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極悪皇女の結婚
極悪皇女の初恋
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グレーテルが10才になったある日、離宮近くを皇太子プリンストンとその側近達が通りかかり、偶然散歩中のグレーテルに出くわした。
「お…お兄様、ごきげんよう…」
俯いて、久しぶりに会う兄からの言葉を待っているグレーテルにプリンストンは、侮蔑の籠もった表情で、思いもよらぬ言葉を投げかけた。
「俺の視界から消えろ!!目障りだ。呪われているくせに」
実の兄からそんな言葉を投げつけられ、グレーテルは走り去ってしまう。大きな木の下で泣いていると、
「これをどうぞ皇女様」
「わたしといると呪われるよ」
「大丈夫です。皇女様は呪われてなんかいません」
「あ…あの…、もしかして…前に会ったこと会ったかな。ほら墓地で」
「えっ…」
「あ…い…や、なんでもないわ」
「そうですか」
ハンカチを差し出した穏やかな表情の金色の髪に、蒼天の青を写し取った瞳の整った顔立ちをした少年…エドモンド。グレーテルは、時々、教会で名前も顔も分からない少年に塀越しで会っていた。でも手に剣を使う時の傷を見て、その少年がエドモンドだと考えた。誰も気に掛けない『呪われた皇女』の相手をしてくれる唯一の友達。
その想いが次第に膨れ上がって、執着に変わるのに時間はかからなかった。
グレーテルは成長して、デビュタントを終えて大人の仲間入りをしてもエドモンドに纏わりついた。彼に近付くものを虐めて、貶めて排除した。この帝国唯一の皇女という身分を笠に着て…。
グレーテルの行動にエドモンドは辟易していた。何度突き放しても、拒絶の言葉を口にしてもグレーテルは怯まない。あの手この手で、エドモンドに付き纏う。
皇帝ヘルメスもそんなグレーテルの降嫁先に頭を悩ませていた。
既にグレーテルのエドモンドへの異常な行動や執着は、社交界で噂の的になっている。そんな皇女を妻に望む者はいない。仕方がなくグラッセ公爵家に使いを送った。
公爵は喜んで二つ返事で了承したのだが、肝心のエドモンド本人は嫌がっていた。すでに皇太子の信任を得て親衛隊に配属されている。別に問題のある皇女を妻にする意味も無ければ、結婚しても異常な束縛と執着が収まるとは到底思えない。
エドモンドとの正式な婚約を進めようとした矢先、辺境にある伯爵家の陞爵をどうするかという問題が浮上した。長年、帝国に貢献した一族で、この度、辺境の異民族を討伐した功績を称えて陞爵を考えていたが、既に公爵・侯爵の数は定数あり、新たな侯爵にするには反発する貴族も出ることは分かっている。
「陛下、それならば辺境伯として、皇女殿下を降嫁させてはいかがでしょう」
「だが…。皇女がそれを受け入れるだろうか」
「ですが、皇女も皇族の一員ですし、一応話させるだけ話してみてはいかがでしょう。それにグラッセ小公子にその気がないのであれば、不幸な結婚よりもいいかもしれませんし、なにより皇女殿下の能力は辺境の様な地にこそ役に立つのではないでしょうか」
「うむ…。取りあえず、皇女に話をしてみよう。連れてきなさい」
「御意」
侍従の勧めで、皇女に話すことにしたものの、皇女に会うのは久々であった。うち最近も何処かの夜会で大暴れしたとの報告を受け、離宮で謹慎するように伝えたばかりだった。
一体いつになったら、大人になるのかと眉間の皺を伸ばしていると、執務室の扉をノックする音が聞こえ、皇女が来たことを告げられた。
「皇帝陛下にご挨拶します」
「ふむ。皇女よ。そなたの婚姻なのだが、国の為に辺境に行ってくれないだろうか」
「ふっ…陛下、わたくしはエドモンドの傍から離れませんわ。死ぬまでずっと」
「だが、彼にはそなたと婚姻を結ぶ気はないようだ。それなら…」
「絶対に嫌です!!幼い頃から、わたくしに関心をお持ちでなかったでしょう。たった一人の娘の切なる願いを叶えるくらいの愛情はお持ちではないのですか」
皇后アリージェンナに瓜二つの顔で、そのような言葉を聞くとヘルメスもさすがに心が痛んだ。しかし、それと国を天秤に掛けることはできない。
「では、エドモンドに断られたら、その時は諦めよ」
「ええ、お約束しますわ。その時は、陛下の命で何処へでも嫁ぎますから」
「ふん」と鼻息をならしながら、意気揚々と部屋を出て行ったグレーテルの後ろ姿を見て「皇后に段々と似てくるな」と深い溜め息を付いた。
そして、エドモンドに話があると手紙を書いて届ける。彼の返信には『皇帝が皇后に求愛した庭で待っていて下さい』と書かれていた。
グレーテルは、約束の庭でひたすらエドモンドを待った。
雨の中を…、彼が来ること願いながら──。
しかし、その約束は果たされなかった。いや、エドモンドは最初から守るつもりなどなかった。
その日、雨が降っていた事は分かっていたが、「きっと我儘皇女の事だから、さっさと離宮に引き上げているだろう」と考えていたのだ。
何時間も自分を待っていたと知ったのは、皇女が生死を彷徨うほどの高熱を出して寝込んでいる事を、プリンストンから聞かされるまでは…。
慌てて、離宮に見舞いに行くと目が覚めた皇女の笑い声が部屋から漏れていた。
「皇女殿下。グラッセ小公子様がお見えですが」
「…誰…?わたくし、そんな方知らないわ。お断りしてちょうだい」
「畏まりました」
専属侍女ジュナは、エドモンドに「殿下はお会いにならないそうです。体調が宜しくありませんので、お引き取り下さい」と告げた。
侍女に冷たい視線を向けられ、締め出されたエドモンドは拳を握りしめ、皇女の部屋を見つめる。
その様子を窓からほくそ笑みながら見ている者がいた。
「お…お兄様、ごきげんよう…」
俯いて、久しぶりに会う兄からの言葉を待っているグレーテルにプリンストンは、侮蔑の籠もった表情で、思いもよらぬ言葉を投げかけた。
「俺の視界から消えろ!!目障りだ。呪われているくせに」
実の兄からそんな言葉を投げつけられ、グレーテルは走り去ってしまう。大きな木の下で泣いていると、
「これをどうぞ皇女様」
「わたしといると呪われるよ」
「大丈夫です。皇女様は呪われてなんかいません」
「あ…あの…、もしかして…前に会ったこと会ったかな。ほら墓地で」
「えっ…」
「あ…い…や、なんでもないわ」
「そうですか」
ハンカチを差し出した穏やかな表情の金色の髪に、蒼天の青を写し取った瞳の整った顔立ちをした少年…エドモンド。グレーテルは、時々、教会で名前も顔も分からない少年に塀越しで会っていた。でも手に剣を使う時の傷を見て、その少年がエドモンドだと考えた。誰も気に掛けない『呪われた皇女』の相手をしてくれる唯一の友達。
その想いが次第に膨れ上がって、執着に変わるのに時間はかからなかった。
グレーテルは成長して、デビュタントを終えて大人の仲間入りをしてもエドモンドに纏わりついた。彼に近付くものを虐めて、貶めて排除した。この帝国唯一の皇女という身分を笠に着て…。
グレーテルの行動にエドモンドは辟易していた。何度突き放しても、拒絶の言葉を口にしてもグレーテルは怯まない。あの手この手で、エドモンドに付き纏う。
皇帝ヘルメスもそんなグレーテルの降嫁先に頭を悩ませていた。
既にグレーテルのエドモンドへの異常な行動や執着は、社交界で噂の的になっている。そんな皇女を妻に望む者はいない。仕方がなくグラッセ公爵家に使いを送った。
公爵は喜んで二つ返事で了承したのだが、肝心のエドモンド本人は嫌がっていた。すでに皇太子の信任を得て親衛隊に配属されている。別に問題のある皇女を妻にする意味も無ければ、結婚しても異常な束縛と執着が収まるとは到底思えない。
エドモンドとの正式な婚約を進めようとした矢先、辺境にある伯爵家の陞爵をどうするかという問題が浮上した。長年、帝国に貢献した一族で、この度、辺境の異民族を討伐した功績を称えて陞爵を考えていたが、既に公爵・侯爵の数は定数あり、新たな侯爵にするには反発する貴族も出ることは分かっている。
「陛下、それならば辺境伯として、皇女殿下を降嫁させてはいかがでしょう」
「だが…。皇女がそれを受け入れるだろうか」
「ですが、皇女も皇族の一員ですし、一応話させるだけ話してみてはいかがでしょう。それにグラッセ小公子にその気がないのであれば、不幸な結婚よりもいいかもしれませんし、なにより皇女殿下の能力は辺境の様な地にこそ役に立つのではないでしょうか」
「うむ…。取りあえず、皇女に話をしてみよう。連れてきなさい」
「御意」
侍従の勧めで、皇女に話すことにしたものの、皇女に会うのは久々であった。うち最近も何処かの夜会で大暴れしたとの報告を受け、離宮で謹慎するように伝えたばかりだった。
一体いつになったら、大人になるのかと眉間の皺を伸ばしていると、執務室の扉をノックする音が聞こえ、皇女が来たことを告げられた。
「皇帝陛下にご挨拶します」
「ふむ。皇女よ。そなたの婚姻なのだが、国の為に辺境に行ってくれないだろうか」
「ふっ…陛下、わたくしはエドモンドの傍から離れませんわ。死ぬまでずっと」
「だが、彼にはそなたと婚姻を結ぶ気はないようだ。それなら…」
「絶対に嫌です!!幼い頃から、わたくしに関心をお持ちでなかったでしょう。たった一人の娘の切なる願いを叶えるくらいの愛情はお持ちではないのですか」
皇后アリージェンナに瓜二つの顔で、そのような言葉を聞くとヘルメスもさすがに心が痛んだ。しかし、それと国を天秤に掛けることはできない。
「では、エドモンドに断られたら、その時は諦めよ」
「ええ、お約束しますわ。その時は、陛下の命で何処へでも嫁ぎますから」
「ふん」と鼻息をならしながら、意気揚々と部屋を出て行ったグレーテルの後ろ姿を見て「皇后に段々と似てくるな」と深い溜め息を付いた。
そして、エドモンドに話があると手紙を書いて届ける。彼の返信には『皇帝が皇后に求愛した庭で待っていて下さい』と書かれていた。
グレーテルは、約束の庭でひたすらエドモンドを待った。
雨の中を…、彼が来ること願いながら──。
しかし、その約束は果たされなかった。いや、エドモンドは最初から守るつもりなどなかった。
その日、雨が降っていた事は分かっていたが、「きっと我儘皇女の事だから、さっさと離宮に引き上げているだろう」と考えていたのだ。
何時間も自分を待っていたと知ったのは、皇女が生死を彷徨うほどの高熱を出して寝込んでいる事を、プリンストンから聞かされるまでは…。
慌てて、離宮に見舞いに行くと目が覚めた皇女の笑い声が部屋から漏れていた。
「皇女殿下。グラッセ小公子様がお見えですが」
「…誰…?わたくし、そんな方知らないわ。お断りしてちょうだい」
「畏まりました」
専属侍女ジュナは、エドモンドに「殿下はお会いにならないそうです。体調が宜しくありませんので、お引き取り下さい」と告げた。
侍女に冷たい視線を向けられ、締め出されたエドモンドは拳を握りしめ、皇女の部屋を見つめる。
その様子を窓からほくそ笑みながら見ている者がいた。
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