【完結全23話】皇配とお世話係の秘密のバスルーム(R18)

吉見依瑠

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4 女帝と皇配

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 ウルスラが一人身悶えながら眠りについた頃、女帝の部屋では甘さの欠片もない会話が繰り広げられていた。

「今夜の湯浴みはどうじゃった? ウルスラも新作の仕着せを着ていたんじゃろう?」

 漆黒のベルベットが張られたカウチソファにしなだれながら、女帝ヒルデガルドは琥珀色の酒が入ったグラスをゆらりと揺らした。
 湯浴みを終えて薄い夜着を纏う女帝の姿は絶世の美女そのもの。なのに醸し出される威圧感のせいか、色気よりも畏怖を感じさせる。

「……誰だ、あの破廉恥な服を支給したのは」
「叔父上こだわりの品らしいぞ? で、楽しめたのかと聞いておる」
「…………」
「ふ。楽しめたようだな」

 凡人にはわからぬほどのわずかな表情の変化にも、女帝は目聡く気付く。そうして片方の口角を上げてにやりと笑った。

「楽しんでなんかいない。手を出せないんだ、あれじゃただの生殺しだ」
「手を出してもらって一向に構わないが? 叔父上はずいぶん楽しんでいるようじゃぞ?」
「ハッ、仮にも夫である俺にそんなこと言っていいのか?」

 マティアスは苛立たしげにじろりと睨むが、女帝はその視線にもまったく動じる様子はない。それどころか、愉快そうに笑うだけだ。
 
「妻が他の男と閨を共にしているというのに、何を今さら」
「権力を笠に着て関係を持とうとするなんて道理に反するだろう」
「くっくっ、その言い方じゃあまるで、余がヒューバードを無理矢理寝所に連れ込んでいると言っているように聞こえるが?」 
「そうは言っていない。ただ、彼女が望んでいないことはできない」
「相変わらずつまらぬことを言う男じゃ。ウルスラがそう言っていたのか?」
「…………」

 ウルスラが自分のことを〝女帝の皇配〟という枠でしか見ていないことを、誰よりも知っているのはマティアス自身だ。いや、正直に言えば、にはいささか興味を持たれているのだが。
 でもそんなことを言えば、女帝の酒をさらに美味くしてしまうだけだと思ったマティアスは黙することを選んだ。
 
「何をのんびりしておるのじゃ。これでもそなたには感謝しておるから、そなたの好む女を世話係につけてやったというに」
「……別に特別に好いているわけじゃない」
「余の目を誤魔化せるとでも? ぼんやりしておったら横から掻っ攫われるぞ。ウルスラは見目だけじゃなく気立ても良い娘じゃからな」

 そんなことはわかっている、とマティアスは心の中だけで呟く。
 実家の伯爵家が没落しかけているとはいえ、女帝お気に入りの侍女であるウルスラは人気が高い。持参金は期待できずとも、女帝に顔が利くのだ。この国でそれは大きな力となる。それに女帝の言う通り見目だってなかなかのものだ。
 
 ふっくらした小さな唇はいつも口角がキュッと上がっているし、新緑色の瞳をキラキラとさせて働く姿は溌剌としている。そんな爽やかさを持つ半面、豊かな胸周りやまろい尻は地味なドレスを着ていても隠しきれておらず、そのギャップが大いに男性の欲望をくすぐるのだ。もちろんマティアスだって例外ではない。

「そんな顔をするほど入れ込んでおるなら、ウルスラにそなたと結婚するように余が命じてやろう」
「お……おいっ、待て! 余計な真似はしないでくれ。彼女に無理強いしたくない」

 ウルスラが望んでもいないのにできるものか! 倫理観が崩壊しているぞ! マティアスはそう正論を叩きつけてやりたかったが、圧倒的な強者に一般常識は通じないこともまた知っている。そしてやはり危惧した通りの返答が女帝からは返ってきた。

「まどろっこしいのぉ。余の見立てではウルスラもそなたのことを悪いようには思ってはいない。何の問題もないじゃろうに」

 悪いようには思われていないのはわかっている。だが同時に異性としても見られていないことも彼にはわかっているのだ。
 女帝はヤレヤレといわんばかりの表情を見せており、このままでは本当に悪意なく結婚を命じそうだと思ったマティアスは別の視点から窘めることにした。

「……ならば早く子を成してくれ。そもそもあなたが無事に後継を産まぬ限り、夢物語で終わる話だ」
「子は授かりものじゃからな。こればかりは余の力を以てしてもどうすることもできぬ。それゆえ先に手を付けてしまえばいいと言っておるのじゃ」
 
 物言いたげな顔つきをしているのに押し黙った男の姿を見て、女帝はくつくつと笑う。

「意地の悪いことを言ったが、まぁじきに余も身籠るじゃろうからしばし待っておれ」
「あぁ、そうしてくれ。ただな、夜毎ヒューバードと励むのはよろしいが、いささか声は控えられたらどうだ? 俺の部屋はもちろん、あれじゃ廊下まで漏れ聞こえているぞ」 
「数代前まで、皇帝の閨は見届け人付きだったのじゃ。声くらい聞かれたところでどうってことないわ」
 
 自分の淡い恋心を女帝が酒のアテにしていることに気付いていたマティアスは、意趣返しとばかりに嬌声について言及した。だが、世の女性とかけ離れた感性を持つ女帝には何も響かなかったようだ。
 
「はぁ……、そのおかげで俺が裏で何と呼ばれているか知っているのか?」

 一矢報いることができぬなら、せめて自分が〝性豪殿下〟などという、なんとも不名誉な二つ名で呼ばれている愚痴でも聞かせてやろうと思ったのに、「さてな。そなたの二つ名など興味もないわ」と女帝はばさりと切り捨ててしまう。
 それから少し飽きたように、カラコロと空になったグラスの中の氷を揺らした。
 
「今宵はいささかそなたと話し過ぎた。時間が勿体ない。はよおヒューバードを呼んで参れ」

 今夜はここでお終いだとでも言うように、女帝は飲み終えたグラスをテーブルに置いた。女帝の気分に振り回されることにもすでに慣れたマティアスは「仰せの通りに……」と告げると足早に女帝の部屋から出ていく。呼ばれたから来ただけで、好き好んで来たわけじゃない。
 
 そうして皇配の部屋に戻ったマティアスが目にしたのは、ソファに座っていればいいのに律儀に直立不動で立つヒューバードだ。生真面目そうな顔をしているが、犬のようにしっぽをブンブンとさせて、「待て」から「ヨシ」に指示が変わるのを待っているのが手に取るようにわかる。
 マティアスが親指で女帝の部屋を指すと、ヒューバードはわずかに頬を緩ませながら、一礼して女帝の部屋へ入っていった。
 
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