極悪皇女が幸せになる方法

春野オカリナ

文字の大きさ
7 / 20
極悪皇女の結婚

歪なお茶会

しおりを挟む
 グレーテルは、自分の後を誰かが追ってきていることも知らずに、頭の中で繰り返しクラウン伯爵令嬢の謝罪の言葉を妄想いや想像していた。
 
 と…兎に角、何か彼女の事を褒めて、過去の出来事を謝罪するきっかけを作るのよ。そして、あわよくば仲良くなって親友…いやそれはずうずうしいかしら。まだわたくしの事が怖いかもしれないし…。

 目覚めてから、離宮の使用人らの態度からして、自分付きの侍女以外に味方がいない事に気付いたグレーテルは、改めて仲良くなろうと努力したが、悉く失敗した。声を掛けるとガタガタと震えながら返事をして怖がるか、中には土下座して逆に謝られる始末。
 何とか最近ではグレーテル付きの侍女以外にも挨拶くらいは怯えずに出来るようになった所なのだが、

 「「「………」」」
 「どうして、貴女がここにいるのかしら?」
 「それはこちらのいう事だ。グレーテル。皇太子宮への入宮を許可した覚えはないぞ」
 「そうでしたかしら。わたくしは皇太子殿下に用ではなく、そちらのお二人…いえイエニー・クラウン伯爵令嬢に用があるのですわ」
 
 グレーテルの言葉にビクッと体を小さく震わせたイエニー。彼女を守る様にダニエル・グリーンが前に出た。

 「こちらは皇女のお招きに感謝しておりますが、生憎、皇太子殿下にご挨拶をした後、直ぐに皇都を出ようと思っていたので、大変恐縮ですがご辞退致します」
 「まあ、そうですの。残念ですわ。あの夜会での失態をお詫びしたかったのですが」
 「皇女殿下に詫びられる事はございません」

 あくまでもダニエルが表になって、受け答えている隣で子ウサギの様に震えるだけの少女。

 本当にあの子、あんな風で辺境でやっていけるのかしら…。

 グレーテルは、残念そうに溜め息を付きながら、

 「では、あの時のお詫びの品としてこちらをお持ち帰りください」

 そう言って、侍女のエイミーからイエニーに箱を渡した。

 「まあ、中に何が入っているのか確認した方がいいわよ。前にも嫌がらせのプレゼントをもらった方がいらしたのだから。グレーテル皇女ならやりかねないわ。ねえプリンストン
 「そんな言い方は語弊を招くよ。マーキュリー公女」
 「相変わらずお優しいのね。エドモンド様は…グレーテル皇女を庇うなんて」
 「庇っていただかなくても結構です。さあ、皆が中身が気になっている様なので、開けてご覧になって」

 イエニーはリボンをほどいてはこの中身を見ると、中には凝った造りの髪飾りが入っていた。

 「まあ、素敵…」

 思わず、イエニーの顔から笑みが自然と零れた。「着けて差し上げたら」そう言って婚約者のダニエルにに薦めると、ぎこちない仕草でイエニーのダークブラウンの髪に櫛型の髪飾りを付けた。
 イエニーは「よく似合っている」というダニエルの褒め言葉に薄らと頬を染めている。
 それを見ていたフローラは忌々しそうに持っていた羽飾りの扇をギュッと握りしめていた。なぜなら、その髪飾りには見覚えがあって、エドモンドがデビュタントの日にグレーテルに贈った数少ない贈り物の一つだった。
 その上、皇女が臣下の令嬢に身に付けた物を下賜した場合、大変な名誉になる。それは皇女の信頼を得た事になるからだ。
 フローラは、自分が欲しくて仕方のなかった贈り物をもらったイエニーが憎らしくて、

 バシャッ。

 急によろめいたふりをして、隣に座っていたイエニーの肩を押すと髪飾りは彼女の頭から落ちてカシャーンという音と共に砕けた。

 グレーテルは、その光景を見ながら、頭の中に別の記憶が流れてきた。自分が押したフローラがイエニーの体に当たって、彼女の来ていたドレスが持っていた飲み物の色に染まった事を…。

 「も…申し訳…ございません。折角、皇女様に頂いた物を…」
 「かまいませんわ。形あるものは何時かは壊れる物ですもの。早いか遅いかの違いだけですわ。それに、帰るといってもそのドレスのまま返すわけにはいきませんから、わたくしの宮で着換えなさいな」
 
 ダニエルもお茶がかかったドレスで皇室を出れば、皇太子の評判に関わると思ったのか素直に応じることを勧めた。皇室には皇女以外の女性はいない為、ドレスも皇女しか持っていなかった。

 離宮に帰ったグレーテルは、エリサに耳打ちしてイエニーを着替えに行かせた。
 イエニーの着替えを待っている時間、ダニエルは来賓室に通されていた。周りのある調度品を見るとそれもみすぼらしく、真新しい物はなかった。年季の入った古家具がずらりと並べられていた。出された紅茶も上質なものではなく中流階級の貴族の屋敷で出される味がする。

 「お待たせしました」
 「どうかしら、彼女に似合う衣装を用意したつもりだけけれど」

 ダニエルは、淡い水色のドレスを纏った婚約者の美しさに言葉を無くした。

 「や…やっぱり似合わないのではないでしょうか」
 「そんな事はないわ。わたくしには子供っぽいから令嬢の方が良く似合っていますわ。そうでしょうグリーン侯爵令息」
 「は…ひっ、よく似合っていて言葉も出なかったんだ。申し訳ない」

 騎士の家系らしい堅苦しい話し方をするダニエルにグレーテルは苦笑した。

 イエニーはグレーテルの表情を見ながら、ドレスを選んだ時の事を思い浮かべていた。彼女がデビュタントで皇帝陛下から贈られた物だと知っていたからだ。惜しみなく、もう着ないから貰って欲しいと言われた時は困ったが、その時も今もグレーテルは何処か清々しい表情をしている。何か憑き物でも落ちた様に…。

 きっと、この姿が皇女様の本当の姿なのね。

 イエニーはグレーテルの申し出を有難く受け取ることにしたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...