働いたと疑っているのか、はたまたウルスラがマティアスを誘惑したと思っているのか。どちらの可能性を疑っているのかわからないが、どちらにせよ決して好意的な視線ではない。
「何か勘違いしてない? ヒューバードが疑っているようなこと、殿下がなさるわけないじゃない。私だって陛下の旦那様を誘惑するほど怖いもの知らずじゃないわ」
冗談でも女帝の旦那様を誘惑したなんて思わないでほしいと彼女は強く主張した。
政略結婚とはいえ毎晩欠かさず肌を重ねているくらいだ。もしかしたら結婚してから互いの想いを育んでいるのかもしれないし、そうでなくとも女帝のモノを横取りしようとしたことがバレたらどうなるか。
元のお世話係であるアネットが最初からいなかったものとして扱われていることを思えば、そこはきっちりと否定しておかなければならない。
「まぁ、それもそうか」
「そうよ! じゃあ私はこれであがるわね。ヒューバードも無理しないでね」
夜勤明けのヒューバードはどうしてか、いつも目の下にくっきりとクマをつけている。警護中とはいえ皇配の部屋で待機しているだけなのに。
だからきっと自分の知らない特別任務でも受けているのだと思ったウルスラがそう声をかけると、ヒューバードは含み笑いを浮かべながら「気をつけるよ」とだけ返事をした。
皇配の部屋をそそくさと出たウルスラは、城内に宛がわれた自室へ急ぎ足で向かった。今夜は気持ちの乱高下が激しかったせいか、精神的に疲れていた。
だというのに、ベッドに横になったウルスラの目はなぜか冴えてしまっていてなかなか寝付けない。目を瞑ると、あの臨戦態勢に入った男性器や、自分のふしだらな姿が瞼に浮かんでくるのだ。
ならばいっそ思い切り考え事に耽ってしまえばいいとウルスラは思い直した。
そうしてまず思い浮かんだ疑問は、どうして女帝が夫のお世話係に自分を任じたのかということだ。そもそも前任のアネットのこともあったのだから、なおさら年頃の女性を担当にするなんて嫌なはずなのに。
その理由が自分の忠誠心を信じてくれているから、ということなら大変に名誉なことである。だが、本当にそれが理由なのだろうか。
臣下は皆、女帝へ忠節を誓っており、必ずしも自分である必要が見出せない。もしかしたらウルスラが手を出されるほど魅力的な女性じゃないと思っての判断かもしれない。
いくら考えたところで、女帝の真意には辿り着けない。おしなべていえば、女帝の考えることは凡人にはわからないということだ。
「……それにしても、殿下は私がいないところではちゃんと名前を呼んでくださっていたのね。ふふっ」
先ほどのヒューバードの言葉を思い出したウルスラは、ゴロンとうつ伏せになると笑みをこぼした。
お世話係になっておおよそ一か月。ウルスラはマティアスから直接、名を呼ばれたことがなかった。用事があるときには「レディ」や「君」と声をかけられるばかりで、もはや名前すら知らないんじゃないかと疑っていたのだ。
皇族の中にはお世話係の名前を覚えようともしない人がいるとも聞くし、フォルカー殿下にいたっては名前は覚えないが、胸のサイズだけは覚えているという噂まである。
そんな中、自分の主はちゃんと覚えてくれていた。しかも半裸のウルスラを気遣って、ヒューバードに中を覗くなと釘を刺してくれたのだ。マティアスの不器用な優しさに胸がじんわりと温かくなる。
しかし敬愛する主の顔を思い浮かべたところで、またしても質量と角度を増したアレと自分の卑猥な姿とが脳裏に割り込んできて、彼女は枕に顔を埋めて言葉にならない声をあげた。そうして、
「透けないランジェリー……買いに行かなきゃ……」
と呟くと、力尽きたようにすうーっと深い眠りに落ちていったのだった。
一瞬、マティアスと見間違えた男は、彼の護衛騎士であるヒューバードだ。ヒューバードも元はウルスラと同じく女帝付きだったのだが、輿入れと同時に皇配付きに替わっている。
ウルスラがマティアス付きに配置換えになったのと違って、ヒューバードの配置換えの理由は明らかだ。
というのもマティアスとヒューバード、二人が持つ色はとても似ている。珍しい黒髪に銀灰の瞳。僅かにヒューバードの方が銀灰に青みが混じっているが、間近で見ないと気付かないレベルだ。そのうえ背格好も似ており、おそらく影武者としての役割もヒューバードは担っているのだろう。
「……? なんだとはなんだ?」
「あ、いえ、気にしないで。こっちの話よ。ところで殿下はどちらへ?」
「もう陛下のお部屋へ入られたよ」
「そ、そう……。いつもより早いのね」
「あぁ、そうだな。陛下から呼び出しがあったんだ」
「じゃあ、私は早くこの部屋から出て行かないとね」
女帝の部屋へ入る扉は二つ。一つは廊下側の扉で、もう一つはこの皇配の部屋と繋がる扉だ。ヒューバードはこの部屋に残って引き続き護衛に当たるが、ウルスラはこれで今日の仕事は終了であり、早めに退出してしまいたかった。
というのも、じきに二人の愛し合う音が聞こえてくるだろうからだ。いくら重厚な扉とはいえ、激しくまぐわう音は外にまで漏れ聞こえてくると噂で聞いていた。
だというのに、ヒューバードはやけにのんびりしている。毎晩聞き慣れているせいなのか、悠長に会話を振ってくる始末だ。
「殿下のお顔が赤みを帯びていらしたんだが、何かあったのか?」
「へ? そうだった? べ、別に何もなかったわよ。いつもとまっったく同じだったわ」
「ふーん? 殿下から『ウルスラがバスルームから出てくるのに時間がかかると思うが、決して中を覗かないように』って言われたんだが……何もされてないよな?」
脇目を振らずに後片付けをしたせいか、ほんのり頬を上気させたウルスラの姿をヒューバードはじとりと見る。
マティアスが密室でお世話係に無体を働いたと疑っているのか、はたまたウルスラがマティアスを誘惑したと思っているのか。どちらの可能性を疑っているのかわからないが、どちらにせよ決して好意的な視線ではない。
「何か勘違いしてない? ヒューバードが疑っているようなこと、殿下がなさるわけないじゃない。私だって陛下の旦那様を誘惑するほど怖いもの知らずじゃないわ」
冗談でも女帝の旦那様を誘惑したなんて思わないでほしいと彼女は強く主張した。
政略結婚とはいえ毎晩欠かさず肌を重ねているくらいだ。もしかしたら結婚してから互いの想いを育んでいるのかもしれないし、そうでなくとも女帝のモノを横取りしようとしたことがバレたらどうなるか。
元のお世話係であるアネットが最初からいなかったものとして扱われていることを思えば、そこはきっちりと否定しておかなければならない。
「まぁ、それもそうか」
「そうよ! じゃあ私はこれであがるわね。ヒューバードも無理しないでね」
夜勤明けのヒューバードはどうしてか、いつも目の下にくっきりとクマをつけている。警護中とはいえ皇配の部屋で待機しているだけなのに。
だからきっと自分の知らない特別任務でも受けているのだと思ったウルスラがそう声をかけると、ヒューバードは含み笑いを浮かべながら「気をつけるよ」とだけ返事をした。
皇配の部屋をそそくさと出たウルスラは、城内に宛がわれた自室へ急ぎ足で向かった。今夜は気持ちの乱高下が激しかったせいか、精神的に疲れていた。
だというのに、ベッドに横になったウルスラの目はなぜか冴えてしまっていてなかなか寝付けない。目を瞑ると、あの臨戦態勢に入った男性器や、自分のふしだらな姿が瞼に浮かんでくるのだ。
ならばいっそ思い切り考え事に耽ってしまえばいいとウルスラは思い直した。
そうしてまず思い浮かんだ疑問は、どうして女帝が夫のお世話係に自分を任じたのかということだ。そもそも前任のアネットのこともあったのだから、なおさら年頃の女性を担当にするなんて嫌なはずなのに。
その理由が自分の忠誠心を信じてくれているから、ということなら大変に名誉なことである。だが、本当にそれが理由なのだろうか。
臣下は皆、女帝へ忠節を誓っており、必ずしも自分である必要が見出せない。もしかしたらウルスラが手を出されるほど魅力的な女性じゃないと思っての判断かもしれない。
いくら考えたところで、女帝の真意には辿り着けない。おしなべていえば、女帝の考えることは凡人にはわからないということだ。
「……それにしても、殿下は私がいないところではちゃんと名前を呼んでくださっていたのね。ふふっ」
先ほどのヒューバードの言葉を思い出したウルスラは、ゴロンとうつ伏せになると笑みをこぼした。
お世話係になっておおよそ一か月。ウルスラはマティアスから直接、名を呼ばれたことがなかった。用事があるときには「レディ」や「君」と声をかけられるばかりで、もはや名前すら知らないんじゃないかと疑っていたのだ。
皇族の中にはお世話係の名前を覚えようともしない人がいるとも聞くし、フォルカー殿下にいたっては名前は覚えないが、胸のサイズだけは覚えているという噂まである。
そんな中、自分の主はちゃんと覚えてくれていた。しかも半裸のウルスラを気遣って、ヒューバードに中を覗くなと釘を刺してくれたのだ。マティアスの不器用な優しさに胸がじんわりと温かくなる。
しかし敬愛する主の顔を思い浮かべたところで、またしても質量と角度を増したアレと自分の卑猥な姿とが脳裏に割り込んできて、彼女は枕に顔を埋めて言葉にならない声をあげた。そうして、
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と呟くと、力尽きたようにすうーっと深い眠りに落ちていったのだった。
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