極悪皇女が幸せになる方法

春野オカリナ

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極悪皇女の結婚

捨てたのは…

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 イエニーの着替えが終わり、再びグレーテルたちは皇太子宮の庭に戻った。
 彼女が着ているドレスを見て、一同は驚愕した。先ほどの髪飾りもそうだが、前のグレーテルなら絶対に手放さないだろうと思う物ばかりを惜しげもなく下賜していることに。
 
 もう…認めるしかないだろう。

 プリンストンは、先日のグレーテルの言葉を思い出した。

 『わたくしの事もいない者だと扱ってくださって結構です』

 冷たく突き放す様な声が頭の中で木霊する。

 イエニーたちが挨拶を終えて帰ると、グレーテルも離宮に帰ろうとした。

 「ちょっと待て…話があるんだが」
 「わたくしの方には何もございませんが、皇太子殿下」
 「だが、さっき言っていただろう。もうすぐ皇宮を去ると」
 「ああ、そのことなら陛下にお尋ねください。わたくしの方からは何も言えません。ただ、お相手の方が態々迎えに来ていらしていますわ。お会いになったのでしょう。元は殿の側近候補だったと伺っておりますから、殿下の方が御詳しいのでは」
 「……た…確かに会った。しかし、お前は本当にもういいのか」
 「何がです?」

 プリンストンは、俯いて目を合わそうとしないエドモントの方を見た。その傍らにフローラが彼の手に自分の手を重ねて心配そうな顔を覗かせていた。
 以前の自分ならフローラは優しい娘だと単純にそう思っていたはずだ。今はそう単純に思えなくなってしまっていた。それはここ数日の出来事がプリンストンの考えを変えてしまっていたからだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 グレーテルを見舞った後、皇太子宮の侍女長と共に皇帝の執務室に呼び出されたプリンストンは、ある書類を見せられ驚いた。

 「何か申開くことはあるか?」

 冷たく尖った様な言葉に侍女長は跪いて「命ばかりはお助け下さい」と許しを請う。

 「今更だ。これ程多くの悪事を前にして、許してくれとはよくも言えたものだな。皇太子も監督不行き届きだ!」

 その書類は離宮の割り当て費の決裁だった。見舞いに行った時の皇女の部屋や廊下の装飾品、侍女たちの衣服に付いてもどれも古びていた。とても贅沢をしているような素振りもなく質素な佇まいだったのだ。グレーテルの自室も同じ様子で新しく新調した家具やドレスも見当たらなかった。
 かつてフローラが言っていた様な贅沢をしているようには見えず、皇女が目の前で食していたスープの器でさえ施された模様が薄くなっていた。
 逆にいくら皇弟の公爵家と言っても一代限りの家門に事業でも起こさない限り、皇宮から与えられる年金額はたかが知れているはずなのに、夫人の実家の援助があったとしてもフローラの方が皇女であるグレーテルよりずっといい暮らしをしている。

 ヘルメスが調べた報告書には、皇女宮の費用の殆どが侍女長の懐に入っていて、皇女付きの使用人の給料は通常の支給よりもかなり減らされていた。
 侍女長は、自分の実家の仕送りに半分を使い、残りの半分はマーキュリー公爵夫人に横領の口止め料として渡していると白状した。

 自分の信頼していた侍女長が、罪を犯していたことに全く気付かなかったことにも屈辱だったが、長年何の関心も寄せなかった妹の境遇を知った時には、暴言を浴びせた後だった。何度も後悔したが、公務を理由に離宮を訪れる事を躊躇った。何より、たった一人の妹から冷たい射る様な視線を向けられることが怖かったのだ。

 その後、侍女長を投獄し、彼女の一族も捕え、貴族籍は剥奪した。皇太子宮の侍女長は次席の者が就任し、離宮の侍女長にはエリサが任命された。
 だが、そのエリサもグレーテルの婚姻後は皇宮から去ることを願い出ている。他の皇女付きの侍女も多くの者は皇宮に勤めるよりも退職を望んでいた。唯一、年若いエイミーだけがグレーテルと共に辺境に付いて行くことになっているのだが……。

 「まだ、わたくしに用がおありですか?」
 「いや、色々とすまなかった」
 「……」

 グレーテルは「何が」とは敢えて聞かなかった。聞いたところでプリンストン自身も何に対して謝っているのか分からない様子だったからだ。

 そのまま、グレーテルは一度も振り返らずに中庭を出て行った。彼女の後姿にプリンストンは寂しさを感じた。

 「ちょっと待ってください。皇女」

 グレーテルを呼び止めたのは、予想通りエドモンドだった。






 誰もいなくなった中庭は、プリンストンとフローラだけが残っている。
 静まり返った空気の中、最初に口を開いたのはフローラだった。

 「まったく酷い言い方ですわねプリンストン
 「………」
 「ったら、一体どうなさったの?」
 「……やめろ」
 「えっ…今なんて」
 「やめろと言った!!俺を兄と呼ぶな!!!マーキュリー公爵令嬢。本当の兄妹でもないのにそう呼ぶな!成人したのだからいい加減大人になって、分を弁えたらどうだ」
 「急にどうなさったの。お兄様らしくありませんわ」
 「皇太子殿下と呼ぶのが常識ではないのか?」
 「…も…申し訳ございません。わたくしの思慮が欠けておりました。以後は気を付けます。どうかお許し下さい」
 「なら、もう下がれ、今後は呼ばれずに勝手に皇宮に入ることは許さない」
 「はい…」

 いつもなら、優しい口調で自分の肩を持つプリンストンが初めて睨みつけ、怒鳴ったのだ。それは幾度となく聞いた声。しかし、何時もならそれは自分に向けられていたものではなく、グレーテルに対してのみだったはず。
 何が起きているのかフローラには理解できないでいた。






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